無茶をしないで

■ショートシナリオ&プロモート


担当:ezaka.

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月13日〜10月18日

リプレイ公開日:2006年10月18日

●オープニング

 年甲斐、という言葉を知ってるか?
 書物によると『年齢にふさわしい思慮や分別』という意味らしい。
 まあ要するに、自分の歳を考えて行動しろってことだ。

 え? 何で突然そんな話を持ち出すかだって?
 よく聞いてくれた。そうなんだ、実はウチにも一人いるんだよ。その、年甲斐の無いご老体が。
 ああ、だからどうした、じゃなくてさ。依頼だよ、依頼。俺は依頼を出しに来たんだから。
 それがな、ウチの爺さんなんだけど、冒険に出たいって煩いんだよ。
 昔は魔法使いとしてギルドにも顔を出してたらしいけど、今も現役って言われてもなあ‥‥。
 80過ぎてるんだぜ? いや、心配するだろ、そりゃ。
 年寄り扱いするな、って本人は言うけどさ、どう見たって年寄りでしかないもんな、実際。
 おまけに勝手にコボルト退治なんて引き受けちまうし‥‥。
 ああいけね、それを依頼しに来たんだっけ。悪い悪い。
 何でも隣村の畑にコボルトが出るとかでさ、作物が荒らされたんだと。
 で、それをどこかのつてで聞きつけたウチの爺さんが、はりきって解決に名乗りを挙げた、というわけだ。
 ‥‥なんだよ、そんな顔するなよな。確かに、ギルドを通さず依頼を受けた爺さんのことは詫びるよ。
 けどな、それよか俺は心配なんだよ。もしも、なんてことにならないかって。
 止める? それが出来るならここには来てないさ。だから、頼む。
 爺さんが依頼に出ないよう説得してくれ。もし無理なら、爺さんよりも先にコボルトを退治してくれればいい。
 虫のいい話だってのは分かってる。今回の事は、爺さんから目を離した俺の落ち度だ。
 二度目はないようにすると誓うからさ、今回は頼まれてくれないか?


 男がギルドを訪れたのはほんの数分前のことだった。
 受付係の待機するテーブルで足を止めると、男は挨拶もそこそこに頼み込む。

 おそらく後日、新しい羊皮紙が冒険者達の目に触れることとなるだろう。
 内容は―――君達がすでに知っての通りだ。

●今回の参加者

 eb6621 レット・バトラー(34歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb6656 ディオ・ブランディ(24歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb6702 アーシャ・イクティノス(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb7226 セティア・ルナリード(26歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb7646 エルレガ・リアリズム(21歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●対コボルト戦
 冒険者達は今、とある村の離れにいる。コボルトの被害に遭っているという、例の村だ。
 ヘイザース老に先立って、冒険者達はコボルト退治を決行することを決めていた。
 苦しめられている村人を一刻でも早く救うため、そしてもう一つ―――その辺りの思惑は、後々記すとしよう。

「であああっ、くらえ!」
 がいん、と鈍い音を立てて、コボルトの手から剣がはじかれる。
 反動でざくりと地に刺さったそれを横目に、アーシャ・ペンドラゴン(eb6702)は次の敵へと切っ先を向けた。
 敵であるコボルトの数は4体。事前にレット・バトラー(eb6621)が偵察し、仲間に伝えた数にピタリと一致する。
 さらにレットは罠の用意もしていた。何も知らないコボルト達だけが、予想もしなかったであろう襲撃に面する羽目となったのだ。
「足は止めたぞ、頼んだ!」
 戦線より上、コボルトの攻撃の及ばない高所から援護を投げたのは、セティア・ルナリード(eb7226)である。
 セティアの発動させたシャドウバインディングは、コボルト一体の動きを封じていた。
 それに合わせるように、エルレガ・リアリズム(eb7646)が刃を翻す。また一体、敵は倒れた。
「あと二体だな‥‥よし、そこだ!」
 フェイントアタックのかかったレットの鞭が、コボルトを追い詰める。後ずさろうにも、背後ではアーシャが剣を振るっている。
 コボルト達に逃げ道はなかった。
「セティア、今だ!」
 こうなることを予測していたのか、はたまた計算していたのか、レットの口角がにわかに上がる。
 セティアの手から放たれた雷光がコボルトに降ったのは、その直後だった。
 ライトニングサンダーボルトによって、すでに消耗していた敵は全て殲滅されたのだ。
「‥‥‥あら?」
 戦闘の緊迫感が収まった時、ふとアーシャが呟く。戦闘中のあの雄々しい変貌振りから一転し、まるで我に返ったとばかりの様子で彼女は目を瞬いた。その声のトーンは、先程とは明らかに異なる。
 ハーフエルフであるアーシャは、戦闘の緊迫感に接すると狂化して先述の変化を遂げるのだ。
「大丈夫?」
 同族のエルレガが問う。アーシャの勇ましさに少々驚いていた仲間達を見て、アーシャ自身はぺろりと舌を出して誤魔化した。
「ビックリしました? 私、戦闘になると男っぽくなるから‥‥」
 戦闘には丁度いいのですけど。
 狂化とは本来、ハーフエルフに課せられたペナルティと認識されているにも関わらず、アーシャの考え方は前向きだった。
 そんなアーシャにレットが肩をすくめる。
「いや、勇ましくて結構だ。なあセティア」
「そこであたしを掛け合いに出すなっつーの」
 冗談めかしたレットに、セティアがジト目で睨む。アーシャは笑い、エルレガはほっとした表情を浮かべた。

