冒険者になりたい!

■ショートシナリオ&プロモート


担当:初瀬川梟

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月22日〜11月27日

リプレイ公開日:2004年11月30日

●オープニング

「茜音‥‥どこに行くつもりだ?」
 家を出て行こうとしていた少女は、後ろから兄に呼び止められ、ぴたりと足を止めた。
「言ったでしょ。私は冒険者になるんだから、その準備だよ」
「まだそんなこと言ってるのか!」
 兄の声音に込められているのは怒り、呆れ、そして戸惑い。
 しかし少女は動じない。
「もう決めたんだもん。お兄ちゃんが何言ったって無駄だからね」
「お前みたいな子供に、冒険者なんて勤まるわけないだろ」
「そんなことないよ! 私よりちっちゃくても、立派に冒険者やってる子だっているんだから」
 確かに巷には、思わず「この子が冒険者?」と驚いてしまうような年少冒険者も少なくない。年齢を理由に思いとどまらせようとしたのは失敗だったようだ。
 やむなく、兄は別の戦法に切り替える。
「冒険者ってのは、危険な仕事なんだろう‥‥そんなところにお前をやるわけに行かない」
「危険だからこそやるんだよ。だって、私たちみたいな子供、これ以上増やしたくないから」
「‥‥‥‥」
 兄であるからこそ、妹の言っていることは痛いほどよく分かる。
 その真摯な想いを叶えてやりたい気持ちだって、もちろんある。
 それでもなお、妹を危険な目に遭わせたくないと思うのもまた、兄心というものだ。
「‥‥とにかく、俺は認めないからな」
「お兄ちゃんの分からず屋! 認めてもらえなくたって、私は自分の決めたようにやるからね!」
 これ以上の話し合いは無意味と判断した少女は、早々に口論を切り上げてさっさと出て行ってしまった。
 その後ろ姿を見送りつつ、兄は溜め息ひとつ。
「どっちが分からず屋だよ、まったく‥‥」

 * * *

「誰か、私をこの依頼に同行させてくれませんか?」
 そう言って少女が指したのは、村の近くに住み着いた小鬼と茶鬼を退治して下さいという、まあよくある類いの依頼だった。
「私、まだ冒険者見習いなんです。もうギルドへの手続きはほとんど済んでいて、あとは入会金を納めるだけなんだけど‥‥ちょっと色々、問題があって」
「問題?」
 冒険者の1人が問い返すと、少女はばつの悪そうな表情になる。
「お兄ちゃんが、私が冒険者になることにすごく反対してるんです。何とかして説得しないと、お金が工面できなくて‥‥」
 ギルドへの入会金は、気軽にポンと払えるような金額ではない。
 この少女は、見たところまだ15〜6才。
 恐らく家の蓄えから入会金を出すことになるのだろうから、家族の了承を得なければならないというのは当然の話だ。
「だから、私にだってちゃんと冒険者としてやって行けるんだってこと、証明してやりたいの。もちろん、もし皆さんの足を引っ張るようなことがあれば、その時は潔く諦めます。でも、少しでも可能性があるのなら‥‥絶対に諦めたくない」
 そう訴える少女の瞳は真摯だ。
 少なくとも、単に興味本位や遊び半分で冒険者を目指しているのではないというのは、何となく伝わってくる。
「だから、お願いします。私を一緒に連れてって下さい」
「仕方ないな‥‥」
 真剣な様子に圧されて冒険者が申し出を了承すると、少女は笑顔になり、元気よく頭を下げた。
「ありがとうございます! 私、あかね‥‥佐々木茜音って言います。宜しくお願いします!」

