【揺れる王国】若き騎士道
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:ezaka.
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月03日〜12月08日
リプレイ公開日:2006年12月08日
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●オープニング
●派閥に揺れる王国
「王妃が見つからないのはラーンスといるからに違いない。あやつはグィネヴィアを余から奪ったのだ。騎士道を踏みにじるとは円卓の騎士としてあるまじき行為!」
戦の決意を高めるアーサー王に、ラーンス派は釈然としない面持ちだった。
王が本気で勢力を募れば、近隣から多くの騎士や公爵、伯爵が集まる事だろう。
しかし、ラーンスは本当に罪人なのか? 様々な憶測が流れるものの、未だ深い霧の如く全容は見えていない‥‥。
「私達はラーンス・ロット様が無実だと信じている!」
「あぁ、ラーンス様は我々を引き連れて従えたまま王妃とお会いしていたんだ。王妃とラーンス様は一線を踏み越えてはいない!」
「それよりもアーサー王だ。一線を踏み越えた確証もなくラーンス様を罪人扱いとは!」
「そうだ! ラーンス様にのみ怒りの矛先を向けるのは、どうかしている!」
ラーンスを支持する勢力は、王妃と騎士は一線を踏み越えてはいなかったと主張すると共に、ラーンス・ロットへ怒りを露に向けるアーサーへの不信感を募らせていた。
この問題は王宮内に注ぎ込まれた濁流の如き勢いで、瞬く間に広がったのである。
――仕えるべき王を信じるか?
――無実の罪を着せられたラーンス・ロットを信じるか?
森を彷徨う凄腕の剣士も予想通り、かの騎士だった。
――私の行為は決して王への信義、王妃への忠節、この国への忠義を裏切るものではない。
私は、私の信念に基づき、真実を証明するまでは王宮には戻らぬ――――。
ラーンスは冒険者にそう答えたという。
「しかし‥‥ラーンス様は騎士を切り殺したとも聞いたぞ?」
「否、あれは騎士として卑怯にも不意打ちを行った故、咄嗟の対応だろう。ラーンス様は責められる者ではない」
事態は深刻な状況へ向かっていた。
ラーンス・ロット派は王宮から離れ、信じる者が退いたと噂される『喜びの砦』へ向かおうと準備を始めたのである。
喜びの砦へは10日以上の日数が掛かるらしいが、彼らの意思は固いものだった。
このままでは王国は二つの勢力に分断されてしまう。この事態を鎮められるのは――――。
●派閥に揺れる騎士
若き騎士は悩んでいた。王宮内は今や、アーサー王派とラーンス派へ二分するような状態にある。
騎士として、新米である彼とて、どちらに付くのか決断を迫られていた。
(「なぜ皆、どちら側に付くと決められるのだろう‥‥」)
若き騎士は揺れていた。アーサー王派の言い分も、ラーンス派の言い分も、彼にとってはどちらも頷けるのだ。
それは、彼がまだ若い騎士だからかもしれない。
新米である故に、王に対して忠義を尽くそうという気持ちは強く働く。意気込みという名の向上心がそうさせる。
同時に、騎士である彼にとってラーンスは憧れの対象だ。好意的な視点は、図らずも、現実の判断を甘くさせてしまう。
何より、どちらにおいても騎士がまだ浅い立ち位置にしかいないことが問題だった。
両方を天秤にかけても、所詮深い部分で思い入れに足らないそれらはつり合ってしまうのだ。
「‥‥辿り着いてしまったか」
幾分か落ちた声色で呟き、騎士はその扉の前で足を止めた。そこはキャメロットのギルドだった。
本心は決まらないまま、結局騎士はアーサー王派として事態の鎮静化を依頼するという選択をした。
それをしなかった者は、反逆の罪を犯そうとする対象として認識されてしまうからだ。
打算と保身を天秤にかけた事が、騎士には少し情けなく思えた。
「ご依頼、確かに承りました」
ペンを置き、ギルド受付係は羊皮紙を正した。
そこへ記されていたのは、ラーンスのもとへ向かおうとする騎士達を止めるべく、街道で待ち伏せて説得をするというものだった。
(「本当に、これでいいのか?」)
騎士は自身に問いた。体裁のために身を振ることが、果たして自分の求めていた騎士道なのか、と。
答えはここでは出なかった。だから、騎士は一つの賭けに出ることにした。
決起したラーンス派の騎士達とまみえる事で、彼らの言動に自身の心を動かされるか否か。
――仕えるべき王を信じるか?
――無実の罪を着せられたラーンス・ロットを信じるか?
