血から生まれた紅い薔薇

■ショートシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月02日〜09月07日

リプレイ公開日:2005年09月13日

●オープニング

 ある村での話だ。

 村の離れに紅い野薔薇が咲く丘がある。
 この野薔薇が咲く頃になると、村人達は誰もこの丘には近づかない。
 それは、野薔薇と共に幽霊が現れるという噂があるからだ。

 村の長老によれば、昔は野薔薇など生息はしていなかったそうだ。
 昔‥‥と言っても、50年前の話になる。


 ――昔々‥‥
 ある村にレジーナという娘がいました。
 この娘は心優しく、人を疑うという事を知りません。
 その性格から村では大変人気があったようです。
 レジーナには好きな男がいました。
 鍛冶屋の息子のデニーです。
 でも、一途な片思いでした。
 この思いにデニーは気づいていません。
 何度、恋文を渡そうとしても、恥ずかしくて出来ませんでした。
 その事を知ったレジーナのお友達のメネアがこう言います。
「私がデニーに渡してあげる」
 レジーナは喜びました。
 そして、良い返事が返ってくる事を祈りました。
 しかし、何日待っても返事は来ませんでした。
 ある日。
 レジーナは衝撃的な光景を目の当たりにしました。
 何と、デニーとメネアが仲良く一緒に歩いているではありませんか!
「あら、ごめんなさい。デニーは私の事が好きだったみたい」
 メネアがデニーと付き合っている‥‥。
 レジーナは悲しくなりました。
 そして、レジーナは村の離れの丘に走って行きました。
 小さい頃、デニーとよく一緒に遊んだ丘。
 彼女にとって、大切な思い出の場所です。
 レジーナは大きな声を上げて泣きました。
 その涙を象徴するかのように、雨が降ってきました。
 雨は彼女の鳴き声を掻き消すかのように、強く、激しく振りました。
 レジーナはずっと、ずっと、泣き続けました。
 涙が血に変わるまで‥‥。
 次の日。
 レジーナが発見された時は既に体は冷たくなっていました。

 その後。
 レジーナが倒れていた場所から紅い野薔薇が咲いたそうです。
 村人はこの野薔薇を「レジーナの血から生まれた不吉な薔薇」として忌み嫌いました。
 現在では「恋敵を消すおまじない」にこの野薔薇を使うと良い、という噂もあるそうです。


「‥‥実はの‥‥」
 この話をした長老が静かに口を開く。
「わしの名はデニー。嘘と思うかもしれんが、この話のデニーじゃ」
 長老は長く伸びた髭を触りながら、ゆっくりと話を続けた。
「妻であったメネアが死んで、彼女の日記を見た時、初めてこの事を知ったのじゃ。メネアがレジーナを騙していたとは‥‥しかも、それが原因で命を落としたとはのぅ‥‥そんな事を知らず、よく50年も生きていたものじゃ」
 長老‥‥いや、デニーは表情を曇らせた。
「そろそろ、この野薔薇が咲く頃じゃ。レジーナの魂を慰める為に、この丘に行きたいのじゃが‥‥最近、この丘に近づいた者が殺される事件が起きておる。村人はレジーナの霊が殺したと言っておるが、絶対にそんな事はない。レジーナがそんな事をする筈はないのじゃ。これ以上、彼女の名誉を傷つけぬ為にも‥‥犯人を倒して欲しいのじゃ」

●今回の参加者

 ea1303 マルティナ・ジェルジンスク(21歳・♀・レンジャー・シフール・フランク王国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2153 セレニウム・ムーングロウ(32歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8773 ケヴィン・グレイヴ(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2275 オスカー・モーゼニア(37歳・♀・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

●血から生まれた紅い薔薇

 冒険者達は2つの班に分かれて村の離れにあるという丘を目指した。
 距離的にはそれ程遠くは無い。
 だが、目的地に到着するまで思ったより時間を要した。
「今のところ‥‥反応はありません‥‥」
 セレニウム・ムーングロウ(ea2153)は、ブレスセンサーで周囲に反応するものがいないか調べていた。
 冒険者が村で調べた結果、殺された人々の遺体には剣による切り傷が存在し、さらに、死因は毒によるものと判明。
 村で噂になっている幽霊の仕業‥‥だとすれば、不自然である。
「幽霊が毒を使う訳は無いですね‥‥」
 セレニウムが考えている通り、幽霊が丘に近づいた者を殺したとは考えにくい。
 つまり、何者かが毒を使って丘に近づく者を殺したのだ。
「一体、誰が何の為にこんな事をするのでしょう‥‥」
 マルティナ・ジェルジンスク(ea1303)は頻りに周囲を見渡し、襲撃を警戒する。
 相手が毒を使うとなると、やはり慎重にならざるを得ない。
 時間が掛かるのも当然だった。
「ここがあの場所か」
 オスカー・モーゼニア(eb2275)の視界に紅い野薔薇が映る。
 50年も昔に起こった惨劇の場所。
「ここで、レジーナさんが‥‥」
 マルティナが野薔薇の近くに降り立ち、その紅き花弁にそっと触れた。
 涙のように露がほろりと落ちる。