 * * *

 さっそく冒険の準備をしてくると言って、茜音が意気込んで飛び出していった直後。
 1人の青年がギルドを訪れた。
「さっき茜音って女の子がここへ来たと思うんですが、どなたか、その子に何か頼まれませんでしたか?」
 茜音から協力を頼まれた冒険者たちは、すぐにピンときた。
 この青年はたぶん茜音の兄だろう。面差しがよく似ている。
 事情を説明すると、青年は「やっぱり‥‥」と大きく溜め息をつき、自分は茜音の兄・葵威だと名乗った。
「すみません、うちの妹がご迷惑をお掛けして‥‥誠に申し訳ないんですが、ご迷惑ついでに俺からもひとつお願いがあるのですが‥‥」
 は茜音が冒険者になることに反対しているのだから、それを阻止しに来たのかと思われたが、葵威の口から出たのはまったく逆の言葉だった。
「‥‥茜音のことを、どうか宜しくお願い致します」
「止めないのか?」
 冒険者が訊ねると、葵威は苦笑しながら首を振った。
「もう散々止めましたから。今さら何を言ったって聞きはしないでしょう」
 そして葵威は少し沈黙したのち、静かに語る。
「俺たちの両親は、凶暴な鬼に殺されてしまって‥‥。自分と同じような境遇の子供を増やしたくない、危険な目に遭ってる人がいるなら救いになりたいというのが、あの子の願いなんですよ」
 茜音の瞳に宿っていた切実な想いの正体は、それだったのだ。
 道理で真剣なはずである。
「兄として、妹の安全を願うのは当然のこと。けれど、あの子の望む道に進ませてやりたいとの思いもあります。ですから、あの子が冒険者になれるかどうか‥‥なるべきかならざるべきかの判断は、皆さんにお任せします。そういったことに関しては、俺より皆さんのほうが適任でしょうから」
 そして、葵威は深々と頭を下げた。
「どうか、あの子を正しき道へと導いてやって下さい――」

●今回の参加者

 ea1959 朋月 雪兎(32歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea2369 バスカ・テリオス(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea7116 火澄 八尋(39歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7139 巽 源十郎(68歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7873 朝基 狂馬(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8531 羽 鈴(29歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8605 琴月 舞(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発
「茜音さん冒険者でも女性ネ、お洒落にはいつも気を使うネ」
 張り切って誰よりも先に集合場所に来ていた茜音だが、寝癖のついた髪を羽鈴(ea8531)に整えられて、恥ずかしそうに赤面する。
「とにかく遅れないようにって、それだけ考えてて‥‥」
「初めての依頼だもんね。緊張するのも仕方ないよ」
 朋月雪兎(ea1959)が笑顔でフォローを入れると、茜音もまた照れたように微笑む。
「身だしなみにまで気が回ってこそ一人前ってことですね」
 やがて他の面々も集まり、さっそく村へと出発することになった。
 覚悟を決めたような表情で歩き出す茜音に、朝基狂馬(ea7873)が念を押すように声を掛ける。
「これは私たちにも言えることでしょうが‥‥この世界、そんなに甘くはありません。これだけは心に留めておいてくださいね?」
「‥‥はい」
 静かに頷く茜音を、ある者は温かく、ある者は神妙に、見守っていた。

●下調べ
「さて茜音殿、これからすべきことは何か分かるか?」
 村に着くなり、火澄八尋(ea7116)が茜音に問い掛けた。茜音は緊張しつつ、何とか冷静を保って答える。
「鬼に関する情報を集めること、ですよね」
「ああ。闇雲に動き回るより、情報を集め効率的に動くことが重要だ」
「戦うばかりが冒険者の仕事ではないですから」
 八尋とバスカ・テリオス(ea2369)の言葉に、茜音は熱心に耳を傾けている。
「ま、私は戦うほうが性に合ってるけどな」
「それは人それぞれってもんだ。ただ、やれることはやっておかねぇとな」
 琴月舞(ea8605)は苦笑したが、巽源十郎(ea7139)の言葉に「そうだな」と頷く。
 やがて冒険者たちは適当に散らばって情報収集を開始した。その結果得られた情報によると、柿の木がある森の東側、その近くにある泉――小鬼は、その辺りによく姿を現すらしい。
「まずはそこへ行ってみて、小鬼たちがいればそれで良し、いなければ待ち伏せるのが確実だろう」
「小鬼だって人間と同じで水は飲むでしょうからね」
 八尋が提案し、狂馬が同意する。他の面々も異論はないようだ。
 情報を集め、そこからさらに必要な情報や作戦を導き出す。地味ではあるが、八尋の言う通り重要な作業だ。そしてそのことを、茜音も身をもって知ることとなる。

