【物資補給阻止】善意の押し売り
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:ezaka.
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月01日〜01月06日
リプレイ公開日:2007年01月09日
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●オープニング
●止まらぬ流れの中で
「ラーンス様!」
深い森の中を捜索していた騎士は、見つけ出した円卓の騎士を呼んだ。ラーンス・ロットは振り向くと共に深い溜息を吐く。
「またか‥‥いくら私を連れ戻そうとしても無駄です」
「連れ戻す? 私どもはラーンス様と志を同じくする者です。探しておりました。同志はラーンス様の砦に集まっております」
「砦だと!? 志を同じく?」
端整な風貌に驚愕の色を浮かべて青い瞳を見開いた。
騎士の話に因ると、アーサー王の一方的なラーンスへの疑いに憤りを覚えた者達が、喜びの砦に集まっているという。
喜びの砦とは、アーサー王がラーンスの功績に褒美として与えた小さな城である。この所在は王宮騎士でも限られた者しか知らないのだ。
状況が分らぬままでは取り返しのつかない事になりかねない。ラーンスは喜びの砦へ向かった。
――これほどの騎士達が私の為に‥‥なんと軽率な事をしたのだ‥‥。
自分の為に集まった騎士の想いは正直嬉しかった。しかし、それ以上にラーンスの心を痛めつける。
もう彼らを引き戻す事は容易ではないだろう。
「ラーンス様、ご命令を! どんな過酷な戦となろうとも我々は立ち向かいましょう」
――戦だと? 王と戦うというのか?
ラーンスは血気に逸る騎士達に瞳を流すと、背中を向けて窓から覗く冬の景色を見渡す。
「‥‥これから厳しい冬が訪れる。先ずは物資が必要でしょう。キャメロットで食料を補給して砦に蓄えるのです。いいですね、正統な物資補給を頼みます」
篭城して機会を窺う。そう判断した騎士が殆どであろう事に、ラーンスは悟られるように安堵の息を洩らした――――。
「アーサー王、最近エチゴヤの食料が大量に買い占められていると話を聞きました。何やら旅人らしいのですが、保存食の数が尋常ではないと」
円卓の騎士の告げた報告に因ると、数日前から保存食や道具が大量に買われたらしい。勿論、商売として繁盛した訳であり、エチゴヤのスキンヘッドも艶やかに輝いていたとの事だ。
「‥‥王、もしやと思いますが、ラーンス卿の許に下った騎士達が物資を蓄えているのでは‥‥」
「あの男は篭城するつもりか‥‥」
苦渋の思いに眉を戦慄かせるアーサー王。瞳はどこか哀しげな色を浮かべていた。そんな中、円卓の騎士が口を開く。
「冒険者の働きで大半は連れ戻しましたが、先に動いた騎士の数も少なくありません。篭城するからには戦の準備を進めていると考えるのは不自然ではないでしょう」
――戦か‥‥本気なのか。出来るなら戦いたくはないが‥‥。
「ならば物資補給を阻止するのだ! 大量に買い占めた者から物資を奪い、可能なら捕らえよ!」
難しい命令だった。先ずはラーンスの許に下った騎士か確かめる必要があるだろう。全く無関係な村人や旅人が聖夜祭の準備で買う可能性も否定できない。保存食というのが微妙だが‥‥。
それにこれは正しい行いなのか? 否、そもそも王を裏切ったのだから非はラーンス派にある。王国に戦を仕掛けるべく準備を整えるとするなら、未然に防ぐのは正当な行いと言えなくもない。
――なぜ戻って来ないラーンスよ。おまえの信念とは何だ? なぜ話せぬ‥‥。
聖夜祭の中、王国の揺れは終わりを迎えていなかった――――。
●憂えるもの
その日ギルドを訪れたのは、古参の騎士だった。
王命を成すべく持ち寄った依頼を手に、受付のカウンターへ向かうと、先客の話が耳に入る。
「助けて頂いた恩に背くつもりはありません。しかし、要求があんまりなもので‥‥」
話すのは、近隣の村人を名乗る男だった。聞くところによると、村の窮地を数名の冒険者に救われたらしい。
