●リプレイ本文
●捕縛大作戦を展開せよ
●作戦名『ピックルを捕縛せよ』
冒険者達は、テーブルの上に置かれた樽を眺めながら‥‥恐らく「何故に樽?」と、疑問を浮かべながら‥‥ターゲット捕縛の作戦会議をしていた。
「ピックル君‥‥一体、何をやらかしたのでしょうか‥‥? 事情を詳しく聞いてみないとわかりませんが‥‥」
「取り合えず、一度彼の言い分を聞いて、説得してみようと思うのじゃが」
ターゲットであるピックル・リックル(ez1020)と同じく、フリーウィル冒険者養成学校の生徒であるイェーガー・ラタイン(ea6382)と黄安成(ea2253)が話し合っていた。
「同じフリーウィルの学生という事もあるし、ピックルとは話しやすいじゃろう。彼と同じく、ケンブリッジから遊びに来た学生と言えば、怪しまれぬと思うしな」
「‥‥ウフフフ、そうね‥‥恋人同士って事にしておけば‥‥ピンカラ君‥‥だったかしら? 安心するでしょうしね‥‥」
安成と忌野貞子(eb3114)は、ケンブリッジから遊びに来た恋人同士という役割でピックルと接触する事にした。
「ピックル君ですよ? よく、名前を間違えられるみたいですが」
イェーガーが訂正する。
「ピックル君も遊んでいるだけだったら、ケンブリッジに送り返した方がいいと思うんだ。でも、何で樽に入れて送るんだろうね?」
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は、樽を眺めながら思った。
樽の大きさは、シフールを詰め込んでおくには丁度いい大きさだ。ピックルを樽に閉じ込めておけば、強制的にケンブリッジへ送る事が出来るだろう。そして、彼を捕縛する依頼とこの樽‥‥と、言う事は、ピックルがケンブリッジに帰りたがらない何かがあるのではないか‥‥。
「ちゃんと帰るなら、樽に入れなくていいのに〜。何で帰りたがらないのかな〜。ケンブリッジで悪い事でもしちゃったのかな〜」
ガブリエル・シヴァレイド(eb0379)がそう言うと‥‥
「もし、そうなら‥‥尚更、説教しなければいけませんね‥‥」
イェーガーは深く溜息を吐くのであった。
「ステキですね。男にょ子を追い掛け回すなんて‥‥。捕まえたら、ちょっと大変なことになってしまうかも。ムフフフ‥‥」
話し合いの中に、ちょっと違ったオーラを纏った声が混じっていた‥‥その声の主は水野伊堵(ea0370)。ピックルは無事にケンブリッジへ送り届けられるのであろうか!? それとも‥‥彼女の餌食になってしまうのか!?
●追跡
「まずは、ピックルを見つけないとね〜」
ガブリエルとイェーガーは、キャメロットでピックルに関する情報を聞き込みしていた。何しろ、相手はシフール。発見は容易ではないと思っていたが‥‥。
「いたぞ! ピックルだ!」
「うわぁぁぁぁぁ! 何だよぉぉぉぉぉ!」
自ら、災禍の中心へ飛び込むのが得意なピックル。どうやら、仕事を探しに冒険者ギルドへ来たらしい。捕まりそうになり、慌てて冒険者ギルドを飛び出して来た所をガブリエルとイェーガーが発見し、彼の後を追う。
「一体、何なんだよぉ‥‥怖いなぁ‥‥」
ピックルを尾行し、彼の行動パターンを調べる2人。この報告書は仲間に手渡されて、捕縛作戦が実行される事になる。
●標的はシフール、可及的速やかに作戦を実行せよ
「よぉ、ピックル。元気じゃろうか?」
「!? 何で、僕の名前を知ってるの!?」
「何でって、同じフリーウィルの生徒じゃないか」
ガブリエルとイェーガーの報告書通り、ピックルが通りそうなルートで待ち伏せしていた安成が彼に声を掛ける。
