Take me to heaven

■ショートシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月30日〜01月04日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

『今日は結婚式。
 永遠の愛を神に誓う儀式。
 2人の男に求婚されていたけど、私は誠実な彼を選んだ。
 だって、もう1人は強欲そうだし、しつこい男だから。

 朝。
 相手‥‥婿の姿が見えない。
 何かあったのかしら?
 そろそろ、式の時間なのに。
 心配だわ‥‥
 彼は来ない。

 昼。
 アルフィーナは神に祈りを捧げる。
「私は信じる‥‥彼は必ず来るわ‥‥」
 時間だけが過ぎていく。
 彼は来ない。

 夕方。
 家族や友人は「他の女と逃げたんじゃないか」と言う。
 そんなはずは無いわ。
 だって、あんなに愛し合ったんだもの‥‥
 彼は来ない。

 夜。
 それでも、アルフィーナは待った。
 朦朧とする意識の中、彼女は信じ続けた。
 彼は来ない。

 1日、2日、3日‥‥日は過ぎていく。
「必ず‥‥来る‥わ‥‥」
 アルフィーナの最後の一言。
 彼は来ない。

                      ――ある詩人の手記』

 *

「オ、オレは見たんだ! 亡霊と骸骨が戦っている所を!」
 ある日、昼下がりの冒険者ギルド。
 受付のテーブルを乗り越え、青年が係員に叫ぶ。
「落ち着いて下さい。もう少し、詳しく説明していただけませんか?」
 係員は青年に冷静になるように言った。
「村の離れに今は使われていない教会があるんだが、その近くで礼服を着た亡霊と沢山の骸骨やら死体やらが戦っていたんだ! 夢じゃねぇ! その、教会にも女の亡霊が出るって噂だ!」
「なるほど‥‥では、被害は出ているのですか?」
「誰かが襲われたとかって話は聞かねぇ! でも、オレの畑はこの近くにあるんだが、こんなんじゃ怖くて仕事もできねぇんだ!」
 一旦、冷静になった青年だが、話が続くにつれて冷静さを失っていく。畑の近くに、アンデッドが現れるとなると、普通の人間ではどうしようもできないし、やはり恐ろしいものである。
「わかりました。では、冒険者に調査と原因の究明を頼みましょう。ここにサインをお願いします」
 青年は係員に言われるまま、依頼書にサインをする。
 こうして、冒険者ギルドに奇妙な依頼が張り出されることになるのであった。

『ある村の離れで、亡霊と骸骨が戦っている現場が目撃された。この原因を調査し、真相究明・あるいは、これを撃退せよ』

「ところで、教会にも亡霊が出るとおっしゃりましたね? 何か、過去の出来事とかご存知ないですか?」
「真実かどうか知らんが、昔、あの教会で悲しい出来事があったらしいぜ。何でも、結婚式に婿が来なくて、そいつをずっと待ち続けた花嫁がいたそうだ。三日三晩待ち続けた花嫁だが、可愛そうに死んじまったそうだ」
「‥‥そうですか」
 係員は青年の話を聞き漏らさず、手近にあった羊皮紙にその内容を記入していく。
「この話が、何か関係があるのかもしれませんね」
「そいつはどうか知らんが、働けないのは困るんだ。早く何とかしてくれよ」
 青年はそういい残すとギルドを後にした。

 *

 結婚式当日。
 礼服姿で教会に急ぐ一人の青年。
 彼の名はレイゼル。
 愛するアルフィーナの元へ‥‥彼は急ぐ。
 
 ――ヒュン

 息を切らしながら走る彼の目の前を何かが横切る。
 一瞬、ダガーの刃先が見えた。
 横を振り向くと‥‥何人もの手下を従えたヤツがいる。
「アルフィーナはオレのものだ! レイゼル‥‥キサマはここで死んで、オレとアルフィーナの新婚生活を地獄から見上げていな!」
 ヤツはブレイデン。
 ブレイデンもアルフィーナに求婚していた、いわば恋敵である。
「私はアルフィーナと永遠の愛を誓う‥‥どいてもらおう」
「ふざけるな! キサマはここで終わりなんだよ! アルフィーナとの愛もな!」
 ブレイデンと手下は剣を引き抜き、レイゼルに襲い掛かってくる。
「‥‥私は‥‥必ず、アルフィーナの元へ行く!」

