Grave Mist
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 56 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:11月27日〜12月04日
リプレイ公開日:2006年12月05日
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●オープニング
「夜の墓場は本当に気味悪いですよね‥‥」
依頼書を片手にその内容を説明する受付嬢の表情は戦慄いていた。
「怨霊というのは‥‥冒険者であれば、聞いた事ありますよね?」
昼間の墓場は死んだ人々を慰める為に多くの人々が訪れ、霊を鎮めている。だが、人々が立ち去った夜‥‥供養もされず、成仏も出来ない霊が墓地から現れ、それはまるで霧のように墓場の周辺を彷徨う‥‥。
そのような霊は普通我々が目視する事は出来ないが、長い間そうして自分を慰めてもらえず、現世の呪縛から解き放たれない霊が人々に対し怒り・復讐の念を抱いた時‥‥それがアンデッドとなり、危害を与える事がある。その存在を怨霊‥‥レイスと呼んでいる。
「わたしは毎週欠かさず、おじいさんのお墓へお参りにいくのですが‥‥供養もされず放置されたまま、荒れ放題の墓をよく見ます。そのように死者への供養を怠る人がいるから‥‥レイスは私達を苦しめるのでしょう」
震えた表情に悲哀染みた情を浮かべ、受付嬢は本題を切り出した。
「今回の依頼は、墓場に現れて人々を襲うレイスを倒していただくものです」
最近、とある村の共同墓地で幽霊を目撃したという報告が多発していた。
最初の目撃者は‥‥不明だ。後で村人聞けば『最近、夜になると寒いから霧かと思ったよ』と答える人が多い。だが、中にはその霧がはっきりと人型に見えたという人もおり、真実を確認すべく有志による調査が行われたそうだ。
その結果‥‥数名が犠牲となる惨事を招く事になった。
これは村人だけでは手に負えないと判断した村長は、キャメロットの冒険者ギルドへ調査と怨霊退治を依頼する事にした。
「レイスが現れてから、誰も墓地には近づかなくなったそうです‥‥お墓参りをする人がいなくなったから、霊が慰められずに、こうして怨霊として蘇るといった悪循環になってるみたいですね。そう、レイスは数体‥‥今の所、2体ですが‥‥対処が遅れれば増えるかもしれません。冒険者の皆様、レイスを倒して早めに問題を解決してください!」
そういうと、受付嬢は慌てた様子でいくつかの羊皮紙を取り出してきた。
「えぇと‥‥過去の依頼から、レイスは普通の武器では傷つける事が出来ないという報告があります。銀や魔法の武器、攻撃魔法でのみ打撃を与える事が出来るという点に注意してください」
レイスは通常の武器では倒せない強敵のようだ。
冒険者よ、墓場に現れるレイスを退治してほしい。
●リプレイ本文
●Grave Mist
冒険者達は急いだ‥‥怒れる霊を鎮めるために。
彼らを見送ると、エレインとサシャのラ・ファイエット兄妹は神に祈りを捧げる‥‥冒険の無事と、さまよえる御霊が救われますように‥‥と。二人の祈りは遠い村の墓場まで届くであろうか‥‥。
●怨霊
「ずいぶん荒れているな。こんな所では、死者が安らかに眠ることもできんだろう‥‥」
七神蒼汰(ea7244)は目に入った共同墓地の情景に一瞬、顔をしかめる。予定よりもはやく村へ到着した冒険者達は、レイスが目撃されていない昼間のあいだに共同墓地を下見していた。墓場の管理はずさんで、掃除もされておらず、墓も朽ちたものが多々見受けられる。
「このような雰囲気では、村人も近づきにくいでしょう」
墓場を見回すと、シルヴィア・クロスロード(eb3671)は嘆息した。思うことはあるが‥‥まず、我々がしなくてはいけないことは怨霊を浄化し、これ以上の被害を食い止めること。シルヴィアは一本の剣を取り出すと、それを日高瑞雲(eb5295)に手渡した。
「直刃の武器を振るのも久しぶりだな。相手が相手だけに、こいつが頼りってとこか」
