●リプレイ本文
「オークの巨体から繰り出される攻撃は侮れません。しかし、巨体故に動きは遅いので、作戦をしっかり練れば数が多くても勝機はあります」
村に向かう途中、ピノ・ノワール(ea9244)がその知識を生かして仲間にオークについて説明していた。
「オーク戦士‥‥なかなか強者のようでござるな。腕を磨く良い機会でござる」
武者修行中の浪人である黒畑緑朗(ea6426)は、ピノからオーク戦士についての情報を聞き闘志を燃やす。
「う〜ん、なかなか手強そうなぁ‥‥ま、絶対勝つけどね〜」
強敵と聞いても自分のペースを崩さないアレクサンドル・ロマノフ(ea8984)は、のんびりしながらやや余裕の表情を見せていた。
「それにしても、狼の敵討ちでもある戦いですか‥‥村にも被害が出ている以上、全滅させるのは必須条件ですね」
以前に受けた依頼で狼に親近感を持つようになったピノ。
「狼の敵討ちなんだよね‥‥村人の思いもあるし、がんばらなきゃ‥‥でも、狼って言ったら嫌われ者ってイメージがあるけど、不思議な話だよね」
「そうだね、ミリート姉さま。村の為に‥‥そして、勇敢に戦った狼達の為に‥‥俺は戦う」
ミリート・アーティア(ea6226)とデュクス・ディエクエス(ea4823)が顔を見合わせた。
「イギリスに来てからオークと縁があるようだな、私は‥‥」
ルクス・シュラウヴェル(ea5001)が苦笑した。
「村は狼達と共存していたのだな‥‥」
「‥‥そうですね〜‥‥上手く共生できてたみたいなのに残念です〜‥‥」
ルクスが苦い顔をすると、央露蝶(ea9451)も少し悲しげな表情を見せた。
「‥‥弱い者から先に死んでいくのが自然の摂理。ただ、それだけの事だ‥‥弱いものに情けを掛ける必要など無い」
コロス・ロフキシモ(ea9515)が言い捨てると、露蝶が彼を鋭い視線で睨みつける。
(「フン‥‥」)
コロスは湧き上がる憎悪の感情を抑え、口から言葉を漏らすことはなかった。
彼は出発前、ギルドより注意を受けた。
ギルドでは仲間と共に依頼を遂行することが何よりも大切だ。
ハーフエルフを嫌っているのは個人的な問題だが、それを口に出して仲間内で対立を生むような行為は依頼達成の妨げとなるかもしれない。それが原因で依頼が失敗すれば‥‥君達、依頼を受けた冒険者が信用を失うことになるのだ。ギルドはその点を心配している。
*
「時間も少ないから、手早く罠の設置をしよう。仕掛けている間に襲撃されたら危険だ」
村に到着した一行はフィルト・ロードワード(ea0337)の号令の元、簡易的な罠の設置を行う。
「罠ゾーンはこれでいいかなぁ〜」
「‥‥っと、この周囲に罠があると覚えておいてください〜‥‥上手くいくといいですけど‥‥」
アレクサンドルと武闘着に着替えた露蝶は、鳴子と杭を使った罠を設置した。ミリートもロープや編んだ草を使った足を引っ掛ける罠を作る。緑朗はバリケードの設置を行い、有利に戦いが進められるようにした。
「罠の設置が始まっているみたいだけど、騒いでいたら奴等が感付いてしまうかもしれないわね」
その頃、エルドリエル・エヴァンス(ea5892)は松明を手に周囲の哨戒をしていた。罠の設置中に襲撃されたら、あるいは、村人に被害が及んではいけない。周囲に目を配り、オークの来襲に備える。
村人から森の地図を見せてもらったルクスは、オークの目撃地点と狼が死んでいた場所を教えてもらい、ピノと共に居場所を探しに行く。
コロスは村人にオークの情報を確認していた。
「‥‥安心しろ。オークどもは皆殺しにしてくれよう」
片手で軽々とヘビーアックスを持つと、村人に背を向けてオークを探しに行く。
フェイスガードから覗く余裕と殺気を伴った眼光。
村人は彼に今まで経験したことのないものを感じた‥‥大きな期待と言い表し難い恐怖を。
着実に準備が進む中、フィルトは一旦手を休めて仲間にポーションを配布した。
「チェスにはフェアリーチェスという変則ルールがある。取ったピースを使ったり、ピースがとんでもない動きをしたりするものだ。回復手段と変幻自在な戦法を使える差を思い知るがいい」
自信に満ちた表情のフィルト。
「これで、チェックメイトだ」
*
「来たか‥‥薄汚い化け物共め」
最初に敵を発見したのはコロスだった。だが、オークも即座に彼に気づく。
コロスの身長はジャイアントの中でも高い部類だ。それに、ヘビーアーマー等重武装であれば嫌でも目立つ。
「こっちに来い。豚共め」
コロスは8匹のオークにも動じる事は無く、挑発して引き寄せる。
「来たわね‥‥敵の数が多いと前衛は不利。少しでも手傷を負わしておかないと‥‥」
オークと対峙するコロスを見つけたエルドリエルはアイスブリザードを放つ。手から放たれた氷の吹雪がオークを襲った。エルドリエルの魔法は専門ランクでもほぼ失敗することはない。強烈な氷の吹雪は冒険者側に有利となる先制であった。
