雪やこんこん

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月17日〜02月24日

リプレイ公開日:2005年02月25日

●オープニング

『雪かきおよび魔物退治の依頼』

 それを見て、冒険者は不思議に思った。
 魔物退治はともかく、雪かきの依頼?? わざわざ依頼するほどのことだろうか。
 きょとんとする冒険者に、ギルドの係員が説明する。
「ここから少し離れた村からの依頼なんですが、魔物のせいで除雪作業ができなくて困っているらしいんですよ」
 雪かき。それは寒い冬の、熱き戦いだ。
 決して大袈裟などではない、雪かきが滞れば日々の生活にも多大なる影響が出てくる。酷い時には、玄関の扉を開けて外に出ることすらままならない場合だってあるのだ。
 係員は、さらに詳しい状況を説明する。

 * * *

 異変が起こり始めたのは先月末くらいからだった。
 村人が、何かに足を捕らわれ転倒してしまうという事態が多発した。積もり積もった雪の上を歩くのは容易ではないことだから、転んでしまうこと自体は別に不自然でも何でもない。しかし、あまりにも多すぎる。そして転倒してしまった人は皆、口を揃えて「急に何かが足にまとわりついてきた」と言っているのだ。
 ははん、これはきっと「すねこすり」の仕業に違いないと、何人かの人たちはすぐに気付いた。
 すねこすりは本来、もっぱら人を転ばせるのみで、それほど凶悪な妖怪ではない。
 しかし今回は時期が悪かった。
 転んですぐに起き上がることができれば良いのだが、運悪く雪にどっぷりと埋もれてしまうと、自力では抜け出せないこともある。運良く助けてくれる人がいればともかく、周りに誰もいない場合、下手をすれば凍死したり窒息死してしまうことだってあり得る。
 幸いまだ死者は出ていないものの、骨折したり風邪をひいたりする者が出て、山の瀬の寒村からはどんどん働き手が減っていってしまった。

 * * *

「そこで皆さんに助力願いたいということなのですよ」
 なるほどと、冒険者たちは納得した。
 満足に雪かきができなければ、村の外と行き来するのも難しい。医者を呼んだり、薬を調達したりするのも一苦労だろう。それに、放っておけばそのうち最悪の事態――死者が出るようなことになってしまうかもしれない。
「地味な仕事ではありますが、どうか村の人たちを助けてあげて下さい」
 係員もぺこりと頭を下げて頼む。
 その後で、彼はにっこりと笑って付け足した。
「でも、雪を甘く見ないほうがいいですよ。あれは本当に重労働ですから」

