ともだちを取り戻せ

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月11日〜01月18日

リプレイ公開日:2005年01月20日

●オープニング

 ある日、ギルドに若い男が訪ねてきた。柔和そうな顔立ちをしているが、頬が少しやつれ、それが痛々しい印象を与えている。表情も不安に満ちていて、思わず「大丈夫ですか?」と声を掛けたくなってしまうような様子だ。
 まあ、ギルドを訪ねてくる人間というのは多かれ少なかれ悩み事を抱えているのだから、当然と言えば当然なのだが。
「それでは、依頼の内容を話して頂けますか?」
 係員に促されて、依頼人はうなだれながら事情を説明し始めた。
「どうやら俺の友達が、ある人物に捕まってしまったようなので、助け出して欲しいんです」
「それは一大事じゃないですか。かどわかしですか?」
「ええ、まあ、そんなようなものなんですが‥‥ちょっとばかし特殊な事情がありまして」

 * * *

 今から数ヶ月前のこと。
 依頼人・平太は道端で何かが泣いている声を聞きつけた。気になって声の主を探してみると、それは掌に乗るほどの大きさの、可愛らしい女の子のような姿をした生き物だった。背にはトンボのような羽があり、ちゃんと言葉も喋る。平太も実物を見るのは初めてだったが、その容姿から、彼女(?)がいわゆる「妖精」と呼ばれる生き物なのだということは、何となく分かった。
 「みい」と名乗ったその妖精は野犬に襲われて怪我をしており、羽も千切れてしまっていた。哀れに思った平太はみいを家に連れて帰り、怪我の手当てをして、羽が元に戻って飛べるようになるまで面倒を見てやっていた。
 みいはすっかり平太に懐き、怪我がすっかり治った後も、ちょくちょく訪ねてくるようになった。平太もおしゃべり好きで明るいみいのことが気に入って、彼女と会って話すのを楽しみにしていた。
 しかし最近になって、平太の住む村にある男が訪ねてきた。
 彼は触れたものを腐敗させ、果物や何かから酒を作り出すことのできる妖精の話をして、「その妖精がどこにいるか知らないか?」と平太に訊ねた。平太はすぐにそれがみいのことだと感づいたが、知らないふりをした。何となく嫌な予感がしたからだ。
 残念なことに、平太の予感は的中した。それから数日後、みいがぱったりと姿を見せなくなってしまったのだ。
 色々調べて回った結果、先日訪ねてきた男は近くの町で酒屋を営んでいることが分かった。さらには、その酒屋の従業員数名が、何か小さなものを追いかけ回して捕まえているところを目撃したという声を聞くこともできた。
 きっと、みいはその酒屋に捕まってしまったのだ。
 そう確信した平太は悩みに悩んだ挙句、ギルドに依頼を持ち込むことを決めたのだった。

 * * *

「この目ではっきりと確かめたわけじゃないから、みいが酒屋に捕まっているという確証はないです。でもそうでないにしろ、あいつらが何か知っていることは間違いないです」
 そう訴える平太の眼差しは切実だ。
 恐らくろくに休みも取らず、必死に情報を集めて回っていたのだろう。やつれているのも頷ける。
「もしみいが捕まっているのなら、無事に助け出して欲しい‥‥。そして、もし捕まっていないのだとしたら、みいが今どうしているのか調べて欲しいんです。みいは俺の大事な友達だから‥‥よろしくお願いします‥‥」
 わずかに瞳に涙を浮かべながら、平太は深々と頭を下げた。

●今回の参加者

 ea4245 高木 源十郎秋家(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0110 ジェイラード・ラヴィーダ(34歳・♂・レンジャー・人間・イスパニア王国)
 eb0344 カノウ・エン(31歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 eb0359 ミニー・シルヴェスター(24歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●聞き込み
 件の酒屋があるという町に着くなり、カノウ・エン(eb0344)は嬉々として道行く娘たちに目を向けた。その視線、まるで獲物を狙う猛禽のごとし。素早く狙いを定め、颯爽と町娘に声を掛ける。
「お嬢ちゃん、ちょっといいかい?」
「きゃあっ、な、何ですか?!」
 ぎょっとする町娘。大柄な異人がいきなり異国の言葉で話し掛けてきたのだから、驚くなというほうが無理だろう。カノウは酒屋の情報を聞き出そうとしているのだが、言葉が通じず、娘は怯えるばかり。見かねた高木源十郎秋家(ea4245)が横から割って入った。
「驚かせてしまってごめんなさい。わたくしたちは、この町にある酒屋を探しているのですが‥‥」
 娘は訝しげに2人の顔を見比べつつ、とりあえずは知っていることを教えてくれた。
 これから行なう作戦については酒場で入念な話し合いを行ない、各自しっかり手順を頭に叩き込んである。とは言え、やはり言葉の壁は大きい。前途多難だ。