 結局、レイゼルは結婚式に姿を現さなかった。
 教会で彼を待ち続けたアルフィーナは永遠の眠りに就く。
 そして、2人の死体が見つかったのは、奇しくもアルフィーナが死んだ直後である。

 ――村の若者に口伝される物語

●今回の参加者

 ea0382 ハーモニー・フォレストロード(18歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea0433 ウォルフガング・シュナイダー(40歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea0974 ミル・ファウ(18歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea5630 喪路 享介(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6237 夜枝月 藍那(29歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea8955 アミィ・アラミス(27歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9356 ユイス・イリュシオン(46歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea9519 ロート・クロニクル(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea9952 チャイ・エンマ・ヤンギ(31歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●Take me to heaven

 村から少し離れた場所に、古い教会があるという。
 以前は婚礼や葬儀などがこの教会で行われていたが、老齢の神父が亡くなってからこの教会は使われていない。
 誰もいなくなった教会は荒れ果てている。
 亡霊が住んでいてもおかしくないくらいに‥‥

「誰も管理している人がいねぇのかよ‥‥墓もメチャクチャで、どれが花嫁の墓かもわかりゃしねぇし」
 荒れ放題の教会にロート・クロニクル(ea9519)の声が響く。村で情報を集めていたのだが、この教会は現在使われておらず、管理・責任者も不在だ。とりあえず、教会の中を調べてはみるものの、重要な手懸りとなりうるものは見つからない。
「‥‥なんでもいいからさぁ‥‥さっさとかたずけようよぉ‥‥」
 教会内部を探索するロートにチャイ・エンマ・ヤンギ(ea9952)が脱力気味な声を掛けた。やる気の無い表情をしているものの、指輪を探そうと床を調べたり、アルフィーナの亡霊がいないか慎重に周囲を確認している。
「幽霊‥‥み、見つからないほうが‥‥いやいや、ちゃんと見つけないと‥‥」
 恐怖で体を震わせながらデティクトアンデットでアルフィーナを探すハーモニー・フォレストロード(ea0382)。
「わわわ‥‥祭壇の近くに‥‥」
 魔法が不死者を探査した。お化け等に滅法弱いハーモニーは見る見る顔が青ざめていく。
 彼に反応するかのように、亡霊は徐々にその青白い姿を現していった。それは、女性の亡霊。
「おまえがアルフィーナなのか?」
 ロートが朽ちた祭壇に浮かぶ亡霊に尋ねた。だが、亡霊は彼の言葉に反応しない。
『‥‥必ず‥‥彼は来るわ‥‥』
 返ってきたのは――『聞こえた』のかどうかわからないが――そのような言葉。あるいは、彼を信じ続ける強い思念が冒険者の心に直接響いたのであろうか‥‥。
「村で聞いた口伝が本当なら‥‥彼女はアルフィーナさん‥‥。ずっと、愛する者を信じて待ち続けているのか‥‥」
 体の震えを抑えながらハーモニーが呟く。
「無念があるのなら、それを晴らしてやるのが一番だ。生前にできなかった結婚式を挙げてやろうじゃねぇか」
「おいおい、冗談じゃないよ! そいつらはとっくに死んでるんだよ! 今更一緒になったって生き返りゃしないんだ!」
 ロートの提案にチャイが口を尖らせた。
「俺達のやることは彼らを生き返させる事じゃねぇ。彼らを成仏させて、依頼を解決する事だぜ? 結婚式はその手段さ」
「好きにすればいいさ‥‥」
 現実的な意見のチャイにロートが返す。そして、ぶっきらぼうにチャイも言って、彼女は教会の外へ出ていった。
「死して尚、恋人の元に向かおうとする者や、相手を殺して奪おうとする者がいる‥‥。神の慈愛が彼らを救ってくれるのかな‥‥」
 ハーモニーは十字架のネックレスを握り、祈りを捧げた。