受け取った剣‥‥カールスナウトの名を冠した対アンデッド用の剣を振り、感触を確かめる瑞雲。怨霊には普通の武器は通用しないといわれている。魔法の剣‥‥特に霊を振り払うことの出来る武器は実に心強い。
「そうですね。なるべく早く安らかな眠りにつかせてあげないと、周りの方々も出てきて彷徨いかねません」
メグレズ・ファウンテン(eb5451)の手にも対アンデッド用の武器があった。彼女だけではない。ディアナ・シャンティーネ(eb3412)と蒼汰も同じ剣を持つ。
「切ることで怨霊の怒りを鎮めなければならないことを残念に思います‥‥」
「仕方ないよー。供養もされずに、挙句の果てに彷徨い出てきているんだから‥‥ボクも一応は僧侶だから、何とかしてあげないとねっ」
少々複雑な心境を表情に浮かべるディアナにシャンピニオン・エウレカ(ea7984)が声をかける。
「未練を断ち切り、死者はあるべき場所に送ってやらねばな」
蒼汰は墓場の地理を把握すると、仮眠をとるために村へ戻った。
共同墓地の状況を確認した冒険者は、今回の事件の原因がなんとなくわかった。それを解決するためには、まず今ある問題‥‥レイスを浄化することが先決となる。
●夜の墓場
「夜になると、やっぱり寒いですねぇ〜。怨霊なんか見た時にはもっと寒くなりそうです〜」
日が沈み、辺りは闇につつまれてきた。やや霧がかかった墓場に到着したユイス・アーヴァイン(ea3179)は、白い息を吐きながらバックパックから何かを取り出す。
「お守り程度にはなるんじゃないかと思いますよ〜」
「お守りとしてならば、十分すぎですわ」
ユイスが取り出したのは道返の石だった。それをシルヴィアが受け取ると、石に祈りを捧げる。
「大いなる慈母神セーラ様。迷える魂を救うため、力をお貸しください‥‥」
しばらく祈りを捧げた石から力を感じるようになった。それは、悪霊に対する結界である。
「聖母様のご慈悲がありますように‥‥」
同じころ、ディアナは仲間に祝福を施していた。そして、怨霊討伐の準備を整える仲間を守るように蒼汰、瑞雲、メグレズ、山本修一郎(eb1293)が周囲を固める。これだけ入念な用意をすればまさに、対アンデッドのスペシャリストといえるだろう。
「準備は整ったようですね。では‥‥」
メグレズが墓場へと足を踏み入れた。そして、デティクトアンデットを唱えてレイスの居場所を探る。
「近場に一体がいますね‥‥」
「よし。こいつにも慣れたことだし、やってやるか‥‥っても、さすがに今回は慎重にいかなけりゃな」
瑞雲がシルヴィアから借り受けた剣を振るい、仲間の先陣に立つ。
レイスの恐ろしさは武器耐性だけではない。そのため、一行は道返の石を持つシルヴィアを中心に行動することになった。
墓場の霧がだんだんと濃くなってくる。冒険者達の緊張も、墓場を歩み行くたびに色濃くなってきた。
再びデティクトアンデットでレイスの位置を探るメグレズ。彼女の指す方向の墓には一際濃い霧がかかっている。
「う、動いてるっ‥‥!」
シャンピニオンが思わず潜っていたユイスのフードから声をあげる。
霧の中にぼんやりと青白く浮かび上がる人影。それは探していた存在以外の何者でもない‥‥レイスだ。
「気を付けろ‥‥来るぞ」
蒼汰がレイスに剣を向ける。レイスはゆっくりと、ゆっくりと冒険者達に近づいてくる‥‥まるで、逃れえぬ苦しみから助けを乞うように。
「供養もされず、このような荒れた地で安らかに眠ることもできない哀れな霊なのですね‥‥」
ディアナも剣を鞘から引き抜く。
「結界からなるべく出ないようにしてください」
仲間の中心に構えるシルヴィアが注意を喚起し、周囲に明かりが届くようにランタンを配置した。そうしている間にも、レイスは近づいてくる‥‥が、結界の魔力を感じたのか、その動きが止まる。
「動きが鈍りやがった‥‥今だ!」
先陣を切って出たのは瑞雲だった。両手でカールスナウトを振り上げると、渾身の力で叩き降ろす。亡霊を討ち破ったとされる霊剣の名を持つだけあり、その一撃は凄まじく、レイスを怯ませるには十分なものだった。
「今は苦しいかもしれないが‥‥すぐ楽にしてやろう」
攻撃は最大の防御‥‥蒼汰も打って出た。攻撃を用心するより、手を出させぬよう切り刻む。
