ちょっとゴブリンを退治してきてくれない?
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 64 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月08日〜08月13日
リプレイ公開日:2005年08月18日
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●オープニング
「ねぇ? ちょっとゴブリンを退治してきてくれない?」
冒険者ギルドで依頼を探していた君に受付嬢が声を掛けた。
「まぁ、ただのゴブリン退治の依頼だから、サクッっと倒してきて報酬ゲットよ♪」
調子のいい受付嬢の言葉に誘われ‥‥あるいは騙されて‥‥この依頼に興味を持った君は依頼書を確認した。
依頼書によると、キャメロットから2日ばかり歩いた距離にある村で数匹のゴブリンが暴れているという。
依頼はこの村からで、暴れているゴブリンを退治して欲しいというもの。
なるほど、全く裏のない『ただのゴブリン退治の依頼』だ。
報酬の他に、食事等の面倒も見てくれるというから、冒険者にとってみれば比較的都合のいい依頼である。
ゴブリン退治といえば、冒険者であれば一度は経験する依頼である。
それ程数が多い依頼であり、経験を積むには最適だと言えるのだ。
ゴブリンは、同じ数なら駆け出しの冒険者パーティーでも余裕で勝てる程の弱いモンスターだ。
しかし、依頼が多いということは、ゴブリンの数も多いという事。
実際、冒険者が戦うのはパーティーの数よりも多い場合が殆どだろう。
だが、今回の依頼では『ゴブリンは4匹程です』と書かれてある。
この文を見て君は思った。
(「ただのゴブリンじゃないヤツが含まれている」)
普通のゴブリンでこの程度の数なら、受付嬢は駆け出しの冒険者に声を掛けただろう。
そう。
君は何度か冒険をこなしてきた『駆け出しから卒業した冒険者』だ。
つまり、それに相応しい相手だと予想される。
ゴブリンも冒険者と同じく、戦いの中で成長していく。
殆どのゴブリンは冒険者の手によって倒されてくのだが、その中でも生き延びて強くなるゴブリンもいる。
そのようなゴブリンは『ゴブリン戦士』と呼ばれ、冒険者にとっては強敵となりうるのだ。
しかし、君もそれくらいの経験は積んでいるだろう?
同じ依頼を受ける心強い仲間もいるではないか。
大丈夫だ。
『ただのゴブリン退治の依頼』である。
さぁ、冒険に出発だ!
‥‥しかし、この依頼にはただ一つ懸念材料がある。
「よーし! ゴブリン退治だ! がんばるぞっ!」
この依頼を受けた仲間に、やけに元気なシフールがいた。
装備から推測するとレンジャーだろうか?
このシフールの名前はピックル・リックル(ez1020)。
噂では、この冒険者が受けた依頼は必ず失敗するという。
‥‥さて、この問題児をどうするか。
この依頼の成否は彼次第である‥‥。
●リプレイ本文
●ちょっとゴブリンを退治してきてくれない?
「よ〜し! ゴブリン退治に出発だ! がんばるぞぉ!」
陽気なシフールの声が響き渡る。
その声の主はピックル・リックル(ez1020)。
一部の冒険者の中では、彼と一緒だと依頼が必ず失敗するという悪名高き冒険者である。
「今回はただのゴブリン退治なんだよね〜。でも、何か訳有りらしいんだけど〜」
気合十分なピックルの顔を、同じシフールであるゼファン・トゥムル(ea1556)が覗き込んだ。
「な、何だよぉ!」
「例の『アレ』と一緒に作戦実行するのか〜、大丈夫かな〜」
「『アレ』って言うなよぉ! うわぁ〜ん!」
ピックルもみんなに迷惑を掛けないように自分なりに頑張っている‥‥が、やはり問題児と思われているようだ。
「主が問題児か否かは、成すべき事を成すかどうか。ただ、それだけの事だ」
明王院浄炎(eb2373)が泣きっ面のピックルに厳しく、しかし、その中に彼を思う温かさを含んだ言葉で諭す。
「悪評を打ち消す気があるのならば、まずはこの依頼から成すべき事を成していけばよかろう‥‥どうやら、護るべき者もいるらしいからな」
「わぁ!」
そう言うと、浄炎はピックルの頭を撫で回した。
「そうそう、汚名は少しずつ返上していけばいいと思うよ。でも、無理してまた怪我したりしちゃダメだよ」
常に前向きに物事を考えるユフィ・コーネリア(ea3974)もピックルを励ます。
