錦の褌は村の宝
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:初瀬川梟
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月08日〜12月13日
リプレイ公開日:2004年12月16日
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●オープニング
「ジャパニーズ・キモーノは美しい‥‥これぞまさに東洋の神秘」
衣文掛けに掛けられた艶やかな着物を目の前に、恍惚とした表情で呟く男。
彼もまた色鮮やかな着物を着ているのだが、くせのある金の髪と薄い青色の瞳にはどことなく不釣合いだ。と言うかそれ以前に、全体的に取り合わせがおかしい。
何故なら男は橙の着物に赤の袴をはいて、その上からさらに水色の打掛を羽織っているのだ。
本人はまったく気にしていないようだが、近くに控えていたチンピラ風の2人の男は、居心地の悪そうな顔でひそひそ言い合っている。
「なぁ、あの趣味、何とかなんねぇのかな‥‥」
「そんなこと俺に言われてもよ。お前、直談判すりゃいいだろ」
「できるか! そんなことしたらクビだぜ」
「だよなぁ‥‥」
するとそこへ、趣味の悪い着物の男から喝が飛ぶ。
「そこの2人! あのフンドーシの洗濯は終わったノ?! あれは明日履くんダカラ!」
「へ、へい、今すぐ!」
「ぐずぐずしてないでさっさとしなサイ!」
男に急かされて洗い場へと急ぎつつ、2人の手下は溜め息をつく。
「はぁ‥‥俺、なんであんな人にこき使われてんだろうなぁ‥‥」
「でもまぁ、食いっぱぐれるよりはマシだと思おうぜ」
「そうだな」
* * *
「褌を取り戻して欲しいんです」
依頼人は開口一番そう言った。そして呆気に取られたような係員の顔を見て、慌てて付け加える。
「もちろんただの褌ではありません。村に伝わる大切な宝です」
どこかで同じような話を聞いたことがあるような‥‥と、係員は思ったとか思わないとか。
それはさておき、依頼人はその村の宝について説明を始めた。
「赤神様」「青神様」と呼ばれる2本の錦の褌。
それはかつて村人に命を助けられた商人が御礼として村に贈ったものとされている。
何故に御礼が褌かと言うと、商人が「この中から好きなものを差し上げます」と言って広げて見せた商品の中から、村人が褌を選んだからである。
褌自体と言うよりは、田舎の村では珍しい艶やかな錦が、村人の目には物珍しく新鮮に映ったのだろう。
では何故、商品の中にそんなものが混ざっていたのか?
それはきっと東洋の神秘というものである(?)。
そんなことはともかくとして、以来、2本の褌は村の宝として大切にされてきた。
今では村の若い衆がその褌を身につけて相撲を取り、勝った者が村一番の器量良しの娘に求婚できるという、一種の祭のようなものも行なわれている。
「その褌が盗まれてしまったんです!」
依頼人は両手で顔を覆って大いに嘆いた。若い娘ならともかく、中年男性がそれをやっても全然可愛くない。
「犯人は、近頃この近辺で活動している盗賊団です‥‥えげれす人の男が頭をやってます」
「‥‥なんでまた褌なんか盗んでったんですかね」
係員の素朴な疑問に、依頼人は即座にきっぱり答える。
「趣味でしょう」
「‥‥どうしてそう思うんですか」
「そのえげれす人の頭が、こう叫んでるのを聞いたんですよ。『この美しい褌こそ私の身を飾るに相応しい!』って」
「‥‥‥‥」
係員は「その場に居合わせなくて良かった」と心底思ったとか思わないとか。
それはさておき、係員はわずかに頭痛のし始めた頭を押さえつつ、なんとか会話を続行させた。
「では、その盗賊団に関して何か知っていることがあったら、何でもいいので話して下さい」
「はい」
こうして依頼人から盗賊団の居場所や構成、盗まれた褌の特徴などを聞き終えた後、係員はふと疑問に思ったことを訊ねた。
「その頭とやらは、私の身を飾るに相応しいって言ってたんですよね」
「ええ」
「‥‥もしそいつが盗んだ褌を身につけていたとしたら、どうしましょう」