「あ、そうなの? 最近、ケンブリッジに行ってないからなぁ‥‥」
「学生は勉学が本分。怠慢してはいかんぞ」
「そうだけど‥‥で、キミ達は、どうしてキャメロットにいるの!?」
「わし達は‥‥えぇと‥‥」
「‥‥ウフフフ‥‥恋人同士で‥‥デートしてるのよ、ピンキリ君?」
背後から気配が無かったかのように前に出て、安成へ腕を回す貞子。一応、演技ではあるが、貞子はその雰囲気を楽しんでいるようであった。
「僕はピックルだい! 何だよ、ピンキリって!」
「‥‥あら、キンピラ君?」
「違ーう!」
話が違う方向に向かっているような感じだが、ピックルとの接触は成功したようだ。
「‥‥うぅぅ‥‥ちっこい男にょ子‥‥いや、我慢、我慢‥‥」
その横では、理性の限界と戦う伊堵がいた。今にも獲物に飛びかかりそうな目付きと荒い息遣いに、ピックルは少々引いている様子である。
「それで‥‥ピックルは何故、最近ケンブリッジに行ってないの〜」
ガブリエルがさり気無くピックルに尋ねる。
「え、ちょっと‥‥いろいろ、忙しくて!」
誤魔化している様子のピックル。
「課題か何かじゃろうか? わしらの仲じゃないか、いくらでも手伝ってやるぞ」
「い、いぇ‥‥そんなんじゃなくて‥‥」
安成がケンブリッジへ帰らない理由を聞き出そうとするが、ピックルは口を割らない。
「え〜、教えてくれてもいいのに〜」
「レポート提出なら協力しますけど‥‥」
「あっ! 用事があるんだった! じゃあ、帰るねっ!」
ピックルは冒険者達が怪しいと思ったのか、その場から逃げようとする。
「あ、逃げちゃいました‥‥」
「フフフフ‥‥鬼ごっこ開始ですね‥‥」
プチッ! っと、何かが切れた伊堵は不敵な微笑と共に、いち早くピックルを追いかける。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 鬼っ! 悪魔っ!」
「ククク‥‥ほぉーら、待て待てーい!!!」
泣きながら逃げ回るピックルを邪笑を浮かべながら追っかけ回す伊堵。その泣き声と笑い声は、キャメロットの細い路地裏に消えていった。
「待たんか!」
安成も慌てて韋駄天の草履を履き、ピックルを追いかけようとするが‥‥
「あぁぁぁぁぁぁ‥‥」
隣から、弱弱しい声が聞こえたので振り返ると、貞子が倒れかけていた。流石にピックルや韋駄天の草履を履いた安成の速度にはついていけない。
「だ、大丈夫か!」
ピックルを追いかけなくてはいけないが、貞子を放っておく訳にもいかない。安成は彼女をお姫様だっこで担ぐと、捕縛目標の追撃を再開した。
「‥‥ウフフフ。嬉しいです‥‥」
貞子の漏らした言葉は、今の安成には聞こえていない。
●捕縛完了
「そろそろ、来るかな? 僕は追いかけっこは得意じゃないから、待ち伏せしないとね」
「ホント、すばしっこいよね〜。追いかけっこじゃ、勝てないよ〜」
路地裏へ先回りし、ピックルを迎撃しようとするレフェツィアとガブリエル。
「あ、来たみたいだよ」
「うわぁぁぁぁぁぁ〜ん!」
小さな泣き声が徐々に大きくなり始めてくる頃、ガブリエルはスクロールを広げて精神を集中した。
「そっちの道に行かせちゃダメなの〜! えぇ〜い! ウインドスラッシュ!」
「わぁぁぁぁっ!」
真空の刃でピックルを牽制し、仲間が待ち構える道へ誘導するガブリエル。この作戦はうまくいき、ピックルは罠が仕掛けられたルートへ侵入していった。
「ハァハァ‥‥あいつらも、ベリンダ先生の刺客なのかな‥‥うわぁ!」