「何事も‥‥過ぎたるは及ばざるが如し‥‥がんばりすぎてはいけません。余裕を持っていないと‥‥もっとも、余裕と油断、自信と過信は紙一重ですけれどね‥‥」
セレニウム・ムーングロウ(ea2153)も優しくピックルに語る。
「‥‥まぁ‥‥ピックル殿には色々と評判はあるようですが‥‥」
長寿院文淳(eb0711)が冷静な口調で呟いた。
「‥‥この依頼で‥‥その評判がいい意味のものに変われば‥‥行動を共にした者としては‥‥嬉しいですから‥‥そうなる様‥‥互いに頑張りましょう‥‥」
文淳はピックルに微笑んだ。
優しき冒険者に支えられ、ピックルは依頼成功‥‥そして、名誉挽回を心の中で誓った。
*
村に到着した冒険者達は、始めに情報収集を行った。
ゴブリンはどの辺りに出没するのか、よく狙われる場所は‥‥状況を把握する事で対策がしやすくなる。
「ピックル君もレンジャーなら、これくらいの事は基本中の基本だから出来るよね?」
ユフィはゴブリンがよく現れるという畑の近くに罠を仕掛けていた。
畑に通ずる道端の木の枝を紐で縛り、ゴブリンがそこを通ると切断。
しならせた枝が戻る時の勢いを利用して鞭のような効果を狙うというもの。
これなら、ピックルでも出来そうである。
「ゴブリンだけなら嫌になる程、沢山退治した事はあるから、結構慣れたものかな? でも、ゴブリン戦士がいるそうだし、油断は出来ないよね」
その近くの木でダーツの練習をしているのはレイエス・サーク(eb1811)。
近くでは愛犬である柴犬の「シバ」とボーダーコリーの「ボコ」が走り回っている。
彼は『百鬼狩りの狩人』の名の如く、ゴブリンの大群と戦い、それを殲滅した事がある。
だが、今回は『量』ではなく『質』。
実力的には冒険者達と互角と予想されるゴブリン戦士が含まれている。
油断は出来ない。
「ゴブリン戦士だか‥‥確かに油断は出来ねぇだ」
チャグ・カン(eb2016)も哨戒を兼ね、彼らの近くで剣の素振りをしていた。
実を言うと、チャグはモンスターと戦った事が無い。
今まで武闘大会に出場して、その腕を磨いてきた。
その経験がモンスター相手に通用するかどうか‥‥それは、戦ってみなければわからない。
その頃、村ではヴィクトリア・フォン(eb1055)が外に出ないように住人へ注意を呼びかけていた。
「これ以上、問題が増えると大変じゃ。ピックルだけでも荷が重いというのにのぉ」
ヴィクトリアは空を見上げた。
「さてと、そろそろ準備でもするかの」
*
「‥‥天候が悪くなってきましたね‥‥」
「雨雲か‥‥戦いに影響が無ければいいけどね」
空を見渡す文淳が呟くと、レイエスは風読みで天候を予想する。
「えぇと〜、ウチは『アレ』と一緒に撹乱役をするんだね〜。ウチの踊りで注意を引くっていうのもいいかな〜」
全体の作戦を確認している中、ピックルの前でゼファンが華麗なダンスを踊る。
「まだ『アレ』って‥‥シクシク」
嘆きつつも、ナイフを持って準備を整えるピックルに浄炎が声を掛ける。
「どうやら、自身の能力に合わぬ戦術を取っているように見受けられる。今まで突撃主体の戦術をしていたようだが、それでは持ち味である素早さを生かしきれぬのではないか?」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「素早さを生かすのであれば、一撃離脱の戦い方に変えた方がいいと思うのだがな。信頼出来る仲間がいるのであれば、素早さを生かして回避に専念しつつ、敵を撹乱する。それも1つの戦法だと思うぞ」
浄炎はピックルへ助言した。
「そうですね、ピックルくん達には攻撃が届かないようにゴブリン戦士の頭上を飛び回ってもらい、敵の集中力を削いでもらいます‥‥敵を引きつけるのが目的ですから、むやみに攻撃しないでください‥‥」
「は、はい‥‥」
セレニウムがピックルに作戦を指示する。
「シフール最大の特徴は、その機動力よ。それを生かして頑張ろうね」
ユフィがピックルの肩をポンと叩いた。
ピックルも「うん!」と力強く返事する。
「何なら、邪魔にならないところで追いかけっこしていても良いですよ‥‥」
「追いかけっこって何だよぉ!」
「冗談です‥‥でも、重要な役目ですから頑張って下さいね」
ピックルの「はいっ!」と言う返事で作戦会議は終了。
後はゴブリンが出現するのを待つのみだ。
*
4匹のゴブリンが現れたのは夕方過ぎであった。
空は雨雲で覆われ、周囲はやや薄暗い。
