●リプレイ本文
●ピクニックと小鳥の歌
ピクニックに必要な物と言えば‥‥そう、お弁当。
美しい自然の中でお弁当を広げ、会話を楽しみながら過ごす時間‥‥それは、何よりの娯楽である。
今回、ピクニックに持っていくお弁当作りをするのはカレン・ロスト(ea4358)。
ミリエーヌの屋敷で厨房を借り、慣れた手付きでお弁当を作っていく。
「私もそろそろ料理を覚えた方が良いかな‥‥」
カレンの作業を手伝いながらヴァージニア・レヴィン(ea2765)が呟く。
「あら、いい匂い。美味しそうね」
「これは、ミリエーヌ様のリクエストです」
香ばしい匂いが厨房に漂う。
焼きあがったのはシェパーズパイ。
これは、ミリエーヌからの注文である。
牛の腎臓を使うステーキ&キドニーパイはイギリスでは一般的な料理だが、ミリエーヌは好きではないらしい。
シェパーズパイは名前の通り『羊飼いのパイ』、ラム肉を盛って焼いたパイである。
給仕の話では、ミリエーヌの母の得意料理だったそうだ。
「お母様の味に敵うかどうかわかりませんが‥‥」
「大丈夫よ。とても、美味しそうだしね。お昼ごはんが楽しみだわ!」
お弁当の準備は万全。
さぁ、ピクニックに出かけよう!
*
「到着しましたね」
ペットの猫を抱いたルーシェ・アトレリア(ea0749)が目的地の周囲を見渡す。
ここは、以前に準備で来た場所‥‥あれから、景色はあまり変わっていない。
変わっていないという事は‥‥美しい景色はそのまま残っており、障害も無い。
絶好のピクニック日和という事だ。
穏やかな表情のルーシェだが‥‥心は少し曇っていた。
ピクニックに来る為に、気がかりな事を残して来たのだから‥‥。
「まぁ、折角のピクニックですから暗い顔をするわけにはいきませんし、楽しく行きましょう」
ルーシェは空を見上げた。
雲一つ無い、青々とした空。
自由に羽ばたく小鳥達。
ルーシェの心の雲は少し晴れた。
「この日の為にがんばったんだもん。思いっきり楽しまなきゃね♪」
ミリート・アーティア(ea6226)も以前、場所を確保する為に尽力した一人である。
それだけに、この日を待ちわびていた。
「待たせたな」
セオフィラス・ディラック(ea7528)が愛馬と共に到着した。
後ろにはミリエーヌが乗っている。
「あ、ミリエーヌちゃん!」
ミリートが手を振ると、ミリエーヌも笑顔で手を振って答える。
「向こうに花が咲いているようだ。行ってみるか?」
セオフィラスはミリエーヌを馬から降ろすと、彼女を抱き上げてお姫様だっこで花の咲いている場所まで移動する。
ミリエーヌはこのような経験が少ないのか、嬉しさと恥ずかしさで顔を赤くしながらセオフィラスに身を任せた。
*
景色の良い場所を選び、そこでミリエーヌを冒険者達が囲んで談笑する。
暖かい日差しと心地よいそよ風が気持ちいい。
「アリッサ・クーパーと申します。どうぞ宜しく願い致します」
アリッサ・クーパー(ea5810)が微笑み、ミリエーヌに自己紹介をする。
「こんにちは♪」
「!?」
フォーレ・ネーヴ(eb2093)はミリエーヌの声を真似て挨拶をした。
「あはは、似てる♪」
ミリートが笑う。
「驚かせちゃってごめんごめん♪ 私はフォーレ。よろしく」
謝りながらミリエーヌに手を差し出すフォーレ。
ミリエーヌは驚きながらも笑顔でその手を握り締めた。
「俺は琥龍蒼羅。このように、皆と親睦を深める事が出来れば嬉しいと思う」
琥龍蒼羅(ea1442)が挨拶を交わす。
「そうだな‥‥では、始めに俺の冒険譚でも話すとするか」
蒼羅は自分が受けた依頼について語り始めた。
