きみに必要なもの ―火―
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■ショートシナリオ
担当:ezaka.
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月26日〜06月02日
リプレイ公開日:2007年06月17日
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●オープニング
●火と水
身寄りのない子供が冒険者として生き抜くことを選んだ時、何を重要だと思うだろうか。
まだ10代半ばほどである双子の意見は、真っ向から対立していた。
長い髪を後ろで束ねる少女、アヴィは勝気な瞳でこう主張する。
「必要なのは相手を圧倒する力よ。そして、恐れをなさず立ち向かう勇気があれば、何にだって負けないわ」
力説しながら、少女は剣を振るう仕草を見せた。考えるよりもまず行動、少女はじっとしていられない性格だった。
そんな少女の様子を、対する片割れの少年トルトは呆れたように黙って眺めている。
彼が重きを置いているのは『見極めるための知識』だった。
だから少年は思う。少女の言うことにはいつだって根拠や計画性がない。中身のない力なんて、空振りに終わるだけだと。
●課題
双子が師と仰ぐ、かつての冒険者だった老人は頭を悩ませていた。
それは冒険者としての双子への、指導方針に関して。
日頃の言動から垣間見える、他者の意見を受け付けない若者独特の潔癖さには手を焼いていた。
それをただ諭すことならできる。だがそれでは本人達の実にならない。
これについては、自分で気付いてもらう他なかった。そのための手段として、今回の提案はある。
「森に棲むゴブリンのことなら知っています」
双子は口を揃えて言った。森はここから目と鼻の先にある。
ゴブリンは人里にこそ現れないが、いつ人間の生活を脅かすとも知れない脅威として近隣住民に注視されていた。
そのゴブリンを、師は実践を兼ねて双子に退治させようというのだ。修行の一環とはいえ、初めての試みに双子は色めいた。
手筈はこうだ。双子はそれぞれが、モンスターを倒す役とそれを円滑に行うためのサポート役として行動を別にする。
もちろん経験の浅い双子だけで、いきなりモンスター退治をさせようというのは酷な話だ。
そこでギルドに、依頼として双子それぞれを手助けするように求めた。
現役の冒険者が一緒ならば得ることも多いはず―――それもギルドを頼ることにした要因といえるだろう。
重要なのは、双子のどちらかがモンスターを倒す役となり、どちらかがそれをサポートする役になるということだ。
双子にとってこれは考えるまでもないことだった。普段の主張からすれば、アヴィが前者でトルトが後者ということになる。
ところが、師はそんな双子の思惑を裏切った。
「わたしがサポート役?!」
少女は驚きを隠さず口にした。隣の少年も、瓜二つの顔で要領を得ない顔をしている。それもそうだろう。
分担された役割は、互いの予想とはちぐはぐに与えられたのだから。
どうして、という反発は許されなかった。そして翌日、双子は早速ギルドへと送り出されることになるのだ。
もちろん、師の裁定には意図がある。だがそれをこの場で察するには、双子はまだ未熟だった。
●リプレイ本文
●冒険者として
移動の時間すら惜しむように、アヴィ班は目的地へと急いでいた。
「少しでも早く到着して、敵の数、普段の行動などを調査しましょう」
韋駄天の草履を仲間に手渡し、陰守辰太郎(ec2025)は言った。これがあれば、長距離の移動にもさほどの労を要さない。
「使える時間は5日間もあるんでしょ? そんなに急がなくても‥‥」
アヴィの物言いが、スティンガー・ティンカー(ec1999)の耳に入る。
初めての冒険に戸惑っているであろう少女を、スティンガーは見据えた。
「闇雲に向かっていって、それで勝てますか? また、あなたが倒れたらそれで済むような話ではないのです」
冒険者は依頼をこなして初めて冒険者と呼ばれる。
そのためには入念な準備が必要であるし、それを疎かにして失敗などすれば取り返しがつかない。
だからこそ、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)は優良視覚やモンスター知識を使って、まずゴブリンの住居となりそうな場所を捜した。
