●リプレイ本文
●熊鬼討伐依頼
「準備は万全のようね」
出発前、ブリジット・キャミルはワケギ・ハルハラと共に仲間の用意してきた荷物を入念に確認していた。
準備を怠り、目的地まで到達できないなど言語道断である。
幸い、一緒に冒険に行く仲間達はバグベア討伐へ向けて万全の態勢であった。
「は〜い。お弁当は、ばっちりでぇす」
ブリジットのチェックに元気に返事するティズ・ティン(ea7694)。
夜十字琴と信人も出発する冒険者の為に、僅かではあるが食料を用意した。
「一応、踊り子じゃなくって、メイドだよ」
他の冒険者に念を押すティズの表情からは、危険な依頼に臨むという緊張感は見受けられない。
「モンスターも強敵が姿を見せ始めたって訳ね‥‥」
エルドリエル・エヴァンス(ea5892)は、クウェル・グッドウェザーやロレックス・カレビアーノのアドバイスを聞きながら呟いた。
冒険者と同じく、戦いの中で生き残り、強くなっていくモンスターもいる。
今回の敵も熟練したモンスターが相手だ。
「相手は重装備のようですから、鎧の隙間を狙うとかそうしないとダメージを与えるのは難しそうですね」
アリエス・アリア(ea0210)はティズと一緒にミィナ・コヅツミからバグベアについて説明を受けていた。
「う〜ん、強そうだね‥‥でも、頑張らないと!」
「戦闘依頼は久しぶりですが、必ず成功させましょう」
同じく説明を聞いていたミリート・アーティア(ea6226)とルーシェ・アトレリア(ea0749)。
強敵との戦いに、2人は気を引き締めた。
「作戦と皆の協力無しでは、勝利するのは難しいでしょう‥‥ところでブリジットさん?」
不意にイェーガー・ラタイン(ea6382)はブリジットに振り向いた。
怒りを内包する引き攣った笑顔を見せながら。
「わかってるっ! 謝るからっ! だって‥‥お金無かったんだもん‥‥」
ブリジットは土下座して謝った。
以前、ブリジットは『願いが叶う井戸』があるという噂を流し、恋人達に井戸へお金を投げ入れさせていた。
そのお金を彼女が自分のものにしていたのだ。
「‥‥少なくとも、今後『ジーンさんに対して後ろ暗い事はしない』と『約束』して下さい‥‥でないと、絶対に許しません‥‥」
「約束するし、反省してるわよ。だから、今回こうやって冒険者として真面目に働いているじゃない‥‥」
ブリジットはバレンタイン・パーティーで自分の全財産を寄付した。
その為、生活に苦しくなり、そのような事をしていたそうだ。
準備の整った冒険者達はバグベア闘士討伐の任務に向かった。
タケシ・ダイワは彼らを見送り、無事と依頼の成功を願う。
*
〜♪
ティズの鼻歌を行進曲に峠へに向かう冒険者達。
「なるほど。冒険者を襲って略奪を繰り返しているのか」
アラン・ハリファックス(ea4295)は仲間からバグベアについての情報を確認していた。
「熊鬼か‥‥打ち合せ通り、俺は後方支援に徹します」
伊達和正(ea2388)は作戦の確認をしながら進む。
「何にせよ、思いっきりやってやるぜ!」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるアラン。
「この保存食も‥‥あの保存食も‥‥どれ一つ高級嗜好品じゃない‥‥まごうことなき‥‥庶民用‥‥ペットの餌のこっちの方が‥‥美味しそう‥‥」
休憩中、聖なる干し肉を食べようとしているのはマリー・エルリック(ea1402)。
「その干し肉‥‥食べても大丈夫なのですか?」
ちょっと心配そうに尋ねるロゼッタ・メイリー(eb0835)。
「‥‥わからないけど‥‥美味しそうだし‥‥」
無表情で答えると、マリーは聖なる干し肉を食べてみた。
味は‥‥普通の干し肉と同じであった。
*
峠に到着した冒険者達。
「この周辺が最もバグベア闘士が目撃されている場所のようです」
アリエスが出発前に収集した情報を元に位置を確認する。
「まずは、敵を探さなくてはいけませんね」
イェーガーは周囲の索敵を行った。
「そうね。早めに発見できれば有利になるしね」
エルドリエルも一緒にバグベア闘士を捜索する。
「何か‥‥雄叫びのような声が聞こえましたが‥‥」
「以外に近いな‥‥」
ルーシェが何かの声に反応すると、アランは斬馬刀を握り締めた。
「早いですね‥‥早速、準備に取り掛かります」
「皆さん‥‥どうか、ご無事で」
「‥‥頑張れ」
和正が仲間の武器にオーラパワーを使用すると、ロゼッタとマリーもグットラックで祝福する。
「む〜、もっと体力があれば良いんだけどなぁ〜‥‥」
ミリートは自分の腕を見つめながら呟いた。
「敵を目視しました! 間も無くこちらに来ます!」
「わかりました。こちらもすぐに戦闘準備をします」
イェーガーの声が聞こえると、アリエスは岩の陰に身を潜めた。
暫くして‥‥
「来やがったか‥‥」
冒険者達の目の前にヘビーアーマーを着込んだバグベア闘士が姿を現した。
獲物を見つけ、興奮した表情のバグベア闘士。
「来ましたね‥‥」
イェーガーは鳴弦の弓の弦をかき鳴らす。
「御熱い貴方にちょっとしたプレゼントを♪」
その興奮を冷ますかのようにエルドリエルがアイスブリザードを放つ。
専門ランクで放たれたアイスブリザードだが、バグベア闘士はそれを耐え凌ぐ。
「熊さん、武器落として!」
魔法少女のローブを身に纏ったティズが踊りながらバグベア闘士を魅了しようと念じる。
だが、その頑張りも空しく、バグベア闘士には効果を表さない。
「これなら避けることはできないでしょう!」
「手加減しないんだからっ! えいっ!」
岩陰に隠れていたアリエスが鎧の隙間をダブルシューティングで狙う。
同時にミリートも矢を放つ。
――ガァ!
