●リプレイ本文
●師匠の槍
――報復
命を奪った者には死を与え、復讐と為す‥‥
(「師匠‥‥必ず、仇を‥‥」)
青年は愛用の槍‥‥師匠から譲り受け、修行を共にしてきた相棒を握り締めた。
幸い、力になってくれる冒険者が集まった。
これだけの力があれば、オーガなど‥‥。
羽紗司(ea5301)は村に到着後、青年と共に素早く罠を作り始めた。
「オーガごときか‥‥あまり、そう言う風に言わない方が良い。それが慢心を呼んで、足元を掬ってしまうのだ。武器を手に戦うものは、いずれその武器で死んでしまう事を覚悟しておかないと‥‥向けた刃は、いずれ自分へ帰ってくるからな」
青年は司の言葉に驚いた。
まるで、自分の心を読まれているかのような‥‥。
だが、青年は黙々と作業を続ける。
「‥‥心配ですね」
長寿院文淳(eb0711)は青年の様子を見て嘆く。
「‥‥仇を目の前に冷静でいられるでしょうか‥‥」
「出来れば、仇を討たせてあげれたらいいのですが」
アリエス・アリア(ea0210)は文淳と顔を見合わせた。
「君は師匠の残した槍術を受け継ぎ、そして超えなければいけない筈だよ。敵が槍を使うと言っても無理をしてはダメだよ。報復も成長も‥‥総ては生きていてこそ、だから」
ユーウィン・アグライア(ea5603)は青年を諭す。
「そうですね。師匠はあなたに生きて槍術を伝承して欲しいから、戦いに連れて行かなかったのでしょう」
そして、アリエスも青年を慰めるように言う。
「敵討ち‥‥か」
クレハ・ミズハ(ea0007)は苦い表情をしていた。
「青年に止めを刺させるのか‥‥だが、ただ命だけを奪う行為が青年の為になるのか‥‥」
*
罠の設置は完了した。
後は、オーガを誘き寄せるだけだ。
「今日の相手はオーガ君かぁ。相手にとって不足は無しっ! 頑張っちゃうぞ!」
ピアレーチェ・ヴィヴァーチェ(ea7050)は村人から聞いた前回の襲撃現場付近を警護していた。
「何という事を‥‥。オーガ3匹に一人で挑むとは。村が襲撃されないよう必ず全てを仕留めます」
ピノ・ノワール(ea9244)も青年の師匠の無念を晴らすことを心に誓い、オーガが現れるのを待つ。
「ピアさん。オーガ戦士は戦闘経験が豊富で、熟練した槍使いでもあります。十分、注意して下さい」
「うん、わかったよ! 気をつけるね」
ピノからオーガ戦士について説明を聞いたはピアレーチェは元気に返事した。
「来た‥‥か」
司は3体の巨体を目視した。
手には槍と金棒‥‥オーガだ。
「現れたようだ。引き付けるぞ」
「こちらも準備は整った」
司が指示すると、冒険者達はそれぞれ受け持った担当の用意をした。
クレハは後衛の為にホーリーフィールドを唱える。
「こっちだ。来い」
司がオーガを誘き寄せる。
すると、オーガは獲物を見つけたかのように嬉しそうな表情をした。
「舐められているようだな」
ロングスピアを構え、オーガ達を睨みつけるクレハ。
「よっし。行くぞぉ」
ピアレーチェも武器を手に取った。
重武装を身に纏うその凛々しい姿は、まさに戦乙女。
「‥‥さて、オーガが来ましたが‥‥」
文淳は青年に目をやった。
彼は槍を構え、少々怯えた様子だった。
「‥‥危険な目に遭わせる訳にはいきません」
青年を庇うように文淳はオーガを迎え撃つ。
そして、3体のオーガは雄叫びを上げつつ、冒険者に向かって突進してきた。
だが、オーガはそれほど知性がある訳ではない。
冒険者達が設置した罠‥‥泥濘に足を捕らわれ、勢いを失う。
