墓荒し

■ショートシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月11日〜08月16日

リプレイ公開日:2005年08月20日

●オープニング

 日が沈み、暗闇と静寂が訪れた村の共同墓地。
 村で靴屋を営む青年・アンユは、今は無き父親の墓参りに来ていた。
 最近は仕事が忙しく、店を閉めてからでないと来ることが出来ない。
 アンユは右手に花束を、左手にランタンを持ち、父親の眠る墓へ向かった。
『夜の墓場には悪魔が現れる』
 そういう噂が村で流れていた。
 でも、アンユはそんな噂は信じていない。
 だった、いつも自分は夜に墓参りをしているのだから。
 今まで何度も夜の墓場に来ているが、悪魔がいるのならすでに自分は魂を抜かれているだろう?
 だが、その噂を信じざるを得ない出来事がアンユの目の前で起こった。

 ガサガサガサ‥‥

 何かが這いずるような音が聞こえる。
「な、何だろう‥‥」
 音がする方向へランタンを向ける。
 恐る恐る音がする場所へ近づいていく。
「こ、これは‥‥」
 そこには、墓から掘り出された遺体があった。
 しかも、原型を留めていないくらい遺体は滅茶苦茶になっていた。

 ガサガサガサ‥‥
 
「わ、わ‥‥」
 アンユは声を失った。
 彼の目に映ったのは、墓から遺体を引きずり出し、それを喰らう悪魔だった‥‥。
 アンリは手にした花束を地面に落とし、恐怖で覚束ない足取りで村へ逃げ帰った。

 その忌々しい出来事は村人達を震撼させた。
 安らかに眠る村人の遺体。
 その墓を荒し、遺体を食い荒らすという存在が出現したという。
 この邪悪な存在を倒して欲しい。

●今回の参加者

 ea4909 アリオス・セディオン(33歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea5892 エルドリエル・エヴァンス(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5898 アルテス・リアレイ(17歳・♂・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 ea7263 シェリル・シンクレア(21歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7422 ハインリヒ・ザクセン(36歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7850 ヨシュア・グリッペンベルグ(40歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea9244 ピノ・ノワール(31歳・♂・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb2435 ヴァレリア・ロスフィールド(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●墓荒し

 グールが現れたと言う村に到着した冒険者達を、村人は歓喜の声を上げて向かい入れた。
「こんなに歓迎されるなんて、ちょっと恥ずかしいです〜♪」
 その歓迎の様子に少々驚いた様子のシェリル・シンクレア(ea7263)。
 彼女は改めて仲間達を見た。
 神聖騎士が4人、クレリックが2人、ウィザードが2人。
 まさに、今回の依頼に最適なメンバーではないか。
 それだけに、村人達の期待も大きいのだ。
「ジーザス教の神聖騎士が来たからには、グールごとき直ぐに解決です」
 クルスソードを空に掲げてハインリヒ・ザクセン(ea7422)が宣言すると、さらに村人達の歓声は大きくなる。
「死者の安らかな眠りを妨げんとするその行為、神に仕える者として断じて許す訳にはいきません。偉大なる主に代わりて、使徒たるこのヴァレリアが、あるべき場所へ帰して差し上げましょう」
 そして、ヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)が祈りを捧げた。
 大きな村人の期待と信頼‥‥これを裏切る訳にはいかない。
 ヴァレリアは心の中で、必ずグールを浄化する事を誓う。

「相手はグールっと。初めて見る相手ね。ズゥンビと同じように見えるらしいけど、どんなのかしら」
 エルドリエル・エヴァンス(ea5892)が仲間にグールの事について尋ねる。
「グールですか。ズゥンビよりも格段に動きが素早く、耐久力もあるはず。強力な攻撃を続けないと倒すのは難しいでしょう」
 エルドリエルの問いにピノ・ノワール(ea9244)が詳しく説明した。
 外見はズゥンビによく似ているが、そう思って油断していると牙の餌食になる。
「流石に強敵のようだな‥‥しかし、何故この時期にグールが‥‥」
 アリオス・セディオン(ea4909)が苦い表情をした。
「だが、やれるだけの事はやるさ」
「そうですね。グールは夜に現れるそうですから、昼の間に情報収集でもしましょう」
「俺はあまり言葉が得意では無いから‥‥頼んだ」
 アリオスは戦いに集中する為、アルテス・リアレイ(ea5898)達に情報収集は任せる事にした。

