●リプレイ本文
●女王様と呼ばないで
「恥ずかしいから‥‥あまり、見ないでよ‥‥」
ブリジットは顔を赤らめた。
今、彼女が着ている服は‥‥ティズ・ティン(ea7694)が作ってきた、お嬢様が着るような可愛らしい服であった。
「変態さんの興味をなくするためだから、がまんだよ」
「で、でも‥‥」
恥ずかしがるブリジットはマントで服を隠そうとするが、ティズはそれを取り払う。
「け、結構、似合うジャン‥‥」
そんなブリジットを見てリオン・ラーディナス(ea1458)が呟く。
初めて見るブリジットの女の子らしい姿に、リオンは少々戸惑いを感じた。
「ま、まぁ。い、いろいろ大変みたいだな、最近。も、もしや、男運下がってたりして‥‥」
「そ、そうかも‥‥」
何故か会話もぎくしゃくする。
いつもなら普通に彼女と話すことが出来るのに。
「ふむ‥‥そのような輩に追い回されているとは‥‥ブリジット殿も災難だな。普段、女性を追い掛け回しているリオン殿はどう思う?」
「うーん、そうだなぁ‥‥否っ! と言うか、オレって、そういう風に思われているのかっ!」
「あら、いつもそうなんじゃないの?」
ノース・ウィル(ea2269)がリオンに話を振ると、ブリジットはクスリと笑った。
緊張が解けると、ようやく普段通りの会話に戻る。
「で、連敗はストップしたのかしら?」
「それは聞くなっ! でもまぁ、ホントの相手がいるだけイイジャン。結局、バレンタインは一人だったし」
「私はブリジット殿らと共にバレンタイン・パーティーに参加したな。その時は、くじで一緒になった殿方と過ごしたのだが」
「うぅ‥‥いいなぁ」
取り留めのない会話が少しの間続いたが、ノースがブリジットを追い回している男について切り出す。
「そういえば、変な輩に声をかけられるような事とか、そのような事について何か心当たりはないだろうか?」
「特にないわねぇ‥‥」
ブリジットにも心当たりは無いようだ。
「お久しぶりね? で、今度はどうしたのよ?」
セラフィーナ・クラウディオス(eb0901)がブリジットに声を掛けた。
「変なのに追い回されているのよっ! しかも、その男、変態なのよっ!」
「あら、それは大変ね。ここは、そういうのが多いと聞くけど、実際に見たことないのよね〜」
「見たくなんか無かったのに‥‥」
ブリジットは溜息を吐く。
「その男はぶりぢっと殿を『女王』と呼ぶみたいじゃが、どこかの王族だとか、領地持ちだとか、そういう事はないのじゃろうか」
村上琴音(ea3657)がブリジット尋ねる。
「あのね、琴音‥‥『女王様』って、そういう意味じゃないから‥‥え〜っと‥‥何て説明すればいいのよっ!」
頭を抱えるブリジット。
「つまり、その男はぶりぢっと殿を『女王』呼ばわりする筋合いはないわけじゃよね? その男は何か勘違いをしているのかもしれぬのぅ」
「やはり、勘違いをしているようだな‥‥」
何やら『女王様』について勘違いをしている琴音に、ノースが何故問題なのかを説明する。
「なるほど‥‥その男はぶりぢっと殿に服従し、扱かれたい訳じゃね。じゃが、彼女に無理強いするのはやはり問題じゃね」
琴音は理解したのか、していないのか‥‥とりあえず、少しはどういう意味か理解したようだ。
「何で、変態さんは攻撃されて喜ぶんだろうね」
「一種の修行なのじゃろうか。それなら、自ら痛みを求める理由も理解できるからのぅ」
11歳のティズと琴音。
やはり、変態の心理は理解できない。
「お仕置きされるのが好きなら、逆に優しく接してあげればいいんじゃないかなぁ」
「そうしたら、尚更、付きまとわれるんじゃ‥‥」
「大丈夫、私がついているから問題ないよ」
ティズはブリジットに説明すると、彼女からホイップを没収した。
