みんなの水辺

■ショートシナリオ


担当:ezaka.

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月17日〜02月21日

リプレイ公開日:2007年02月23日

●オープニング

 ゲロゲロゲロゲロ。
 蛙の声が、池に波紋を描く。合唱は一匹や二匹のものではない。
 周囲には普段いるはずの動物達の姿もなく、池はあるべき姿を失っていた。
「みんなのいけなのに‥‥」
 水辺から離れた茂みで、少女は変わり果てた景色に項垂れた。
 今の池にいるのは蛙だけ。しかもそれはポイゾン・トードというモンスターだった。
「ガーちゃんは、わたしがまもってあげるからね」
 腕の中で丸くなる幼い水鳥を、少女はそっと抱きしめた。
 この水鳥を見付けたのは、丁度ポイゾン・トード達が池に現れた頃である。親鳥はいくら探しても見当たらなかった。
 動物達がだんだんと離れていったのも、やはりこのモンスターが原因なのだろう。
 池を遊び場として、動物達とも親しんできた少女とって、今の状況は見るに堪えないものだった。
 だから少女は、自身にできる行動を起こすことに決めたのだ。
「いっぴき、にひき、さんびき‥‥」
 まずは池にいるポイゾン・トードの数。何日か続けて計測したところ、およそ10匹前後いることが分かった。
 ただし、常に水辺にいるのは4〜6匹ほどだ。他のポイゾン・トードは餌でも探しに行っているのかもしれない。
「えーっと、おおきいカエルさんは、にひきね」
 少女の言う大きい蛙とは、ポイゾン・トードより更に大きいジャイアントトードというモンスターのことである。
 二匹のジャイアントトードは、池の中ほどにある岩場にその巨体を陸揚げしていた。ここが彼らの定位置らしい。
 少女は自身の見たものを忘れないよう脳裏に焼き付けてゆく。そして、きびすを返してある場所へと向かうのだった。

 時は夕刻。ギルドを訪れる人間の数も少し減った頃。受付係はカウンターの整理にいそしんでいた。
「あの」
 誰かの呼ぶ声。顔を上げるが、カウンターの向かいには誰もいない。
「ごめんなさい」
 幼い少女の声だろうか。もしやと思ってカウンターから身を乗り出して見ると、今度は確かにその姿を確認できた。
「あ、ごめんなさい」
 こちらの姿に気付くと、少女は軽く会釈をしてみせた。なぜかしきりに謝罪の言葉を述べている。
 もしかして彼女の言う『ごめんなさい』とは『ごめんください』のことなのだろうか。とりあえず受付係はそう解釈した。
「いらっしゃい、お嬢さん。ご両親の用事を待っているのかな?」
 受付係は室内を見回した。少女が、他のカウンターで依頼を申し込んでいる誰かの連れだと思ったからだ。
「ちがうよ。わたしはユン。こっちはガーちゃん」
 少女は名を名乗ると、少し背伸びをして友達をカウンターに乗せた。
 それは紛れもなく小さな水鳥で。真ん丸い瞳で受付係を見上げると、彼は一鳴きした。
「あのね、ガーちゃんをいけにかえしてあげたいの」
 少女はそう言うと、自身の目で見たことを一通り話し始めるのだった。

●今回の参加者

 eb8739 レイ・カナン(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb9639 イスラフィル・レイナード(23歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb9760 華 月下(29歳・♂・僧侶・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0143 メイヴィス・ステルフィア(33歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ec1054 ノヴァ・デス・ガイス(38歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

トレント・アースガルト(ec0568

●リプレイ本文

●策
 キャメロットから半日ほどの距離にある目的地、問題の池はもう目前に迫っていた。
「ここからは僕たちでやりますから、ユンさんはガーちゃんと待っていてください」
 華月下(eb9760)は、やんわりとユンを制した。ここまでの案内も含め彼女の奮闘には頭が下がるが、この先は冒険者の領分だ。
「頑張ったわね。でもここから先は危険だから、私たちに任せてちょーだい」
 今度はレイ・カナン(eb8739)が告げる。一緒に連れて行ってもらえないことに気落ちしているユンを、盛り上げるように。
 もう一度、レイは任せてと念を押して先行こうとした。しかしそんな彼女を、ユンは止めた。なぜか困ったように。
「おねえちゃん‥‥いけはあっち」
 ユンが指差したのは、レイが進もうとする方角とは真逆で。その実レイは迷子の得意なエルフだった。

