【怪盗の影】怪盗二重奏 ―怪盗vs怪盗―
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月18日〜01月23日
リプレイ公開日:2005年01月25日
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●オープニング
『親愛なる服屋ドノバン殿。
貴殿が大事にしているコレクションを頂きに参る。
金持ちである貴殿が、小さな物を失ったところで痛くもなかろう。
多くの者へ愛を与えるべく、頂戴しに参上する。
怪盗ファンタスティック・マスカレード』
*
雪のちらつくキャメロット。
街道を白い息を吐きながら、慌てて走り抜ける男がいた。
彼の名は、キャメロットで服屋を営むドノバン。
主に、貴族向けの服の仕立てで財を築いた富豪である。
彼が向かった先は冒険者ギルド。
扉を開けると、急いで受付カウンターに向かい、手にした羊皮紙をテーブルに叩き付ける。
「これは‥‥え!? ファンタスティック・マスカレードから予告状!?」
「そうなんだ! 私の大事なコレクションが狙われているんだ!」
受付カウンターでの会話に、一時ギルド内は騒然となった。
「また、ファンタスティック・マスカレードか‥‥」と苦笑する者や、「偽者を騙る犯罪者も増えているからな」と溜息混じりに話す者もいる。
「それだけじゃない! その後に、別の怪盗からも予告状が届いたんだ!」
さらに、騒然となるギルド。
ドノバンが懐からもう一枚の羊皮紙を取り出すと、それをテーブルに広げた。
『予告状☆
ファンタスティック・マスカレード?
調子に乗るんじゃないわよ!
あのコレクションを狙うなんてぜーったい許さないんだからねっ!
あんたなんか、とっちめてやるだからっ!
怪盗ブリンクキャット☆』
「怪盗が2人もあなたのコレクションを狙っているという訳ですか」
「そうなんだ! 絶対に私の大事なコレクションが盗まれてはならん! 必ず、怪盗からコレクションを守ってくれ!」
「わかりました。冒険者に依頼を出しましょう‥‥で、コレクションとは一体、何ですか?」
受付嬢がドノバンに尋ねた。
「それは、素晴らしいコレクションだ! よろしい。特別に教えてやろう。それは、『まるごとメリーさん』と『まるごとトナカイさん』だ! どれだけ、手に入れるのに苦労したことか‥‥他の服は盗まれてもかまわんが、これだけは必ず守ってくれ!」
「‥‥」
コレクションを聞いて声を失う受付嬢であった。
2人の怪盗の目的とは一体何なのか。
冒険者達よ。
服屋ドノバンの大切なコレクションを防衛し、できる限り怪盗の情報を収集せよ。
●リプレイ本文
●【怪盗の影】怪盗二重奏 ―怪盗vs怪盗―
暗雲が月を飲み込み、静寂と暗闇が支配する夜。
ドノバンの経営する服屋の近くで蠢く影があった。
対峙する二つの影。
外を見回っている者は誰もいない。
この影が誰なのか‥‥知る由も無い。
怪盗の対決は‥‥すでに終わっていた。
*
「怪盗ファンタスティック・マスカレードめ‥‥俺以上に目立ちやがって〜! 許せん!」
と、異常なまでに怪盗ファンタスティック・マスカレードに敵意を燃やしているアギト・ミラージュ(ea0781)。
「コレクションは絶対に守りきってやる! 俺は人から愛される怪盗になるんだ!」
「‥‥まぁ、『愛を与える為』なんて言ってるけど、結局はただのこそ泥だよねー」
公の場で自ら怪盗と宣言するのもどうかと思いつつ、彼のパートナーとなるシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)が警備の準備に取り掛かる。
シャフルナーズは仲間を識別する為に匂い袋を用意した。幸い、服屋で使用している花を乾燥させた匂い袋があったので、それを使用することにする。仲間がこれを携帯しておけば、怪盗が変装して紛れ込んでも匂いで判別できるだろう。
「怪盗か‥‥また、油虫の次に嫌な者が出てきたのぅ」