「こいつがゴブリン戦士だか‥‥」
チャグの視線はゴブリン戦士に向けられていた。
目標は容易に識別できる。
ゴブリン戦士はフレイルと鎧で武装しているのに対し、他のゴブリンは粗末な斧を手にしているだけだからだ。
「よいか? ピックルとやら、動きが止まったらお主も攻撃に参加してよいぞ。そうでなければやめておくことじゃ。年寄りの言うことは聞くもんじゃぞ?」
「は〜い」
ヴィクトリアがピックルへ指示を出す。
「ピックル君、よ〜く引き付けてから狙ってね」
ユフィは仕掛けた罠でゴブリン達を狙っていた。
ゆっくりと近づいてくるゴブリン達。
「射程圏内に入ったわよ!」
ユフィがナイフを仕掛けた罠の紐を狙って投げつけた。
ナイフは見事に紐を切断し、しなった枝がゴブリン達へ襲い掛かる。
ダメージは少ないものの、意表を突かれたゴブリンは動きを止めた。
「‥‥では、私達がゴブリンを相手します‥‥ピックル殿達はゴブリン戦士をお願いします‥‥」
文淳の言葉を受けて、ゼファンとピックルのシフール撹乱部隊が飛び出した。
「ただ、闇雲に突っ込んでいけば良いってモンじゃないんだよ〜? わかった〜?」
「わかったよぉ〜」
ゼファンがピックルに無茶をしないように釘を刺す。
「じゃぁ、いざ決戦だ〜!」
ゴブリン達を振り切り、2人はゴブリン戦士へ近づいた。
同時にチャグもゴブリン戦士へ向かい、文淳と浄炎が3匹のゴブリンの中に飛び込む。
レイエスはピックルの援護へ当たった。
「後が詰まっているのでな、早々に片を付けさせてもらうぞ!」
鍛えられた拳にオーラパワーを込め、力強い踏み込みで目の前のゴブリンに突きを放つ。
十二形意拳・丑の奥義「牛角拳」。
その強烈な突きはゴブリンを吹き飛ばすには十分なものだった。
「‥‥手は出させません‥‥」
文淳はトリッピングでゴブリンを転倒させたり、ディザームで武器の斧を叩き落したりと、トリッキーな技の連続でゴブリンに攻撃する隙を与えない。
そこへ、ユフィの放った矢やセレニウムの唱えたウインドスラッシュが命中し、体力を奪っていく。
「一度、これをやってみたかったのじゃ」
ヴィクトリアは微笑と共にスクロールを取り出した。
「天空より出でよ稲妻‥‥ヘブンリィライトニング!」
スクロールを広げてヴィクトリアが念じると、轟音と共に上空から稲妻がゴブリン目掛けて落ちる。
「ほほぉ‥‥予想よりすごいもんじゃの」
条件は厳しいが、その魔法の威力はなかなかのものである。
落雷に撃たれたゴブリンは痙攣し、そのまま動かなくなった。
「こっちだべ。俺が相手になるだよ」
仲間が戦っている間に、チャグがゴブリン戦士へ切り掛かっていた。
2人のシフールが撹乱している間にゴブリンとゴブリン戦士は引き離されていた。
「さてと、どれくらいの実力だべ」
実力はあるがモンスターと戦った事の無いチャグ。
競技ではない、常に死と隣り合わせの状況で戦い抜いてきたゴブリン戦士。
戦いは互角であった。
「わ〜! 頑張って!」
ピックルがチャグを応援する。
だが、それが極めて危険な行為だと言う事をピックルは知らない。
その隙を突いてゴブリン戦士のフレイルがピックルを襲う。
「危ない!」
間一髪の所でレイエスの放ったダーツが命中し、ピックルは辛くもフレイルを避ける事が出来た。
「油断するではないだよ!」
チャグの怒声と共にロングソードがゴブリン戦士の頭に振り下ろされる。
その一撃が致命傷となり、ゴブリン戦士は倒れた。
その周りでは信頼すべき仲間達が3匹のゴブリンを仕留めていた。
*
「残念だけど‥‥このままじゃ、まだ問題児のままだよね」
「うぅぅ‥‥ごめんなさい」
レイエスがピックルへ厳しく言い放つ。
戦いの中で隙を見せる事が如何に危険な事か‥‥。
それが、死に至る最も大きな要素であるのだ。
「成る程‥‥何故、ピックル君が依頼に失敗してきたのか、原因がわかったような気がします‥‥」
セレニウムが泣きじゃくるピックルを見て呟く。
「‥‥無事だったからよかったのですが‥‥今回の件を反省して、次に繋げて下さい‥‥」
文淳がピックルの頭を優しく撫でる。
やはり問題はあったものの、依頼は成功である。
失敗は成長の糧。
失敗をしても、繰り返さぬよう努力する事が大切なのだ。
失敗の無い人間なんていない。
どんな名将だろうと失敗する事はある。
ただ、その失敗を反省し、次に生かす事が出来るかどうか。
それが勇者と愚者の違いだ。
彼でも勇者になれる‥‥だろうか?