●リプレイ本文
●想い
「初めまして。それにしても、既婚者とは。非常に残念な程の美貌で」
リオン・ラーディナス(ea1458)さんが冗談ぽくブレーデリアと挨拶を交わします。
「体調は‥‥大丈夫ですか?」
恋人であるアシュレー・コーディラン(ea6883)さんと共に来たライラ・フロイデンタール(ea6884)さんが、ブレーデリアの体調を気遣います。彼女は病弱ですが、会話の中で体の不調は今のところ感じられませんでした。
「あらよっと! 一丁あがり♪」
ライラック・ラウドラーク(ea0123)さんとミケーラ・クイン(ea5619)さんは、家の台所を借りて料理を作っていました。
「あたいには、こんな料理を作ってあげる人もいないがな! ははははは〜♪」
「貴族の家でメイドしてるのは伊達じゃない! まずは、体力付けないとな‥‥肉喰え、肉!」
ミケーラさんがテーブルに美味しそうな肉料理を出すと、ライラックさんはブレーデリアに勧めます。明るく陽気な2人が、ブレーデリアや冒険者達の気持ちを和ませました。
「うむ、リオン殿とアシュレー殿が旦那の気持ちに立った場合、どういう考えをするのか?」
食事をしながら、ノース・ウィル(ea2269)さんが男性陣に問いかけます。
「自分が旦那の気持ちに立ったらか‥‥」
「旦那さんの気持ちは何となく分かる気がするよ。でも、自分がその立場になったら‥‥」
リオンさんとアシュレーさんは言葉を詰まらせました。やはり、状況が特殊なのか、男性であっても考えるのは難しいようです。
「うむ‥‥そうか‥‥。では、ブレーデリア殿はどうしても子供を生みたいと想っておられるのか‥‥」
ノースさんがブレーデリアの抱く想いを聞きました。
「はい‥‥」
ブレーデリアはコクリと頷きます。
「残せるものがあるなら、あたしでも残したいと思うもん‥‥子供。あ、勿論、アッシュの子供をね」
ライラさんはそう言うと、恋人の顔を見つめました。
「‥‥この先、わたしの命が長く続くとも限りません。そうなる前に、どうしても子供が欲しいのです。そして、わたしの代わりに長く生きて欲しい‥‥」
「命に関係する事で『代わりに』なんて言葉を使わないでくれ。貴女の命もお子さんの命も、平等なんだから」
最後まで言葉を続ける前に、リオンさんが真剣な顔で異論を唱えます。
その、あまりに真剣な意見にブレーデリアも「すみません」と言うしかありませんでした。
「母子共に無事ッ。こういう時くらい、何もかもが上手く様に望んでも、バチは当たらないさ」
静かになった場を破り、リオンさん穏やかな口調で言います。
「そうだね‥‥母子共に助かる可能性が無い訳じゃない。腕の良い医者がいるかもしれないし、調べてみよう」
アシュレーさんが立ち上がると、ライラさんと共に街へと向かいました。
「気持ちは本物か‥‥私もそれだけの想いになれる相手がいたら‥‥はっ! いや、何でもないぞ!」
ノースさんは何時の間にか心で呟いていた事が口に出てしまいました。
「もうすぐ聖夜祭だし、オレも一人身だから、よかったら一緒に‥‥ぐぉ!」
「む、すまない。足を踏んでしまった」
これはチャンスとばかりに一歩踏み出したリオンさんですが、トラブルが起こってノースさんの返事は聞けませんでした。
「さて、旦那とは面と向かって話しにくい事もあろう。手紙でも書いてみてはいかがだろうか」
「あ、そうだ。その想いを手紙に託してみたら」
ノースさんとリオンさんは、ブレーデリアに旦那へ手紙を書く事を勧めました。ブレーデリアも承諾し、旦那へとその想いを綴ります。そして、その想いが詰まった手紙ををリオンさんに渡しました。
「失礼する」
皆が立ち去った後、クレアス・ブラフォード(ea0369)さんが尋ねてきました。
クレアスさんは、ブレーデリアが思っている事を尋ねます。既婚者同士、その中でしか話せない事もあるでしょう。本当に旦那を愛しているという事。愛すからこそ、自分が死ぬ前に子供を残したいという事‥‥。
「今回の事は中々難しい‥‥」
一通り話を聞くと、クレアスさんは旦那の説得に向かいました。
●説得
「一丁、飲みながら話そうや♪」
ミケーラさんが旦那を酒場に連れてきました。
「こんにちは。あたしはライラ。ブレーデリアの旧友です」
「初めまして」
ライラさんとアシュレーさんは、ブレーデリアの旧友を装って旦那に話しかけます。シア・アトリエート(ea3863)さんとプリムローズ・ダーエ(ea0383)さんも彼女の友人と旦那に説明します。
「彼女に子供が出来たと知らせを貰ったので祝いに来たのだが‥‥」
アシュレーさんがそう言うと、旦那は声を荒げて否定しました。旦那の気持ちを確認すると、やはり最愛の妻を失うかもしれない出産に対して否定的なようです。