「アヴィさん、依頼頑張りましょうね!」
ぎゅっと拳を握るヒルケイプは意気込んでいる。
やがて、条件に当てはまりそうな洞穴が見付かった。そっと中を窺うと、篭ったような臭いがした。
マリエッタ・ミモザ(ec1110)は、ステインエアーワードを発動し、その場の空気と会話を試みる。
「子供くらいの生き物がここにいたようです。そんなに時間は経っていない‥‥まだ、近くにいるかもしれません」
そういったことの繰り返しで、必要な情報は少しずつ集まり始めた。
しかしアヴィにとって、それは地味で退屈で手間のかかる作業に思えてならなかった。
●反発
ゴブリンのおおまかな行動範囲が絞れたところで、今度は罠を仕掛ける場所を探すことになった。
ヒルケイプが土地勘を生かしてめぼしい場所を列挙する。そこへ辰太郎の考案した罠が設置された。
「狩猟用の罠とは違う所がミソです。捕らえるのではなく罠で攻撃します」
手馴れた仕草で、辰太郎は罠を組み上げてゆく。こと罠に関しては、他の仲間も彼の指示を仰いでいた。
「こんな感じでいいんでしょうか?」
マリエッタが、辰太郎に倣って完成させた罠。そうして冒険者達は、互いの持てる能力を活かし合う。
だがアヴィだけがその輪に馴染めないでいた。どこか手持ち無沙汰な表情で、与えられた道具を持て余している。
「しっ―――何か来ます」
スティンガーが、周囲に視線を走らせる。こちらへ近付いてくる何かの物音に気付いたのだ。
全員が茂みに身を潜めた。
現れたのは3体のゴブリンである。まだ他に仲間がいないとは限らない。
様子を窺う冒険者達。そんな中で、ヒルケイプはいち早くアヴィの行動を察知した。
「ここで向かっていったら準備が無駄になっちゃいますよー?!」
ゴブリン達に気付かれないようにと、声を潜めてアヴィを制す。腕を掴み、何とか止まらせようと試みた。
「それに私たちだけじゃ無理だし、勝てても残りに逃げられちゃいますってばー!」
必死の説得に、アヴィは出端を挫かれた。そうしている間に、ゴブリン達は木々の向こうへと姿を消してしまう。
「‥‥‥っ! こんなことして、何になるっていうのよ!」
罠を組むための道具が、音を立てて落下する。不満なのは、罠を設置することにあるのではない。
アヴィにとって、直接戦うことのできない今回の修行はもどかしかった。納得できなかった。
「アヴィさん、サポートだって立派なお仕事です。無駄なものなんて無いんですよ」
ヒルケイプは少し困ったように笑って、アヴィを見つめた。静まり返る場の空気。
辰太郎は落下したままの道具を拾い上げると、もう一度アヴィに手渡した。
「今後、あなた方が戦いに向かう時、お互いのことを知る上で役に立つと思いますよ」
今回の修行は―――暗に、辰太郎は言った。
「前線に立つ者はどんな考えで、後方支援に回る者はどういう考えで行動するのか。お互いにして欲しいことが少しはわかるはずです」
見つめられて、アヴィは戸惑った。おだやかな辰太郎の表情の中に、師から受けるような鋭さを感じたからだ。
返す言葉を失うアヴィ。そんな彼女の背に、スティンガーはそっと手を添えた。
「さあ、もうひと頑張りです。わたし達の成果を、トルト君達に伝えなくてはなりませんからね」
●実戦の裏側
ゴブリン達にとって、その襲撃は突然だった。
鋭い雷光―――ライトニングサンダーボルトが自分達のすぐ傍を狙い、驚いて逃げれば縄張りにあるはずのない罠が襲い来る。
臆病なゴブリン達は、姿の見えない敵を恐れ逃走を図った。それこそが罠とも知らず、冒険者達の手の内を進む。
「そろそろ合流地点ですね」
詠唱をやめ、マリエッタは仲間に視線を移す。この先には、トルト班が待機しているのだ。
「ゴブリンも彼らに気付いたようです。わたし達も次の行動に移りましょう」
スティンガーは弓を構え、手傷を負った敵を優先的に狙った。
戦闘の始まったトルト班を囲み、影からゴブリンの退路を塞ぐこと。それがアヴィ班の次の役目だった。
「‥‥何か、こういうのってずるい」
ぽつりと漏れた、アヴィの一言。マリエッタは苦笑した。
「ねえアヴィさん、正面から向かうだけが戦略ではありませんよ。今回はトルト君達をサポートすることが目的ですし」
自身が目的の為には手段を選ばない事を前置きして、マリエッタは続けた。
「彼らに最善を尽くしてもらうために、わたしにはわたしにしかできない役割、があるのですよ」
それって、アヴィさんから見たら軽蔑されるかな?