「二度と現れないようにするには全滅させるのが最良だな。下手に生かして戻ってこられるよりはいい」
 ユンと別れ、一行は今度こそ目的の池へと向かっていた。先頭を務めるのは、イスラフィル・レイナード(eb9639)だ。
 今は敵に対しての対策を相談し合っている。そこへ、メイヴィス・ステルフィア(ec0143)がある提案を持ちかけた。
「できれば、池から少し離れたところで戦うようにしないかな? もし、池に毒が流れたら大変だとおもうから‥‥」
 はっとしたのは誰だっただろうか。ポイゾン・トードの毒―――そこまでは皆、考えが回っていなかった。
「だが方法はどうするんだ? 蛙どもは池に居座っているんだろう?」
 肝心のそれが思いつかず、ノヴァ・デス・ガイス(ec1054)は首を傾げた。
「でしたら蛙達の特性と、攻撃範囲を利用しておびき寄せましょう」
 策を練りだしたのは、ロッド・エルメロイ(eb9943)だった。彼は自身の知り得る情報を他の仲間にも伝達してゆく。
 数で勝るモンスター達に、果たして冒険者はどう立ち向かうのだろうか。

●水辺の攻防
「ヴォオオオオオオオオオオオオオ!」
 空気が震えんばかりの声を張り上げたのはノヴァだ。水辺にたむろするポイゾン・トードへ向かって、突撃を試みる。
 一斉に、モンスター達が警戒の態勢を取った。それを確認すると、すぐさまノヴァはきびすを返す。
 注意を引き付けることには成功したようだ。ノヴァを外敵と判断したモンスター達は、彼を排除しようと後を追ってくる。
「ほらほらー、こっちだよっ!」
 メイヴィスも近づいてくる敵に対し構えを取った。視認できるポイゾン・トードの数は5体、手加減をできる余裕はなさそうか。
「皆さん、後方は任せてください。毒を受けた場合はすぐに僕のところへ」
 最後尾で陣を守るのは月下だ。前衛が少しでも戦闘に専念できるよう、死角に備えるために。
「あんたも無理はほどほどにな。術を使ってる時の援護は俺がする」
 そうして後衛の護衛を担うのはイスラフィルだ。モンスターへ向ける眼は少々顰められている。彼は蛙が苦手だった。
 同じくレイも眼前のモンスターを見据え、距離を置いた。青い光が湧き上がる。
「水のウィザードとして、美しい池を汚すモノは許せないのよね。あんなに小さなユンだって頑張ってるんだから、やるしかないわ」
 水球、ウォーターボムがポイゾン・トードを捉えた。前衛に翻弄され気が逸れていた敵にとって、避ける暇などない。
 一匹、二匹と敵が倒れてゆく中。仲間の危険を察知したのか、今まで水辺にいなかったポイゾン・トードも現れた。
 その内の一匹が、イスラフィルめがけて毒液を発射する。しかし素早く回避したイスラフィルは、そのまま迫る敵を迎撃してゆく。
 月下のホーリーフィールドも効いているおかげか、時々避け切れなかった毒液も彼に届くことはない。
「大丈夫?!」
「ああ、平気だ! ここを片付けたらそっちへ加勢する!」
 メイヴィスが後方のイスラフィルへ声を投げる。前衛は前衛でそれが手一杯だった。
 幸い後衛の方が敵の手数は少ない。それさえやり切れば戦況は多少楽になるだろう。
 そんな乱戦の中、こちらでは互いの背を守るように二人のウィザードが並んでいる。ロッドはレイに視線を合わせた。
「これから引火性の術を敵の中心に放ちます。もしも周囲に火の手が上がった時は」
「私の術で消火すればいいのよね? 任せて!」
 火と水、相反する属性を持つ二人だが、呼吸は一致している。ロッドの合図が全員に向かって叫ばれた。
「伏せて下さい!」
 瞬間、直径15m程もある炎の玉がモンスターを巻き込んだ。攻撃はまだ終わらない。
 ロッドが狙ったのはこの先に起こる二次的な作用―――つまりは爆風による衝撃波だ。
 それは池の中心で座を構えていたジャイアントトードにも及び、2体共を池から吹き飛ばすことに成功した。
 因みに、予め自身に付与しておいたフレイムエリベイションによる効果も、一つの成功要因である。
 これにより残っていたポイゾン・トードは全滅、ジャイアントトードも予想外の痛手を負ったようだ。
 だが敵とてただ受身では終われない。毒を持つ長い舌が、反撃を試みる。それはノヴァの剣を絡み取った。
 しかしノヴァは敵の上をゆく巨体だ。鍛え上げた筋力も伊達ではない。
「蛙如きに遅れを取ると思うなよ!」
 剣を持つ手とは逆の手が、ジャイアントトードの舌を掴む。毒のあるそれは、当然ノヴァにも影響を及ぼす。
「ちょ、ちょっと! 何してるの?!」
 慌てたのは何もメイヴィスだけではない。落ち着いているのは、当のノヴァ本人だけだ。
「ぼさっとしてるな! 俺がこいつを捕まえてるうちに、早く!!」
 そこでようやくメイヴィスもノヴァの言わんとしていることに合点がいった。なるほど、と感心するより早く、一撃が敵を貫く。
 怯んだ敵。まだ絶命には至っていないようだ。それでも隙を突くには十分だったが。
 敵の太っ腹をノヴァの足が蹴り飛ばす。詰まっていた距離は、少しだけ開いた。
 同時に接近戦に向かない長剣を一旦地に刺し、備えていた短剣を投げつける。間合いを更に開くために。
「潰れろっ!!」
 再び引き抜いた長剣が、文字通り相手を叩き潰す。響くは敵の断末魔。ノヴァは膝をついた。
 一方、周囲からは炸裂音の後で一切の慌しい気配が止んだ。おそらく最後の一匹を仲間が片付けたのだろう。
「まったく、無茶しますね‥‥今毒を中和しますから」
 駆け付けた月下が、すぐさまアンチドートを発動する。呆れてはいるが、手つきは労るように優しい。
「はいはい、じゃあ次は怪我の手当てだね。月下さんも休んでて、私が交代するよ」
 術の連続使用で疲弊する月下を気遣ったのか、回復役をメイヴィスが買って出た。
 そんな彼女にもあちこち生傷が見て取れるのだが、本人は気にしないのか仲間のもとを順に回ってゆく。
 ようやく全員の回復が終わったのは、日も傾きかけた頃だった。