すると依頼人は、それはもうにっこりと満面の笑顔で答えたのだった。
「もちろん、脱がせて持って帰ってきて下さい」
●リプレイ本文
●下調べ
近隣の住民から廃寺の位置を教えてもらい、まずは魅意亞伽徒(ea3164)が先行して偵察を行なうことになった。
偵察を終えて仲間の元へ戻った魅意亞は、見取り図を描きながら説明してゆく。
「ここがお寺の部分で、こっちが住居ですね。正面と勝手口に1人ずつ、見張りがいました。手下たちは本堂にたむろしてるみたいです。お頭は住居のほうにいるみたいなんだけど、詳しい部屋までは分かりませんでした」
「なるほど‥‥では、見張りから先に倒すことになりますかね」
「そうだな。全部で10人と仮定して、見張りを差し引いて残り8人‥‥まあ、何とかなるだろう」
朝基狂馬(ea7873)と雪守明(ea8428)が見取り図を覗き込み、他の者たちもそれぞれ打ち合わせを始める。アル・アジット(ea8750)だけはジャパン語が分からないので、ぼーっとしていた。
●潜入
「アナタがフンドーシ愛好家の方デスカ。『素敵ロマネスク団』の代表、ブリリアントとはこのワタシのことデス。リリアンと呼んでくだサイ」
「おお、あんたが噂の!」
ド派手な着物を纏った金髪碧眼の男‥‥それがリリアンである。そして、さも以前からリリアンを知っていたかのような顔で握手に応じているのはイワーノ・ホルメル(ea8903)だ。彼はリリアンの同好の士を装い、大胆にも堂々とアジトに潜入していた。
「しかしアナタの着物は地味ですネ。もうちょっとお洒落してみてはイカガ?」
「ふ、甘いだべ。派手なもんが派手な褌を締めとるのは当たり前。質素な着物に隠れたお洒落。これがジャパンの真髄『ワサビ漬け』だべさ!」
「オウ、ジャパニース・ワサビヅケ!」
イワーノは「わびさび」と言いたかったらしい。それはともかく、彼は自らの言葉を証明すべくローブの裾をめくり上げた。質素なローブの下から覗いたのは小粋な錦の褌。リリアンは「ワーオ!」と歓声を上げ、食い入るようにイワーノの褌を見つめる。ローブをめくって褌を見せる男と、それを熱い眼差しで見つめる男‥‥まさに禁断の花園だ。すると、さらにそこへ‥‥
「うひゃあ!」
間の抜けた声が響き、いきなり上から何かが降ってきた。それは天井裏に潜んでお頭の居所を探っていた堀田小鉄(ea8968)だ。
わざとお頭の前に落ちるというのは彼の計画通りなのだが、唯一誤算があるとすれば、リリアンとイワーノのど真ん中に落ちてしまったことだろうか。そして起き上がった拍子に、目の前にあったリリアンの顔に接吻しそうになってしまったことも、誤算のひとつかもしれない。
「何者だ?!」
「賊か!」
隣室に控えていた手下2人が、騒ぎを聞きつけて飛び込んでくる。彼らは、自分自身も賊であることをすっかり忘れてしまっているようだ。そんなお茶目さんな2人は、室内の光景を目の当たりにして、そのまま無言で襖を閉めて隣室に戻って行った。人として正しい判断であると言えよう。
そして小鉄は何事もなかったかのように自己紹介をした。
「いやあ、失礼。僕は堀田小鉄っていいます」
「じゃなくテ、何故に上から降ってくるノ?!」
「僕、町で噂のお頭の“ないすせんす”をどうしても見たかったんですー。‥‥うわー本当に格好いいやー」
怪しむ隙すら与えず、小鉄はあらゆる角度からリリアンの着物を眺め、とにかくおだてまくる。
「この柄、なかなか粋ですよねー。袴との色の合わせ方が、これまたまったりとして、それでいてしつこくない」
「オウ、若いのになかなか目の利くボーイですネ」
小鉄の思惑通り、リリアンはすっかり気を良くしたようだ。単純と言うか何と言うか。
「お頭が手に入れた錦の褌って、さぞ綺麗なんでしょうねー。いやあ、見てみたいなあ」
「俺も、是非拝見してぇなあ」
2人から期待の眼差しを向けられ、リリアンもまんざらではなさそうだ。
「フンドーシを愛する者、みな兄弟‥‥良いでショウ、ワタシの自慢のフンドーシ、とくとゴロージロー!」
リリアンは勇ましく袴を脱ぎ捨てた。その下から、ついに錦の褌(とリリアンの下半身)が‥‥!
