●リプレイ本文
●恋の始まりは魔法のように
冒険者達は始めにニコレの家を尋ねた。彼女に幼馴染の特徴を聞き、似顔絵を描く為である。
ロッドを手にしたニコレは冒険者達を部屋に案内した。部屋はウィザードらしく沢山の本や羊皮紙が散乱しており、机の上には儀式用の剣と杯、そして数枚の金貨が置かれている。研究に余念が無かったのか、年頃の女の子の部屋という感じはしない。
「幼馴染の名前と性格、あと特徴等を教えていただけませんか?」
アクテ・シュラウヴェル(ea4137)がニコレから幼馴染の事を聞き出す。フォルトゥ・ファコルツ(ea1645)とリーベ・フェァリーレン(ea3524)もその特徴から似顔絵を書き始めた。
幼馴染の名前はロイ。銀髪で青い瞳をしている。性格は引っ込み思案で大人しく、右手に火傷の跡があるそうだ。
「人を想う気持ちって不思議ですわよね‥‥」
いつもの高笑いはどこへやら。トランス女王ことニミュエ・ユーノ(ea2446)は、何時に無く感傷的な面持ちで窓の外を眺めていた。
――どんなに遠くへ離れても、同じ空の下にいるから‥‥
窓を開けて空を見上げた彼女の口から哀愁を感じさせる言葉が漏れてくる。そんな様子をヒースクリフ・ムーア(ea0286)が部屋の奥から眺めていた。
「似顔絵ができましたよ」
3人の協力により8枚の似顔絵が完成。似ているとは少々言いがたいかもしれないが、身体的特徴を併せて説明すれば情報は得られるかもしれない。出来上がった似顔絵を手に、まずは幼馴染が目撃された隣町へ急ぐことにした。
●1日目〜2日目
「急がないと不味そうですね」
騎乗した九門冬華(ea0254)が周囲の様子を確認しながら先行して偵察を行っている。2人の騎士、ヒースクリフとフォルトゥも辺りを警戒し、武道家の銀零雨(ea0579)がそれに続く。
「急がなければならないのは分かる。だが、レディのエスコートにだって気配りは必要さ」
中間にはキース・レッド(ea3475)が、まるで従者の様に後衛の女性陣を気遣いながら進軍のペースを調整していた。
――もし、突然襲撃を受けたらレディは誰が守るんだい? そうさ、僕しかいない。
チッチッチ☆ と人差し指を横に振り、少々キザなセリフ決める。しかし、女性陣はまったく気にしない。
「わたくしは恋する乙女の味方ですわ♪」
トランス状態になるとすごいらしいユーノ。
「体力はありませんが、がんばりますわ」
ダガーを手にニコレの傍に寄り添うアクテ。
「邪魔するものはアイスコフィンよ♪」
と、熱血説得ウィザードことリーベ。ちなみに、夜は簡易テントで女性専用『男子禁制・秘密の花園』を確保し、「覗きには死あるのみ♪」と断言している。‥‥今回は――残念ながら――アイスコフィンの餌食になった勇者はいなかったが。
なかなか手強い女性陣である。
道中、アクテはニコレに幼馴染に会ったときの対応を確認した。彼の旅を認める覚悟なのか、一緒に行く事を拒否されたらどうするのか。だが、ニコレの気持ちは決まっていた。
「待っていたら何も始まらない。何て言われてもわたしは一緒に行くから」
村から隣町まで移動するのに約1日の時間を必要とし、その間に3匹のコヨーテに遭遇したが、素早く追い払うことができた。それ以外に遭遇はなく、順調な旅路であった。
隣町に到着した一行は、幼馴染の聞き込みを開始した。街の宿屋を拠点とし、それぞれ酒場や道具屋など冒険者が立ち寄りそうな場所に向かう。しかし、なかなか有力な情報は掴めなかった。
ヒースクリフとフォルトゥ、ユーノらは酒場で聞き込みを行った。やはりここでも「そんなヤツもいたかな」くらいの曖昧な情報しか聞き出すことができなかった。仕方なく、ヒースクリフとフォルトゥは酒場のテーブルで休憩を取り、ユーノは店の片隅で歌を歌い始める。突然の出来事で酒場の客は驚いたが、彼女の歌声に大きな拍手が送られた。
ユーノの歌が終わると同時に、零雨が酒場に駆け込んできた。
「幼馴染の行方がわかりました」
零雨とニコレが道具屋で聞き込みをしたところ、ロイと良く似ていて右手に火傷の跡がある人物が来たというのだ。
「北に向かうと言っていたそうです」
「そうか‥‥。北というとケンブリッジか?」
「さぁ、それはわかりません」
零雨の報告を聞いてヒースクリフが立ち上がる。フォルトゥも席を立ち、酒場を後にした。
「それでは、すぐに出発しよう」
●3日目〜4日目
3日目の昼頃、一行の前にコボルトが5匹現れた。可能であれば離脱を試みるつもりであったが、冬華が鉱物毒を塗ったダガーによる傷を負った為、殲滅戦となった。
「申し訳ありません」
コボルトから奪い取った解毒剤で手当てをし、少し休息を取る。この戦闘が思わぬタイムロスとなった。
「急がないとまずいかな」
