行方不明のシフール
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:4〜8lv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月06日〜06月11日
リプレイ公開日:2005年06月15日
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●オープニング
――冒険者ギルドでの雑談
「これから彼女の村に行くんだ。久しぶりにキャメロットに帰ってくる事が出来たからね♪」
「ふーん」
カウンター越しに会話しているのはシフールの男の子と受付嬢であった。
嬉しそうに飛び回っているシフールの男の子とは対照的に、受付嬢は不機嫌な表情をしている。
「確か、ピックルくんはケンブリッジに行っていたんだっけ? 最近、音沙汰無かったから、モンスターに食べられたのかと思っていたわ」
「ひ、ひどいよぉ!」
ピックルと呼ばれたシフールの男の子は、受付嬢の冷淡な言葉に全身で怒りを表現する。
プンプンと怒っているピックルを見て、受付嬢は『くすっ』と微笑を漏らす。
傍から見れば仲の良い2人である。
「そういえば、その村の近くの森に大きなモンスターが住み着いたみたいよ。近くを通るなら気をつけてね」
「大丈夫だよ!」
受付嬢の警告に自信たっぷりの声で返事するピックル。
「じゃあ、行ってくるね♪」
嬉しそうにギルドから出て行くピックルの後姿を見て、受付嬢は嫌な予感がした‥‥。
その予感が的中した事を知らせたのは、数日後にギルドへ届けられたシフール便であった。
――届けられたシフール便
『初めてお便りいたします。
久しぶりに彼氏と会う約束をしていたのですが、予定日になっても彼が村に到着していません。
何かあったのでしょうか?
最近、村の近くに大きな猫が住み着いたという話を聞いたので、少し嫌な予感がしています。
もし、彼がその森を抜けて私の住んでいる村に向かったのなら‥‥。
‥‥まさか、その猫に‥‥
いえ、彼なら大丈夫ですよね‥‥
でも、ちょっと心配なので、彼が無事か調べて欲しいのです。
彼の名前はピックル・リックル。
どうか、よろしくお願いします
――ピックルの彼女・ルシーダより』
――張り出さた依頼書
「えーと、行方不明のシフールを探してもらいたいの」
この依頼に興味を持った冒険者に内容を説明する受付嬢。
「彼女の村に向かったシフールの男の子が予定日を過ぎても姿を現さないそうなの。もしかしたら、約束をすっぽかして他の女と‥‥と、いうのは絶対に無いと断言するけど‥‥まぁ、近くの森に何か大きなモンスターが住み着いているみたいだから、食べられちゃったかもしれないわね」
冗談混じりで話す受付嬢だが、声は至って真剣である。
やはり、心配はしているのであろう。
「その子を見つけて、無事に村に送り届けるのが今回のお仕事よ。あ、報酬はその子から貰ってね」
最後に受付嬢が付け加えた。
●リプレイ本文
●行方不明のシフール
行方不明となったシフールの捜索へ向かう直前、ノイズ・ベスパティー(ea6401)とイェーガー・ラタイン(ea6382)は情報収集の為に冒険者ギルドを訪れた。
「ねぇねぇ、お姉さん。大きなにゃんこの事、何か知らないかなっ!」
落ち着き無く、頻りにカウンターの上を飛び回るノイズが受付嬢に尋ねる。
不安なのであろう。
捜索に向かう前から「羽根をもがれるかも」などと、シフールにとって恐怖の言葉を聞かされれば‥‥。
「とんでもなく大きいにゃんこ‥‥としか説明できないわね。本当に大きいだけのにゃんこみたいだから。体が大きいから、ジャイアントラットを主食にしているみたいよ」
「やっぱり、それだけ大きいとシフールも餌にしちゃうのかな‥‥だ、大丈夫! 怖くなんかない、僕は餌じゃない、食べられない‥‥」
不安を振り払う為、自分に大丈夫と言い聞かせるノイズ。
「巨大猫‥‥予想以上に大きいようですね‥‥」
イェーガーは一呼吸すると、続けてピックルの特徴や依頼人である彼の恋人の住む村について、近くの森とピックルが通りそうなルートを尋ねる。
ピックルの特徴は‥‥屈託の無い笑顔に雲の無い晴れた日の大空を思わせるような青い髪と瞳。
でも‥‥おっちょこちょいで泣き虫らしい。
森や彼が通う道まではわからないので、村で確認した方が得られる事は多いだろう。
「餌になるのだけは勘弁して欲しいなぁ‥‥でも、同じシフールの仲間として放っておけないしっ!」
「そうですね。俺も『シフールの守護者』として、必ずピックル君を助けたいと思います」
2人はピックルを救出する事を宣言し、捜索へ向かう。
「食べられないように頑張ってね」
「大丈夫だよっ! ピックルくんの仇は絶対討つからね!」
『シフールの守護者』という仲間がいる事で不安を払拭したのか、ノイズは元気に返事をする。
‥‥まだ、ピックルは食べられたと確定した訳では無いのだけれども。
*
ピックル捜索に向かった冒険者達は、始めに依頼主の住む村へと足を運んだ。
森についての情報、ピックルが通うルートがわかれば捜索は楽になる筈である。
「ピックル君の持ち物とかないかな〜。もし、あったら匂いでこの子が探せるかもしれないしね」
依頼主であるピックルの恋人・ルシーダの家を訪れたシャラ・アティール(ea5034)は、愛犬のボーダーコリー・シェイスの頭を撫でながらピックルの持ち物が無いかルシーダに確認する。
だが、残念ながらピックルが身に付けているような物は彼女の家に無かった。
「匂いが付いていそうな物があれば、チェリーちゃんもピックル君を探しやすいと思ったんだけどなぁ」
ノイズも愛犬・チェリーの顔を少し残念そうな顔で見つめる。
――ワン!
