Princess of Light ―小鳥の願い―
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■ショートシナリオ
担当:えりあす
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月24日
リプレイ公開日:2006年12月28日
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●オープニング
とある貴族の屋敷の窓際に、一人の少女がたたずんでいた。
彼女の名はミリエーヌ。
なんとなく消沈した様子で、ぼんやりと外を眺めている。
ミリエーヌは窓を開いた。
新鮮な空気が部屋に飛び込んでくる。
この季節、外から流れてくる風は冷たい。
それでも、窓から少し体を乗り出し、白い息を吐きながら空に向かって語りかける。
「今までいろいろな冒険者の方とお会いしたけど、みなさんお元気かしら‥‥」
ミリエーヌは足が不自由だった。
当然、自由に外を出歩くことなどはできない。
人とふれあう機会もなく、いつも寂しい思いをしていた。
一応、ミリエーヌには恋人がいる。
だが‥‥直接会うことはなく、手紙で文通しているだけであった。
彼女の恋人は冒険者。
貴族の令嬢と冒険者が恋に落ちるなど、当然許される事ではない。
ミリエーヌの表情はいつも愁色に染まっていた。
「会いたい‥‥」
何度もため息を吐くミリエーヌ。
「‥‥でも、嘆いてばかりじゃダメよ! 行動しないと!」
バン! と、テーブルを叩くと、ミリエーヌは執事を呼びつける。
「冒険者達の冒険譚を聞きたいわ。夕食の時に招かれる詩人の歌は、大袈裟でありきたりの話ばかりでつまらないの。冒険者の珍しいお話とか、外国のお話とか、強いモンスターを倒したっていうのを聞きたいわ!」
「こ、困ります、お嬢様‥‥そのようなわがままは‥‥」
「いいじゃない、たまには! そのように、お父様へ伝えてちょうだい」
強引に執事を説得するミリエーヌ。
冒険者は貴族らにとって便利屋以外の何者でもなく、屋敷に招くなど普通はありえない。
だが、ミリエーヌの父親は冒険者に理解を示している。
冒険者を招いてパーティーを開きたい‥‥この願いは快く彼女の父親に承諾された。
「うふふ‥‥楽しみだわ」
冒険者達のお話を聞きたい‥‥もちろん、これは彼女の本心でもある。
だが、真の目的は‥‥。
その中に、ミリエーヌの恋人を紛れ込ませようというものだった。
「本当にわくわくするわ‥‥こんな気持ち、久しぶりね」
久しぶりに感じる喜悦の情、ミリエーヌの目は輝いた。
「さっそく、手紙を書かなきゃ‥‥」
筆を取ると恋人‥‥そして、パーティーへ参加する冒険者達へメッセージを書いた。
数日後。
冒険者ギルドにパーティー参加の告知が張り出されることになる。
『貴族のパーティーに参加し、ご令嬢を楽しませてくれる冒険者を募集』
恋人と久しぶりに顔を合わせる事ができる。そして‥‥彼女の願いは届くのだろうか。
●リプレイ本文
●Princess of Light ―小鳥の願い―
パーティーの会場となる屋敷へ向かう途中、五人の冒険者達はもう一人の参加者と合流した。
「本日は‥‥よろしくおねがいします‥‥」
もう一人の参加者はリュミナスと名乗った。彼が依頼主であるミリエーヌの恋人である。
「よう、久しぶりじゃないか。元気だったか」
リュミナスの肩をポンと叩き、再会の挨拶を交わすリ・ル(ea3888)。
「お久しぶりです。今回はいろいろ大変かもしれませんが‥‥僕達もリュミナスさんとミリエーヌさんがひとときの逢瀬を楽しむことができるようにがんばりますので‥‥」
ワケギ・ハルハラ(ea9957)も歩み寄ると、リュミナスと握手を交わす。
「ふむ‥‥貴殿がご令嬢の恋人か」
ノース・ウィル(ea2269)は軽く会釈すると、ミリエーヌの父親の目を欺く方法を他の四人と共に説明する。
「すまないけど、女装することになるだが」