「まとめて現れましたか。状況は不利ですが全力で倒します」
同時にピノがブラックホーリーを撃ち込んだ。
「村を襲い一人の勇者を亡き者にした報い、思い知れ。滅せよ!」
オーガは魔法に抵抗出来ず、直撃を受けた。
「‥‥あたしね、君達とは因縁が深いんだ、凶暴なオーグラやトロールとも戦った事がある。だからこそわかる、我が矢にて貫けぬ者無し、ね!」
そして、待ち構えていたユーウィンが同時に3本の矢をオーガに放つ。
極めて難しい技であるが、ユーウィは放った3本の矢を全て命中させるという離れ技をやってのけた。
矢はオーガの胸に深々と突き刺さり、大きなダメージを与えた。
「よし。一気に叩くぞ」
「‥‥いきます」
クレハと文淳は同時に傷ついたオーガを狙う。
「これでどうだ」
クレハはフェイントアタックで確実に槍を命中させていく。
オーガも必死に抵抗するが‥‥傷ついた体で抵抗も出来ず、さらに大きな怪我を受けた。
「さて、オーガと言えどこいつは効くだろ」
司はもう一方のオーガを相手に、格闘で素早い連撃を繰り出す。
そして、急所に放たれた一撃はオーガの意識を失わせ、気絶させた。
「あたしが相手だよっ!」
ピアレーチェは単独でオーガ戦士と向かい合った。
モーニングスターによる重い攻撃を命中させるが‥‥流石は数々の戦いを潜り抜けてきた戦士‥‥その一撃を受けつつも、槍で反撃する。
だが、ピアレーチェもその槍をヘビーシールドで防いだ。
しかし、オーガ戦士はさらに連撃をピアレーチェに放つ。
――ガキィィィン!
金属がぶつかり合う激しい音が響いた。
「これくらい、全然平気だよ!」
オーガ戦士はたじろいだ。
目の前にいる人間の女が、自信の槍の攻撃を耐え切ったのだ。
「今です‥‥あの背中、取らせて頂きます」
アリエスはオーガ戦士に気づかれること無く背後に忍び寄り、背面から矢を放った。
オーガ戦士の着込んだ鎧の隙間を同時に2本の矢で狙うという、普通では不可能な技‥‥だが、相手に気づかれる事がなければ狙うのは不可能ではない。
――グォォォ!
オーガ戦士の苦痛な悲鳴が上がる。
その2本の矢で‥‥オーガ戦士は重傷を負った。
そこへ、さらにピアレーチェの攻撃が叩き込まれる。
オーガ戦士はよろめいた。
「今です。師匠の仇に止めを!」
ピノが青年に向かって叫んだ。
「‥‥早く、仇を‥‥」
文淳は青年を守るようにオーガを引き付ける。
「は、はい」
青年は槍をオーガ戦士に突き刺した。
「‥‥師匠の仇!」
*
冒険者達の活躍により、オーガ達は討たれた。
そして、青年の願いであった師匠の仇を討つ事にも成功した。
「このまま武術に励めばきっと、師匠は超えられる。慢心だけはするな。常に発展途上、道は長いぞ」
「はい、ありがとうございます」
司は青年を励ました。
彼の言葉に青年はさらに修行に励むことを決意する。
「君は‥‥きっと、良い槍使いになれると思うよ。頑張って」
ユーウィンも優しく微笑みながら青年に囁いた。
「はい。師匠のように強さと厳しさ、優しさを兼ね備えた槍使いになります‥‥」
「その思いを絶やさぬよう鍛錬して下さい。私も負けませんよ」
青年の決意にピノも応援の言葉を送る。
冒険者と別れた後、青年は村の裏手にある墓へ向かった。
村の危機を救おうと単身オーガへと挑んだ村の勇者‥‥自分の師匠が眠る場所。
青年は墓の前に槍を突き刺した。
「師匠を超える事‥‥それが、何よりの恩返しです‥‥自分は旅に出ます‥‥教わった槍術をさらに磨く為に‥‥」