若き騎士は、今回の依頼でそれを見極めてみようと思った。
●リプレイ本文
●選択肢
『喜びの砦』へ続く街道を見据える、八対の眼。冒険者達はこの街道脇の茂みで、ラーンス派の騎士達を待ち伏せていた。
おそらく、もう間もなく到着するだろう。テレスコープを使用したミッシェル・バリアルド(eb7814)が、こちらに向かう騎士達を視認している。
「それで、あなたはどちらに就くの?」
白く長い髪を揺らして、シュネー・エーデルハイト(eb8175)は若き騎士へ訊ねた。
ここまでの道中、そして現在至るまでに、騎士は自らが派閥に迷っているという事を冒険者達へ明かしていた。
「アーサー王派にラーンス派ねぇ。そんなんどっちでもいいけどな、ちゃんと『正しいこと』が出来る派閥に入れよ?」
セティア・ルナリード(eb7226)は、視線だけを騎士へ向けて言う。そこへ、横からカイト・マクミラン(eb7721)が顔を覗かせた。
「あら、私は無理に派閥を選択する必要は無いと思うわ。正義だの真実なんて立場によって変わるんだから」
吟遊詩人らしく、セリフはまるで歌うように紡がれる。カイトの言葉に、キッシュ・カーラネーミ(eb0606)も頷いた。
「そうね、大事なのは『正解を選ぶ事』じゃないのよ。何を信じて貫くか、じゃないかしらね」
「私の‥‥信じること‥‥」
騎士には、それがまだ見えない。だから歯がゆい。浮ついた気持ちに、知らず眉をひそめた。
「皆が皆、譲れない信念を持っているわけじゃないわ」
シュネーは騎士を察してそう告げる。少なくとも、彼が真剣に悩んでいる事は感じ取れた。
だからこそ、周囲に流されるという安易な道ではなく、自分の意思で後悔しない道を選んでほしかった。
「皮肉な話ですね‥‥一人の騎士の人望が、混乱の種となるなんて」
マルティナ・フリートラント(eb9534)は、感情を顔には出さずに呟いた。
国を支える騎士達が揺らぐ事は、それこそ非難されるべき事態に感じる。
人望という悪意の無い感情が、今は国にとって足枷となりかねないのも事実だ。
「天下万民の生活と安寧の為に、騎士がいがみ合ってはならないのですけどね」
ヴェニー・ブリッド(eb5868)も、王国に起こる現状を憂いた。
「だな、騎士が減ると一般人に被害がいくって言うか。デビルの襲撃でも受けたら、キャメロット全体がオークニー城みたいなことになりかねないぜ」
ぞっとしないな、とセティアは身震いしてみせた。そんな冒険者達を、騎士は眺め見る。
「来ました!」
その時、ミッシェルが少し先の街道を指差した。ラーンス派の一団がついに辿り着いたのだ。
「説得ですむなら、それに越したことはなく‥‥ただ、止まらぬようであれば、応戦ですか」
できるなら戦闘は避けたい。マルティナにとって、ここで戦うことは本意ではなかった。
「じゃあミッシェル、もしもの時は合図を送るわね」
先行く足を止め、カイトが振り返りざまに告げる。何か算段があるのか、ミッシェルも心得た様子だ。
「あなたは一緒に行かないのか?」
「私は伏兵としてここに待機します。戦闘になった場合は弓で援護しますから」
問う騎士に対して、ミッシェルは苦笑する。自分がイギリス語に冴えない事は自覚していた。
だから説得は仲間に任せ、自身は別の役割を担おうと考えたのだ。騎士はそれに感心した。
「この王国は、民に恵まれている‥‥。こんな事を私が言うべきではないが、今回の件、あなた方冒険者の方がよほど冷静な眼を持っているようだ」
騎士は自嘲の笑みを浮かべた。それは、自らの言動を振り返ってのものだ。
「諭されてもなお、心を決められずにいる私は愚かなのだろうな。だが、もうしばらく付き合ってほしい」
そう言って、今度こそ騎士はラーンス派一団のもとへ向かった。その背を追う冒険者達。
ほんの僅か、何かに吹っ切れたような若き騎士の願いを、誰も断ったりはしなかった。
●若き騎士道
「邪魔立てするな、そこを退け!」
街道上で、怒声が上がる。ラーンス派の騎士達は、突然進行方向に立ち塞がった冒険者一行を睨み付けた。
「あのね、あんた達は砦に集まっていったい何がしたいの?」
一向に話を聞こうとしない騎士達の態度に呆れて、カイトは溜息を吐いた。これでは埒があかない。
そこで、カイトは以前ラーンスに会った時の話を持ちかけることにした。案の定、それには騎士達も興味を引かれたようだ。
「‥‥わかる? 卿の言葉に国王への恨み言は一言もないのよ」
自分の面したあらましを話し、カイトは騎士達を見据えた。今度は、キッシュが口を開く。
「王を頼むと言った、それが彼の意思。なのに貴方達の行動は、彼を本当に反逆の首謀者してしまうわ」
共に戦いたいと願うなら、力づくで動く以外にも方法はある筈―――国王も含めて、事は皆で考えるべきなのだ。
キッシュの言葉に、ラーンス派の騎士達は一瞬押し黙った。その心が揺れたのを、ヴェニーは見逃さない。
