お届け人を取り戻せ
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:初瀬川梟
対応レベル:1〜3lv
難易度:難しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月12日〜12月17日
リプレイ公開日:2004年12月20日
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●オープニング
「‥‥やはり、要求を呑むことはできん」
村長の一言で、強張っていた娘の顔がますます固くなる。
「そんな‥‥じゃあ見殺しにするっていうんですか?!」
「そういうことになるな」
あまりにも素っ気ない返答。しかし村長を始めとして、その場にいる者たちの顔は一様に暗い。
それもそのはずだ。彼らの決定が、ある1人の人物の命運を左右しようとしているのだから。
「冷たい言い方かもしれんが、あの者は村にとっては余所者だ‥‥余所者のために村の者の生活を犠牲にできるだけの余裕は、ないのだよ」
「そんなの、分かってます‥‥でも‥‥」
まだ納得の行かない表情の娘の肩に、村長がそっと手を置く。
「わしらとて、つらくないわけじゃないんだ‥‥分かっておくれ、さや」
あまりにも重いその言葉に、反論などできるはずがなかった。
* * *
ギルドを訪れた若い娘は、開口一番こう言った。
「山賊退治をお願いしたいのです」
「山賊退治ですか。詳しい話はこちらでお聞きします、どうぞ」
係員に案内され、娘は事情を説明し始めた。
「最近になって、村の近くに山賊が現れるようになったんです。その山賊に、村に手紙を届けてくれる飛脚の方が捕まってしまって‥‥それで、その方の身柄と引き換えに金品や食料を渡せ、と‥‥」
「人質を取られてしまったわけですね」
「はい‥‥でも貧しい村ですから、山賊に差し出す余裕などないのです‥‥」
娘はつらそうに俯くが、しばらくして少し気持ちが落ち着いたのか、また説明に戻る。
「私には兄がいて‥‥兄は冒険者になると言って村を飛び出して行って、今は遠い異国の地にいます。兄から届けられる手紙が、今の私にとって唯一の楽しみなんです」
田舎の村には娯楽などほとんどない。
子供なら野山を駆け回って遊ぶのも楽しいだろうが、このくらいの年頃の娘――ちなみに、見たところ20歳前後である――にとって、兄との手紙のやり取りしか楽しみがないというのは頷けることだ。
「しかし小さな村ですから、手紙のやり取りなど、そう頻繁に行なわれてはいません。利用するのは、もっぱら私くらいのもの‥‥」
つまり彼女以外の大半の村人にとっては、飛脚などいてもいなくても日常生活に支障はない、ということだ。
何故、村と直接的な関わりのないシフール飛脚を山賊たちが攫ったのか、その意図は定かではない。
頻繁に村に出入りしているので、村人だと勘違いしたのか。それとも、たまたま村の近辺を飛んでいたところを運悪く捕まってしまったのか。‥‥どちらにしろ、彼が捕らわれてしまったこと、そして盗賊が身代金を要求していることは、変えようのない事実である。
「もしあの飛脚さんが殺されてしまっても、また別の人が担当に就くから困らないだろうと‥‥そんなふうに言われました。だけど、お世話になった人が殺されるなんて‥‥私‥‥」
こう言って、娘は両手で顔を覆った。
自分たちの生活を守るために、他の誰かに犠牲になってもらう。それだけでも決して愉快なことではないのに、ましてや犠牲になるのが顔見知りとあっては、いたたまれないのも当然だ。
「その飛脚さん‥‥フィオさんというのですけど、私に手紙を渡す時、いつも自分のことのように喜んでくれるんです。お兄さんから便りがあって良かったね、遠く離れても元気にしている証拠だねって‥‥そんな優しい人を見殺しにするなんて、耐えられません」
娘は涙を拭って、顔を上げた。
その瞳には哀しみと切実な願いの色が浮かんでいる。
「お願いします。どうか、どうか‥‥フィオさんを山賊から取り戻してください‥‥」
●リプレイ本文
●調査
冒険者たちが村へと到着したのは、出発翌日の早朝だった。山賊たちとの取引が行なわれるまでには、まだ丸々1日以上の時間があるが、できればその前に人質を奪還したい。休む間もなく、一行は調査を始めた。朱蘭華(ea8806)1人を除いて。