その行為自体は感謝の限りだったと言う。だが報酬を渡す段階で、ある問題が生じた。
冒険者達に要求されたのは、法外な量の農作物を提供することだった。
「量が量なので、すぐに用意はできないと時間を頂きました。‥‥何とかその間にお知恵を借りられないでしょうか?」
件の冒険者へ礼はしたい。だがあくまでも常識の範囲内でだ。村人の依頼は、法外な要求を引き下げる交渉を願う事だった。
「失敬。今の話、もう少し詳しく聞かせてくれんかな?」
そう声を掛けたのは古参の騎士だった。村人へ立ち聞きした事を詫びると、彼は自身の素性を簡潔に明かした。
一瞬訝しがった村人も、彼が王宮の騎士であることを聞いて警戒を解いたようだ。
「私の村は、小さいながら今年一年農作物に恵まれまして。備蓄も整っていたのですが、それを何者かに盗まれるという被害が起こったんです」
その時、偶然村を訪れたのが問題の冒険者達だった。一行は村人の話を聞くと、快く解決に乗り出してくれたらしい。
程なくして、冒険者達より事件の解決と犯人の捕縛が伝えられた。奪われた農作物も、幸い欠けることなく戻ってきたそうだ。
「‥‥なるほど。備蓄を狙った者と、護った者、どちらも余程食うに困っておるようだな。因みに、犯人を貴殿らは目にしたのかね?」
思惑のある素振りで、騎士は村人に訊ねた。返ってきた答えは否だ。
「冒険者の方々は捕えた足で、しかるべき場所へ賊を連行したと仰ってましたので‥‥」
その言葉通り、以降被害はぴたりと止んだ。だから村人には何も疑うところはない。
だが一方の騎士は、何かに納得したように頷いている。
「あの‥‥それで依頼はどうなさいますか?」
書きかけの依頼書を見遣り、声を掛けたのは受付係だ。村人も中途だった事を思い出し、お願いしますと頭を下げた。
そして村人が去った後―――騎士は受付係にある申し出をした。
先程の村人の依頼に挙がっていた冒険者達が、ラーンス派の騎士かどうか調査してほしいというものだった。
物資補給に急いているラーンス一派と、件の冒険者達。タイミングがタイミングなだけに関連性は疑われる。
かと言って調査をするにも、仮に相手がラーンス派のそれであった場合、同胞である古参の騎士では目立つだろう。
相手にも警戒される事は予想できた。だからこそ、その役目を請け負う第三者が必要だった。
すべては相手がラーンス派か否かが判るまで。まだ下手に動くわけにはいかないのだ。
(「偶然は偶然として、儂の杞憂であればよいのだが」)
件の冒険者とラーンス派の騎士、もし両者が同一であるのならば―――これほど愚かな事はない。
王と王国の民を護る者として剣を授かった者が、その民に被害を及ぼすなど。
如何なる理由があろうとも、許される所業ではない。
もし事実ならば、王がどれほど心を痛められることか。
「なぜ、ご心情を察してやらんのだ‥‥」
眉間に刻まれた、深い皺。それは誰に宛てたものだったのか。
●リプレイ本文
●華やかな作戦会議
依頼のあった村の外れの林で、一同は顔合わせを果たした。
主に依頼内容の確認と、報告の際の方法や手順を古参の騎士から告げられる。
そんな中、先ほどから騎士は目に映る少々特異な光景に戸惑っていた。
「‥‥何とかならんのかね、それは」
それ、と騎士が指したのは大宗院透(ea0050)の両脇から抱き付いている二人の娘のことである。
指されたエリー・エル(ea5970)と大宗院亞莉子(ea8484)は、何やら二人で会話をしているようだ。
「こっちが母のエリーさんで、こっちが妻の亞莉子さんです‥‥」
面倒臭そうにしながらも、透は簡潔に説明をした。
「全然、義母さんに見えないなぁ。エリーちゃんって呼んでいいってカンジィ」
「うん、ちゃん付けがいいなぁん」
紹介された二人も今回が初対面らしいのだが、似通った性格のおかげか、すっかり馴染んでいる様子だ。
「嫁と姑は仲が悪いのが定番なはずですが‥‥」
「仲良きことは美しきかな、だよ。う〜ん、家族かあ」
ぼやく透を制して、微笑ましく光景を眺めるのはインデックス・ラディエル(ea4910)だった。
記憶喪失である彼女には、家族というものに対して何か思うところがあるのかもしれない。
「あー。話を、進めてもよいかな?」
