●リプレイ本文
●山鬼に襲われた村
「『深き森』“銀雷”の獅臥・柳明です。オーガですか、なかなか手強い相手ですね」
「“堅牢なる戦乙女”こと、ピアレーチェ・ヴィヴァーチェだよ☆ ピアって呼んでね♪」
村で情報収集を終えた冒険者達は、襲撃が予測される地点に集まっていた。獅臥柳明(ea6609)とピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)が挨拶をし、他の冒険者も挨拶を交わす。
「‥‥オーガか‥‥ちょっと厄介な相手ですね」
「それが3匹も現れるのだから、無茶は出来んだろう」
アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)とヒューベリオン・グリルパルツァー(ea8902)が顔を見合わせた。
2人は余計な荒波を立てぬよう、耳元を隠していた。残念ながら、農村など地方ではハーフエルフに対して良い感情を持っているとは言えないのだ。
「はぁ‥‥こんなに寒いとお肌や髪が凍っちゃいそうねぇ」
「‥‥さっさと終わらせて、一杯飲りにでも行きたいものだ」
レイナ・フォルスター(ea0396)と名無野如月(ea1003)が焚き火で暖を取りつつ、オーガ迎撃の態勢を整える。
「そうだな。さっさと仕事終わらせて酒飲みてぇな」
ギリアム・バルセイド(ea3245)も酒の話をしながら焚き火で手を温めている。
「ほんま、寒いどすなぁ」
メイ・メイトは如月の周りを飛びながら、デティクトライフフォースで索敵していた。
「現れるまで、持久戦になりそうですね‥‥」
小刻みに体を動かしながらカシス・クライド(ea0601)がボソリと呟く。
外は動いていなければ凍ってしまいそうな気がするくらい寒く、いつ来るかわからないオーガを迎え撃つ為にも準備は怠らない。
「山で動物捕まえるより人里の家畜を奪ったほうが楽なのかな‥‥やっぱ」
ピアレーチェが少し悲しそうな顔をしながら言った。
「この時期、動物は冬眠しているからでしょう」
柳明がピアレーチェに返答する。
数少ない動物を狩ろうとするより、人里で飼われている家畜を襲うほうが楽で確実なのだ。
これが、オーガが定期的に村を襲っている理由であろう。
「たりぃけど‥‥見回っておかねぇと、いつやって来るかわかんねぇからな‥‥」
アルフォンス・シェーンダーク(ea7044)とアルカード・ガイスト(ea1135)は、襲撃があった現場を視察していた。
「周りとのコントラストが大きくなってますから発見し易いはずです」
インフラビジョンを使用して見張りをするアルカード。暖かいものは赤く見える為、寒い外で使用すればオーガの発見も容易になるだろう。
「ん? ありゃ、何だ?」
「3匹ですね‥‥」
2人は柵を破壊して進入しようとしているオーガを発見した。
「早く皆に知らせねぇとな‥‥」
気付かれぬよう、足早に仲間の下へ向かう2人。
報告を受けた冒険者達は家畜が被害に遭わぬよう、素早く現場に向かった。そして、あらかじめ決めておいた班に分かれて、オーガに立ち向かう。
●A班(レイナ―ギリアム―アルフォンス)
「オラ、掛かってこいよ。ウスノロ」
邪笑を浮かべながら、ギリアムがオーガを挑発した。
ギリアムの方から攻撃を仕掛けるつもりはない。完全にレイナとアルフォンスの壁になるつもりなのだ。
前に歩み出たギリアムへ、オーガも金棒を振り回して威嚇してきた。
「ヤル気か?」
睨み合うギリアムとオーガ。
しかし、ギリアムが目を逸らしてチラッと後方を振り向く。その時、アルフォンスの魔法詠唱は終わっていた。
「うぜぇんだよ! これでもくらいやがれ!」
ディストロイが発動。黒い光がオーガを包み込むと、苦痛な呻きが聞こえた。
「さて‥‥早く終わらせて角を頂きましょうか」
レイナがスマッシュを叩き込んだ。だが、振り下ろされた渾身の一撃はオーガの身に触れることはなかった。
オーガもギリアムに攻撃するが、それをミドルシールドで防ぐ。
「何だ? その程度じゃ、運動にもならんぞ」
余裕を持ってオーガの攻撃を避けるギリアム。続け様に振り回された金棒もロングソードで捌いた。
「もう一度‥‥!」
再び、体制を立て直してロングソードを振り下ろすレイナ。今度はオーガの胸に命中した。
早期決着の為にスマッシュ主体で戦うレイナだが、命中するかどうかは五分といったところ。
しかし、ギリアムがオーガの攻撃を捌いてくれるおかげで、他の2人は全力で戦いに専念できる。少しずつ、オーガを追い詰めていった。
「破壊よ‥‥ディストロイ!」
致命傷となったのはアルフォンスの魔法だった。破壊の魔法を受けたオーガは、その巨体を地に沈める。
「チッ、少し遅かったか。残念だな」
止めを刺そうと思っていたギリアムが、少し悔しそうな顔をした。