「‥‥嫌な話で申し訳ないが、身体の弱い彼女は子供の事がなくとも何時どうなるか知れない。これ程、彼女を必要としている貴方が、もし一人になった時、果たして生きていけるのか」
「奥さんのことが大好きなのも解るけど‥‥花は咲きたいから咲くの。命も同じ。此処に辿り着いてもいいやと思うから宿るんだもの。奥さんを信じて、皆で一緒に生きれる未来を信じようよ。不安ばかりだと、奥さんにも子供にも伝染するから」
ライラさんとアシュレーさんが旦那を説得します。
「なぁ、アンタは自分が大事かい? それとも彼女が大事かい?」
今まで状況を見守っていたルクス・ウィンディード(ea0393)さんが旦那に尋ねます。旦那は勿論、愛妻が大事だと答えました。
「大事だというなら、何故彼女の願いを聞かない? だったら、子供が生まれるのを一緒に祝福しなよ。生ませてやれよ。そうじゃなきゃ‥‥あんた、後悔するぜ‥‥信頼を無くすと言う後悔を」
ルクスさんの強い口調に旦那は言葉を詰まらせました。
「空の蒼も海の蒼も目には見えるけれど掴まえる事の出来ない色。その場所その時間にしかない、たった一つの色なのです。人の命も同じではないでしょうか。その一瞬一瞬が煌く、命の色。お二人の間に新たな息吹を生み出せるのは、ブレーデリアさんしかいません」
シアさんが、旦那を諭しました。
「もしかしたら、奥様は亡くならないかも知れません。子を産み育て、生きる事が出来るかもしれないのです」
プリムローズさんもシアさんと一緒になって説得し、ブレーデリアが無事である可能性もある事を強調します。
「思い出は風化していきます。どんなに留めようと思っても、いつか薄れて、笑顔だけになる‥‥遺されるお子様があるのなら、それは貴方にとって救いになりましょう」
悲しそうな表情で話を続けるプリムローズさん。
「誰だって大切な人間を失いたくなんてないだろう。だが知っているか? 母親というのは、それだけで強いということを。新しい命が関わるとなればそれは尚更の事」
「女は子供が関わると普通では考えられない力を発揮するものだぞ?」
クレアスさんとミケーラさんが、女の強さ、母の強さを話します。
「そうですね‥‥まずは信じてみませんか。貴方が愛した奥様の強さを‥‥」
「‥‥彼女の中で確かに一つの命が生きている。必死に生きようと、頑張って出てこようとしているんだ。それはとても尊いこと。そんな尊い命を、終わらせることなどできない‥‥私が彼女なら、やはり同じ道を選ぶよ。彼女を信じてやってくれ、新しい命を信じてやってくれ‥‥お願いだ」
「人‥‥いや、すべての生き物は子供を産み、次の世を作るための礎となるのが神から与えられた使命だと思うぞ。ここは「子供を生みたい」というブレーデリアの意思を尊重してはくれまいか?」
プリムローズさん、クレアスさん、ミケーラさん。3人は強い想いを込めた言葉と共に頭を下げました。
「そうさ‥‥人は生きて、死に、そしてまた生まれてくる。それ自然の摂理」
ルクスさんも付け加えます。
「私は、残念ながら愛する者をまだ見つけてはいないが、彼女のあなたへの、そしてまだ見ぬ子供への愛が揺るぎ無いものであることはわかるつもりだ」
「彼女にとって子供は願いであり、望みそのものなんだ。彼方への愛と同じくらいにね」
ノースさんとリオンさんがそう言いながら、預かった手紙を旦那に渡しました。
真剣な表情で手紙を読む旦那。そして‥‥彼の瞳から涙がこぼれました。それが、感涙なのか悲涙なのかは冒険者達にはわかりませんでした。
●祈り
「こんな事しか出来ない‥‥オレは無力だな」
リオンさんは教会にいました。ノースさんも夫婦二人と産まれてくる子供に対して祈りを捧げています。
「神よ‥‥」
手を組んで跪き、静かに目を閉じました。新しい生命の誕生と、ブレーデリアの無事を祈って‥‥
「例えお二人の赤ちゃんだとしても、ブレーデリアさんの代わりにはなりません。だから、生まれてくる赤ちゃんに負けない強さで、貴女の花を咲かせ続けて下さい」
別れ際、シアさんがブレーデリアを励ましました。
子供が出来たのかどうかは、すぐに結果がわかるものではありませんので時間は掛かります。
でも、確実に夫婦に変化がありました。
旦那は彼女の想いを受け入れ、新しい命が生まれるまで、一生懸命に愛し、そして、生きようと思うようになりました。二人の仲は、今まで以上に深まったようです。
冒険者達と別れた後、ブレーデリアは新しい趣味を持ちました。
ライラックさんから教わった子供服を作ることです。もう、3着も出来上がりました。
その服を見ながら、旦那は優しくブレーデリアに微笑むのでした。