「‥‥来ましたね〜」
ロープの両端に石を括り付けただけの単純なボーラを手に露蝶が構える。
「全員で来たでござるか‥‥ならば、分断して罠に誘い込むでござる」
緑朗は罠の前で迎撃体制を取った。他の者もそれぞれのポジションに着く。
そして、後退してきたコロスとエルドリエルを追ってオークが現れた。オーク達はエルドリエルの魔法によって凍傷を受けている。
オークは4匹ずつに分かれていた。どうやら、戦士が2匹いて、それぞれオークを3匹従えているようだ。
「うまくやってくれたようだな。私も負けてはいられない」
ルクスはコアギュレイトでオークの動きを封じる。
「近寄ってくるんじゃねぇぞ、コラァ! 臭ぇんだよ!」
「狼達の敵です。滅せよ!」
アレクサンドルがグラビティーキャノンを撃つと、ピノもブラックホーリーを放つ。
グラビティーキャノンを受けたオークは転倒したが、ダメージは少ないようだ。ブラックホーリーも抵抗こそできないものの、オークに効いた様子はない。
「戦うのは好きじゃないけど‥‥でも、やらなきゃ!」
ミリートは魔法で転倒したオーク目掛けて矢を射る。だが、矢はその弛んだ体に守られて僅かな傷しか与えることは出来ない。
「‥‥転んじゃってください〜」
露蝶が簡易ボーラを投げつけた。しかし、射撃技術が少し足りないのか、ボーラはオークの足に命中することはなかった。
「よし‥‥今だ‥‥」
魔法と射撃攻撃が終わると、即座にデュクスが切り掛かる。オークは凍傷と合わせて致命的な傷を負った。
「予想以上に優位な展開だ。勝機はある」
傷を負ったオークに追い討ちを掛けるフィルト。チャージングでオークの巨体目掛けて突撃する。強烈な突進を食らったオークは血の泡を吹いて死んだ。
「ムンッ! 肉塊と化せッ!」
コロスはヘビーアックスをオークの頭に振り下ろす。直撃を受けたオークはその場に蹲り、しばらくすると動かなくなった。
強襲が終わり、オークが反撃してくる。
近づいてきたオークだが、冒険者の仕掛けた罠に掛かって数匹が転倒。転んだ位置には鋭い杭が地面に打ち込まれているのだが、これはオークにとってかすり傷程度のものだった。
「うまくいったでござる。拙者は戦士を相手するでござる」
「‥‥無茶しないでください〜」
オークに立ち向かう緑朗を露蝶がサポート。露蝶は右手の包帯を外し‥‥その毒が染み込んだ右手で、戦士の近くにいるオークに手刀を打ち込む。手刀はオークの胸に命中した。かすり傷さえ与えれば毒の効果は発揮できる‥‥オークは痙攣を始め、地面に倒れた。
「大きな体でも、ここなら痛いでしょ!」
ミリートはシューティングPAで皮膚の薄い部位を狙い、確実にダメージを与えていく。
「効かないのならこれで!」
ピノは自分の持てる最大の力でブラックホーリーを放つ。だが、まだ熟練していない為か、魔法は発動しなかった。
「目障りなんだよ豚ッ! オラ、這い蹲れ!」
戦闘中は口が悪くなるのか、アレクサンドルがそう叫びながら高速詠唱でグラビティーキャノンを2連発で発動させる。1匹は既に抵抗する気力も無く、もう1匹も重力波に逆らえずに転倒。エルドリエルはウォーターボムでオークを吹き飛ばし、ルクスは再びコアギュレイトでオークを呪縛する。
「狼達の無念‥‥」
デュクスがオークに思いを込めてスマッシュを放つ。続けてフィルトがライトハルバードで止めを刺した。
「ぬるい、その程度の攻撃なんぞ」
コロスはその強靭な体で操る重斧の盾、そして技術で終始オーク戦士を圧倒している。
「これで最後だ‥‥ムオオオオッ!」
ヘビーアックスが巨体を切り裂き、オーク戦士は致命傷を負った。
「流石、戦士と呼ばれるだけあって腕が立でござるな」
緑朗はオーク戦士と激戦を繰り広げていた。戦いは互角ながらも、やや手数に勝る緑朗が徐々にオーク戦士を追い詰めていく。そして、刀で攻撃を受けた瞬間、鍔迫り合いでオーク戦士を押し倒した。そこへ、首目掛けて刀を突き刺し、オーク戦士は絶命した。
「極めれば、この世に切れぬ物無し!」
戦いは冒険者の勝利であった。
*
「狼の子供、いないかな‥‥」
「彼らの子孫がいて、またこの地で暮らせる事を祈ろう」
デュクスとルクスは村人が作った狼達の墓の前で静かに祈りを捧げた。
ピノは村である少年に出会った。
少年は‥‥狼の子供を大事に育てていた。
「この子がリーダーとなってまた村と良い関係を継続していくでしょう」
狼の子供を撫でながら、ピノはホッと安堵の息を吐いた。
連携の取れた作戦で、見事オークは全滅した。
戦いで傷を負った者も少なくないが、フィルトの配ったポーションで傷は回復している。
依頼は成功だ。ごくろうであった。