リ・ルが用意したフード付きの衣装を着て女装し、なるべく話をしないようにするのが冒険者達の提案する作戦だった。これについて、リュミナスは異論はないようで、さっそく用意された衣装に着替える。
「あれから、何か進展はあったかい?」
着替えを手伝いながらリ・ルが尋ねる。だが、リュミナスは首を横に振るだけだった。
「フードを深くかぶれば、傍から見ても本人とはわかりにくいな」
変装を終えたリュミナスを見てソル・アレニオス(eb7575)が感想を言う。
「俺は背が高いから、父親の傍にいれば彼から注意を逸らすこともできるだろう。あまり冒険にも出かけていないから、依頼主に話すことも少ないしな」
「ご協力ありがとうございます‥‥」
リュミナスは作戦を提示してくれた仲間に頭を下げた。
「俺が屋敷に入っても大丈夫だろうか」
ハーフエルフであるポキール・キバヤシ(eb9910)が不安そうに仲間に尋ねる。ハーフエルフなどの混血種は禁忌に触れた存在として忌み嫌われる傾向があり、一般人にあまり好かれていない。
「あの屋敷だけなら全然問題はないだろう。ミリエーヌも彼女の父親も俺達冒険者に寛容な態度で接してくれるからな」
リ・ルの説明に胸を撫で下ろすポキール。
冒険者達はもう一人の参加者を加え、パーティー会場へと向かった。
*
「屋敷の中に入ってもフードをかぶったままで大変失礼ですが‥‥」
リ・ルはパーティー会場に入った冒険者をミリエーヌと彼女の父親に紹介した。その時、ノースは変装したリュミナスの手を引きながらパーティーの会場に入ったのだが、父親が怪しむ前に理由を説明する。
「彼女は、冒険者の間で最近よく当たると評判の占い師なのだが‥‥人に顔を晒さず、言葉を封印することで占いの力を高めているそうだ。ご了承願いたい」
ノースが説明すると、リュミナスは頭を深々と下げる。
「それと‥‥異性に触れないように、というのも占いの力を高めるのだったな?」
コクリ、とノースの振った言葉にゆっくりと頷くリュミナス。
「なるほど‥‥そのようなおもしろい占い師がいるのか。世界にはまだ見ぬものがたくさんあるわい」
ガハハハ、と豪快に笑うミリエーヌの父親だった。
「はじめまして。俺は傭兵を生業としている手前、戦いが生活の中心だが、たまにはこのようなパーティーもよいかと思って参加させていただいた。慣れぬため、至らぬ所があるかもしれないが、ご容赦願いたい」
礼服に着替えたソルは父親の前に立つと一礼した。ジャイアントの戦士であるソルの身長・体格は、屋敷の中でも圧倒的な存在感を誇っており、彼の傍にいるのであれば誰もが注目せざるを得ない。
「ほう‥‥立派な図体だな」
父親もソルに興味を持ったようだ。ソルは主にコロッセオの武闘大会で活動する闘士であり、その鍛え上げられた肉体と勝ち残るための鋭敏な感覚が父親の気を引いたのだろう。
「わしの息子と一度手合わせしてもらいたいものだな。ガハハハ!」
「階級を上げてから苦戦しているが‥‥ランキング上位に名を連ねたいものだ」
二人は調子が合うのか、武闘談議に花を咲かせていた。
「ソルさんがうまく注意を逸らしてくれているようです」
ワケギはホッと安堵した表情を浮かべた。ソルが話し相手になっているのと、彼の体が父親の視線を遮っていることで、しばらくは注意を引いてくれるだろう。
「こんにちは。お元気でしたか?」
ミリエーヌへ挨拶と親友の旅立ちの報告をするワケギ。
「あら‥‥異国へ旅立たれましたか‥‥」
報告を聞き、心配そうな表情をするミリエーヌ。
「彼なら大丈夫ですよ。それより、今日は楽しみましょう」
ワケギはミリエーヌに微笑んだ。
「そうだな。せっかく、このようなパーティーを設けていただいたのだから、いろいろ楽しみたいものだ。よければ、この機会にダンスの練習でもいかがだろうか?」
ノースはミリエーヌをダンスの練習に誘う。彼女は教師が務まるほど、ソシアルダンスが得意である。貴族の屋敷でのパーティーだから『ここで本領発揮』とノースは張り切っていたが‥‥。
「すみません。お気持ちは嬉しいのですが‥‥」
ノースはテーブルの横にある松葉杖に気づいた。ミリエーヌは足が不自由なので、ダンスを楽しむことができない。だから、このようなパーティーでは冒険者からの話を聞くのが唯一の楽しみであった。