「‥‥村人に話を聞くのは任せるわね。私は一休みさせて貰うわ」
彼女は素っ気なく言うと、村から離れていった。
このような田舎の村では混血であるなしに関わらず、異種族というだけで奇異の目で見られることもある。悲しいことだが、そういったいざこざを避けるためには、彼女のような判断も時には必要と言えるかもしれない。
残った者たちは山賊たちが根城にしている山小屋について、村人たちに話を聞いて回った。皆、あまり良い顔はしなかったが、それでも必要な情報を聞き出すことはできた。
村人から得た情報を頼りに、レナード・グレグスン(ea8837)は山小屋がある森へと馬を走らせた。そして桐生純(ea8793)とテリー・アーミティッジ(ea9384)が先行してアジトの探索を行う。テリーがバイブレーションセンサーで人の気配を探知し、それを元にして、純が足跡などを見つけては辿ってゆく。
山小屋は元々付近の村人が使っていたものなので、特に分かりにくい場所にあるわけではなく、見つけ出すのは大変なことではなかった。
今は離れたところから確認しただけなので、中の様子は分からないが、あの中にフィオが捕らわれていることは間違いない。
「‥‥また後で必ず、助けに来るから‥‥」
「そうだね。絶対成功させよう!」
小さく頷き合って、2人は村で待つ仲間の元へと引き返していった。
「思っていたよりは楽に話が聞けたわね」
村外れで純の帰りを待ちながら、グロリア・ヒューム(ea8729)が言う。
「やっぱり、村人さん達も罪悪感があるんだよ」
「理由はどうあれ、人質を見殺しにして気分が良いはずがないからな」
鈴苺華(ea8896)と菊川旭(ea9032)はそれぞれ複雑な表情で、村人たちの様子を思い返していた。
田畑しかないようなのどかな村。そこで生まれ育ち、穏やかで慎ましやかな生活を送ってきた村人たち。その暮らしを守りたいと願うのは当然のことだ。しかし、誰かの命を犠牲にして平穏を手に入れたとしても、その後ずっと後ろめたい思いを背負ったまま生きてゆかねばならない。
「‥‥失敗するわけには行かないな」
村の風景を自らの故郷と重ね合わせながら、旭(ea9032)はしっかりとした口調で呟いた。
●襲撃
夜明け前の薄闇の中、冒険者たちは息を潜めていた。少し離れたところには盗賊たちの山小屋。窓に明かりは見えないが、入り口付近に人が座り込んでいるのが見える。
しばらくして、山小屋に近付いて様子を見ていた苺華が仲間の元へと戻ってきた。
「ダメ。入り口には見張りがいるし、窓も閉まってるよ」
「やはり強行突入しかないな」
呟いて、旭は手の中に水晶の剣を作り出した。他の者たちも各々突入の準備を整える。
まずは純と苺華が気配を消して小屋へ接近し、2人で同時に見張りに襲い掛かった。
「だっ!」
誰だ、と叫ぼうとした見張りの口を純が素早く塞ぎ、鳩尾を殴る。その隙に苺華が扉を開け、続いて茂みに隠れていた仲間たちが次々に小屋の中へと突入してゆく。眠っていた山賊たちは慌てて目を覚ましたが、混乱のため対応が遅れ、その間にも苺華はフィオの傍らへと一気に飛んでいった。
「フィオくん、助けに来たよ!」
苺華はフィオを守ろうと、勇敢に彼の前に立つ。
「チッ、村人に頼まれたのか!」
忌々しげに舌打ちをして、山賊の1人が苺華に掴みかかろうとするが、苺華は怯むことなく自信たっぷりに言った。
「ボクはね、こう見えても江戸で開かれた武闘大会で3回戦まで進んだんだよ! って言ったら信じる?」
「はあ? チビのくせに、粋がってんじゃねぇよ!」
バカにしたような様子で笑い飛ばす山賊。苺華はその隙を見逃さなかった。自慢の羽根で山賊の懐に飛び込み、その小さな体からは予想もつかないほどの強力な一撃を見舞う。
「ざんね〜ん♪ ホントのことでした」
「がっ!」
くぐもった声を上げて、山賊は意識を失った。まさかシフール相手に気絶させられるとは思ってもみなかったらしく、周囲の山賊たちの間に動揺が走る。
「くっ‥‥人質を!」
頭領らしき風格の男が近くにいた仲間に命じるが、蘭華が間に入ってそれを阻んだ。
「‥‥人質を盾に取ろうなんて姑息な考えは捨てることね」
「姑息? 戦略の間違いだろ!」
揚げ足を取りつつ、山賊が数人がかりで蘭華に襲い掛かる。しかし、そのうちの1人の動きが急激に鈍った。テリーがアグラベイションをかけたのだ。その機を狙って、蘭華はすかさず必殺の奥義を叩き込んだ。
「‥‥爆虎掌」
「ぐふっ‥‥!」