狂闇沙耶(ea0734)は服屋の2階にある部屋を回り、位置や出入り口を調べた。コレクションが保管されている部屋は2階の奥の部屋で、扉は1つ、窓もない部屋だ。コレクションを防衛するのに適した部屋と言える為、沙耶は保管場所の移動をせず、このまま警備を続ける事にした。
「服を盗んで、どうやって愛を振りまくのかなぁ? 確かに珍しいかもしれないけど」
「本物だとしたら「多くの者へ愛を愛を与える」が聖夜祭での意図なの?」
緲殺(ea6033)と朱華玉(ea4756)は怪盗ファンタスティック・マスカレードの目的について考えていた。一部の噂によると、怪盗ファンタスティック・マスカレードは義賊であるという。しかし、服を盗むことが何の関係があるのか‥‥不明な点は多い。
「それにしても、猫はいつ、この予告状を? ファンタスティック・マスカレードの予告状の存在を知っているということは、既に潜入しているかもしれないわね」
「そうよねー。こそ泥が使用人に変装して潜入するってのは有りそうな話よね」
華玉とシャフルナーズは入念に使用人を調査し、ドノバンからもここにいる使用人は皆、以前から服屋に勤めているという確認を取った。
「服屋の中ですから、攻撃魔法は控えなければいけませんね。怪盗に盗ませるのは嫌ですし、準備は万全にしましょう」
セレス・ブリッジ(ea4471)は植木を用意してもらい、それを通路に置いた。これで、怪盗の行動を妨害するのだ。
「猫は‥‥よくわからなかった‥‥」
「ギルドや酒場でも聞き込みをしたのでござるが‥‥有益な情報は耳に入らなかったでござる」
それぞれ、怪盗ブリンクキャットについて調べていた麗蒼月(ea1137)と黒畑緑朗(ea6426)だが、あまり情報を得る事が出来なかったようだ。ギルドでは以前、ブリンクキャトに狙われたという男からの依頼があったが、それ以来、ブリンクキャットは出現していない。噂では、すでに怪盗から足を洗ったのではないかということだった。酒場や裏通りでの情報収集でも、「ブリンクキャットは可愛いものだけを狙うという変わった怪盗だった」という程度の話しか聞かれなかった。
「それじゃあ、暗号教えるわよ」
華玉は仲間に暗号と‥‥最も重要な判別用の動作を教えた。ここまでセキュリティを高めれば、万が一にも怪盗が変装して紛れ込んでも判別は可能だろう。
*
「‥‥静かね‥‥動くの、面倒だから‥‥このほうがいいけど‥‥」
蒼月は扉を見つめながら呟いた。
2階の奥の部屋‥‥コレクションが保管されている部屋は窓も無く、扉が1つあるだけの部屋だ。進入は困難を極める。
「これで、準備は万全でござる」
緑朗はドノバンのコレクションに糸を縫い付け、その先端に鳴子を仕掛けた。もし、コレクションが動いた場合、鳴子が知らせてくれる。
現在、部屋の見張りはこの2人。蒼月はまるごとヤギさんを、緑朗は彼女から借りたまるごとメリーさんを着ている。2人が着ていることで、本物がどれかわからず怪盗が混乱するかもしれないのだ。そして、着用したまま部屋の外に出る事は無い。もし、それを着たまま部屋から出てきたら変装した怪盗である‥‥警備はそこまで徹底されていた。
「メリー‥‥狙われる、のは‥‥他人事では、ないものね‥‥」
蒼月が視線を作業を進める緑朗に移した時‥‥
――トントン
扉をノックする音。
「交代か? 入るがよい」
「お疲れ様じゃ」
「交代だよ」
入ってきたのは沙耶と殺。
「暗号‥‥『島』‥‥」
「『蟹』じゃ」
沙耶は暗号を言った後、下唇を軽く噛みながら視線を左に向けた。
「‥‥もう一回」
「ハイハイ、『蟹』ね」
殺が答える。
暗号を聞いた緑朗は2人に近づき、匂いを確かめた。
「間違いないでござる。では、引継ぎをお願いするでござる」
緑朗と蒼月は着ていた『まるごと』シリーズを脱ぐと、部屋を出た。
「用を足してくるわ、おほほほほ☆」
「怪盗がいるかもしれません。注意してください」
セレスと一緒に応接間で休憩していた華玉が部屋を出た。
「え〜っと、暗号は何だったかしら‥‥『桜』は『灰色熊』‥‥」
華玉は暗号を呟きながら外に出ていった。
暗号だけを答えれても無駄である。もし、怪盗がこれを聞いていていれば、罠に引っかかるかもしれない。
その頃、通路を巡回しているのはアギトとシャフルナーズ。