 *

「アンデッド同士が戦っているというのも珍しい話ですね」
「霊と骸が戦いを‥‥しているのですね。何か訳がありそうですね」
 喪路享介(ea5630)と夜枝月藍那(ea6237)が村で聞いた話について感想を述べる。
「口伝ではブレイデンが手下を連れて、結婚式当日にレイゼルを襲撃したということだな‥‥」
「つまり、依頼人などが目撃した単体の亡霊がレイゼル、骸骨などの団体がブレイデン一味である確立が高い」
 ウォルフガング・シュナイダー(ea0433)とユイス・イリュシオン(ea9356)が村の若者から聞いた口伝を纏めて話す。
「なるほどね‥‥亡霊になるということは余程、この世に未練があるのね」
「依頼の達成が一番大事なのは確かだけど‥‥亡霊さん達が結婚するはずの2人だったっていうなら、何とかして引き合わせてあげたいよね」
 アンデッドの目撃された地点の様子を確認していたアミィ・アラミス(ea8955)とミル・ファウ(ea0974)は、彼らの話に真剣に耳を傾ける。
「未練が残って彷徨い出ているのなら、叶えさせてやりたいじゃないか!」
 微笑を浮かべつつ、真幌葉京士郎(ea3190)が気迫を込めて言った。
「そうですね。でも、どのような事情があれ、俺は墓守として死者を眠りに付かせるだけですが‥‥」
 黒髪を掻き揚げ、友の言葉に返す享介。
「霊と骸は見つかりましたか?」
 藍那がミルに尋ねた。
「うん。教会の裏のほうに骸骨が3体と他に何かがいたよ」
 ミルは動態視力を活かしてアンデッドを発見していた。
「では、行こう‥‥」
 ミルの案内で冒険者達はアンデッドのいる場所へ向かう。

 教会の裏手。
 荒れ果てた墓が不気味な雰囲気を醸し出している。
「‥‥これでは、死者が安らかに眠ることもできないですね」
 その墓の様子に享介が嘆く。
 墓を抜けると、茂みが生い茂る細い道。村から教会に向かう裏道だ。
「この辺にいた筈ですが」
 ミルが辺りを見渡した。
「ここで‥‥あの悲劇があったのかしら‥‥」
 アミィも慎重に周辺の様子を探る。
 すると、茂みの奥にスカルウォーリアー3体、ズゥンビ6体を発見した。
 そのアンデッド達が囲んでいるのは‥‥礼服を着た亡霊。
「彼がレイゼル‥‥」
 ユイスがクルスソードを構えた。
「アルフィーナさんを思う貴方の思い‥‥素晴らしいと思いますけどアルフィーナさんを思うからこそ引いてください」
 藍那が亡霊を襲っているアンデッドに声を掛けるが反応は無い。
「仕方ありません‥‥」
 藍那もグットラックを全員に使用。京士郎は自分の日本刀と享介のモーニングスターに、ウォルフガングも自分とユイスの剣にオーラパワーを施す。
「レイゼルだな‥‥加勢する」
 村人からの話と目の前にいる礼服を着た亡霊を照らし合わせ、彼がレイゼルと確信したウォルフガングがスカルウォーリアーにソニックブームを放つ。彼の剣から放たれた衝撃波はレイゼルの傍にいたスカルウォーリアーを吹き飛ばした。
「花嫁の元へ向かいたのか、ならば助太刀しよう!」
 京士郎もスカルウォーリアーに切り掛かる。オーラを纏った刃はスカルウォーリアーに強烈なダメージを与え、続けて振り下ろされた享介のモーニングスターが頭蓋骨を粉砕した。2人のコンビネーションは抜群で、僅かな時間でスカルウォーリアーを行動不能にしたのだ。
「人の恋路を邪魔する奴にぃ、月の光でおしおきっ!」
 ミルがムーンアローを唱えた。
 だが、月の矢はブレイデンと思われるスカルウォーリアーに命中するも、殆どダメージは与えられなかった。
「これでどうかしら?」
 アミィも後方からブラックホーリーを撃ち込む。しかし、スカルウォーリアーに効いた様子はない。
 ユイスはホーリーで牽制しようとしたが、彼女の武装状態で魔法詠唱は無理だった。
 襲撃されたことで、攻撃対象を冒険者達に向けたブレイデン一味。アンデッド達の攻撃でウォルフガング、京士郎、享介が軽い傷を負った。だが、即座に享介が1体のスカルウォーリアーを叩き潰すと、ウォルフガングもユイスと連携してブレイデンに切り掛かる。
「横恋慕の上に力で訴え、あまつさえ死して直‥‥醜いな。お前がいる場所は地獄がお似合いだ!」
 ボロボロになったブレイデンへ、京士郎の日本刀が振り下ろされる。その刃はブレイデンの頭を真っ二つにした。
「残りはザコだけかしら?」
 アミィがズゥンビに鞭を振るう。ズゥンビも数はいたが、冒険者達の力技によって次々に倒されていく。