それから4日目までは遭遇はなかったが、進軍のペースが少し速くなり、皆の顔に疲労の色が見えてきた。
「そういえば、ロイのお父さんが『北に行く』と言ってそのまま帰ってこなかったそうです。彼はお父さんの行方を捜しに行ったのかもしれないわ‥‥」
ニコレがロイの父のことを思い出した。彼は帰ってこない父を恨み、また影で心配していたという。
途中、一行は小さな村に立ち寄った。村には宿屋と酒場があり、休憩を兼ねて情報収集も行う。その結果、宿屋でロイと良く似た人物が泊まっていたという情報を得た。出発したのは1日前。その時、やはり「北に向かう」と言っていたらしい。
「なんとか追いつきそうだね」
「無事みたいでなによりです」
宿屋を出たリーベと冬華が酒場で情報収集をしていた仲間と合流し、すぐに追いかけることになった。
●5日目
リーベが水溜りでパッドルワードを使い、幼馴染の足取りを探す。しかし、得られた情報は「最近、普通の大きさの人間が踏んでいって、北に向かった」という曖昧なもので、特定するには難しい。
「昨日出発したってことは、それまで無事だったということさ。まぁ、すぐに会うことが出来ると思うけどね」
キースが疲れと不安で顔色の優れないニコレに声をかけた。レディの体調には気を配っている。ニコレも「そうね、ありがとう」と微笑んだ。
半日ほど進むと、先行している冬華が異変を察知した。ゴブリンを発見したのだが、様子がおかしい。普通なら気づかれないように迂回したいところだが、もしかして‥‥嫌な予感が頭をよぎる。少し近づいてみると、やはり‥‥誰かが襲われている。
「ゴブリンが人を襲っているみたいです!」
急いで後列にもどり、様子を報告する。ヒースクリフ、フォルトゥ、零雨がすぐにゴブリンのほうに向かう。
「最悪のパターンだな」
ヒースクリフはロングソードを鞘から引き抜く。ゴブリンの数は6匹。
「大丈夫ですか!」
真っ先に零雨が叫びながらゴブリンの群れに突撃した。一番近いゴブリンに回し蹴りを打ち込み、攻撃してきたゴブリンを捌いて足を払う。横目で襲われていた人を見ると‥‥似顔絵の人物とよく似ている。多少、怪我を負っているようだが、まだ大丈夫のようだ。
「ロイ! ロイなの!」
キースと女性陣が参戦。ニコレが声をかけると‥‥
「え! そんな‥‥。まさか」
ニコレの姿を見て驚いている様子だ。間違いなく本人であろう。
「ナイトにどんな戦い方も無い。皆の盾として真正面から殴りあうだけだ」
ショートソードとライトシールドを構え、フォルトゥがロイの前に立つ。人の為に盾になること。騎士として誇り高き行動である。そのフォルトゥに2匹のゴブリンが襲い掛かってくるが、1匹は盾で受け、もう1匹は素早く避ける。
「フッ。レディには指一本触れさせないよ」
キースがホィップを振り回し、ゴブリンを威嚇する。
「それでは援護します」
アクテがバーニングソードをヒースクリフの剣にかけた。続けてリーベがウォーターボムを発射し、直撃を受けたゴブリンは吹き飛んだ。冬華は倒れたゴブリンの首を斬り、喉笛を切り裂かれたゴブリンは血の泡を吹いて絶命した。
「わたくし荒事は苦手なんですけども」
ちょっとぼやきながらも、ユーノはムーンアローでゴブリンを攻撃。確実にダメージを与えていく。
「全身全霊の一撃を受けてみろ!」
ヒースクリフは体でゴブリンの攻撃を受け、カウンターで攻撃を命中させていく。炎の効果と相まって大きな威力となった一撃で、ゴブリンを次々と倒していった。
半数となったゴブリンは逃亡を試みた。これ以上戦うことも追撃する理由も無く、逃げていくゴブリンの背中を睨みつける。戦闘はこれで終了した。
「なにはともあれ、一度お二人でお話し合いをなさってはいかがかしら?」
戦いが終わり、少し気まずい雰囲気の2人にユーノは声をかけた。
「その決意は買うけど大切な人に心配掛けてまでする事じゃ無いね。君にはまず他に彼女に言うべき事があるんじゃないかな」
ヒースクリフもロイの耳元で囁き、背中をドンと叩く。「大切な人」という言葉にロイの顔が赤く染まる。
「ぼ、僕はお父さんの行方を捜しに旅にでました。永遠にお父さんとは会えないかもしれない。でも、お父さんが探そうとしたものを僕も探したかったんだ」
長い沈黙を破り、ロイがようやく重い口を開いた。
「それで、皆さんに助けてもらって‥‥。お父さんが探そうとしてたものじゃないけど、それより大切なものを見つけることができました」
そう言ってロイはニコレを見つめた。2人の目が合った瞬間、ニコレは熱く込上げてくるものに我慢が出来ず、俯いてしまった。
ようやく繋がった2つの距離。そんな2人にアクテは「冒険者になるのでしたらキャメロットを拠点にされるのが一番かと。私達もおりますし」と言い添えた。これから2人の名声がキャメロットに響くことを願って‥‥。