怨念だろうか‥‥声ならぬ声を感じるも、怯むことなく蒼汰はレイスに突き進んだ。
「憑依されたくはないからな‥‥一気に畳み掛けるのみ!」
修一郎は他の者と違い、ごく普通の日本刀しか所持していない。だが、その刀身にはオーラパワーが付与されており、レイス相手にも十分な効力を発揮した。オーラを宿す刃が徐々にレイスの力を奪っていく。
「何だか燃えてきましたね〜」
ユイスは着ていた防寒服を脱ぎ捨て、同時にシャンピニオンも飛び出す。別に用意していたフレイムエリベイションのスクロールを使った訳ではないが、思ったより寒さは感じない。仲間の圧倒的な力を見せられ、気分が高揚しているからだろうか。
「風の力よ‥‥刃となりレイスを討ってください‥‥ウインドスラッシュ!」
ユイスの手から放たれた風の刃は、レイスを切り刻んでいった。
「どうか安らかに‥‥」
祈りの言葉と共にメグレズの荒々しくも、周囲の墓を荒らさぬよう計算された斬撃がレイスを襲う。対アンデッドに特化されたパーティーと言えるだろう‥‥まさに、一方的なアンデッド狩りだ。
「今、楽にしてあげるからね‥‥」
猛攻を一身に受け後退するレイスに、シャンピニオンはホーリーで追い討ちを掛ける。
聖なる力を受けて呻き声をあげるレイスだが、とどめとはならなかった。だが、その青白い身体は見るからに弱々しく、ほとんどレイスは力を失っているのだろう。
「この世に留まらず、その魂は慈愛の神の元へ帰らなければいけません‥‥」
ディアナは竦むレイスに清らかな聖水を振りかけた。すると、レイスは悲鳴と共にたちどころにその存在が失われていく‥‥浄化されたのであった。
「お疲れ様です。でも、まだ‥‥」
「ええ、そうですね〜。二体で済んでくれると嬉しいんですけれどね〜」
一体を倒したところで、シルヴィアは再び道返の石に祈りを捧げ始めた。報告されているレイスの数は二対‥‥あるいは、それ以上。ユイスも一旦、服を着て次の戦いまで体を冷やさないようにする。
「さてっと‥‥次はどこだ?」
瑞雲がメグレズに尋ねた。
●慰霊‥‥そして、これから
二体目のレイスも冒険者達の活躍により浄化された。
彼らからの報告では、それ以上の数のレイスは存在しなかったという。
今回、冒険者達の迅速な動きで被害は最小限に食い止められた‥‥だが、レイスを倒してこれで終わりという訳ではないのは、冒険者達が一番よくわかっていることだろう。
「ここに眠っているのは皆、あなた達の祖先であり仲間達だった人々だ。このような状況の墓場で彼らが安らかに眠ることができるだろうか?」
蒼汰は村人を集めて、諭し、なぜ今回の事件が起こったかを説明する。ろくに管理もされず、荒れ、人が近づかなくなり‥‥慰められぬ霊がレイスとして現れるようになったのだと。
「墓場の管理人はいないのですか? いないのなら、誰か携わっていただければよいのではないでしょうか」
ディアナが提案する。以前は管理人がいたそうだが、病気で亡くなった後は誰もその業務を引き継ぐ者がいなかったのだという。幸いにも、今回の事件を教訓にした村人から、管理人になると名乗りをあげる者がいた。今後は、しっかりと共同墓地の運営がされていくことだろう。
墓場では大掛かりな清掃が行われていた。あちこちに伸びている蔦を取り払い、墓を掃除し、誰もが気軽に立ち入れる雰囲気を作る。
「生きてる人も亡くなった人も、これからはどちらにも安らかな眠りがありますように‥‥」
シャンピニオンは両手にたくさんの花を抱え、墓一つ一つに献花して丁重に慰霊していく。彼女の歌う鎮魂歌は、眠る者達へ静かな眠りを与えることだろう‥‥。
「世の中には望まれない欲望というモノもあるんですよね〜。安らかに皆さんが眠れるコトを祈って〜」
「供養って大事なことなんだな。こんなこと二度とあっちゃいけねぇ‥‥」
ユイスと瑞雲も死者達を供養し、魂が安らぐよう祈りを捧げる。
「尊き魂よ 安らかに
汝はすでに肉体の鎖より解放されしもの
汝が魂は 主の御許へ
汝を苦しめる業を 主はお許しになられた
尊き魂よ 安らかに」
墓の清掃が終わると、村人総出で慰霊祭が行われた。メグレズの言葉と共に祈る村人達。
今後、怨霊が甦るということはこの村で起こることはないであろう。