「変態ねぇ、虐められる事の何処が気持ちいいんだか‥‥いや、主人に虐められるのも、一興‥‥か?」
そんな、やり取りを聞きながらフィラ・ボロゴース(ea9535)は考えていた。
「でも、女を困らす奴は変態だろうと何だろうと容赦はしないよ‥‥」
手にした簗染めのハリセンを地面に叩きつけた。
『バン!』と、いい音が辺りに響き渡る。
「全く‥‥ブリジットも変なのに好かれたねぇ‥‥」
「あんなのには好かれたくなんかないのに‥‥」
溜息を漏らすブリジット。
「いつの世になっても、変な輩がいるものじゃ」
ジョウ・エル(ea6151)が何やらしみじみと言う。
「おぬしに変な輩が近づかぬよう、手を尽くすつもりじゃ」
「それは助かるわ」
「俺も変態をどうにかしようと考えているのですが‥‥正直、今回は自信がありませんね‥‥」
ジョウとは対照的に、何時に無く自信が無い表情なのはイェーガー・ラタイン(ea6382)。
「作戦としては‥‥ジーンさんとデートして貰って、心に決めた方がいるから他を当たる様に説得するというのはどうでしょう」
「ゴメン‥‥相方は結構純粋な子だから‥‥流石にあんなのを見せる訳には‥‥あたしに迫る所なんか見たらどうなる事か‥‥」
ブリジットはイェーガーの作戦を断った。
「そうですか‥‥それなら、直接理由を聞くしかありませんね」
そう呟くと、イェーガーは新たな策を練り始めた。
*
人気の無い路地裏。
冒険者達はブリジットを囲むように歩いていた。
「い、いたっ!」
ブリジットは変態を発見したのか、物陰に身を隠す。
「ほう‥‥あの者が‥‥」
ジョウが変態に近づいていく。
変態はブリジットを探しているようだが、まだ見つけていないようだ。
変態に近づいたジョウは、腰を痛めた振りをして地面に蹲る。
「これ、そこの者。ちょっと腰を痛めてのぉ。立つのを手伝ってくれぬかのぉ」
「だ、大丈夫ですか!」
変態はすぐにジョウへ駆け寄り、立ち上がるのを手伝う。
「おぉ、すまぬのぉ。わしは読書のし過ぎで腰を痛めてのぉ。いくら好きなことでも、程々にせんといかんのぉ。おぬしも何やら傷が多いが、好きな仕事でも程々にせんといかぬぞ」
「は、はい! で、では、用事がありますので、これで失礼します!」
「ま、待ちなされ!」
ジョウが忠告すると、変態はすぐに立ち会った。
「変な性癖さえなければ、いい青年なのじゃがのぅ」
ジョウは溜息を吐いた。
「女王様〜!」
「わぁ〜! 見つかった!」
ブリジットを見つけた変態は猛アタックを仕掛けた。
だが、変態は彼女の姿を見て動きが止まった。
「じ、女王様‥‥何時の間にそのようなご趣味に‥‥」
そう。
ブリジットはティズが作った可愛らしいお嬢様風の服を着ているのだ。
鞭も持っていない。
「恋ってね。もっと、ろまんちっくなものなんだよ。そんな風に強引に迫ったら、嫌われちゃうよ」
恋に恋する少女、ティズ11歳。
妄想がたっぷり混ざった説得で変態を説く。
「いくら好いてても、迷惑をかけちゃ相手にだって好かれないし傷つける。あんたが今やってる事は、虐めてもらいたい人を虐めてるのと同じだよ?」
フィラも説教する。
「こ、これは、好きとかそういうのじゃありません! 虐められるのは好きですが!」
だが、変態は応じない。
「ったく‥‥」
フィラはハリセンを変態の顔目掛けて振った。
『ばっこーん!』
いい音が路地裏に響き渡る。
「い、いいです! そ、それは何と言う物ですか‥‥もっと、打って下さい!」
「こりねぇ変態め!」
フィラはさらに変態をハリセンで打ちのめす。
「ち、ちょっと‥‥やりすぎじゃない‥‥」
ブリジットがフィラを止めようとした。
「あぁぁ‥‥いいです‥‥これもいいけど、やっぱり、鞭で叩かれるほうが‥‥女王様!」
「きゃぁぁぁぁ!」
変態がブリジットに言い寄る。
「待て」