そんな表情のノイズを見てチェリーは吠えた‥‥ご主人様を励ますかのように。
「私は猫さんにピックル君の事を尋ねてみたいと思います。猫さんはかなり大きいみたいですから、発見し易いかと‥‥」
匂いで捜索する作戦がうまくいかないようなので、レテ・ルシェイメア(ea7234)はテレパシーで巨大猫と会話しようと考えている。
「それにしても、その猫ってどうして森に住み着いちゃったのかな?」
「村人の話では、森にジャイアントラットが沢山いるらしいので‥‥そのジャイアントラットを目当てにやって来たのではないでしょうか」
シャラの疑問にイェーガーが答える。
どうやら、森にはジャイアントラットがいるらしく、それを餌にする為に巨大猫が森に住み着いたと考えても不思議ではない。
「そうだとすると‥‥ピックル君が行方不明になった原因は、まさか‥‥」
レテは原因がジャイアントラットかも知れないと考えた。
「う〜ん。そっちの可能性もあるけど‥‥とにかく、急いで捜さないとね」
シャラの言葉に仲間は頷き、冒険者達は森へと急いだ。
*
ピックルの捜索は2班に分かれて行われた。
「イギリスに来たばかりなので、イェーガーさんが通訳してくれるおかげで助かります」
ビター・トウェイン(eb0896)はイギリス語が話せない為、イェーガーが通訳をしていた。
「それでは、一刻も早くピックル君が発見できますように‥‥そして、無事でありますように」
ビターはグットラックで仲間を祝福した。
「話じゃあ、にゃんこは3メートルはあるって言うし‥‥流石に近づいてきたらわかるよね?」
チェリーに跨りながら周囲を警戒するノイズ。
シフールは餌ではないけど‥‥襲撃されたら真っ先に狙われるかも知れないと思うと、なかなか落ち着かない。
「ノイズさんと同じシフールなら、飛んで逃げる事も出来ると思うのですが‥‥怪我をされている可能性が高いですね。早く見つけ出して治療して差し上げたいです」
「そうですね。羽根を傷つけられているかもしれないですしね‥‥シフールが飛べないと、モンスターに襲われたら間違いなく‥‥」
ビターとイェーガーがピックルの安否を気遣うが‥‥。
「あわわ‥‥あんまりそんな事言わないでよ‥‥」
自分の身が心配になってきたノイズであった。
一方、その頃。
女性陣2人の班は水場を中心に捜索をしていた。
「あれは‥‥」
レテが発見したのは食い千切られたジャイアントラットの死体。
「これは、猫さんが食べたものと考えて間違いないでしょう。他にもネズミがいるかもしれませんから、気を付けないといけませんね」
「そうだね。でも、ネズミが出てきても僕が守るから大丈夫だよ!」
死体を見て森にジャイアントラットが住み着いている事を確信したレテ。
シャラは龍叱爪を装着し、周囲を捜索するレテを護衛する。
「一体、ピックル君はどこにいるのかな〜」
少々、疲れた声でシャラが呟く。
森は意外に広かった。
道は整備されており、事前に村で情報を収集しているものの、それでも捜索するのには時間が掛かる。
「何か聞こえますね‥‥」
レテの耳に何かの声が届いた。
それは、男の子の泣き声であった。
*
呼子笛の合図を聞き、男性陣の班が駆け付けた。
「ピックル君が見つかったのですか!?」
イェーガーが尋ねると、シャラは頷いて3人を森の奥へと案内する。
案内された場所には大きな樹があり‥‥。
「うわぁ! 何て大きなにゃんこ!」
ノイズが驚く。
そこには、3メートルという巨大な猫がいた。
「にゃぁーん♪」
「うわぁぁぁぁぁん! 誰か助けてぇー!」
樹には泣きながら必死に幹にしがみつくシフールがおり、巨大猫は樹を揺らしてそのシフールを落とそうとしている。
間違いなく、このシフールが行方不明となっていたピックル・リックル(ez1020)だ。
「あのシフールがピックル君なのですね。大丈夫でしょうか‥‥」