腹部に強力な打撃を受け、山賊は胃の中のものを吐き出しながら床に崩れ落ちた。
「このクソアマ!」
汚い言葉を投げ掛けながら山賊たちが反撃に出ようとするが、旭が蘭華の援護に回り、2人で山賊たちの注意を引き付ける。その間にレナードは素早くフィオの傍に駆け寄り、縄を解いてやった。
「大丈夫?」
「はい‥‥」
フィオはかなり衰弱しており、羽根も千切られてしまっているが、それでも意識は保っていたようだ。
「ちょっと苦しいかもしれないけど、しばらく我慢してくれよ」
フィオを自らの懐に隠れさせると、レナードは山賊たちの攻撃から全力でフィオを守りつつ、入り口へと走った。それを追って山賊たちは外へと雪崩れようとするが、入り口にはグロリアが立ち塞がり、山賊たちの行く手を阻む。
「悪いけど逃がさないわよ」
「くそっ、どけ!」
グロリアは、躍起になって攻撃を仕掛けてくる山賊たちに果敢に挑み、武器を奪い取ってゆく。旭も機動力を生かして次々に山賊たちをねじ伏せ、着実に敵の数を減らしていった。
「いい加減、降参なさいな」
山賊から奪い取った小刀を片手で弄びながら、グロリアの余裕の一言。最後に残った1人は、それでもまだ抵抗する素振りを見せたが、純の言葉でようやくおとなしくなった。
「私たち、あなたたちを殺すのが目的じゃないノ。お願いだからこれ以上、罪を重ねないで‥‥」
「‥‥くっ」
床に膝をついた山賊に、グロリアが縄をかける。他の者たちも捕縛され、村人たちの生活を脅かしてきた脅威はようやく取り払われた。
●終局
「フィオさん‥‥!」
レナードの腕に抱きかかえられたフィオを見るなり、さやは一目散に駆け寄ってきた。
「無事で、良かった‥‥本当に‥‥」
「さやちゃん、ごめんね‥‥」
すまなさそうに謝るフィオに対して、さやは何度も首を横に振る。気にしなくていい、ただ無事な姿を見られただけで充分だと、そう言いたげな表情だったが、胸がいっぱいで言葉にならない様子だった。
「はい、これ。大事なお届けものなんでしょ?」
山賊から奪い返した鞄を、テリーがフィオに手渡す。幸い、中に入っていた手紙は無事だった。
「‥‥お兄さんからの大事な手紙、渡せなかったらどうしようかと思ったけど‥‥ちゃんと届けられて良かった」
「ええ‥‥フィオさんも皆さんも、本当にありがとう」
さやは嬉しそうに手紙を受け取る。その姿が、かつての己の姿と重なって見えて、旭は少しくすぐったいような、それでいて温かな気持ちを感じていた。
「‥‥良かったな、本当に」
小さく呟いたその声は、果たしてさやの耳に届いただろうか。
純は荷物が入ったバックパックを背負う驢馬の背を撫でてやりながら、少し照れたような様子でさやに言った。
「‥‥お礼の代わりに、ひとつお願いがあるノ」
「はい、私にできることなら何でも」
「この子に、名前をつけて欲しい‥‥まだ、名前がないから」
驢馬は、きょとんとしたように主人の顔を見つめている。彼(彼女?)もまた、今回の冒険の影の功労者だ。さやは突然の申し出に驚いたようだが、微笑んで驢馬の顔を覗き込んだ。
「この子、純さんと同じで綺麗な目をしてますよね。真っ黒で、深くて‥‥えーと、だから『みかげ』なんてどうかな?」
それを聞いて純は穏やかな表情を浮かべ、もう一度驢馬の背を撫でてやった。
「良かったね、みかげ」
呼びかけると、驢馬――みかげは嬉しそうに尻尾を振った。
「さて、凱旋と行きますか」
レナードが意気揚々と馬の手綱を取り、冒険者一行は帰路に就こうとしていた。その背に、声が掛かる。
「‥‥お待ち下さい」
そう言って一行を呼び止めたのは村長だった。その顔に浮かんでいるのは、山賊から解放された安堵、そして自らの決断に対する罪悪感‥‥それらが入り混じった複雑な表情。
「あのような決断を下した私を、愚かとお思いでしょうが‥‥どうかお許し下さい」
こう言って、彼は深々と頭を下げた。
「いいのよ。これが私たちの仕事なんだから」
「‥‥そうね。あなたも私も、それぞれ正しいと思うことをした。それだけのことよ」
グロリアと蘭華が口々に言うのを聞いて、村長ははっとしたような表情になる。そして少し間を置いてから、静かにこう言った。
「もしまた、この村に大事あった時には‥‥また是非、皆さんに来て頂きたいものです」
彼の顔には、ようやく穏やかな笑顔が浮かんでいた。
村長とさや、フィオの笑顔に見送られて、冒険者たちは江戸へと戻って行ったのだった。