●商談
 聞き込みを終えると、カノウとミニー・シルヴェスター(eb0359)は酒屋を訪ねた。冒険者稼業の傍ら酒屋を営んでいるカノウは、商談を持ちかけるふりをして探りを入れることにしたのだ。ミニーは従業員、兼、通訳ということにしてある。もっとも実際にラテン語が分かるわけではないので、あくまでも「ふり」だが。
「いらっしゃいませ!」
 店に入るなり2人を出迎えたのは、元気の良さそうな少女だった。恐らくは店主の娘、美弥だろう。もう1人の従業員らしき青年は別の客の相手をしている。カノウは青年には目もくれず、美弥を眺めて上機嫌だ。
「初めまして、可愛いお嬢ちゃん。こんな美人に会えるなんて今日は運がいいね」
 これが実際のカノウの台詞だが、ミニーにはその意味は分からないので、あらかじめ用意してあった台詞を切り出した。
「初めまして。今日はお仕事のことで話があって伺ったんだけど、店主さんを呼んでもらえるかな?」
 美弥は一瞬きょとんと首を傾げたが、すぐにまた愛想よく微笑む。
「はい、少々お待ちくださいね」
 しばらくすると、美弥に連れられて奥から店主が顔を出し、カノウとミニーは早速作戦を開始した。
 話す内容については事前に打ち合わせ済みだが、細かいところに関しては臨機応変に対応しなければならない。ミニーにとってはかなり大変な仕事だ。
(「うう、怪しまれないといいんだけどなぁ‥‥」)
 ところどころぎこちなくなってしまったものの、店主は「まだ若いのに偉いねえ」と好意的に受け止めてくれたようだった。母国語と同じくらいジャパン語に堪能だったのが幸いしたようだ。
 ぎくしゃくしつつも和やかに偽の商談を進め、ミニーは機を見計らって核心へと話を持ち込んだ。
「それで、倉を見学させてもらいたいんです」
 その言葉を出した途端、店主の表情がわずかに強張った‥‥ように見えた。しかしそれも一瞬のこと、すぐにまた商売用の笑顔に戻る。
「こちらにも準備がございますので、そうですね‥‥明日ではいけませんか?」
「明日ですか」
 怪しい。直感的に、ミニーは感じた。
 準備という言葉に他意はなく、単純に整理や掃除を行なうだけ‥‥とも考えるられるが、それにしては、先ほど見せた狼狽の表情が引っかかる。
 ミニーは店主に気付かれないよう、さり気なくカノウの着物の袖を引っ張った。するとカノウは何かを思い出したような素振りを見せつつ、ミニーのほうを向く。
「そうだ、ちょっと野暮用を思い出したから、おつかいに行ってきてくれるかな?」
 相変わらず言葉は理解できないが、先ほどの合図をしたらこの台詞を言うことは、打ち合わせで決めてある。ミニーはいかにもそれらしく頷いて、店主に告げた。
「ごめんなさい。ちょっと用事を頼まれちゃったので、僕はしばらく席を外しますね。すぐに戻りますから!」
「え? いや、通訳がいないとお話ができないのですが‥‥」
 店主の返事も聞かずに、ミニーは元気よく飛び出してゆく。
 残された店主は、にこにこと笑うカノウのほうに視線を移して、困ったように笑うしかなかった。