見事、イェーガーが仕掛けたロープに引っかかったピックル。バランスを崩し、地面へ落っこちる。
「な、何だよぉ〜!」
それでも、逃げようとするピックルにレフェツィアはコアギュレイトを唱える。
「うわぁぁぁ!」
「ごめんね。こうするしか、捕まえる方法がないんだ」
魔法の呪縛で動けなくなったピックル。そこへ‥‥
「男にょ子、獲ったど―――――ッッ!!!」
「わぁぁぁぁー! 鬼っ!」
ピックルへ投げ網が投射された。網に掛かりジタバタともがくピックルを狂喜の笑みで見つめる伊堵。
「さぁ〜て、どうしてくれようかのぅ‥‥」
「うわぁぁぁぁーん! 助けてぇー! 鬼に食べられる! 犯される! 殺されるっっっ!」
伊堵の歓喜の声とピックルの叫び声がキャメロットに響き渡った。
「まぁまぁ‥‥とりあえず、事情を聞きましょう‥‥」
伊堵を引き止め、ピックルからケンブリッジへ戻らない理由を聞き出そうとするイェーガーであった。
ピックルがケンブリッジへ戻らない理由はこうだった。
どうやら、彼の担当であるベリンダ先生が結構無茶な課題をピックルに出しているらしい。それが嫌でピックルは学校をサボっているようであった。
「遊んでいる訳ではないみたいだね。でも、目の前の難題から逃げてばかりじゃ、キミも成長しないよ? つらい事を乗り越えてこそ、冒険者は成長していくんだから」
事情を聞いたレフェツィアがピックルへ助言する。
「逃げてばかりいるから、こんな事になるんだよ。ちゃんと、ケンブリッジへ戻ってベリンダ先生に謝って、しっかり課題をするんだよ、わかったかな? もし、約束を守らないと凍らせちゃうなの♪」
「は、はぃ‥‥」
屈託のない微笑を浮かべるガブリエルに、ピックルはそう答えるしかなかった。
「確かにピックル君はシフールですから、普通の人間と同じ課題をやれと言われたら難しいかもしれません。だからと言って、サボるのはよくない事です。それ以外に、方法はいくらでもあるのですから‥‥」
イェーガーもピックルへ説教をする。
「もし、ケンブリッジに戻って真面目に勉強をすると約束するのなら、樽の中に閉じ込めて強制送還するといった事はしませんが‥‥」
「うわっ! それはイヤ〜! わかったから、樽は勘弁してっ!」
皆の前でケンブリッジへ戻って真面目に勉強する事を誓うピックル‥‥どうやら、樽には何かトラウマがあるようだが、あえて誰もつっこむ事はしなかった。
「それなら、ベリンダ先生に課題を少し優しくしてもらうようにお願いしておきます‥‥同じレンジャーとして、フリーウィルの生徒として‥‥そして、シフールの守護者として、あなたが成長する事を祈ります。頑張ってください」
「う、うん‥‥」
そして、ピックルを励ますイェーガー。
「もう、自分勝手な事はするんじゃないぞ。同じフリーウィルに通う者同士じゃないか。何かあったら相談しろよ」
「は〜い」
そう言って安成はピックルを送り出す。
「ウフフフ‥‥」
その横で貞子は安成と腕を組みつつ、まだ演じられたデートの余韻に浸っている様子だった。
●後日、届いた手紙
『先日はお世話になりました。
皆様のおかげでピックルはケンブリッジに戻ってきて、しっかりと勉学に励んでおります。
報告書と一緒に届けられた手紙にありましたように、課題の方は少し優しくしました。これが原因だったと私も反省しております。
今後、何かありましたら、また宜しくお願いします。
話では、フリーウィルの生徒も数名いらっしゃったようですね。
いろいろ忙しいと思いますが、時間がありましたら私の講義でも受講してくださいね。
それでは、失礼します』