 同じ依頼を受ける仲間同士、世が生んだ偏見など今は必要ないのだ。

●説得と意地と
 コボルト退治の依頼人に挨拶を済ますと、冒険者達は次の目的地であるヘイザース老のもとへと向かっていた。
 因みに、退治依頼に依頼を受けた本人がいないことについては、後々の体裁も考えて適当に誤魔化しておいた。
 ―――そして状況は今に至る。

「依頼を横取りするとは、どういうつもりだ!」
 冒険者達を前にして、皺だらけの眉間をさらに険しくしたヘイザース老が剣幕する。
 当然と言えば当然の言い分である。冒険者達とて、事情がなければそんなことはしない。
 だからこそ、その辺りを踏まえた上でのフォローが用意してあるのだ。
「爺さん、最後に依頼を受けたのはいつだい? 当時戦ってたモンスターの強さは?」
 レットが訊ねる。ヘイザース老は突如返された質問に戸惑いを表しつつ、しかし以外にも承諾を見せた。
 辿った記憶はかなり以前のもので、いささか誇張されてはいたが、彼にとっては誇らしい過去である。
 それを語ることは、歳を重ねた今だからこそ心が躍るのかもしれない。
「なるほど、爺さんの腕については納得だ。けどな、これは知ってたか?」
 今回の依頼に出没していたコボルトが8体もいたこと、4人で戦った自分達ですら苦戦を強いられたこと。
 レットは戦況を巧みに操作して伝えた。たった一人の爺さんが、どう戦うつもりだったのか、と。
 ヘイザース老自身もそれには思い当たる節があるのだろう。しばらく、答えに窮した。
 実はこれこそが冒険者達の狙いだった。コボルト退治を先行した、もう一つの理由である。
 脚色した冒険談を聞かせることで、ヘイザース老の気を削ごうと考えているのだ。
「どうでしょう、考え直してはくれませんか?」
 アーシャはできるだけ老人を刺激しないように努め、その無茶を諫めようと試みた。
 話術を駆使した二人に、普通の相手なら意思を改めることもあっただろう。
 しかし、ヘイザース老はそうではなかった。むしろ説得は、余計彼の意地に火をつけたようで。
「どいつもこいつも年寄り扱いしおって‥‥! 見ておれ、今ギルドへ行って新しい依頼を―――」
「ま、待って下さい! それは無茶ですって!」
 鼻息荒く出掛けようとするヘイザース老に、アーシャが慌てて止めに入る。
 ここまで事の成り行きを見守っていた依頼人は、思わず頭を抱えた。
 ああ頼むよ、とか、もう勘弁してくれよ、と声にも漏らしている。お手上げとばかりに、自らの祖父を眺めながら。
 ところが、そんな状況を打破する提案がレットからもたらされる。