彼の冒険譚はとある街の地下迷宮で起こった出来事。
そこの地下2階に出現したスライム退治の冒険について話した。
「そのような街があるのですね」
ミリエーヌも興味深く冒険譚を聞く。
「私は‥‥そうですねぇ、お化け屋敷の話でもしましょうか」
ルーシェはお化け屋敷を作る為に買った屋敷に住んでいた幽霊を説得する依頼を話した。
「他にも、孤児院でチャリティーコンサートを手伝ったり、喉を壊した吟遊詩人の代わりに全員で歌や踊りを披露したりしました」
「歌が好きなのですね‥‥あ、ルーシェさんはバードでした」
ミリエーヌがごめんなさいと謝ると、ルーシェは苦笑した。
「それでは、私は‥‥街道沿いで宿屋をやってる女の子の話をしようかな」
ヴァージニアは宿屋を営む少女、両親とお兄さんを殺した悪党の金貸しとの対決、その結末について話した。
「彼女も最初は臆病な女の子だったのだけど、頑張って私達と一緒に戦って、両親とお兄さんの仇を討って、今は立派に宿屋のおかみさんをやってるわ。お客さんに支えられながらね。仲間がいて、勇気があれば何でも出来るって事よね!」
ミリエーヌを励ますように冒険譚を語るヴァージニア。
「少し前の事ですが、村の人々を守る為にオーガと戦った方のお話でもしましょうか」
アリッサはオーガに襲われた村での出来事を話した。
「その方は、小さいながらも単身オーガと戦いオーガを追い払いました。私どもが依頼を受けて行った際にはもう亡くなられておいででしたが、とても勇敢な方でしたよ」
アリッサはゆっくりと目を閉じた。
「‥‥リッキー様という犬のお話なのですけどね」
犬‥‥その言葉に皆、驚愕した。
「犬がオーガを追い払うとは‥‥お前もそうやってご主人様を守るんだぞ」
蒼羅はカレンの連れて来た犬の頭を撫でながら、言い聞かせるように呟く。
「そうだな‥‥私からはジャパンの『餅つき』という行事をこちらでやった時の話でもしようか」
セオフィラスは新年に知人の手伝いで参加した『餅つき』について話す。
「『オモチ』ですか‥‥あちらの食材は手に入りにくいですから、一度は食べてみたいわ」
ミリエーヌもジャパンの文化と食について興味深そうに聞き入っている。
「しかし、かの国の女性の晴れ着はとても華麗で優美だ‥‥」
その時の事を振り返るセオフィラス。
「私はちょっと変な感じの依頼についてだよ☆」
ミリートはある貴族から受けた「特産品の輸送護衛」について話した。
「何でも、その特産品を狙って盗賊が出るんで困ってたみたいだったんだけど‥‥」
ミリートの表情は今、思い出してもびっくりするという顔だ。
「‥‥その特産品を狙う盗賊って、レースなドレス姿の男の盗賊だったの。で、特産品は女性用衣服だったなんてね‥‥盗賊はやっつけて無事に荷物はお届けしたんだけど‥‥あれだけびっくりしたのはそうないや」
あはは、と苦笑するミリート。
ミリエーヌも何とも言えないという表情で笑っている。
「皆様、いろいろな冒険をされているのですね。私が受けてきた依頼は悲しい結果を生んできたものばかり‥‥ですから、私からのお話は無しでお願いします」
皆が語る冒険譚を真剣に、時に楽しく聞いていたカレンは場の空気に合わせて辞退した。
「それじゃあ、歌と演奏でもしよっか!」
冒険譚を語り終えた冒険者達。
ミリートは元気に提案した。
「そうですね。音楽が好きな方が多いですから、楽しく歌って演奏したいわ」
「これだけ、上手な方が揃ったのですもの。明るい感じの歌をお聞かせしたいと思います」
ヴァージニアとルーシェも準備を整える。
「天気も良いし、太陽の下での演奏だから明るい楽しい曲をね!」
ヴァージニアが竪琴でメロディーを奏でる。
