●リプレイ本文
「保存食と防寒服の用意はいいですか〜?」
「‥‥全員、準備は問題ないようだな」
真冬のキャメロット。
冬山に挑む冒険者達は、出発前に入念な荷物の点検を行っていた。
その点検を率先して行っているのは‥‥『まるごとメリーさん』を着込んだ、可愛らしい外見のサラ・ミスト(ea2504)とシェリル・シンクレア(ea7263)の2人。
「ただの着ぐるみじゃないんです〜。防寒着よりも〜ぬくぬくで可愛い優れものです〜♪」
シェリルの言うとおり、見た目は可愛いが、耐寒性は普通の防寒服よりも優れている。
「可愛さなら負けないわ。手に入れたばかりだけど」
もう一人、防寒服以外のものを着込んだ者がいた。霞遙(ea9462)である。真っ赤な毛皮のローブを着込んだ姿‥‥それは、まるで伝承に聞くサンタクロースのようである。
「これを被るともっと可愛いぞ‥‥」
と、遙の頭にフランシスカ・エリフィア(ea8366)がサンタクロースハットを被せた。これで、可愛いサンタクロース・ガールの出来上がり。
「わ〜☆ かわいいですね〜」
「まるごとトナカイさんがあれば、もっと完璧ですけど、手に入りませんね〜」
遙の姿を見て喜ぶ世羅美鈴(ea3472)と、残念な顔をするシェリルであった。
準備は万全である。
勿論、準備はどの依頼でも大切だ。今回に限った事ではない。この依頼に参加する為に必要な物を揃えた者もいるだろうが、それは後にも必要となる物である。今、準備しておいて損はないだろう。
*
冒険者達は途中に立ち寄った村や、出会った旅人から山のルートを確認し、バグベアがよく出没する場所へ向かう。
「最近、バグベアが出没してるみたいだから気をつけてね」
擦れ違う旅人にシスカ・リチェル(ea1355)が声を掛け、互いの無事を祈る。
「寒さで手が‥‥? く‥‥なるほどな。目の前に居る相手だけが障害ではないという事か」
「イギリスの寒さは身に応えるな」
かじかむ手を息で温めながら歩くフランシスカと遊士燠巫(ea4816)。
肌を切りつけるような寒さが冒険者を襲い、体温と体力を奪っていく。
モンスターと戦う前に、まずは自然との戦い。
用意を怠った者がどんな結果になるか‥‥今の冒険者には容易に想像できる。
「バグベアは強敵と聞いています。考案中の新技が完成すれば良いのですが」
「ジャパンはオーガが多い国だったけど、こちらでも戦う事になるのね」
「オーガは万国共通なのですね〜」
深螺藤咲(ea8218)と遙、美鈴のジャパン出身三人娘がバグベアについて話しながら冬の山道を進む。
「食べ物が少なくなる冬ですから、オーガも飢えるのは仕方が無いかもしれません。でも、人を襲う者達を見過ごす訳にはいきません」
バグベア成敗の為、気合を入れる藤咲。
「食料の為とはいえ、人を襲っちゃ不味いよね‥‥」
ハーヴェイ・シェーンダーク(ea7059)も小声を漏らす。
*
冒険者達は情報からバグベアがよく出没するポイントに目星を付け、その地点にベースキャンプを設置した。
2班に分かれて周囲の探索と休憩を交互に繰り返し、バグベアを待ち構える。
周囲にはハーヴェイと遙が罠を仕掛けた。
ハーヴェイは立ち寄った村で網を借りた。この村でもバグベアに襲われた者がおり、網を貸す事で冒険者が危険を排除してくれるのであれば安いものである。快く、村人は網を貸してくれたのだ。この網でバグベアを絡めとる作戦である。
霞はバグベアの襲撃を察知する為の鳴子と、ロープを使った罠を設置した。
2人の工作スキルは専門クラスであり、バグベア程度の知性では見抜く事は出来ないであろう。
シスカはドンキーを連れて焚き火に使えそうな枯れ枝を集めた。集めた枯れ枝で焚き火をして暖を取る為だ。
「ホント、外は寒いわね」
外から戻ったシスカが、すぐにサラのテントに潜り込んだ。
「借りるだけでは悪いから、コレ貸すね」
シスカはテントの持ち主のサラに子猫のミトンを貸すと、すぐに仮眠を取った。
可愛い手袋を受け取ったサラは、それを無言で手にはめてみる。
「ふふふ。可愛らしいわね」
一緒のテントにいるエクレール・ミストルティン(ea9687)がサラの姿を見て感想を漏らす。
「‥‥いや。これは、防寒服よりも性能がいいからだぞ‥‥」
まるごとメリーさんに子猫のミトンという可愛い姿は、普段のサラからはとても想像できない。
「匂いに釣られていらっしゃ〜い♪」
おなじくメリーさん仲間のシェリルは、外の焚き火で保存食の干し魚を炙りながらバグベアを待った。同じ班の美鈴、燠巫、遙、フランシスカも周囲を警戒する。
その時。
――ガラガラ‥‥
冬山に鳴子の音が響く。
「十時の方向からだ。来たぞ」
殺気を感知し、素早く疾走の術を使い迎撃準備をする燠巫。
休憩していた冒険者もテントから飛び出し、バグベアを迎え撃つ。
