【正義】NEVER SURRENDER

■ショートシナリオ


担当:えりあす

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:08月08日〜08月15日

リプレイ公開日:2004年08月12日

●オープニング

「『正義』とは都合のいい言葉でしてね‥‥」
 何時に無く厳しい面持ちの係員が、今回の依頼を受けた冒険者をギルドの片隅に集めた。
「まぁ、そんなことはどうでもいいです。今回は盗賊団に襲われている村を救っていただきます」
 係員によると、1ヶ月ほど前にキャメロットから2日ほど離れた小さな村が盗賊団に襲われた。その時は、金品や食料を差し出すことで難を逃れたが、それからたびたび村を脅しては同じ事を繰り返しているという。最近では、村の娘をさらっていったり、家を壊したりと好き放題やっているらしい。
 小さな村では盗賊団に対してなす術も無く、頭をかかえた村長がギルドに助けを求めてきたのだ。
「冒険者の『正義」は依頼を忠実に実行すること。そして、遂行させること。失敗すれば村がどうなるか‥‥誰でもわかるでしょう」

 その後、冒険者はギルドを訪れた村長と2人の従者に村の状況を聞いた。
 村は予想以上に悲惨な状況のようだ。家は破壊され、畑は滅茶苦茶に荒らされているという。このままでは、村は滅びてしまう。その前に盗賊団を倒してほしい‥‥村長は涙を流しながら頭を下げた。
 さらに、村長の口から予想外の事を聞かされた。
「わたしの息子が、連れ去られた恋人を助けるために盗賊のアジトに行ったのです! お願いです! 息子も助けてください!」
 いつ盗賊が襲ってくるかわからない状況で、息子を助けに行くのはかなり難しいだろう。
 息子一人と村を天秤に掛けるのであれば、どちらが傾くか容易に想像できよう。しかし、一人の命もかけがえの無いものである。どこまでを天秤に掛け、ギリギリのバランスで釣り合いを取るのか。あるいは、切り捨ててしまうのか。
 息子の救出は依頼の契約に含まれていない。決断は冒険者に委ねられる。

●今回の参加者

 ea0144 カルナック・イクス(37歳・♂・ゴーレムニスト・人間・ノルマン王国)
 ea0353 パトリアンナ・ケイジ(51歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea0459 ニューラ・ナハトファルター(25歳・♀・ジプシー・シフール・エジプト)
 ea0827 シャルグ・ザーン(52歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1911 カイ・ミスト(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3109 希龍 出雲(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4089 鳳 瑞樹(31歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4586 ユミル・ヴィンドスロート(32歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)

●サポート参加者

ライラック・ラウドラーク(ea0123)/ ユーディス・レクベル(ea0425)/ レオナ・ホワイト(ea0502)/ 冬花 沙桜(ea3137)/ エレーナ・コーネフ(ea4847

●リプレイ本文

●11th JUSTICE
『正義』
 騎士や武士の道を歩む者にとって非常に重要なものであろう。
 だが、『正義』は人によって変わるものである。
「人を殺してはいけない」が正義と考える者もいれば、
「人を傷つける者は殺すべき」を正義とする者もいる。
 どちらが正しいか。何が正しいのか。
 そのバランスをとる天秤が『秩序』である。