置いてきぼりにされた騎士が注意を引く。それぞれの世界から引き戻された一行は、誤魔化すように空笑いを浮かべた。
それでも彼らは皆、プロだ。すぐさま思考を切り替えて臨むその表情に、騎士も安心して依頼を託すことができたのであった。
●雄弁な交渉人
作戦に際して、インデックスはギルドで報酬の相場を調べていた。
それと今回村人が要求された報酬を比べてみると、やはり度を逸していることが分かる。
インデックスは聖書を手に奮起した。ここはクレリックとして、存分に腕を振るわねば、と。
「それが、何だと言うのだ」
村はずれの小屋にて、件の冒険者の一人が警戒を浮かべ睨む。
報酬に関しての交渉は、インデックスとエリーが受け持つことになっていた。
「なんでぇ、食料なのぉ? お金の方が冒険者にとってはぁ、便利じゃない?」
問いただすエリーの明るい声に、冒険者は眉をしかめた。指摘は、冒険者達にとって都合の悪いものだったのかもしれない。
「何故そんなに多くの食べ物を欲するのですか? 訳があるならお話しください」
二人から答えを求められて、冒険者達は回答に窮すると共に一層警戒を強めた。
エリーはその気配を見逃さず、彼らに裏があることを僅かに察する。
「ただ、求める声をあげるだけが解決ではないです。皆で考えれば、きっと良い考えが、主のお導きがあるでしょう」
相変わらず、説法は続いていた。熱心なその振る舞いは、冒険者達に余計な勘繰りをさせずに済んで好都合だった。
やがて、冒険者の一人が口を開く。
「‥‥どうしても、食料を必要とされる方がいるのだ」
事は急を要すると、冒険者は神妙な面持ちで呟いた。
すると、エリーは自分の用意した口上を用いて、だんだんと追い込むように選択肢を冒険者から奪ってゆく。
会話が誘導されていることに、冒険者は気付いていないようだ。
「それじゃあ、待っている時間なんてないじゃん。先ずは少しでも持って行きなよぉん。何なら手伝うからさぁ」
手伝う、と言われて冒険者達の顔が強張る。それには及ばないと、別の誰かが慌てて口を挟んだ。
そこへ上手い具合にインデックスの説法が追い討ちをかける。
「恩に報いることは人の道。けれど、村の方々にも家族とその暮らしがあり、相応以上に多くを求めるのは果たして人の道なのでしょうか!」
言いながら、インデックスは次々と聖書の引用を述べてゆく。そのまま宗教勧誘にでも持ち込みそうな勢いだ。
それに先に音を上げたのは、冒険者達の方だった。
「わ、分かった。もういい! ならば村の者達に伝えてくれ。出来る限り、せいぜい恩に報いてくれとな」
「さっすがぁ、善意の冒険者様ねぇん。さあインデックスくん、そうと決まれば村の人達に報告へ行きましょぉん」
エリーは未だに説法を続けるインデックスの手を引き、早々に小屋から退散することにした。
相手がラーンス派であろうがなかろうが、これで村人の懸念は解消されるだろう。
ならば長居は無用。交渉さえ取り付けたのなら、後は別班の調査結果次第で事は決まるのだから。
●忍び寄る暗躍者
交渉班とは別に、透と亞莉子は日中冒険者達についての調査に乗り出していた。
村娘に変装した二人は、少しでも事情を知る者に聞き込みをして情報を得た。
賊と冒険者の戦闘があったとされる場所、透はそこを訪れ事実確認と痕跡を探す。
亞莉子は滞在中の冒険者達に食事を届け、そこで会話を交わしながら付け入る隙を窺った。
冒険者の中の一人は、その思惑に見事嵌ってくれたと言えよう。
夜に二人だけで会う約束を、すんなりと受け入れてもらえたのだ。
そして、夜は訪れる。暗闇の中うごめく影が一つ。透である。
目の前の小屋からは物音が途絶えて久しい。おそらく、全員が床についたのだろう。忍び込むのなら、今が好機だった。
「“冒険”者を“望見”しているだけでは何も分かりません‥‥」
確信的に呟かれたそれ。だが周囲に彼の言葉を聞く者はおらず―――独り言だった。
気を取り直して、透は事件の証拠となる物証を探すことにした。こちらの痕跡を残さないよう、細心の注意を払いながら。
一方、時を同じくして。亞莉子は村の中の酒場でグラスを傾けていた。美しく飾った彼女を、振り返る男達も少なくはない。