●捜査
 ミニーたちが店主と話をしている間、高木は倉周辺の地理について調べていた。家人などが通りそうな道や、万が一の時の退路などを確認し、倉の脇に身を潜める。ちょうどいい具合に庭木や茂みなどがあり、隠れるにはもってこいだった。
 それからどれくらい待っただろう。店の方から足音が近付いてきて、その後「にゃーん」と猫の鳴き真似。
「ミニーさんですか」
「うん。やっぱり倉が怪しいみたいだから、調べてくるね」
「分かりました、ではわたくしは見張りを続けます」
 声を潜めて短いやり取りを交わし、それぞれ自分の持ち場につく。倉の扉には鍵がかかっていたが、ミニーはどうにかそれを開けて中に入ることができた。
 昼間だというのに中は薄暗いが、灯りをつけるわけにも行かない。五感を研ぎ澄ませて、ミニーは探索に取り掛かった。
「みいちゃ〜ん‥‥いる?」
 小声で呼んでみるが返事はない。それでも根気よく探索を続けていると、奥まったところから何やらごそごそと物音が聞こえたような気がした。息を殺して耳を澄ますと、再び物音。空耳ではなさそうだ。
 やがてミニーは小さな机の上に置かれた籠と、その中に閉じ込められている妖精を見つけ出した。背中の羽は切り取られ、ご丁寧にさるぐつわまで噛まされている。
「みいちゃんだね? 今助けるよ!」
 籠をこじ開けてさるぐつわを解いてやると、みいは思い切り伸びをして息をついた。
「ふーっ、助かった‥‥誰だか知らないけど、ありがとね」
「僕はミニーっていうんだ。今は詳しいこと話してる余裕ないから、説明は後でね」
 みいを大事そうに抱えて、ミニーは倉の入り口を目指す。
 一方、外で見張りを続けていた高木だが、家屋から誰かが出てくるのを察して、窓の外からミニーに呼びかけた。
「ミニーさん、誰か来ます!」
 忠告を受けたミニーは、とりあえず物陰に隠れて息を潜める。
 しばらくして、ギィと音を立てて倉の扉が開いた。中に入ってきたのは若い青年だ。彼はまっすぐ奥に向かったが、異変に気付いて声を上げる。
「いなくなってる‥‥?!」
 空になった籠を見て事情を察したらしく、青年は慌てて倉から飛び出していった。その後ろ姿が店の中へと消えてゆくのを見届け、高木が倉の中のミニーを呼ぶ。
「ミニーさん、無事ですか?」
「うん‥‥でも、みいちゃんがいなくなったことに気付かれちゃったみたい」
「どうします?」
 高木の問いに、ミニーは腕組みをして考え込み‥‥やがて力強く頷いた。

●説得
 店内では、困惑する店主たちを相手に、カノウが延々と異国の言葉で話を続けていた。そこへ、血相を変えて誰かが駆け込んでくる。
「父さん! あいつが倉からいなくなった!」
「なんだと?!」
 店主は顔色を変え、傍にいた従業員の青年も驚いている。言葉は分からずとも何となく状況を察し、カノウは呟いた。
「あの子たち、上手くやったのかな?」
 すると再び店内に誰かが入ってくる。ミニーと高木だ。
「お探し物はこれですか?」
「おお!」
 高木の腕に抱かれたみいを見て店主が笑顔を浮かべる。
「そ、それはうちで飼っているものなのですよ。逃げ出したのを捕まえてくれたのですね」
 平然と嘘を並べようとする店主を、ミニーはキッと睨んだ。
「飼っている妖精にさるぐつわをするの?」
「そ、それは‥‥」
 明らかに狼狽する店主。すると横から息子の隆司が口を出してきた。
「店の倉に忍び込んで中の物を持ち出すなんて、泥棒のすることだろう」
「わたくしたちが泥棒なら、あなたがたは誘拐犯です」
「勝手に忍び込んだことは謝るけど‥‥でも、お金のためにみいちゃんを犠牲にするなんて、おかしいよ」
 真っ当な指摘に、隆司も口をつぐむ。
 美弥だけは事情を知らなかったようだが、さすがに状況を飲み込んで、父と兄に諌めるような視線を向けた。
「最近様子が変だと思ってたけど、そんなことしてたなんて‥‥」
「ち、違うんだ美弥。私はこの店のことを‥‥家族のためを思って‥‥」
 店主は慌てて弁解しようとするが、ミニーがそれを遮った。
「同じように、みいちゃんのこと大切に思ってる人だっているんだよ。みいちゃんがいなくなったら悲しむ人が‥‥」
 さすがにバツの悪そうな表情でうなだれた店主の肩に、カノウがぽんと手を置く。
「えーと、どうなってるのかよく分かんないけど‥‥己の罪は認めるべきだ。こんな可愛い娘さんを悲しませるなんて、私が許さないからね」
 不思議とその意図が伝わったらしく、店主は俯いたままぽつんと零した。
「‥‥申し訳ありませんでした‥‥すべて、お話しします‥‥」

●解決
『皆さん、お元気ですか? みいは呆れるくらい元気です。もちろん俺も。
あの後、酒屋の人たちが謝りに来ました。
みいはまだ怒ってるけど、どんなに時間をかけても償いたいって言ってくれました。
俺は頭が悪いので、上手く言葉にできないけど‥‥
みいだけじゃなく、きっとあの人たちも皆さんによって救われたんだと思います。
本当にありがとうございました。これからも冒険、頑張って下さい。平太より』

 こんな手紙がギルドに届いたのは、初めての冒険からしばらく経った頃。
 3人の冒険者たちの胸に「何か」を残して‥‥初めての冒険は穏やかに幕を閉じた。