●掃討
少し時間を遡って。イワーノと小鉄が中に潜入した後、残る4人は手下たちの制圧に取り掛かった。まずは見張り番だが、これは相手が1人なので簡単に片付いた。それから、がら空きになった入り口から中へと潜入。ここからが本番だ。
手下たちは何をするでもなく、本堂でごろごろしていた。ある者は床に寝そべり、ある者は出がらしの茶をすすり‥‥見ているほうも気力を失ってしまいそうなだらけっぷりだ。しかも不法侵入者4人の存在にすら気付いていない。
「‥‥さっさと片付けるか」
「同感です」
明と狂馬が頷き合う。言葉の意味は分からないものの、それを開始の合図と読み取ったらしく、アルはおもむろに服を脱ぎ捨て、黒小頭巾にマントに褌一丁という姿になる。彼が脱ぎ捨てた服がばさりと顔にかぶさったことで、ようやく手下の1人が異変を察した。
「おい、変態だ! 変態がいるぞ!」
「ほんとだ、しかも4人も!」
「待てい、私は変態ではない」
変態呼ばわりされた明は、その不届き者を勢いよく殴り飛ばした。鼻血を吹きながら吹っ飛ぶ仲間を見て、手下たちの間に動揺が走る。
「変態のくせに強いぞ!」
「よくも三郎太を!」
吹っ飛ばされた手下その1は三郎太というらしい。手下その2が「三郎太の仇ー!」と叫びながら明に殴りかかるものの、呆気なく返り討ちにされ、同じく鼻血を吹きながら床に沈没。
「お、お頭を呼んで来い!」
手下その3がその4に命令するが、魅意亞が素早くその先に回り込んで行く手を阻んだ。
「そうはさせません!」
「くそっ」
「邪魔だ小娘!」
手下その3、4、5が連携して魅意亞を押しのけようとするが、すかさずアルと明が加勢に入る。
「ひいい、こっちに来るな!」
黒小頭巾にマントに褌一丁、しかも手には木刀――そんな出で立ちでずんずんと迫ってくるアルに、手下たちは一種異様とも言える空気を感じ取ったらしく、早くも逃げ腰だ。
「どうせ逃げるんなら最初から逃げろっ」
「ひいい」
アルの姿と明のガンつけですっかり士気が落ちてしまった手下3人は、呆気なく取り押さえられた。
一方その隙に、先程撃沈したその2はこっそり床を這って逃げ出そうとしたのだが、あえなく狂馬に発見されて首根っこを掴まれてしまった。狂馬は片手でその2の口をしっかり塞ぎ、もう片方の手をヒートハンドで灼熱化させ、実に楽しそうな笑顔を浮かべる。
「こんな手で貴方の顔を掴んだりでもしたら、大変な事になるでしょうねぇ?」
「む、むぐっ!」
「‥‥クク、冗談ですよ。サヨナラ」
ごつんと薙刀の柄で殴打され、その2も夢の国へと旅立った。
●よいではないか
リリアンの下半身に燦然と輝くのは青い錦の褌だった。
「噂では青と赤、2本対の、それはそれは綺麗な褌だって聞いたべ」
「もう1本はこれですネー」
下半身褌姿のまま、リリアンは後ろにあった棚から大事そうに赤い錦の褌を取り出す。それを見た小鉄は、わざとらしく大きな声で感嘆してみせた。
「うわあ、これが赤と青の褌かあ。すごいなあ!」
するとそれを合図に、襖を蹴破って狂馬たちが乱入してきた。
「その褌、返してもらいますよ」
「オウ、褌ドロボーですカ!」
リリアンの大声を聞きつけて、再び隣室から手下2人が駆けつけてくる。しかし魅意亞と明が立ち塞がり、彼らをリリアンの傍に近寄らせない。
「泥棒に泥棒呼ばわりされたくないです」
「まったくだ」
2人が手下の動きを封じている間に、狂馬は薙刀の柄でリリアンに殴りかかった。さすがにお頭だけあって、手下たちに比べれば良い動きをしているが、なにぶん部屋はそれほど広くない。そこで合計9人もが乱闘をしているのだから、混乱は必至だった。
「オーウ、ワタシのキモーノ傷付けないでくだサーイ!」
艶やかな打掛が飾られた衣文掛けが倒れそうになり、慌ててそれを守ろうとするリリアン。
「隙あり!」
「ノオー!」
薙刀に打ち据えられて、リリアンは大きく体勢を崩した。その瞬間、狂馬と小鉄は互いに目と目で会話し合い、最終作戦の実行に移った。
「それっ」
「良いではないかー、良いではないかー」
2人がかりでリリアンの褌を引っぺがす。リリアンはくるくる回りながら、当然のようにこう叫んだ。
「アーレー!」
その時、狂馬と小鉄はものすごい達成感を感じたとか感じなかったとか。
「ジャパニーズふんどーしって、凄いんですね‥‥」
目を回してあられもない姿で倒れるリリアンを見つめ、アルが感心したように呟いた。もちろん、彼もまた褌一丁のままで。
●終幕
リリアンの温もりがほんのり残る褌は、議論の末、小鉄が丁重に村まで運ぶことになった。そして褌を村に返還し、リリアンを奉行所に突き出して、依頼は無事終了と相成った。
「最後に着物を守ろうとしたあんたは立派だったべ。好きなものを愛でる心があるなら、もう道を誤ったらいかん」
イワーノにこう諭され、リリアンは涙ながらに謝罪の言葉を述べたのだった。
手下たちも更正を促され、今では真面目に職を探しているらしい。
盗品の着物やら何やらは、持ち主が判明したものに関してはきちんと返還され、出所不明の褌は小鉄の希望により彼に贈与された。
「‥‥まあ、個人の趣味についてとやかく言うつもりはないがな」
とは明の弁である。
そしてその後、江戸の街の一部でこんな噂が囁かれたとか囁かれないとか。
「黒子頭巾に褌一丁の怪人物が出没するらしい」
「他人の褌を脱がせることにかけては超一流の冒険者がいるらしい」
その噂の真相を知る者たちは、今日も元気に江戸の街で冒険中である。
めでたしめでたし。