●もう一仕事?
 依頼も残すところユンへの報告のみである。ノヴァは動くことのないモンスター達を眺め見た。
 改めて見ると、随分と倒したものだ。ふと、考えが頭をよぎる。
「蛙の肉は食えるんだろうか?」
 そんなことを、突然呟く。冗談を好まない者の言うことである、おそらく本気でそう考えているのだろう。
「た、食べられないことはないのでは‥‥? あまり一般的とは言えませんが」
 月下は苦笑しつつ、それを想像した。とりあえず、ポイゾン・トードは避けるべきだろうと思いながら。
「これだけの量があれば、沢山の保存食が作れそうだな」
 食べられると聞いて、ノヴァはジャイアントトードへ歩み寄る。
 一方でイスラフィルの顔色は優れない。まさかそれを食べるのか、と無言の表情が語っている。
 そこで、一連の思い巡りを遮ったのはロッドだった。
「保存食を作るつもりでしたら、この依頼の期間中には無理ですよ?」
 集まる視線。雑学程度の知識ですが、と前置きして、ロッドは説明をし始めた。
 それによると、保存食を作るにはまず素材が長持ちする食材でなければならない。
 第二に、保存食とするためには相応の手順と時間を費やす必要がある。
 冒険も帰路につくばかかりのこれから、作業に取り掛かっていたのでは予定通りキャメロットへ帰ることはできなくなるだろう。
「期日通り帰るまでが依頼ってことだけど、どうする?」
 尋ねるように、レイはノヴァを見遣る。対するノヴァは大して悩むそぶりもなく答えた。
「ふん、足止めを食うのは得策じゃないだろう」
 キャメロットへ戻れば、また自分の腕をならせるような依頼が待っているかもしれないのだから。

●あるべき姿へ
 池での戦いから一夜明け、倒したモンスターの処置は、ユンの住む村の協力を得て行われた。
 池の付近は少々荒れてしまったが、それでも冒険者達が気を遣って戦ったおかげか被害は最小限で済んでいる。
 時間が経てば、いずれ元のように動物達も戻って来ることだろう。
「ガーちゃん、もういけにはいってもだいじょうぶだよ」
 ユンは抱いたままの水鳥を慎重に地へ降ろした。すぐそばには水際が迫っている。彼の本来あるべき場所である。
「怖いのかな?」
 なかなか足を踏み出さない水鳥を、メイヴィスが覗き込んだ。
「生まれてすぐ水辺から離れて暮らしていましたし、戸惑っているのかもしれませんね」
 月下はそう推測した。確かに、この幼い水鳥は陸地で過ごした時間の方が長いわけだから、ありない話でもない。
「なら、しばらくは慣れるまで何度かここに通ってやればいい」
 できるか? とイスラフィルはユンに問いた。返ってきたのは、当然元気のいい返事である。
 いくら幼くとも、友人のためにギルドまで足を運ぶ少女のこと、きっとやり遂げるに違いない。
「一日も早く、元の美しい池が戻ってくるといいわね」
 レイはそれを思い浮かべた。この水鳥が、安心して羽を伸ばせる日が来ることを―――美しい池に映える姿を。