「ヨシュアさん、片方のロープお願いするね」
「任せてくれ」
ハーヴェイとヨシュア・グリッペンベルグは罠を発動させる為に木に登る。
「‥‥きたか‥‥」
サラもロングソードとミドルシールドを構えた。武器を研いでいたガフガート・スペラニアスもすぐにサラの傍らに寄った。
おそらく、保存食の匂いに釣られてやってきたのであろうバグベアは4匹。
報告によれば、冒険者から奪った武具を装備した武装度の高いバグベアも存在するようだが、姿を見せたバグベアはロングクラブを手にしているだけであった。
「来たわね、小熊さん」
まず、初めに飛び出したのはエクレールだった。フランベルジュを手に軽い身のこなしでバグベアに立ち向かう。
バグベアも彼女に襲い掛かろうとするが‥‥
「今だ!」
ハーヴェイが仕掛けていた網を引き上げた。1匹のバグベアが引っ掛かり、網の中でもがき苦しむ。
遙は事前に疾走の術を使用しており、その移動力と回避能力をもって囮となる。バグベアの振り回すロングクラブを簡単に避け、自らが設置した罠へと誘導する。
「貴方は既にはまってるのよ‥‥。わからなかったんでしょうけど」
うまく誘導に成功し、バグベアの足にロープの罠が引っ掛かる。
「背後ががら空きですよ〜」
そして、そのまま転倒したバグベアの背後に美鈴のスマッシュが叩き込まれた。
このような状況で攻撃を避ける事は不可能だ。振り下ろされた長巻の刃は、バグベアの背中に深々と突き刺さった。たった、一撃で重傷である。
「その程度ぢゃ、わしに触ることもできんのぉ」
ガフガートはサラの防御を担当し、まるで赤子の手を捻るかのように、いとも簡単にバグベアの攻撃を捌く。
「我、Anaretaが獅子! 闇愛でしく黒獅子也! 獅子に噛み付こうなど、身の程を知るがよい!」
サラのロングソードがバグベアの胴を切り裂く。2人のコンビネーションでバグベアは追い詰められていった。
「‥‥一人で戦うな! 近くの者と組んで仕掛けろ!」
「了解しました」
サラの指示に答えた藤咲は、近くにいたエクレールとバグベアに攻撃を仕掛ける。
「どうしたの? これじゃ、準備運動にもならないわ」
『こっちにいらっしゃい』と手で挑発するエクレール。その挑発を受けて露骨に反応するバグベアがロングクラブをエクレールに振り下ろすが、軽々とその攻撃を避ける。
「その程度じゃ、私を燃え上がらせる事はできないわよ? 小熊さん」
笑みを漏らす余裕まであるエクレール。そこへ、藤咲がスマッシュを放つ。
「‥‥これは、少し厳しいですね‥‥」
だが、バグベアはそれを避けた。スマッシュは武器を振り下ろす事で、その重量を攻撃に乗せてダメージを増す技である。しかし、狙いが定めにくくなるという欠点もあるのだ。考えていた必殺剣技『鳳凰天撃』は、どれだけ無謀な技なのか‥‥戦いの中で藤咲は悟った。
「風よ 怒り狂いて 大気に雷を生み 我が前の敵を焦がせ」
シェリルがライトニングサンダーボルトを放つ。だが、バグベアは固まっておらず、味方を巻き込む可能性があるので、どうしても1体しか対象にならなかった。しかし、専門ランクでの発動に成功し、稲妻の矢はバグベアに致命傷を与えた。
燠巫はヒット&アウェイでバグベアを攻撃。フランシスカも向かってくるバグベアを迎撃する。
「くっ! こ、これくらい‥‥」
フランシスカは1発目の攻撃をライトシールドで受けたが、2発目の攻撃を腹部に受けてしまった。しかし、即座に遙が庇い、ヨシュアがリカバーでダメージを癒す。
バグベアの攻勢はここまでだった。サラ&ガフガートが1匹を仕留めると、遙とエクレールの攻撃で傷を負った残りのバグベアは逃亡を試みる。
「逃げたらダメだよ。でも、暖かそー♪」
だが、シスカはバグベアが逃走できないように背後に炎の壁を作り出した。退路を絶たれたバグベアは、狂ったように冒険者達に向かってくる。
「発狂したか」
向かってくるバグベアに燠巫が手裏剣を投げ、ハーヴェイも矢を放つ。しかし、さほど効いた様子も無く、突進を続ける。
「これで最後です〜」
美鈴がスマッシュEXを放つ。誰もがこの一撃で終止符が打たれると思った‥‥だが‥‥
「あれぇ〜?」
美鈴が振り下ろした長巻はバグベアではなく、地面に叩き付けられた。
スマッシュEXは大きく手元が狂う。卓越した技量が無ければ当てることは難しい。
攻撃を外した美鈴にバグベアが襲い掛かるが、それをうまく避けた。その後、バグベアは冒険者達によって袋叩きにされたのは言うまでも無い。
ベースキャンプを設置し、2交代で体力を温存、体を温めつつバグベアを誘き寄せる作戦は理に適っているものであった。
負傷者もおらず、依頼は大成功と言えるだろう。
冬山の戦いは冒険者の勝利だ。ごくろうであった!
なお、バグベアの持っていたロングクラブを売却した報酬が若干ながら追加されている。