ビターが確認すると、ピックルは羽根を引っ掻かれているようだ。
その怪我が原因で飛んで逃げる事が出来ないのだろう。
「お〜い、ピックル君。助けに来たよ〜」
シャラがピックルに救助に来た事を伝える。
「うぅぅぅぅ‥‥早く、この猫を何とかしてー!」
ピックルは泣き叫びながら返事をした。
『私はレテ。猫さん、お名前は?』
レテはテレパシーで巨大猫と会話を試みる。
『お名前? それっておいしいのかにゃ?』
『違います‥‥』
レテは巨大猫にピックルを捕まえようとしている理由を尋ねるが‥‥。
『あんな大きな蝶は食べた事ないにゃ』
やはり、食べようとしているらしい。
レテがピックルは餌ではない事を説明している間に、イェーガーは持参してきた『不思議なマタタビ』を燻していた。
「ねぇ、にゃんこ! こっちにいいものがあるよ!」
ノイズが巨大猫に近づき、マタタビに気づかせようとする。
すると、巨大猫はノイズに興味を持ち、彼を追いかけようとした。
「にゃぁー!」
「うわー! やっぱり、怖いよっ!」
だが、巨大猫の動きがピタリと止まる。
イェーガーが用意したマタタビの匂いに誘われ、ゆっくりと近づいていく。
「ピックル君! 今のうちに!」
シャラが叫ぶと、ピックルは樹から下りてきた。
「た、助かったよぉー!」
「怪我をされているみたいですね。早く村に戻りましょう」
レテがピックルの怪我を気遣う。
巨大猫がマタタビに夢中になっている間に冒険者達は村へと戻った。
*
村に帰還した冒険者達とピックルは、ルシーダの家に向かった。
「ピックル君、大丈夫ですか?」
ビターはピックルをリカバーで治療する。
羽根は巨大猫の爪で引っ掻かれており、リカバーで再生する事は出来ないが、1週間もすれば元に戻るだろう。
「さてと‥‥ピックル君!」
「は、はい‥‥」
シャラが少し声を荒げてピックルを呼んだ。
「いい? 受付のお姉さんが森に大きなモンスターが住み着いたから気を付けるように言ったのに、それをいい加減に聞いているからこんな目に遭うんだよ!」
怒声と共にシャラの拳がピックルの頭上に下りようとした。
「ひゃぁ!」
だが、拳は「コツン」と優しくピックルの頭を叩いただけだった。
「こんなに彼女さんにも心配かけて‥‥」
「うぅぅ‥‥ごめんなさい!」
ピックルは冒険者達と恋人へ頭を下げて謝った。
「でも、無事‥‥とまでは言えないけど、大丈夫だったからよかったね!」
ノイズの言葉に冒険者達は皆頷いた。
こうして、行方不明のシフール捜索の依頼は終了した。
報酬はピックルのポケットマネーから、依頼に必要だった食事分が支払われる事になった。
「私は必要ありません。同じケンブリッジの学生だからわかります。定期収入が無いから貧乏なんですよね‥‥ピックル君、お互い苦労しますね」
レテは報酬を受け取らなかった。
ピックルもケンブリッジで学ぶ学生の一人。
あまり、お金は持っていない。
お金が無ければ依頼で稼ぐしかない‥‥学生は苦労しているのである。
「彼女へのプレゼントはあるのですか?」
イェーガーがピックルに尋ねる。
しかし、前述どおり、あまりお金の無いピックルにとってプレゼント代も大きな出費となる為、今回は用意出来なかったそうだ。
「仕方ありません。報酬は出世払いにしておきます‥‥」
イェーガーも今回は報酬を受け取らなかった。
「それにしても、優しい彼女ですね‥‥」
ルシーダもピックルがお金を持っていない事は理解している。
それでも彼を愛し、稼ぐために冒険に出る事を心配しているのだ。
ピックルにとって、そんな彼女は何よりも大切なもの。
イェーガーは少しピックルをうらやましく感じた。
依頼が終わった後、冒険者達は巨大猫が森に生息しているジャイアントラットを退治するいい猫だという事を村人に説明して回った。
村ではジャイアントラットによる被害が無くなり、巨大猫は餌に困る事はない。
ここに両者の共生関係が生まれた。