 今回、それぞれの『正義』を胸に集まった8人。
 しかし、出発直前まで女神の天秤は大きく揺れていた。
 その偏りのバランスをとったものとは‥‥

●それぞれの正義
「『正義』はお陽さまに恥ずかしくないことをすることなのです♪」
 厳しい内容の依頼に気の張り詰めた空気が漂う中、明るく陽気に飛び回っているのはニューラ・ナハトファルター(ea0459)。力だけでまともに戦うことはさすがに難しいが、「自分に出来ること」を考えた時、息子を助けるのには自分の能力が生かされるのではないかと考えて依頼に参加した。
「冒険者だという身分証明を書いてもらわないと」
 カルナック・イクス(ea0144)は村長に身分証明を書いてもらっている。彼もレンジャーの知識を生かす為、救出班として行動することにした。戦士であるユーディス・レクベルの支援を得、戦闘が発生した場合でも何とかなりそうだ。
「‥‥気を引き締めねば」
 愛馬「ヴィント」に跨りながら、強い緊張に表情と声を強張ばらせているカイ・ミスト(ea1911)。騎士である彼にとっても『正義』という言葉は重要なものであろう。
「『正義』ね‥‥あたしが一番信用してない言葉だ」
 通称・パティことパトリアンナ・ケイジ(ea0353)は『正義』を幻想だと考える。与えられた『義務』を全力で果たすこと。それが、彼女にとって進むべき道である。今回、親友であるライラック・ラウドラークが彼女の支援に駆けつけた。
「女性の救出ってんなら燃えるんだが。ま、これ以上女性に手を出すようなヤツらを放っておくわけにはいかんからな」
 希龍出雲(ea3109)は顎に手を当てながら呟いた。
「盗賊達に『仁』の心を持って挑む!」
 鳳瑞樹(ea4089)も武士道の精神に生きる者。憐れみの情は至高の徳であり、その『仁』を持って今回の依頼に参加する。
(「‥‥何とかなりそうだな」)
 口数の少ないシャルグ・ザーン(ea0827)は、仲間を見渡しながら思った。ギルドで依頼を受け取った当初、明らかに偏った編成に危惧の念を抱いた。だが、今は問題なさそうだ。隣には支援を買って出た冬花沙桜とエレーナ・コーネフがいる。
 保存食を用意していたユミル・ヴィンドスロート(ea4586)が準備を終えたようなので、一行は村へと向かうことにした。

●救出
 息子の救出に向かうのは3人。村の防衛の依頼のはずが、救出任務も同時にとなると割りに合わない。契約外なので引き受ける義務も無いが、あえて彼らは志願した。それぞれの想いを胸に。
「お陽さまに聞いてみるのです♪」
 ニューラはサンワードで息子の位置を確認する。ニューラに伝わった意識は「ここからやや遠い」という漠然としたもの。
「村人からの情報は方角くらいだから難しいな」
 カルナックは出発前に盗賊団のアジトの情報を確認していた。盗賊団はいつも西の森林に向かっていくという。この森林の中にアジトがある可能性が高い。しかし、曖昧な情報しかなく、カルナックとニューラは土地感を頼りに森林の中を進んでいく。
「遠くを覗いてみるのです♪」
 しばらく進んだ後、ニューラは上空へと飛び上がり、テレスコープで望遠を試みる。すると、遠くに建物らしきものを発見した。これがアジトであろうか。
 おおよその場所がわかれば何とかなりそうだった。しかし、問題なのは息子がどうしているかだ。アジトを発見しても息子が見つからなければ意味が無い。もしかしたら、アジトに捕まっているかもしれないが。
「‥‥ん、これは」
 注意深く道を進むカルナックが何かを発見した。獣道の中にある明らかに違う存在の足跡。人がこの近くにいる。それは息子なのか、それとも盗賊なのか。恐る恐るニューラが跡を調べ、追跡していくと‥‥。
「あら、誰かいるのです」
 ニューラが茂みの中を調べてみると、そこにはぐったりとした青年が横たわっていた。
「村長の息子さんかな。大丈夫?」
 カルナックが青年を抱き起こす。どうやら村長の息子のようだが、かなり衰弱している。盗賊を追って森林に入ったものの、食料が底を尽き、空腹で倒れたようだ。
「ここで待っていて下さい。必ずみんなを助け出しますから」
 保存食を渡し、アジトへと急ぐ。捕らわれた村人を救う為に。