いたずらっぽく言うマリエッタの向こうでは、トルトがろくに戦うこともできず、仲間達に護られているのが見えた。
「む、敵の動きが変わりましたね」
辰太郎の呟きに、アヴィもそちらを振り返る。どうやらゴブリンは、直接攻撃に弱い後衛に狙いを定めたらしい。
「見えますか? 前線向きの能力がある者も、こういった場合は後方へ回り仲間の援護をしなくてはなりません」
それはアヴィに向けられた言葉だった。確かに、トルト班の前衛は後衛の仲間を援護するため陣形を変化させている。
「あっ、トルトさん!」
急に、ヒルケイプが焦りの声を上げた。トルトに迫る敵に気付き、スリングでの攻撃を図るが間に合わない。
「―――!! トルト?!」
少年の腕から流れる血に、アヴィは震えた。そうして今にも片割れのもとへと走り出そうとする。
「落ち着いてアヴィさん! 今、仲間の方がリカバーをかけてますから‥‥!」
ヒルケイプの制止が、アヴィを踏み止まらせる。これで大事にはならないと分かっても、アヴィの頭の中は混乱していた。
(「お願い! 無茶しないで! 無事でいて!!」)
そんなアヴィの心情とは裏腹に、トルトはゴブリンへ立ち向かおうとする。
恐れはないのだろうか。たった今、あんな目にあったばかりだというのに。
「‥‥真の勇者は恐れを知っていても立ち向かうからこそ勇者ではないのでしょうか?」
スティンガーの一言は、アヴィの中に波紋を与える。彼女の表情は、本物の戦闘を前にすっかり畏縮していた。
(「立ち向かう勇気がないのは、わたしの方だ。それどころか、どうしたらトルトを助けられるのかも分からない‥‥」)
唇を噛む。この時初めて、アヴィは今回の修行を軽んじて何もしようとしなかった自分を悔やんだ。
独りよがりになるのではなく、もっと仲間の言葉に耳を傾けるべきだったと。
「お願い、わたしにできることを教えて‥‥!」
アヴィの変化に、視線を受け止めた辰太郎は頷く。
「罠の位置は覚えていますか? そこへ敵を誘導するように、攻撃をしてみましょう」
●いつか知ること
戦闘が終わると、アヴィはまず謝罪を口にした。
「みんな、ごめんなさい!」
冒険を共にする者として、いかに非協力的な態度を取っていたか。アヴィは自分の未熟さに項垂れていた。
そんなアヴィへ、マリエッタは一巻きのスクロールを見せる。それは友人から貰ったものだという。
「力の無いわたしが、生きてこれたのは一緒にいてくれたみんなのおかげなんですよ。だから、わたしも誰かのお役に立てるなら、それが一番嬉しいの」
マリエッタの言いたいことは、今のアヴィになら分かる気がした。だから、言わなければならないことがある。
「あの‥‥マリエッタ。わたし、マリエッタのこと軽蔑なんてしてないから」
さっきのこと、と言う語尾は頼りない。それでもアヴィなりに一生懸命な声が、マリエッタを微笑ませた。
その横から、ヒルケイプが顔を覗かせる。
「私も力がないですからアヴィさんが羨ましいです。でも―――」
いつもの調子で言いながら、彼女は一息置く。冒険者になるきっかけとなった、祖母の言葉を話すために。
―――力だけが冒険者に必要なものじゃないさ。剣だけじゃ勝てない相手ってのはいくらでも出てくる。
逃げ足。口の上手さ。無駄なものなんてないんだよ。大事なのはそれらの『引き出し』を必要な時に使えることさね―――。
言い終えたヒルケイプは、どこか誇らしげだった。彼女にとって、祖母の存在はよほど大きなものなのだろう。
「引き出しか‥‥。わたしもその言葉、覚えておく。これからは、トルトに負けないよう色々知りたいし」
いつの間にか、アヴィの瞳に勝気さが戻っていた。おや、と思ったのは辰太郎で。
「知りたい、ですか。手間のかかることは苦手だったのでは?」
「う‥‥いいの! またトルトばっかりに格好いいところ取られたくないもの!」
勢いよく言い切ると、アヴィはそっぽを向いてしまう。その仕草に、皆苦笑を隠せない。
「素直じゃありませんね。本当は、今回のようなことが心配なんでしょうに」
スティンガーが、小さく揶揄する。今より大人になれば、アヴィにもきっと分かる日が来るだろう。
本当に必要なものは、いつだってとても近くにあるということを。