だが亜莉子の隣席には空のグラスが置かれており、彼女が人を待っていることを示していた。
ほどなくして、待ち人は現れた。昼間の冒険者の一人である。亞莉子は薄らと目を細めて彼を迎えた。
「それじゃ、お酒でも飲みながら、お喋りしましょ」
アルコールを男のグラスへ注ぐ。芳しい香りから、酒が上質なものであることが窺える。
亞莉子のリードと、酒の度数の強さも手伝い、男を酔わせることは容易かった。
そうして必要と思われる話からそうでない話まで、根掘り葉掘りと聞いてゆく。
男はもはや、亞莉子の手中にあるも同然だった。
(「そろそろ潮時ってカンジかなぁ」)
夜も更けた頃、これ以上を男から聞き出すことが不可能だと、亞莉子は察した。
そっと、男の肩に手を触れる。急に近くなった距離に、男は気を良くした。何やらいい香りが鼻孔をくすぐる。
「‥‥‥?」
その時、ふと感じた違和感。男の意思とは関係なしに眠気が襲う。
調子に乗って飲みすぎたのだろうか。男にはその程度の認識しかない。
先ほどの香りが亞莉子の作り出した眠気を誘う香などとは、夢にも思わなかった。
やがて、男は自身が罠に掛けられたことすら知らず、意識を手放した。
「私は透だけのものってカンジィ」
今は答えない男に対して、亞莉子は告げる。長い髪を、さらりと後ろへ流して。
睡眠香―――春花の術とは違う甘い香りが、ふわりと舞った。
●善意の押し売り
古参の騎士が一行から報告された調査の内容は、このようなものである。
透の方は、まず追っていた賊の痕跡が途絶えていたことを明らかにした。
そして小屋の中では、一介の冒険者では持ち得ないであろう高価な装備品を複数発見している。
「冒険者達がそれを身に着けていたところを、誰も目にしていません‥‥」
透の言葉通り、村人への聞き込みでも彼らの装備はありふれた質素なものばかりだという証言がある。
「手持ちがあるにも関わらず、あえて質の落ちた装備品を身に付ける、か」
古参の騎士は唸った。冒険者達の動向は、さすがに不自然ではある。
「亜莉子さんの方はどうだったの?」
インデックスは、もう一人の調査班に訊ねた。亞莉子は意味深に笑う。
「こっちはぁ、相手が教養あるって事とぉ、砦がどうのって話を聞き出せたってカンジィ」
どれだけ巧妙に隠し事をする人間であっても、酒が入ればボロは出るものだ。
「砦とは、喜びの砦のことかね?」
騎士はその表情を変え、亞莉子に詰め寄った。急なそれに驚きつつも、亞莉子は状況を思い出しながら話す。
「うぅん、そこまでは言ってなかったけどぉ、何か誰かが待ってるとか言ってたよぉ」
「あ、そう言えば昼間私達が行った時も、そんなような事言ってたかも」
インデックスはエリーに相槌を求めた。確かに、その場にいたエリーも記憶にある。
冒険者達は、自分達でない誰かのために食料を必要としているような口振りだった。
「私達に手を貸されるのをぉ、極端に嫌がってたねぇん」
エリーはその時の様子を思い出しながら、訝しがる。話を聞いていた騎士の印象も、同じだった。
これらが冒険者達をラーンス派の騎士だと決め付ける決定的な証拠とは言い難いが、疑う線は濃い。
「‥‥ふむ。ここは一つ、行動に出てみるとするか」
些か危うい賭けでもあるが、古参の騎士は冒険者達の捕縛に乗り出すことを決めたようだ。
そして問題の食料受け渡しの期日が迫る頃、騎士は数名の部下を引き連れて冒険者達の前に姿を現した。
手にした証拠を突きつけると、抵抗を見せたものの彼らは観念して自身の素性を明らかにする。
事の顛末は、彼らがラーンス派の騎士であることから語られた。
「何も知らないのは、村人だけですか‥‥」
透は後で伝え聞いた真相に、感慨なく呟いた。
事実は賊と冒険者が同一であり、善意を笠に食料をせしめるための狂言だった。当然今は、騎士によって彼らも捕縛されている。
だから村人にはインデックスの説法によって冒険者達が考えを改め、報酬を辞退したとだけ告げてある。
歪んだ事実など、知らずに済めばそれに越したことはないという騎士の提案だった。
だが果たして、歪んでいるのは妄執するラーンス派の騎士に限ったことなのだろうか。