年忘れの宴

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月26日

リプレイ公開日:2004年12月30日

●オープニング

「ああ忙しい忙しい!」
 店の中を慌しく駆け回る従業員たち。年の暮れは、どこも似たようなものだ。
 しかし今年は生憎と、その忙しさに追い討ちをかけるような出来事ばかり続く。
 出先から帰ってきたばかりの主人の元へ、店に勤めている女の子が血相を変えて駆け寄ってくる。
「旦那様、大変です! 加代ちゃんが階段から落ちて怪我したって‥‥!」
「なんだって?! 無事なのか?!」
「は、はい‥‥幸いひどい怪我ではないんですが‥‥足をくじいてしまって、しばらくは動き回っちゃ駄目だってお医者様が‥‥」
「‥‥なんてことだ」
 ほんの一月前にも、従業員の1人が出産のため暇を貰ったばかり。まあ、1人欠けたくらいなら何とかなるだろうと、代わりの者を雇うこともなく商いを続けてきたのだが、この忙しい時期にさらに欠員が出てしまった。
 忙しいのはどこも同じ。今すぐに店に入ってくれと言っても、そうそう簡単に了承してくれる人材が見つかるはずもない。
 頭を抱える主人の元へ、今度は奥方がやって来た。
「あなた、そろそろ宴の準備もしませんと」
「むう、そうだな‥‥」
 主人はしばらく考え込んだ挙句、何か思いついたようにポンと手を打った。

 * * *

「年忘れの宴に出て、ついでに店と家の手伝いもしてくれる人を探しているんです」
「宴に出てくれる人?」
 ギルドの係員が怪訝そうに聞き返す。
 わざわざ冒険者ギルドで宴の出席者を募るとは、どういうことだろう。
「うちでは毎年、歳末に年忘れの宴を開くのです。親しい者や世話になった者を招いて、ぱあっと騒ごうやというものなんですが‥‥毎年毎年同じようなことをやるのも芸がないなあと思いましてね」
 豪華な料理を目の前に、芸者を呼んで飲めや歌えの大騒ぎ。
 宴とは大概そんなものだが、確かに「お決まり」になってしまってつまらないというのもあるかもしれない。
「そこで今年は少し趣向を凝らして、冒険者の方々に宴席を盛り上げてもらおうと思ったわけです。この町からほとんど出ない我々と違って、冒険者の方々は多種多様な経験がおありでしょう。そういった方々ならば、いつもとは違った楽しみを提供してくれるのではないかと、そう思った次第です」
「なるほど」
「手伝いというのはついでですよ。あくまでも依頼の本題は宴です」
 こうして、冒険者ギルドに新たな依頼が貼り出されることになった。

『人員募集 宴席の余興と簡単な手伝い
 宴席では豪勢な料理と旨い酒が飲み放題食べ放題!』

●今回の参加者

 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea0696 枡 楓(31歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4660 荒神 紗之(37歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8837 レナード・グレグスン(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9269 イェルハルド・ロアン(34歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●宴の前
 宴は依頼最終日に行なわれるため、それまでは店と家の手伝いをすることになる。
 天螺月律吏(ea0085)は給仕などするのは初めてだったが、彼女のようなタイプは今まで店にはいなかったので、その物珍しさが客を惹きつけたようだ。小柄な体で店を駆け回る枡楓(ea0696)、常連客の男どもに気さくに応対する荒神紗之(ea4660)と3人揃って、店の看板娘的存在になっていた。美術の才能を生かした鷹見仁(ea0204)の盛り付けも、目の肥えた客の間では好評だった。
 一方、残り4人は家の大掃除に奔走していた。前掛けと三角巾でばっちり武装(?)したイェルハルド・ロアン(ea9269)は家中のほこりを払い落としにかかり、凪里麟太朗(ea2406)は使えるものと使えないものをきっちり分類。処分するものは、山下剣清(ea6764)とレナード・グレグスン(ea8837)がまとめて庭に運び出す。
 そんなこんなで、4日間はあっという間に過ぎていった。