 もう一方の班も調査を開始していた。
「近くに真新しい足跡を発見した。恐らく、この周辺に何者かが存在する」
 先行して丘に侵入していたケヴィン・グレイヴ(ea8773)が状況を仲間に伝える。
「反応がありました。西の方向に4個の呼吸があります。人とほぼ同じ大きさ‥‥人間かモンスターかは不明です」
 ベアータ・レジーネス(eb1422)もブレスセンサーで周囲に呼吸反応がないか調べていた。
 その結果、やはり何者かがこの丘にいる事が判明。
「犯人が人間なら、丘に大切なものがあって近づく者を排除したと推測できますが、毒と剣を使うモンスター‥‥例えば、コボルトなどの場合は近くに巣があるから排除しに来た可能性が考えられます。どちらにしても、穏やかな話じゃないですけどね」
 ベアータはモンスターの巣が近くにあるのではないかと推測していた。
「毒を使うらしいですから、飛び道具等にも気をつけないとですね」
 盾を構え、仲間を守るように位置しているのは倉城響(ea1466)。
「人間だろうが、モンスターだろうが‥‥この騒ぎに乗じて何かを企んでいるに違いない。それを暴けば、こんなくだらん事件は終わりだ。可及的速やかに片付けるぞ」
「無理はしないでくださいね」
 ケヴィンはダーツを取り出し、臨戦態勢を取った。
 響は相変わらずおっとりとした口調で話しつつも、周囲の警戒を怠らない。
「近づいてきます‥‥」
 ベアータの声が震えた。
 ターゲットはゆっくりと3人の方向へ向かってきている。
「来たか」


 その頃。
 セレニウムは異変を感じ取っていた。
「近くに複数の呼吸反応が‥‥しかも、かなり乱れています‥‥」
 激しい金属がぶつかり合う音が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
「な、何があったのでしょう!」
 マルティナが音が聞こえた方向へ素早く飛んでいく。
 彼女の目に映ったのは‥‥。
「ケヴィンさん達がコボルトに襲われています!」
「何! 早く合流しなくては!」
 オスカーも駆け出した。
 やや傾斜な地面を駆け下り、レイピアを引き抜いてターゲットへ向かっていく。
 コボルトは4匹。
 普通のコボルトよりも体格が良い。
 恐らくは戦士クラスのコボルトだろう。
「無事か!」
 オスカー達が到着した頃には、すでに戦闘が始まっていた。
 だが、コボルトの攻撃はすべて響が捌いており、怪我は無いようだ。
「大丈夫ですよ。この程度の太刀筋なら見切れます」
 響はコボルト戦士の攻撃を盾で受け、防ぎきれない攻撃は紙一重の差で避けた。
「モーゼニア家の名に懸けてお前達を倒す!」
 華麗な戦いをモットーとしているオスカーは、レイピアで魅せる戦いを披露。
「えいっ!」
 マルティナは素早さを生かしてチャージングを決め、コボルト戦士を翻弄していく。
「コボルト程度にやられる訳は無い」
 全身が鱗で被われているコボルト戦士の急所を見切り、ダーツを投射するケヴィン。
 ダーツは皮膚の薄い部位に命中し、コボルト戦士は苦悶の声を上げる。
「風の精霊よ、力を! ストーム!」
「風よ、敵を切り裂く刃となれ‥‥ウインドスラッシュ」
 2人のウィザード‥‥ベアータとセレニウムの魔法が発動。
 ベアータの唱えたストームは2匹のコボルト戦士を吹き飛ばし、セレニウムの放った真空の刃が追い討ちを掛ける。
「お遊びはこれで終わりにしましょうかね」
 響が放つ一撃がコボルト戦士の鱗を切り裂く。
 グガァ! と、断末魔を上げて崩れ落ちる仲間を見て、たじろぐ他のコボルト戦士。
 その隙にケヴィンはスクロールを取り出し、念じた。
 たじろぐコボルト戦士の足元から吹き上がるマグマの炎‥‥マグナブロー。
 炎に飲み込まれたコボルト戦士は、全身を焼かれて倒れた。