 昼間は情報収集や墓場の確認が行われた。
「この辺りでグールが目撃されているようだ」
 村で聞き込みをしていたヨシュア・グリッペンベルグ(ea7850)は、仲間にグールが目撃された位置を説明する。
 ヨシュアの予測通り、荒されているのは比較的新しい墓であった。
「グールは単体でしか目撃されていないようですね」
「目撃した人は、その恐怖から正確な事を覚えている事は少ないでしょう。そのグールが全て同じとは限りませんし、油断は出来ないです」
 アルテスが墓場の位置を確認しつつ、自分が仕入れた情報を仲間に伝えると、ピノが冷静に情報を分析する。
「それにしても、死者を貪り食うとは‥‥死者への冒涜をする存在は、このピノが許さぬ‥‥」
 荒らされた墓を見てピノは怒りを覚えた。
「狙うのは比較的新しい死体という事ですから、その周辺を中心に調査すれば発見は容易かもしれません」
 ヴァレリアは墓場の地理を調べ、墓守から新しい墓の場所を聞き出してグールが出現しそうなポイントを調べていく。
 全員が墓の地理を理解する事で、暗くても位置を把握する事ができ、思わぬ襲撃等を事前に回避できるかもしれないのだ。
「それにしても暑いですね〜。このまま歩いていたら倒れてしまいそうです〜」
 その頃、シェリルは木陰から墓場の様子を眺めていた。

 *

 夜。
 村人達が寝静まった頃。
 冒険者達は村から借りた離れの小屋で作戦を話し合った。
 昼間に集めた情報、自分達が知り得るグールについての知識、墓場の地理。
 これらを全て共有する事で対策となり、手段となり、武器となる。
「出没が予想される地点はこの周辺だ。比較的新しい墓が多く、目撃例も数例ある」
 昼に調査された墓場の位置を簡単に書き出しながらヨシュアが説明する。
「この辺りね。周囲には特に視界の妨げになるような物は無いから、警戒をしっかりすれば大丈夫そうね。でも、油断は禁物よ」
「そうですね」
 エルドリエルの言葉に頷くアルテス。
「もし、複数のグールがいた場合、1体ずつ確実に倒していくことが大事です。下手に戦力を分散させると、相手の耐久力に敵わない可能性があります」
 ヴァレリアは目標が複数の場合、1体ずつ各個撃破していく事を確認した。
「そうだな。兎に角、数を減らすのが先決だ。2体なら俺とハインリヒで受け止め、その間に集中攻撃。それ以上だと‥‥」
「その時はわたくしが前に出て戦います」
「大丈夫か‥‥」
「わたくしも神に仕える騎士です。心配は要りません」
 アリオスの心配はヴァレリアの強い意志によってかき消された。

 夜の墓場。
 そこにあるのは静寂のみ。
 冒険者達は死者の眠りを妨げる悪しき異形を倒すために、この墓場へと足を踏み入れた。
「この辺りですね」
 ピノが周囲を確認した。
「そうだな。前方は異常無し」
「後方も大丈夫だ」
 ハインリヒとヨシュアが状況を報告する。
「足元も注意してね。突然、下から現れる事も考えられるから」
 ランタンを手にしたエルドリエルが注意を促す。
「捜索の前に少し時間をくれ」
 そう言うと、アリオスが石を取り出し、それを地面に置いて祈りを捧げ始めた。
 これは『道返の石』。
 寺社でお祓いをされた聖なる石で、祈りを捧げる事によって周囲に結界を張る事ができる。
 この結界の中ではアンデッドの力が弱まるのだ。
「よし、準備は整った」
 アリオスは祈りが終わると、剣を手にした。
「捜索を続けよう」
 ヨシュアが言ったその時だった。

 ――ギシャァァァァァァァ!!!