●宴〜序の口〜
 いよいよ宴当日。料理が並べられ、出席者も揃ったところで、依頼人が冒険者の紹介を行なう。
「今回は新しい趣向をご用意致しました。こちらにいらっしゃる冒険者の方々に、出し物をして頂くことになっております。何が出るかはお楽しみ、さあ皆さん、ごゆるりとおくつろぎ下さい」
 すると客の間からは「粋な計らいだねェ」「でも大丈夫なのかい?」など様々な声が上がる。そんな客の様子をちらりと見つつ、まずは鷹見が前に進み出た。
「芸と言っても、俺の得意なことと言えば戦うことと絵を描くことくらいのもの‥‥今回は、絵の腕のほうを披露しよう」
 彼はささっと道具を用意すると、依頼人の顔をじっと見つめ、大判の板に一気に似顔絵を描き上げていった。いわゆる一筆書きというやつだ。できあがった絵を掲げて見せると、客はわっと歓声を上げた。どうやら客の心を掴むことには成功したようだ。
「他にも描いて欲しい人がいれば、受け付けるぞ。特に女性は大歓迎」
 と鷹見が声を掛けると、女性たちが「私も私も!」「美人に描いてね♪」とこぞって名乗りを挙げる。これで一気に場の雰囲気が盛り上がった。
「では次は私が行くか。‥‥さて皆様ご覧あれ。取りい出しましたるは、一本の大根」
 いかにも仰々しく律吏が取り出して見せた大根。さて大根を使って一体どんな芸が行なわれるのだろうと、不思議そうな視線が律吏に集まる。「まさか大根で剣舞?」などと客が思った瞬間、
「これを素手で綺麗に一刀両断!」
 えいっとばかりに、律吏が大根を叩き切った。ごろんと畳の上に転がった大根を手に取った男は「おお!」と声を上げる。
「綺麗に真っ二つだぞ!」
「すげえ、刃物で切ったみたいだ」
 みたいだも何も、実はオーラソードを使って切ったのだが、無論客たちはそんなことは知る由もない。すっかり感心して「これも切ってみてくれ!」と杯やら何やらを差し出してくる。依頼人が「構いませんよ」と許可を出したので、律吏はそれらもスッパリと両断して見せた。
 
 この辺で場の空気が一気に和やかになったので、客たちは本格的に料理を楽しみ始める。山下は芸者の演奏に合わせて、得意の剣技を生かした流麗な剣舞、動と静の緩急を使った演舞を披露し、宴の雰囲気を盛り立てた。
 そして少し酒が回り始めたところで、楓が自らの冒険譚を肴代わりに話して聞かせた。
「うちは仲間たちと共に、村を占拠した山鬼たちの殲滅に向かったのじゃ。そして村の様子を確かめるため、うちが先行して偵察に向かったのじゃが‥‥へまをして、山鬼の群れに追われることになってしまった」
「鬼の群れにか?!」
「姉ちゃん、ちっこいのに、よく無事で帰ってこられたなぁ」
「仲間が援護してくれたからな。しかし本当に死ぬかと思ったぞ。地獄からの生還というやつじゃな」
 鬼退治というのは、誰しも一度は寝物語として親から聞かされるもの。しかし作り話ではない本当の鬼退治の話に、客たちは合いの手を入れつつ聞き入っていた。

●宴〜たけなわ〜
 そんなこんなで、客たちもだいぶ出来上がってきた。
「お兄さん、飲んでます?」
 そう言って徳利を差し出したのは、いつの間にやら衣装替えを済ませたレナードだった。銀髪を日本髪に結って、顔にはほんのりと化粧。そして艶やかな御引き摺り。彼はまさに「ジャパニーズ・ゲイシャガール」になりきっていた。
「ささ、一つ一献」
 ご丁寧にシナなど作ってお酌するレナード。本人は実は真剣に接待しているつもりなのだが、客は余興の一環だと思ったらしく、爆笑が巻き起こっている。大柄な男が芸者の格好というだけでも充分にアレだが、レナードが外国人だということで、より一層受けたらしい。
「そうだ、せっかくだし、イェルハルドもこれ着ない?」
「え゛?」
 いきなり話を振られ、目が点になるイェルハルド。しかしレナードは本気のようだ。
「この格好、なかなかいいもんだよ? それにこれがジャパンの本式ってやつみたいだし」
「ほ、本式??」
「そうそう、遠慮しないでほら」
「いや、俺はその‥‥って、ちょっと待ったあ!」