「覗き見しちゃいます♪」
 アジトを発見した3人は外から様子を確認。ニューラがテレスコープで周りに見張りがいないことを確認し、アジトに近づく。さらに、エックスレイビジョンで壁の向こうを透視して中を確認。アジトの中にも盗賊は少ないようだ。
「では、おびき寄せてみます」
 カルナックが色声で盗賊を呼び出す。
「あー、誰だ?」
 出てきた盗賊は酔っ払っており、後ろからユーディスが殴りつけると、あっけなく倒れた。
 内部に侵入すると、盗賊が2人エールを飲み交わしていた。すでに他の盗賊は襲撃に行っている様子で、見張りの数も少ない。
「な、何だ!」
 突然の侵入者に慌てる盗賊。まさか、自分たちのアジトが襲われるなど夢にも思わないであろう。
「みんなを助けにきたんだ!」
 カルナックがダガーを投げつけ、ユーディスも切りかかる。全く無防備な盗賊は何も出来ずに倒れていった。
 こうして、救出班は村長の息子、アジトに捕まっていた息子の恋人と他の村娘の救出に成功した。

●防衛
 一方、村では防衛の為に落とし穴を中心としたトラップの準備が進められていた。中心となっているのはシャルグで、スコップを手に黙々と作業を進めている。カイも見よう見まねでトラップ作りを手伝い、パトリアンナはロープを使ってボーラを作っている。
「さあ、頑張りましょう。戦いは俺らがやります。でも、最後に村を守るのはあなた方の想いだ」
 瑞樹は村人に優しく声をかけ、士気を鼓舞している。その声に立ち上がった幾人の村人が作業を手伝い、狩人からは矢が提供された。
「こんなことなら、工作ぐらい習っておけばよかったか‥‥」
 穴に干草を敷き詰めながらカイが呟く。思った以上に落とし穴を作るのは難しい。盗賊に対して有効かどうかは実戦でなければわからない。
 出来る限りの準備をして盗賊を待ち伏せる。盗賊はいつも堂々と村の正面から入ってくるという。パトリアンナは正面から辺りを見渡せる場所で偵察を行い、他の者は近くで身を潜めて待機する。