放たれた矢は1本がバグベア闘士の鎧の隙間を貫通した。
「C’mon,wimp!」
アランが挑発し、ルーシェがシャドウバインディングを唱えようとしたその時‥‥。
バグベア闘士は予想外の行動に出た。
‥‥逃げ出したのだ。
「っ! 待ちやがれ!」
アランは即座にバグベア闘士を追いかける。
逃げるバグベア闘士を徐々に追い詰めていく冒険者達。
「もう逃げれないよっ!」
ティズが両手にパリーイングダガーを構えながらバグベア闘士に近づく。
バグベア闘士の背後は崖であった‥‥。
「Do your job!」
再び、アランが挑発する。
しかし‥‥バグベア闘士は余裕の表情であった。
「もしや‥‥俺達がここに誘き寄せられたのでは‥‥」
「何っ!」
和正が震えた。
崖を背に戦う‥‥まさに、背水の陣。
背後が崖なら、不意打ちや背面攻撃を受けることは無い。
そうしなければ敵は効果的なダメージを与える事が出来ないと考えたバグベア闘士は、戦いの場をここに移した。
幾度の修羅場を潜り抜けてきた闘士だからこそ成せる戦術であった。
「でも、やってみなければ!」
再びミリートがシューティングポイントアタックEXを放つ。
だが、その攻撃は見切られ、矢は命中する事は無かった。
普通に狙えば命中させる事は出来るかもしれないが、ヘビーアーマーを貫く程の威力は無いだろう。
「追い風は吹いていないですが‥‥勢いはあります!」
マリーが仲間を励ます。
「調子に乗るんじゃないわよっ!」
ブリジットがホイップでバグベア闘士の腕を絡め取ろうとする。
しかし、それを強引に振り解き、斧で彼女を薙ぎ払う。
「キャァ!」
「大丈夫ですか!」
イェーガーがブリジットを庇う。
「すぐに治療をします!」
「頼んだ!」
ロゼッタがブリジットを後方に運び、リカバーで治療する。
「効果はあるかわかりませんが‥‥月光の矢・ムーンアロー!」
「コツコツと削っていくしかないわね‥‥ウォーターボム!」
ルーシェがムーンアローを放ち、同時にエルドリエルもウォーターボムを撃ち込む。
しかし、両方の魔法もバグベア闘士に効いた様子は無い。
「‥‥精神ガリガリ削ってこの程度なんて‥‥」
エルドリエルは溜息を吐く。
「この野郎! 調子に乗るなよ!」
アランが斬馬刀でバグベア闘士を切り裂く。
やや、手応えはあったが、有効なダメージかはわからない。
「えいっ!」
ティズもスマッシュで攻撃するが、その厚い装甲を貫くことは出来なかった。
これだけ攻撃を受けてもまだ余裕のバグベア闘士は、狙いを定め、勢い良くアランへ斧を振り下ろす。
――スマッシュ。
バグベア闘士も戦いの中で技を習得していた。
その重い一撃はアランを軽がると吹き飛ばし、重傷ダメージを与えた。
「‥‥! ‥‥アランさん!」
「悪ぃ、俺は回復魔法は彼女のしか受けないことにしてるんでな」
マリーが治療しようと近づこうとするが、アランはポーションを取り出し、一気に飲み干す。
「危ない! オーラショットッ!」
ターゲットをティズに変えたバグベア闘士は彼女に攻撃を仕掛けようとするが、和正がオーラショットで防ごうとする。
しかし、その攻撃も通じず、斧はティズに直撃した。
「キャァァァ!」
か細い悲鳴が響く。
「我が神‥‥セーラの名において‥‥今‥‥奇跡の力を‥‥」
マリーがリカバーでティズを治療する。
「これ以上、仲間を傷付けるな!」
アランはオフシフトで攻撃を避けつつ、反撃の機会を狙う。
だが、バグベア闘士はそのステップを潜り抜けて斧をアランに命中させるだけの技量と余裕があった。
「こ、これ以上は‥‥」
これ以上の戦いは危険と判断したルーシェはシャドゥフィールドでバグベア闘士を闇の中に閉じ込めた。
「退却するしかないわね‥‥」
闇の中でもがくバグベア闘士を尻目にブリジットが仲間に撤退を提案した。
結局、バグベア闘士を討つ事は出来なかった。
‥‥依頼は失敗だ。