 まだ、さじを投げるには早いようだ。

●対峙
 ヘイザース老に自身の限界を示すには、実際に戦闘をさせてみればいい。
 模擬戦という名目で行われるそれを、依頼人は心配そうに見守っていた。また、仲間達も固唾を呑む。
 相手として抜擢されたのは、セティアである。ウィザード対ウィザード、果たしてどんな魔法の応酬が展開されるのだろうか。
「爺さん、止めるんなら今だぜ。言っとくがあたしの超本気はキツイからな」
 あくまで相手を案じる心から、セティアは告げた。しかしそれも空しく、ヘイザース老は鼻で笑う。
「ふん、小娘が。臆したのならそう言えばよかろうに」
 どこまで意固地な老人なのだろうか。ビシリ、と空気に亀裂が入ったかのような錯覚を一行は覚える。
 錯覚ではないのかもしれないが。
「‥‥ま、口で言ってもわからんようなら、体でわからせてやるだけどな」
 不敵な表情を浮かべ、セティアの声色が変わる。そして素早くも短い跳躍で、彼女の体は宙を切った。
「ぐふ!」
 時間にして数秒後、潰れたような声が上がる。見れば、老いた身にめり込んだ小さな足。
 セティアのドロップキックが、鮮やかに決まっていた。
「おお、肉弾戦ですか!」
「‥‥‥ほらみろ、勇ましいじゃないか」
 感心したように手を打つアーシャと、冷静にコメントするレット。
「魔法対決は‥‥?」
 そんな中、エルレガだけが額面通りの感想を述べていて。
 経験浅き少年は、時に予想も及ばない事があると知るのだった。
「いいか爺さん、人間で80過ぎっつーのはこんなもんだ。無理して怪我したり死んじまったりしたら、それこそ大迷惑だぜ」
 横目で依頼人を一瞥し、セティアは続けた。大きく、息を吸って。
「だからもう無理はするんじゃない、周りの人間も困らせるんじゃない!」
 以上! とセティアは言い放った。これが、ヘイザース老にとって最後の無茶となるように。
「じ、爺さん! おい、大丈夫か?」
 はっとして、慌てて駆け寄ったのは依頼人である。なかなか動かないヘイザース老。嫌な予感が一同の頭を過ぎった。
 が、しかし。
「‥‥‥小娘」
 か細く呼ばれたそれに、セティアは視線を向ける。
「名を、聞いておいてやろう」
 まだ態度は尊大だが、ヘイザース老に変化の兆しが窺えたのは明らかだった。

●転機
 依頼も最終日を迎えた頃だった。帰路につく道中、アーシャの様子が優れない。
 実は2日分しか持っていなかった保存食が底をつき、ついに腹の虫が悲鳴を上げ始めたのだ。
 経験を重ねた冒険者にも、そういうことはある。彼女なりに調整しながら食べていたつもりだが、それでも消耗の激しい冒険者にとって食事制限は厳しかった。
「はい、どうぞ」
 空腹と戦うアーシャの前に、保存食が差し出される。その手の主はエルレガだ。
 アーシャは不思議そうな顔をしてエルレガと保存食を見比べた。
「以前受けた依頼でね、食料を忘れた仲間に自分の保存食を分けてた人がいたんだ」
 だから僕も。そんなエルレガ自身、過去の依頼でアーシャと同じ失敗をしていた。
「‥‥ありがとうございます、エルレガさん」
 苦笑しつつ、自身の状態を把握していたアーシャは、素直に好意に甘えることにした。
 こんな風に、いつでも助けてくれる者がいるわけではない。迂闊な失態をしないよう心掛けているアーシャのこと、きっとこれからは日々の備えにも徹底することだろう。
 失敗の経験は、次に生すことができるのだから。

「それにしても、あの爺さんには驚きだな」
 レットは思い出すように口を開いた。別れ際のヘイザース老の宣言である。
 あの模擬戦の生んだヘイザース老の変化は、冒険者への復帰ではなく、そういった者達の育成に携わりたいというものだった。
「何が昨今の冒険者は無茶が過ぎる、だ。次から次へと」
 セティアがぼやく。まったく、転んでも唯では起きない爺さんというか。
 無謀な戦闘を行ったり、老人にドロップキックをお見舞いしたり―――ヘイザース老はそれが現状の冒険者の姿だと思ったらしい。
 これには否定も弁解もできない冒険者達だった。まさか、そういう方向に話が進むとは。
 しかしそれでも、冒険に出て危険に身を置くよりはいい、とは依頼人談である。

 年甲斐という言葉、それに抗うことは時に思いもよらないエネルギーを生むようだ。
 人生の転機に、どうやら遅いということはないらしい。