●鬼退治
 木々の中にひときわ鮮やかな橙色の群れを見つけ、一行はまず柿の木の近くへと向かった。
「あそこに小鬼がいるな」
 源十郎の指す方向には、柿の実を集める小鬼の姿がある。
「行くか?」
「待つね」
 愛用のまさかりに手を掛ける舞を、鈴が制止する。
「どこかに移動するようネ。もしかしたら仲間のところかもしれないね」
「あたしが追いかけるよ!」
 まずは隠密行動に長けた雪兎が気配を消して小鬼を追跡。その後から仲間たちがついてゆく。
 そうしてたどり着いたのは泉だった。恐らく、村人が言っていたものだろう。
 泉のほとりでは小鬼と茶鬼がのんきに座り込んで談笑(?)している。どうやらここは小鬼たちの憩いの場らしい。事前に情報を集めていたからこそ、迅速に敵の元に行き着くことができたのだ。
「小鬼が全部で4匹に、茶鬼が1匹だね」
「ここにいるのが全部ではないようネ」
 小柄な雪兎と鈴が一歩前に出て、茂みに身を潜めながら鬼たちの様子を確認する。
「では予定通り、鬼を撃破しつつ周囲の偵察って感じだな」
 舞の言葉に頷く茜音の顔は、緊張で強張っている。そんな茜音に声を掛けたのは源十郎だった。
「嬢ちゃん実戦は初めてだってなぁ。実戦は怖ぇぞ」
「はい‥‥道場の稽古とは訳が違いますよね」
「一つだけ言っておくぜ。敵を斬る事をためらうな。一瞬でもためらえば、次の瞬間仲間の誰かが死ぬと思え」
 源十郎の言葉が茜音の胸に重く響く。
 躊躇いや迷いの先にあるのは死――それが戦いというものだ。
「仲間として背中預けんだ、中途半端な奴はごめんだぜ?」
 突き放しているようにも聞こえるが、そこに込められた不器用な気遣いを察して、茜音の顔に浮かんでいた不安が少し薄らいだ。その茜音に、狂馬が複雑な笑顔を向ける。
「でも、戦闘中の私のようには、決してならないようお願いしますね? 茜音さん」
「え?」
 茜音がその意味を理解するより先に、狂馬は仲間たちに向けて合図する。
「行きましょう」
 冒険者たちはそれぞれ戦闘態勢を整えると、一斉に茂みから飛び出した。小鬼たちは突然の襲撃に慌てふためき、そのぶん対応が遅れる。
「牙ァァ!」
 まるで獣のような叫び声を上げ、舞がまさかりを振り下ろす。刃は一番手前の小鬼を直撃し、一撃で虫の息になってしまった。
 瀕死状態に陥った仲間を見て、他の小鬼は恐怖におののき逃げ出そうとするが、狂馬がそれを許さない。
「良い鬼は私達の姿を見て逃げるもの、もっと良い鬼は死んだもの‥‥。私が、貴方たちをもっと良い鬼に作り変えて差し上げましょう‥‥」
 冷たく言い放す彼の笑顔は、普段の微笑みとは掛け離れている。彼はその笑顔を張り付かせたまま、薙刀で小鬼の胴を斬り割いた。
 戦闘突入と同時に豹変した2人の姿を目の当たりにして、茜音の動きが一瞬鈍る。その一瞬の隙をついて茶鬼が突破口を開こうとするが、バスカが茜音を庇うようにして前に立ち、茶鬼の攻撃を長槍で受け流す。
「怯むな!」
「は、はい‥‥!」
 厳しい叱責に、茜音ははっとしたように平静を取り戻した。彼女の太刀は茶鬼の盾によって阻まれたが、すかさずバスカが横から支援攻撃を仕掛け、茶鬼に傷を負わせる。そうして茶鬼が体勢を崩したところへ、茜音が再び斬りつける。その瞳にもはや迷いはない。
「いいぜ、その調子だ」
 茜音の様子を見てにやりと笑いながら、源十郎も小鬼の肩口に強烈な野太刀の一撃を食らわせる。
 この時点で小鬼1匹が戦闘不能、残りの小鬼と茶鬼も負傷。対する冒険者たちは無傷。勝負がつくのも時間の問題だった。