それに合わせて、蒼羅も演奏した。
ルーシェとミリートの明るい歌が平原に響く。
聞いているだけで、勝手に体が動いてしまう。
そんな、明るくて楽しい歌と演奏。
曲の合間にヴァージニアはアドリブで小鳥のさえずりのような歌い方を挿入する。
「可愛い♪」
ミリエーヌも気に入ってくれたようだ。
「それでは、自作の曲を披露してみたい‥‥『永久(とこしえ)なる川の流れ』‥‥清聴願う」
蒼羅は最後に自作の曲を披露した。
絶えることの無い川をイメージした静かに流れるような曲。
その雄大な自然をイメージした曲に皆、耳を傾ける。
「川の流れは絶える事無く、同じ姿で其処に在り続ける‥‥清聴、感謝する」
演奏が終わると同時に大きな拍手が沸き起こった。
*
歌と演奏が終わると、次はやはり食事。
カレンが作ってきたお弁当を広げて食事を楽しむ。
ピクニックで一番楽しみな事でもある。
「わぁ! お母様の味と同じ! おいしいです!」
シェパーズパイを頬張るミリエーヌ。
お弁当はどれもおいしかったようだ。
「それじゃあ、簡単な手品でもするよ。成功したらご喝采ぃ〜♪」
フォーレは銀の髪留めを取り出した。
それを左手に持ち、右手に移動させる簡単な手品を披露する。
「すご〜い!」
ミリエーヌはその簡単な手品にも感動した。
続けてフォーレはミリエーヌに近寄り、銀の髪留めを隠してそれを彼女のポケットへ入れようとした。
「さて。最初は手から手の移動だったけど、次は何処に移動してるでしょう?」
「えぇと‥‥ここに落ちているのは‥‥」
「あらら!?」
ちょっと、この技は難しかったようだ。
手からミリエーヌの服のポケットに移動して、それを彼女自身に取って貰うと言うのを考えていたのだが。
「まぁ、失敗しちゃったけど、これはプレゼントだよ」
フォーレは銀の髪留めをミリエーヌに手渡した。
「わぁ、ありがとう! 大事にするね!」
ミリエーヌは銀の髪留めと一緒にフォーレの手を強く握り締めた。
食事も済み、冒険者達は暖かい日差しの中、雑談をしたり、ペットと戯れたりしていた。
「この子は私から見れば、この子との記憶は一時のようなもの‥‥短くとも‥‥とても愛しく、大切なパートナーです。人懐っこく、頭も良いのですが‥‥まだ子供で少し元気すぎる所があります」
カレンはペットのボーダーコリーをミリエーヌに紹介していた。
「だからでしょうか? なかなか良い名前が決まらなくって‥‥まだ小さい内に決めてあげたいのですが‥‥ミリエーヌ様に名付け親になって頂けないでしょうか?」
ミリエーヌはカレンの願いを聞き、悩んだ末に答えた。
「私は名付け親にはなる事は出来ません。もし、自分に子供が出来たら他の人に名前を付けてもらおうとは思わないですし‥‥やはり、カレンさんがこの子に名前を付けてあげて可愛がって欲しい‥‥そう思います」
ミリエーヌはボーダーコリーを撫でながら申し訳なさそうに言った。
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
時は夕暮れ。
ピクニック終了の時間だ。
「あのね、ミリエーヌちゃん」
帰り際、ミリートがミリエーヌに言う。
「来月、月道を使ってジャパンに行くつもりなの。色々見てみたくてね♪」
「えっ! ジャパンに行っちゃうの!」
「あっ、大丈夫だよ、ちゃんと帰ってくるから。その時、また一緒に遊ぼっ♪」
「あ‥‥よかった‥‥少しの間、離れ離れになるのね‥‥帰って来た時は楽しいお話待ってるわ!」
「うん! あっちでのお話、いっぱい聞かせてあげるからねっ!」
そう言うと、ミリートはミリエーヌを抱き寄せた。