「さぁ、教会で花嫁が待っている。次はお前達の結婚式だな」
 戦いを終えると、京士郎はすぐにマントを脱ぎ、礼服姿となった。
「教会で花嫁が待っている。あなたの用意はいいか?」
「あなたの愛しき方は、今でもあなたを待っていますわ‥‥早く行っておあげなさいな」
 ブレイデン一味を倒し、残った亡霊‥‥レイゼルにユイスとアミィが話しかける。
 だが、レイゼルは頷く事も無く、ただゆっくり教会への道を進んでいく。
 ずっと彼を待ち続けた、愛すべき人の元へ‥‥

 *

 教会では結婚式が行われることになった。
 2人の想いを遂げさせる為に‥‥
 参列者は冒険者達。

 アルフィーナの元に辿り着いたレイゼル。
 2人は抱き合った。
 お互いの温もりを確かめ合うように。
「ようやく、想いが遂げられたんだな」
「命を越えて、お互いの事を想い続けていられる‥‥憧れるな〜」
 ロートとミルが、その様子を見ながら呟く。
「か、神よ‥‥2人を祝福したまえ‥‥」
 クレリックであるハーモニーが牧師を務め、結婚式が進行する。彼の顔は相変わらず青ざめているけども。
「たまには、バードらしい事もしないとね。この曲は、私からの贈り物って事で」
 ミルもオカリナで祝福の賛美歌を演奏する。
「ふ、二人は‥‥永遠の愛を誓いますか?」
 ハーモニーが問うと、2人は首を縦に振り、お互いを見詰め合った。
「‥‥悲劇の輪廻はこれで終ったな」
「少しでも二人の為になったのならいいのだけれど‥‥」
 ユイスは少し切なそうにウォルフガングに寄り添うと、彼もユイスの肩を抱く。
「私も早く恋したいな‥‥」
 藍那も愛する2人を見ながら溜息を吐く。
 そして、2人は顔を近づけ、口付けを交わす。
 その時‥‥

 ――カーン、カーン

 教会の鐘が鳴り響いた。
「え!? 他に誰かいるの?」
「チャイがいないから、彼女じゃないのか?」
 冒険者が顔を見合わせた。
「あ、2人が!」
 想いを遂げた2人は、徐々にその姿を消していく‥‥
 残した未練が無くなった今、この世に存在する理由は無い。
「二人の御霊の安からんことを‥‥」
 ユイスが剣で十字を切った。

「チッ、付き合ってられねぇぜ」
 教会の外で1人、背を向けていたチャイ。
 ふと、鳴り響く鐘の音に振り返ると、レイゼルとアルフィーナが教会の屋根の上から彼女に微笑んでいた。
 そして、2人は天に昇っていく。
 祝福の鐘は彼らが消えるまで鳴り響いていた。