●C班(カシス―アルカード―ピアレーチェ―アレクセイ)
「さて、鬼退治の開始ですね。『鬼さんこちら、手の鳴る方へ』とでも言ってみましょうか」
余程、余裕があるのかどうかはわからない。カシスがオーガを挑発している。
「カシス君、そんなこと言ったら怒っちゃうよ」
ピアレーチェが笑った。勿論、オーガに言葉は通じないが。
「私がオーガを引き付けますので、その間に攻撃して下さい」
C班の戦い方はアレクセイが囮となり、カシス―アルカード―セーツィナ・サラソォーンジュが支援・援護しつつ、ピアレーチェが打撃を与えるという戦法だ。
「鬼さん、捕まえてごらんなさい」
オーガの出鼻を挫くように、カシスがダーツを取り出して投射。
「ファイヤーボムだと仲間を巻き込みかねませんので、お願いします」
アルカードがピアレーチェのラージクレイモアにバーニングソードを付与した。
「これでどうですかねぇ♪」
セーツィナはウォーターボムで攻撃。しかし、抵抗できないとはいえ、初級ではオーガに効いた様子はない。専門ランクで試みるも、発動に失敗した。
「じゃあ、いっくよ〜☆」
両手で自分の身長よりも長いラージクレイモアを握り、オーガへ突き進むピアレーチェ。その巨剣がオーガの腹に突き刺さった。力を入れて抉るように引き抜くと、大量の血が吹き出る。
「‥‥!!」
その時、アレクセイに変化があった。目が充血し、感情が自分でわからなくなっていく。
「大丈夫ですか!?」
アルカードが声を掛けるも反応がなく、ただ目の前のオーガの攻撃を避けていた。
狂化‥‥ハーフエルフに見られる特殊な性格変化。アレクセイは多量の血を見ると、この状態を引き起こす。
「それでは、こちらから仕掛けていきましょうか」
オーガが攻撃を外し、隙が出来た所へカシスが飛び込んだ。腕を掴み、足を払って地面に投げつける。そして、倒れたところにピアレーチェの巨剣が突き刺さり、オーガは動かなくなった。
●B班(如月―柳明―ヒューベリオン)
最も苦戦しているのがB班。
「何をしている! 早くしろ!」
如月が怒鳴った。
ヒューベリオンがオーラパワーを剣に付与しているのだが、彼の装備状態では気を練るのに時間が掛かる。その為、剣を地面に置いて付与するという手間が掛かり、参戦がやや遅れた。
「嵐を司る雷帝よ、汝が力、我と共に‥‥雷皇の鎧」
柳明はライトニングアーマーを纏い、オーガへ切り掛かった。
「人を傷つけてしまった貴方をこのまま野放しにはしない!」
小太刀で連撃を繰り出す柳明。だが、オーガはそれを避ける余裕があるようだ。
「弐ノ太刀不要‥‥一太刀で、決める!」
持てる力を込め、渾身の一刀を振り下ろす如月。宣言通りに攻撃を命中させるが、オーガも金棒で如月を跳ね飛ばす。
「ぐっ!」
直撃だった。如月はその場で膝を付き、立ち上がれない。
「だ、だ、大丈夫ですかぁ!」
慌ててカノ・ジヨが飛んできて、如月をリカバーで治療する。
「‥‥すまない」
ヒューベリオンが2人のカバーに入った。
「‥‥喰らえ!」
同時にスマッシュを放つ。しかし、その一撃は空を切る。
オーガの目が獲物を捕らえたような目に変わった。金棒がヒューベリオンを襲う。
「ぐぁ!!」
一発、さらに、もう一発がヒューベリオンの胸にヒットした。
激しい痛み‥‥苦しくなって咳き込むと、口から大量の血が溢れ出る。
「‥‥!!」
髪の毛が逆立った。
ヒューベリオンもまた、血を見る事で狂化する。だが、自分の血を見て狂化するなど、想像できたであろうか。
狂化がある故に口数が少なくなった事、自分の血を見てそれが起こった事‥‥様々な想いが混じり、彼の感情が爆発した。
「‥‥コロス!」
痛みをこらえ、オーガに切り掛かる。
「む、無茶です!」
慌てて柳明がヒューベリオンを庇う。カノも即座にリカバーで傷を癒す。
オーガはニヤリと笑い、ゆっくりと近づいていく。そして、金棒を柳明に叩き付けた。
だが、柳明に攻撃が命中したと同時にオーガも苦痛な声を上げ、金棒を地面に落とした。
柳明のライトニングアーマーの効果で、金棒が命中した時にオーガが感電したのだ。
その電撃の痛みと、武器を落としてしまったことで、オーガは逃げていった。
「ら、雷帝のご加護で‥‥」
そう呟くと、柳明は地面に膝を付いた。
*
「1匹には逃げられてしまったか‥‥」
如月が痛む傷口を抑えながら溜息を吐いた。
「やっぱり、また来るかな‥‥」
ピアレーチェが心配そうに、オーガの逃げていった方向を見つめる。
しかし、その後の報告によれば、この村にオーガが現れることはなくなったそうだ。
目的は達成した。依頼は失敗ではない。
●負傷者
・中傷:獅臥柳明
・重傷:名無野如月、ヒューベリオン・グリルパルツァー
なお、怪我はカノのリカバー、アルフォンスとメイのメタボリズムで回復し、次の冒険に支障が出ることはない。