 一方、雪兎たちは乱戦に巻き込まれないようにしながら周囲の偵察を行なっていた。
「これは小鬼たちが通った後ではないか?」
 八尋が見つけたのは獣道のようなものだった。茂みが不自然に途切れ、草が踏み固められた跡がある。地面にわずかに残る足跡は、野生動物のものとも思えない。
「泉のほうからずっと繋がってるネ。ってことは、向こうに巣があるかもね?」
「きっとそうだよ」
 鈴の推測に、雪兎も頷く。
 3人は巣を突き止めるべくその道を辿って行ったのだが、その手間は省けた。小鬼2匹と茶鬼1匹が、泉周辺の異変を察知したらしく、向こうから出向いてきたのだ。
「これならあたしたちだけで何とかなるかな?」
「そうだな。すぐに片付ける!」
 逃げる隙を与えず、八尋と雪兎がそれぞれ手前の小鬼2匹に斬りかかる。小鬼は回避を試みるが、刃は無情にも的確に命中した。これにより、小鬼は2匹とも深手を負ってしまう。
 仇と言わんばかりに茶鬼が鈴に殴りかかるが、彼女は難なくそれをかわした。そして次々に槍の攻撃を繰り出し、逆に茶鬼の動きを着実に鈍らせてゆく。
「天駆ける龍の牙に引き裂かれるね」
 鈴が放った龍飛翔は、体勢を崩した茶鬼を見事に捉え、致命的な打撃を与えた。
 残りの小鬼2匹もまともに戦う力は残っておらず、八尋と雪兎によってそれぞれ仕留められた。

●終わりと始まり
 もう他に鬼がいないことが確認され、冒険者たちは無事依頼を完遂して帰途に着いた。
「私‥‥足手まといじゃなかったでしょうか」
 ギルドへの報告を済ませた後、茜音は安堵と不安の入り混じった複雑な表情で、誰にともなく問い掛ける。
「太刀筋はなかなか良かったぜ。まだちっと詰めは甘いが、それは経験次第だろう」
「経験など後から付いてくるものだからな。誰でも最初は素人なんだ」
 源十郎が茜音の問いに答えると、八尋もそれに頷く。それを聞いて茜音は少し嬉しそうに笑った。
「ありがとう。剣は、父が私に遺してくれたものだから‥‥それを誰かのために役立てることこそ、父への餞になるって、私は信じてるんです」
「それなら安心だよ。あたしは、憎しみで力を振るう人にはなって欲しくないって思ってるから」
「ええ。貴方のその意思は、とても尊いものです」
 雪兎は嬉しそうに、バスカは穏やかに、それぞれ微笑みを浮かべる。
「憧れや理想だけで生きていける世界ではありませんが‥‥それでも続けたいと思うのなら、頑張って下さい」
「私は私の意志でこの道を選んだ。貴殿も己の意思で選べばいい」
「‥‥はい」
 狂馬と舞の言葉に強く頷き、茜音は荷物を担いで頭を下げた。
「皆さん、お世話になりました。‥‥またいつか、お会いできると信じています」
「茜音さん、忘れちゃ駄目ね。女の子はお洒落が大事ネ!」
「はい!」
 明るい笑顔と共に、茜音は葵威の待つ家へと帰ってゆく。
 やがて家に着いた茜音は、自分は受け取らなかったはずの報酬が荷物の中に紛れ込んでいることに気付くだろう。それはバスカが、茜音に気付かれないようこっそり渡した餞別だ。冒険を始める際にはとかく物が入り用になるので、そのための資金という意味合いも込めて――

 その後、茜音がどうしたか?
 それは残念ながら報告書の中では語られていないが、もし冒険者たちの想像が正しければ、いずれまた彼女と共に依頼に就く日が訪れることもあるだろう。
 けれども、それはまた別の物語‥‥