 *

「やはり、コボルトが犯人だったのですね」
 ベアータが4体のコボルト戦士の死体を見て呟く。
「この近くに巣があるかもしれません。捜索してみませんか」
「あぁ‥‥早く探して終わりにしようぜ」
 冒険者達は再び丘の探索を続けた。
 その結果、野薔薇の生息地の近くにコボルトの巣と思われる洞穴を発見した。
 中にはコボルトが奪ったと思われる品々があった。
 だが、それ程価値がある物は無い。
 恐らく、殺された村人達の遺品であろう。
 冒険者達はこれらを持ち帰り、遺族に返却する事にした。

 マルティナはデニーの家に赴き、事件の始終を報告した。
「成る程‥‥コボルトが丘に近づく者を襲っておったとはのぉ‥‥確かに、幽霊が刃物や毒を使うとは考えれん。これで、レジーナの霊が犯人ではないことが証明される。本当にありがとう‥‥」
 デニーは涙を浮かべながら礼を述べる。
「それと‥‥最後の願いを聞いてくれぬか?」
「はい、何でしょう?」
「レジーナの霊を慰める為に、あの丘へ行きたいのじゃ」
 断る理由は無い。
 危険は既に排除されている。
 冒険者達はデニーの願いを聞き入れた。

 50年前、デニーの知らぬ所であった悲劇。
 真実が明かされ、ようやくこの場所に戻ってくる事ができた。
「昔、ここでよくレジーナと遊んだものじゃ‥‥」
「あなたにとって、ここは大切な場所だったのですね」
 そう言うと響は地面に腰を下ろした。
 傍には咲き乱れる紅き野薔薇。
 レジーナの想いを表すような情熱の紅。
 死して尚、その想いをデニーに伝えようとしているのだろうか。
「あっ! あれは‥‥」
 ベアータが指を指した方向に人影‥‥いや、青白い存在が浮かび上がった。
「レ、レイスです!」
 マルティナが飛び上がって、大声で叫んだ。
 その声に反応して武器を取る冒険者達をデニーが制した。
「いや‥‥レジーナじゃよ‥‥」
 デニーは浮かび上がる青白い靄に近づいていく。
「き、危険です‥‥」
 セレニウムが止めようとするが、かまわず歩み寄るデニー。
 デニーが近づくにつれ、徐々にその実体を現していくレイス。
「あの頃と変わらぬの‥‥」
 レイスは若い女性の姿をしていた。
 彼女が‥‥レジーナなのだろうか。
 デニーが近づいても、一切レイスは動かない。
「長い間、苦しかったじゃろう‥‥」
 デニーはレイスに手を差し伸べる。
 すると、レイスもデニーの手を握ろうとした。
「だめだ! 触ると死ぬぞ!」
 オスカーが声を荒げた。
 レイスはその手で触れただけでダメージを与えることができる。
 冒険者なら耐えれるかもしれないが、老人であれば即、命を落としかねない。
 だが、デニーは穏やかに笑うと再びレイスに手を差し出す。
「想い残した事があるから霊はこの世に彷徨うのじゃ。レジーナが50年もこの場所に縛りつけられていたのは、わしの罪でもある。わしの命もそんなに長くはない。どうせ死ぬならレジーナの魂だけは‥‥救いたいのじゃ」
「あぁぁぁぁ!」
 デニーとレイスが手を取り合った瞬間‥‥マルティナは号泣した。
 一瞬、ビクッっと痙攣したデニーは、そのまま地面に倒れた。
 レイスは優しい表情を浮かべたまま、少しずつその実体を消滅させていく。
 レイス‥‥レジーナの想いは50年の時を経て叶ったのだ。

 その後も野薔薇は咲き続けた。
 冒険者の手によって、この場所に小さな慰霊碑が建てられた。
「この紅い野薔薇が悲恋の象徴ではなく‥‥いつか届く思いの象徴と成りますように」
 セレニウムは手作りの慰霊碑に野薔薇を供えた。
 デニーとレジーナの冥福を祈って‥‥。
 この事件解決後、村では『必ず願いが届くおまじない』として紅き野薔薇を使うとよい、という噂が流れ始めた。