「ん、御出座しかい?」
 小鳥の声真似が聞こえてきた。パトリアンナから盗賊が来たという合図である。それを確認した出雲が刀を抜き、瑞樹は村人を安全な場所に避難させる。
「問題は賊が乗る馬であるな」
 シャルグはジャイアントソードを構え、オーラをチャージする。もし、逃がすことになれば救出班を危険に晒すことにもなりかねない。慎重に迫り来る盗賊に狙いを定める。
「来ましたか‥‥やれることだけをやりましょう」
 一際目立つウォーアックスを構え、ユミルが戦闘開始の合図を待つ。
「来た!」
 カイが叫んだ。盗賊団は雄叫びを上げながら村に入り込んでくる。
「うわぁ!」
 1頭の馬が落とし穴に引っかかり、乗っていた盗賊が前に放り出される。馬は足の骨を折り、動けなくなった。そこにパトリアンナが矢を放つ。
「チッ! 図ったな! 全員ぶっ殺してやる!」
 リーダーらしき盗賊が罠を飛び越して村に侵入した。罠に引っかかったのは1人だけだ。
「魔法援護頼む!」
 シャルグが馬に向かって突撃。沙桜は春花の術を試みる。エレーナはグラビティーキャノンでシャルグを援護。盗賊を吹き飛ばして落馬させた。
「盗賊風情が‥‥統制はとってきなさい!」
 ユミルは戦闘が始まると同時にリーダーに攻撃を仕掛けた。彼女は乱戦において重要視されるのは「一番強い奴から殺」との持論を持っている。そして、ウォーアックスを渾身の力で振り下ろすが‥‥
「ふん! 甘すぎるぜ!」
 斧が振り下ろされるより早く、リーダーのロングソードがユミルの胸を切り裂いた。
「ぐぅぅ!!」
 だが、同時に斧は馬の胴に直撃。リーダーは馬から振り下ろされた。しかし、ユミルはそのまま地面に倒れ無防備な状態になっていた。まさに、格好の標的である。そこに弓兵から放たれた矢が襲い掛かった。
「きゃぁぁ!!」
 2本の矢がユミルに突き刺さる。あと少しダメージが大きければ‥‥非常に危険な状態だった。
「だ、大丈夫ですか!」
 カイが盗賊の攻撃を切り抜け、ユミルを助けに行く。リカバーポーションを使い傷を回復させるが、これ以上戦うのは不可能であった。
「やりやがるな‥‥」
 パトリアンナが弓兵の馬に簡易ボーラを投げつける。ボーラは馬の足に絡みつき、転倒させることに成功した。落馬した弓兵にライラックが切りかかる。続いてレオナ・ホワイトのシャドゥフィールドが発動。範囲に入った3人の盗賊は闇に包まれて混乱する。暗闇と恐怖に馬は暴走し、逃げ出そうとした。盗賊は必死に馬にしがみつくが、暴れる馬を操ることは出来ず振り落とされた。
「女を泣かせた罪は重いぜぇ!」
 出雲は今まで封印していたソニックブームを放ち、騎乗した盗賊を叩き落す。そして、フェイントを織り交ぜた攻撃で着実にダメージを与えていく。
「貴様らの邪心に『仁』を持って応える! この引導こそ慈悲を知れ! くらえ、二連斬!」
 さらに、瑞樹が刀とダガーによるダブルアタックを決め、とどめを刺した。
「我輩の一撃を受けてみよ!」
 シャルグが助走をつけてまだ健全な馬に突撃し、大剣を叩きつける。馬はまともに頭部に直撃を受けて転倒。これで、盗賊は全員落馬したことになる。
「卑怯? 戦術と言ってもらいたいな!」
 カイは倒れた盗賊に零距離でオーラショット放つ。だが、その盗賊を吹き飛ばした瞬間‥‥
「調子に乗るんじゃねぇ!」
 リーダーからソードボンバーが放たれる。範囲にいたカイとシャルグ、さらに部下の盗賊までもが衝撃波を受ける。
「大丈夫か!」
 シャルグはオーラシールドで受けて持ち応えたが、カイは胸を押さえて地面に膝をついた。
「俺とシャルグでリーダーをやる! あとは雑魚を頼んだぞ!」
 カイをかばい、出雲がリーダーに向かって刀を突きつけた。
「ケッ! ぶっ殺してやるからな!」
 リーダーはロングソードをシャルグ目掛けて振り下ろす。まさに全身全霊を込めた一撃。しかし、シャルグも全ての気を集中し、オーラシールドで剣を受け止める。
「ぐぉぉ!」
 物凄い衝撃がシャルグの腕に伝わった。骨が軋む音が聞こえる。
「だが、負ける訳にはいかんのだ!」
 シャルグが最後の力を振り絞り剣を跳ね返す。と、同時に出雲がリーダーに刀を命中させていた。刀は胸倉を抉り、引き抜かれたと同時に血が噴出す。とどめに、シャルグが1発スマッシュを叩き込み、リーダーは絶命した。
 その頃、盗賊の部下は殆ど倒され、生き残った2人は降伏した。

 戦いが終わり、村に平穏な日々が戻る。
 傷跡はまだ深いが、カイは時間のある限り村の復興支援に当たった。

 瑞樹は密かに盗賊の死体を運び出し、墓を作っていた。
「来世では心安らかに過ごせよ‥‥」
 罪を憎んで人を憎まず。『仁』の心を持つが為に、奪った命は慈悲を持ってあたる。
 瑞樹はそっと墓の前で手を合わせた。

 今回の戦いはかなり苦戦したと言えるだろう。
 もし、支援が無かったら、友がいなかったら‥‥。シャルグは戦いの跡を見つめながら思った。
 冒険者に必要なのは結果。最終的に村を守ることができた。その為に起こした行動は間違っていない。
 シャグルは盗賊の馬を売って村の復興に当てようと考えていたが、生き残った馬も全て傷ついており、売却は無理だろう。しかし、傷が治れば農耕馬などには使えるかもしれない。
 彼の活躍と心遣いを称え、この村ではシャルグをこう呼んだ。
『正義を追い求めし者』と。