ブリジットを庇い、ノースが変態の前に立ちはだかった。
「ブリジット殿には恋人がいるのだ。諦めて、他を当たることだな」
「恋人がいようが関係ありません! ぼ、ぼくは女王様に虐められたいだけなんです!」
「だから、そもそも、そのような行為が迷惑なのだ‥‥」
「確かにご迷惑かもしれません。ですから、何でも女王様の言う事を聞きます! ですから、ご褒美を!」
「ダメだこれは‥‥」
説得を試みるも、変態には通じない。
ノースは頭を抱えた。
「地べたにひれ伏しな? あん? 嫌だだと? 奴隷、下僕のくせに生意気だな? お仕置きだな‥‥フフフ」
『ピシャリ!』と、鞭で地面を叩く音が聞こえた。
変態が反応すると、そこにはリオンを虐めているセラフィーナの姿があった。
「何でオレなんだよっ!」
「この辺りに誰もいないからよ」
小声で言う二人。
「あ、あそこにも女王様が!」
変態はセラフィーナに向かって走り出した。
「お願いします! ぼくも虐めてください!」
「ふん。お前には興味は無い。何人も相手するから、お前なんかに構っていられない」
セラフィーナは変態を無視し、リオンを虐める(勿論、虐める『振り』である)。
「そ、そんな‥‥」
完全に無視され、さらに、目の前で自分がされたい行為をされている人がいる。
変態は愕然とした。
「一体、貴方は何故、虐められたいのですか‥‥」
イェーガーが変態へ理由を尋ねる。
「そ、それは‥‥それが、気持ちいいからです!」
「そうですか‥‥貴方が『今まで生きていた』のは奇跡と言って良いですね‥‥苦痛なく人を殺める方法も、それが可能な方も、確かにいるのに‥‥」
理由を聞いてイェーガーの表情が変わった。
「‥‥それでも貴方は、人に迫るのを止めないのですか?」
鋭い眼差しが変態へ向けられた。
それは、説得と言うより脅迫。
「し、死にたくはないです‥‥でも、そのギリギリの瞬間も‥‥」
だが、変態もあきらめが悪い。
「これ以上無理強いするのならば、ぶりぢっと殿を困らせることにしかならぬ」
琴音が歩み出ると、変態へきつく叱る。
「そこへ直れ。国が違えども、人の道まではかわらぬはず。年端もいかぬ私に説教されるのは苦痛じゃとは思うが、人の道を‥‥士道を、わかるまで説明しよう」
「ご、ごめんなさい‥‥で、でも、一度でいいから、ぼくを虐めて下さい!」
しかし、変態は説教をブリジットへ迫る。
「いやぁ〜!」
「おい!」
ブリジットに迫る変態をリオンが止めに入る。
「嫌がっているのがわからないのか? それとも、嫌がっているのがわかっているのにやっているのか、お前?」
静かに怒るリオン。
「‥‥ちょっとカッコイイかも‥‥」
その姿にブリジットも惚れたようだ。
「断られたら、とりあえず一歩引くべきだ‥‥そしてッ、新たな出会いを求めるべきだ!」
リオンは変態の腕を掴むと、強引にナンパへ同行させた。
「結局、こうなのね‥‥」
ブリジットはガクリと地面に膝を付いた。
*
「結局、何で攻撃されると喜ぶかわからなかったね」
ティズは最後まで変態の心理を知ることは無かった。
わからぬ方が良いと思うが‥‥ティズは残念そうだ。
「フゥ‥‥疲れたわ‥‥慣れない事するもんじゃないわね? 二度と会いたくない変人だったわ」
セラフィーナは今回の依頼を振り返り、呟いた。
「人間、やっぱ顔、か?」
リオンはしょんぼりと街路を歩いていた。
変態と一緒にナンパへ赴いたものの、リオンは全く相手にされなかったらしい。
変態は戦果があったようだが‥‥その後の行方は知れない。
「あ、あの‥‥」
その頃。
変態はフィラの前に現れた。
「女王様! そ、その、武器でぼくを打って下さい!」
「‥‥こういう趣味がなければねぇ‥‥顔はいいんだから‥‥」
翌日。
変態は軒先に逆さ吊りの状態で発見されたそうだ。