彼女は、ラーンス卿にもアーサー王にも、それぞれ騎士として王としての道があることを説いた。
ラーンスは自らの潔白を自らの手で証明し、主君であるアーサー王への節をまっとうしようとしている。
アーサー王は領民の主として、混乱の中心人物であるラーンスを追い、イギリスの民に法の所在を明らかにする義務がある。
ただ、両者が主君と部下というだけでなく、親友という間柄であることも周知の事実で。
「二つの立場の狭間で最も苦しみ、最も事件の真相を知りたいのはアーサー王であることを忘れてはいけません」
いたずらに混乱を助長するような行為は、両者の道を汚すことに他ならない。
ヴェニーは、騎士達の起こそうとしている行動を指して諭した。これにはラーンス派の騎士も反論する。
「だからと言って、今の王の命令に我々は従うことはできない!」
「そうだ! 危険に晒されるラーンス様を放っておくことなど‥‥」
一人の騎士が、剣に手をかける。待ったをかけたのはマルティナだった。
「ここであなた方が卿のもとへ行って、本人が喜ぶでしょうか? それこそ王の不況を買い、卿にとって不利な状況になるだけです!」
マルティナは事前に得ていた情報から、下手に国王擁護な意見は火に油だと心得ていた。
だから、事はラーンスのためにと訴える。
そしてカイトも、いつでもミッシェルに合図できる体勢を取りつつ、あえて苦言を呈した。
「ラーンス卿に必要なのは時間であって、手足となって働く騎士では無いと思うわよ」
それはラーンスのためにと信じてきた騎士達にとって、辛辣なものだった。だからこそ、誰かが言っておく必要があるのだが。
「言うな‥‥ならば我らは何のために、何を信じれば‥‥!」
わなわなと震え、ついに一人が剣を抜いた。だがその表情は、誇りとは縁遠い、覇気のないもので。
(「ああ、そうなのか」)
若き騎士は、対峙する騎士達の姿に何かを見出した。そして、自らの腹が決まったことを意識した。
「私は、あなた方を止めます。そして王国へ連れ帰り、しかるべき処置を受けていただきます」
真っ直ぐに、騎士はラーンス派の一団へ向かう。迷いのないその眼に、誰かがたじろいだ。
「くっ、騎士道が何たるかも知らぬ若造が! 王の派閥につけば身は安泰だとでも思ったか?」
嘲る声。しかし騎士は動じない。歩みを緩めることもない。
「勘違いしないでほしい。私はどちらの派閥にも属すつもりはない。あなた方を捕らえるのは、王国に身を置く騎士として、それが正しいと思っただけのこと」
初めから、派閥を選ぶ必要などなかったのだ。自分にとって足りなかったのは、何をしたいのか、という意思。
意思があれば、どんな立ち位置にいようと揺らぐことはない。それに沿うことが自分の見付けた騎士道だと、ようやく分かった。
「知った風な口を!」
いきり立ったラーンス派の騎士が、冒険者達へ剣を向ける。そこへ、鋭い音が地を刺した。
ミッシェルの放った牽制の矢だ。戦闘に及ぶことを咎める、警告でもある。
「どうするの? 私はあなたの意向に従うわ」
シュネーは騎士の言葉を待つ。彼が望めば、武力行使も厭わないことを暗に告げて。騎士は首を振った。
「可能な限り、血を流したくはない。できるだろうか?」
仲間へ向けて、騎士は問いた。見遣れば、戦術を任された冒険者達は皆、頼もしい笑みを浮かべていた。
●心を改めるもの
捕縛には、さほど時間を要さなかった。
理由の一つにはラーンス派一団が少数だったこと、もう一つには冒険者達の戦術が捕縛に功を奏したことが挙げられる。
多少の血は流れたが、マルティナのリカバーによって、誰も大事に至ることはない。
ラーンス派一団も、縛に付けられたことにより抵抗する気は失せたようだ。それどころか―――。
「我々が間違っていたと言うのか? いや、そうではないな‥‥冷静さを欠いていたということか」
捕縛された一人が、そう呟いた。自身の言葉に納得するように。
「ええ、情熱よりも冷静になって物事を捉えるべきなのでしょうね」
王国の騎士であるのならば。ヴェニーには、やはり今回の騎士達の行動を快くは思えなかった。
「確かに、今回の一件が国を割ってまで争うことなのかには疑問を感じます」
ミッシェルも、騎士達には他にすることがあるだろうと思う。そうでなくても物騒なのだ、最近は。
「ラーンス卿が正しくても、ラーンス派の行動が正しいとは限らない、だな」
セティアの言葉に、騎士達は僅かに項垂れた。自覚ができたのか、反論はない。
「けれど騎士達の力が必要となる時は、必ずやってくると思う。ただ、それは今じゃないけどね」
女の勘だと言って、キッシュはくすりと笑った。対して、若き騎士は心中で思う。
冒険者達の意思は自由だ。だからこそ彼らには、頑なになった人の心を動かすことができる。
本当に王国が危機に瀕した時、必要とされるのは冒険者達の方かもしれない、と。