 この後イェルハルドがどうなったかはご想像にお任せします。
 とまあ、それはさておき。

「はいはい注目〜! 此処にあります、この徳利!」
 紗之が威勢よく立ち上がり、徳利を目の前に掲げてみせる。彼女はその中身をぐいっと一気に飲み干した。
「一瞬にて中身が消失しましたぁ」
「いいぞ姉ちゃん! もういっちょ!」
 ただ酒を飲んだだけなのに、やいのやいのの大騒ぎ。酔っ払いとはそんなものである。
 そして紗之は客が持ってきた上物の酒を片手に、こんなことを持ちかける。
「さあさあこれを賭けて、誰か私と勝負しない?」
「おっ、いいねえ」
「酒はいいから脱げ脱げ、姉ちゃん!」
「う〜ん、脱いでもいいんだけどねぇ、私が脱いでも酒のつまみにはならないよ?」
 などと言いつつ、着物の袂をずらしてみせる紗之を横目に眺め、イェルハルドは密かに「ジャパンの女の子って大胆なんだなぁ」と思ったとか何とか。そんなイェルハルドに、客の1人が絡んでくる。
「兄ちゃんは何を見せてくれるんだい?」
「俺? えーと‥‥こんなのはどう?」
 イェルハルドは右手に箸を持ち、好物のアナゴをつまんでみせる。そして今度は左手に箸を持ち替え、同じく好物のそばを器用にすする。
「それは芸とは言わない」
「ほら、俺の国じゃ箸なんてないからさ、これで勘弁してくれ」
 近くにいた律吏が冷静にツッ込んだが、イェルハルドは苦笑して誤魔化した。

●宴〜終焉〜
 山下は酒や料理よりも麗しい女性のほうがお好みのようだ。
「あらお兄さん、ちっともお酒が進んでないわよ?」
 と酒をつごうとする芸者の手を軽く止めて、優しく微笑んでみせる。
「こんな美人を目の前にしたら、酒を飲む時間さえ惜しいな」
「あら、お上手ね」
「お兄さん、さっきの演舞かっこよかったわ〜。また見たいわね」
「お望みとあらばいつでも」
 ‥‥飲み食いよりもナンパが本願らしい。
 それとは対照的に、楓はまさに「色気より食い気」といった様子。他の者たちにも熱心に酒を勧めて回っていたのだが、麟太朗を目の前にして徳利を持つ手が止まる。
「さすがに麟太朗に勧めるのはまずいかのぅ」
「いや、飲めるぞ。なにせ母上や師匠が勧める酒を拒んだら、簀巻きにして荒海に放り投げられるという仕置きを受けていたからな」
 ふっ、と虚ろな笑みを浮かべる麟太朗の肩に、楓はポンと手を置いた。
「‥‥苦労してるんじゃな」
「まあな‥‥でも今日は、そんな鬱憤も綺麗さっぱり晴らすぞ!」
 麟太朗は立ち上がり、ぱんぱんと大きく手を鳴らして一同の注目を集める。
「皆、酔い覚ましに夜風にでも当たりに行かないか? 面白い余興も用意してあるぞ」
 最年少の麟太朗が果たしてどんな見世物を用意したのかと、客たちも興味津々のようだ。こうして、宴の舞台は庭へと移された。そこには、大掃除の時に運び出されたガラクタの山がある。
「さあみんな、このゴミと共に今年1年の鬱憤を燃やし尽くしてしまえ!」
 景気よく叫んで、麟太朗は用意してあった薪に火を灯し、炎の中にゴミを投げ入れる。それを合図に、客たちも一斉にゴミを焚き火に投げ込んで叫び始めた。
「親方の石頭ー!」
「来年こそは恋人つくるぞー!」
「あの助平おやじ、覚えてなさいよ!」
「鬼ばばあー!!」
「あんた、今何か言ったかい?!」
「い、いえっ、何でもありませんっ!」
 ‥‥人生いろいろ、苦労もいろいろ。皆それぞれ鬱憤も溜まっていたらしい。
 こうして、焚き火を囲んでわいわい大騒ぎしながら、夜は更けていった。

●宴の後
 ご近所から「うるさい」と苦情が寄せられたものの、宴は今までにない盛り上がりのまま幕を閉じた。紗之は報酬を受け取ることを拒んだが、依頼人はにっこりと笑って彼女の手に金子を握らせた。
「私はあくまでも、あなたがたに仕事をお願いしたのです。そしてあなたがたは私の願い通り、見事に依頼をこなして下さった。それに対して対価を支払うのは当然のことです」
 そして、すっかり機嫌を良くした依頼人は、来年からも宴に冒険者を招くことを決めたらしい。
 やがて冒険者を交えたこの宴が恒例行事となり、さらには他の場所へも広まっていった‥‥かどうかは定かではない。