「お出ましのようですね」
 ピノの目に映ったのは、口に多数の牙を生やした異形の姿。
 前方より予想以上の速さでこちらに向かっている。
「来たか‥‥だが、こちらが何もしていない訳ではないぞ!」
 アリオスの手には『道返の石』がある。
 グールは結界に入った途端、その動きが遅くなった。
 戦闘に入るまでに、アリオスはレジストデビルを唱え、他の冒険者達も準備・詠唱をする。
「敵は1体だけですね〜。遠くにいる間に魔法で攻撃しましょう」
「わかったわ!」
「邪悪な存在よ‥‥消えよ!」
 シェリルがウインドスラッシュを、エルドリエルがウォーターボムを、ピノがブラックホーリーを唱える。
 しかし、シェリルの詠唱は失敗。
 エルドリエルとピノが放った専門ランクでの魔法も効いているのかどうか全くわからない。
「予想以上に硬そうね。痛みを感じないって言うし、コツコツとやっていくわ」
 エルドリエルは再びウォーターボムの詠唱に入った。
「墓を荒らすグールとは貴様か‥‥」
 ハインリヒもグールに対して魔法を唱えていた。
「ジーザス教の名の下、悪しき者は滅せよ。ホーリー!!」
 冒険者達の魔法攻撃を受けながらも、グールは全く無傷かのように襲い掛かってくる。

 ――ギシャァァァァァァァ!!!

「やはり、強敵のようだな」
 グールはアリオス目掛けて飛び掛り、不気味に生え並んだ牙で喰いちぎろうとした。
 だが‥‥

 ――ガキィィィィン!!!

 アリオスが突き出した盾がグールの顔面に直撃する。
 同時に何本もの牙が折れ、唾液なのか血なのかわからない液体が飛び散った。
「射程に入りました‥‥その身を呪縛せよ‥‥コアギュレイト!」
 ヴァレリアがコアギュレイトを唱え、グールの動きを拘束しようとする。
 しかし、魔法は発動せず、グールは暴れ狂ったままだ。
「1体だけのようだから問題は無い」
「邪悪なるその身を浄化せよ‥‥ピュアリファイ!」
 ヨシュアとアルテスはピュアリファイで攻撃。
「墓と言う神聖な場所に貴様の様な存在する価値も無い者が進入するだけでも赦し難き所業なのに、墓を荒らし、死者の眠りを妨げ、あまつさへ食し辱める耐え難き屈辱の数々‥‥貴様は‥‥」
 ハインリヒがクルスソードを手に暴れるグールに切り掛かる。
「ジーザス教の名の下に存在を滅殺してくれる!」
 渾身の一撃をグールの頭目掛けて叩き付けた。
 頭が割れようともグールには何の痛みは無いのはわかっている。
 その悪しき行為と存在に対してのハインリヒの怒りなのだ。
「では、この剣に耐え切れるかな」
 アリオスはグールに剣を突き刺した。
 これは『鎮魂剣「フューナラル」アンデッドスレイヤー』。
 その名の通り、アンデッドに対して極めて効果が高い。
 前衛の攻撃で徐々にグールはその動きが弱くなっていった。
 そして、再び唱えられたヴァレリアのコアギュレイトが発動し、グールはその動きを拘束された。
 後は完全に動かなくなるまで魔法、そして、攻撃。
 だが、動かなくなるまでかなりの攻撃を叩き付けなければならなかった。
 最後はアルテスとヨシュアのピュアリファイでグールは浄化されたが、もしグールが複数いたとすると‥‥冒険者達は怖気を感じた。

 *

 冒険者達が目覚めたのは昼過ぎだった。
 それだけ、戦いの疲労が大きかった。
 でも、まだやるべき事はある。
 冒険者達は荒らされた墓やグールの犠牲となった遺体を修復し、供養を行った。
 そして、慰霊の儀を執り行い、死者達が安らかに眠れるよう祈りを捧げる。
 2度と同じ惨事が起きぬ様、願いを込めて‥‥。