「これは失礼‥‥」
ノースは話題を変え、今まで参加してきたパーティーについて話した。
「危険な戦いに赴くこともあるのだが、このようなパーティーに参加することも結構ある‥‥が、なぜか必ずナンパをしてくる奴がいてな。それも、いつも同じ者が」
「モテるんですね。うらやましいですわ」
「い、いや‥‥まぁ、なぜこのような話をするかというと‥‥結果は、そういうことだ‥‥」
あらら、と苦笑するミリエーヌ。
「意中の人はおられるのですか?」
「!! い、いや‥‥その‥‥私は‥‥」
女同士ともなれば、やはり色恋について話題は広がっていくのだが‥‥ノースは反射的にテーブルの皿に盛り付けられていたチーズに手をのばし、口に含んで言葉をごまかした。
「調子はどうだい、お嬢さん」
リ・ルがダーツを投げる仕草をすると、ミリエーヌもにっこりと微笑んで同じような動きで返事する。
「それはよかった」
ミリエーヌの隣に座ると、リ・ルは円卓の騎士との冒険を語った。年頃の女の子ともなれば、円卓の騎士は必ず話題になるものである。だが、彼女らの耳に入るのは噂程度のもので、実際にどのような人なのか、何をしているのかはあまり知られていない。リ・ルの語るリアルな円卓の騎士の話にミリエーヌは夢中になった。
「ワケギとも一緒に冒険したこともあったな」
「あの、猫を探したりした依頼ですね」
ワケギはリ・ルと一緒に参加した猫にまつわる冒険や円卓の騎士と一緒した依頼を話した。
「あと、ハロウィンのときにこんなこともありました」
ワケギはターニップ・ヘッドを取り出した。
「これの何倍もある大きなかぶのお化けが畑に現れて、それを退治したんです。おいしかったですよ」
「食べちゃったんだ。いいなぁ‥‥」
ワケギの話に笑みをこぼすミリエーヌだった。
「俺は冒険らしい冒険はまだなんだが‥‥」
ポキールは冒険者ギルドから出される依頼に参加するのはこれが初めてだった。あまり話す冒険もなく、自分がハーフエルフなのに耳を傾けるミリエーヌの態度に安堵し、ポキールは自分の人生感や思っていることを彼女に話した。
「ノストラダムスという神学者は知ってるか? なんでも噂じゃその予言がものすごい的中率だとか」
「へぇ‥‥そうなのですか。その人に恋占いしてもらったら、絶対当たるんですね!」
「いや、そういうのじゃないと思うが‥‥」
「では‥‥そろそろ占い師に恋の行方を聞くころだな」
弾む会話の中、ノースが立ち上がると父親の席に向かった。そろそろ、ソルが一人で相手するのも限界かということで、ノースが父親をダンスに誘う。
「よろしかったら、私と一緒にソシアルを踊っていただけないか?」
「ほう。冒険者の中にもダンスが得意な者がいるのか。どれ、一緒に踊ってみるか」
父親はノースの手を取り会場の中心へいざなう。チラッと少し後ろを振り向くと、ノースは仲間に視線で合図を送る。
「今のうちだな」
ノースの合図を受け、リ・ルは二人に会場から出て部屋に行くように指示した。
「二人きりで楽しんできてください」
会場ではノースの華麗な動きとステップのダンスに注目が集まる中、ワケギはそっと二人を送り出した。
「うまくいったようだな」
役目を終えたソルは席で出された食事と酒を楽しみながら、会場の中心で音楽に合わせて優雅に踊るノースと父親を眺めていた。さすが貴族といった感じでノースをリードする場面も見られたが‥‥やや歳を取っているためか、ダンスが終わると父親はかなり疲れた様子で、そのまま会場を後にした。
*
二人が会場を出た後、リ・ルは彼らが入っていった部屋の外を見張っていた。
幸いにも部屋に近づく者はおらず、それは今回の作戦が成功したことを意味する。
「ここにこられなくても、心の中ではうすうす気づいているかもしれません‥‥」
恋人同士を二人きりにするという目的は達成したが、親の心中まではわからない‥‥ワケギは父親が現れなかったからこその不安を残していた。
一介の冒険者が貴族の令嬢と恋結ばれることがあるのだろうか。
ひとときの逢瀬に夢中な彼らに、そんな愚問をしても無意味だろう。