「さすがに夜になったら誰も来ないね」
たまに用具置き場に来る使用人をチェックしていたシャフルナーズだが、特に怪しい人物はいなかった。
「何だか暇になってきたなぁ」
アギトが背筋を伸ばして欠伸をした、その時。
「あたしのメリーさん、どこぉ〜」
突然、在庫置き場から出てきたマスカレードを付けた人物‥‥体格からすると女性である‥‥が出てきた。
赤髪のツインテールを揺らして振り返った、その人物‥‥間違いなく怪盗‥‥は、アギトと目が合うと気まずそうな表情をした。
「か、怪盗!」
「あら、警備の人? メリーさんってどこにあるのかしらん☆」
「そんなこと言えないよ! キミは一体何者なんだー!」
「あたしは怪盗ブリンクキャットよん☆」
「ブリンクキャットなのか! 奴が気に喰わないなら一緒に打倒ファンタスティック・マスカレードしない?」
「い・や・よ♪」
そう言うと通路を突破しようとするブリンクキャット。
「どうしたのですか!」
騒ぎを聞きつけ、応接間から飛び出したセレスと華玉。
「あら、増援?」
それでも、ブリンクキャットは慌てた様子も見せない。手にしたホイップでアギトの手を絡めて魔法詠唱を妨害し、奥の部屋へ強行突破を企てる。
「こそ泥のくせに堂々と入ってきて!」
「猫! とっ捕まえてあげるわ!」
華玉とナイフを手にシャフルナーズが押さえようとするが、ブリンクキャットは彼女の攻撃を全て避け切った。
「植物よ‥‥怪盗を妨害せよ――プラントコントロール!」
セレスがプラントコントロールを試みるが‥‥彼女はウィザードとして致命的なミスを犯していた。装備過多で詠唱できる状態ではなかったのだ。
通路を突破して奥の部屋に辿り着いたブリンクキャットは扉を開けた。
「あら、中にも警備が♪」
「ぬ! 怪盗ぢゃ!」
部屋は沙耶と殺が警備している。
「あらあら、キビシイのね〜」
バタンと扉を閉めるブリンクキャット。
「怪盗ブリンクキャットが現れたでござるか!」
休憩中だった緑朗と蒼月も駆けつけた。
「猫‥‥悪い子、には‥‥オシオキ」
蒼月は即座にブリンクキャットの急所目掛けて突きを放つ。しかし、ブリンクキャットはひらりと身を翻して攻撃を避けた。
「怪盗「ぶりんくきゃっと」か。「これくしょん」は渡さぬぞ!」
「これもお仕事だからね」
「あーん! こんなんじゃ無理よっ!」
沙耶と殺が部屋から出てブリンクキャット取り囲もうとする。しかし、ブリンクキャットはすぐに用具置き場へ飛び込んだ。
「待つのじゃ!」
沙耶が追いかけると、ブリンクキャットは窓を開けて飛び降りようとしていた。
「ここは2階だぞ!」
アギトが叫ぶ。しかし‥‥
「中の警備は完璧だったけど、それだけじゃ怪盗ファンタスティック・マスカレードを捕まえる事は無理よ。それじゃぁね☆ 『全てのものに愛を与える為に』」
最後に言い残すと、ブリンクキャットは窓から逃げた。
「待ちなさいよ! その言葉‥‥」
華玉が叫んだ。何故、ブリンクキャットがファンタスティック・マスカレードの言葉を‥‥
「なるほど‥‥事前に梯子を仕掛けておいたか‥‥不覚だったでござる」
緑朗が窓を調べると、そこには梯子が掛けてあった。それを利用して2階から逃げたのだ。残念ながら外を見回る者はいなかったので、誰も気づくことはなかった。
「大変です! 在庫置き場が!」
セレスの声が聞こえた。一行が在庫置き場に集まると‥‥
「やられた‥‥」
在庫として置かれていた大量の防寒服は全て盗まれていた。床には一枚の羊皮紙が落ちている。
『必要な物は頂いた。これも、全てのものに愛を与える為 ――怪盗ファンタスティック・マスカレード』
「そういえば、コレクションは!」
アギトが奥の部屋に走った。だが、大事なコレクションは無事だ。
「最初からこれが目的だったのかのぅ」
沙耶が羊皮紙を見ながら呟いた。
怪盗の不可解な行動に悩まされながらも、コレクションは守り通した冒険者達。
盗まれた防寒服については「また仕入れればよい」と問題にはされなかったが、謎を残す結果となった。
そして、ファンタスティック・マスカレードの情報をまったく入手できなかったことが、今回の大きなミスだった。