●今回の参加者

 ea0731 紫城 狭霧(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4183 空漸司 影華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7125 倉梯 葵(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8806 朱 蘭華(21歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0772 佐倉 美春(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0807 月下 樹(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●1日目・前半
 一行を待ち受けていたのは、見渡す限り呆れるほどの白一色だった。
「最近、悩む依頼ばかりだったからちょっと気分転換に‥‥真っ白でいいわ」
「暫く動き回ってなかったんで、本当に筋肉痛を起こしそうだが」
 雪原を見渡しながら呟く朱蘭華(ea8806)の言葉に、倉梯葵(ea7125)が苦笑する。「気分転換」などという軽いもので済めば良いのだが。
 まずは一同、防寒服とかんじきで装備を固めた。防寒服を持っていない者もいたが、幸いその分も村人から借りることができた。そして次にすねこすり対策だ。縄を張って鳴り子を仕掛けたり、墨で濡らした布を用意したり‥‥あとは全員、墨を染み込ませた藁を脛に巻いて、転ばされた際にすねこすりに目印がつくようにする。
「神皇様からいただいた着物に染みてしまった場合、落ちませんから‥‥」
 こう言って、紫城狭霧(ea0731)だけは墨ではなく泥を使った。彼女の神皇に対する忠誠心は絶対である。
 準備が万端に整ったら、いよいよ戦いの始まりだ。
「雪かきは重労働と聞きます。この依頼を通じて、自身の鍛錬をすることといたしましょう」
「雪かきなんてほとんどやったことないのよね〜‥‥そんなに大変なものなのかしら?」
 生真面目な狭霧に対して、佐倉美春(eb0772)は幾分か気楽な様子。
「まずは一箇所の雪を完全に取り除いてから、周りに広げて行くのよ」
 まだ慣れていない美春に、空漸司影華(ea4183)がコツを伝授してやる。とりあえず足場を確保しなければ戦闘もままならないので、蘭華と影華が警戒に当たり、それ以外は全員雪かきに専念していた。
 すねこすりは暗い夜道などによく現れる生き物、午前中はそれほど活発には動いていないらしく、しばらくは何事も起きず順調に作業が進んだ。
 そんな状況が変化したのは、昼を少し過ぎた辺り。突然、周囲に何かの音が鳴り響いた。阿阪慎之介(ea3318)が仕掛けた罠にすねこすりがかかったのだ。
「む、来たでござるな!」
 雪に紛れたすねこすりに気付き、阿阪がすかさず布を投げつける。しかし敵は機敏にそれをかわし、墨は虚しく雪を染めた。今度は月下樹(eb0807)が木刀で殴りかかるが、これもかわされてしまう。
「意外とすばしっこいわね。悪く思わないでね‥‥やぁっ!」
 影華の一撃がようやくすねこすりを捉え、敵はぱたりと動かなくなった。とは言っても峰打ちなので、気を失っているだけだろう。
「ちょっとそれ、貸してくれる?」
 テントで休憩していた蘭華が、倒れたすねこすりをおもむろに抱き上げる。幸か不幸か墨攻撃は外れたので、まだ真っ白でふわふわなままだ。
「うん‥‥良い感じ」
 その抱き心地に蘭華もご満悦のようだ。
「またちょっかい出されても面倒だし、縛っとくか」
 倉梯が蘭華からすねこすりを受け取り、縄でぐるぐると縛ってテントに放り込む。
 作業を再開すべく、まだどっさり積もっている雪と向き合い、御神村茉織(ea4653)は軽く息をついた。
「こりゃ、すねこすりより雪のほうが強敵みたいだな」

●1日目・後半
 午前中から昼にかけて、薄曇りの天気は快晴へと変わった。晴れていれば少しずつ雪は溶けるし、作業もしやすい。ただ、ひとつだけ問題があった。
「ああ、まぶしい!」
 雪原を見張っていた美春が目をしぱしぱさせる。そう、照り返しが目に痛いのだ。そのせいで、余計にすねこすりを発見しづらくなってしまう。
「うわっ‥‥!? 冷たいっ‥‥」
 奇襲をかけられ、ぼふっと雪にのめり込む影華。しかし墨付きの藁がすねこすりに目印をつけてくれるので、決して無駄ではない。これぞまさに「転んでもただでは起きない」。
「行け、ガマ!」
 屋根の上で雪おろしをしていた月下が、下で作業を手伝わせていた大ガマを仕向ける。ガマと美春、蘭華に挟み撃ちにされ、すねこすりは呆気なく無力化された。
「はい、これ」
 美春がすねこすりを縄で縛り、テントで休んでいる御神村たちのほうへ投げて寄越した。ちなみに、最初に捕獲されたすねこすりは目を覚まし、じたばたと暴れている。
「うるさい奴だな、春花の術で眠らせるか?」
「やるのは構わないが、俺たちまで眠らせるなよ」
 暴れるすねこすりを摘み上げる御神村に、倉梯が釘を刺す。
「まあ、こうしておけば害はないのですから良しとしましょう」
「そうだな」
 狭霧に言われて御神村が手を放すと、ぼてっと下に落ちたすねこすりは不満げにごろごろと転がった。こうしている分には、なかなか愛嬌のある生き物なのだが。
「む、降ってきたでござるな」
 阿坂の声に気付いて、休憩組がテントの中から外を覗くと、いつの間にか空はどんよりと曇っていた。先ほどまであんなに晴れていたのに、冬の天気は変わりやすい。
「せっかくかいたのに、積もらないといいな」
 月下の言葉も虚しく、雪はどんどん勢いを増してゆく。しまいには吹雪きになってしまったので、この日は作業を一時中断せざるを得なかった。

●2日目
「けっこう降ったな‥‥」
 翌朝、外に出た倉梯が新たに積もった雪を見て嘆息した。
「まあ仕方ないだろ。早いとこ始めよう」
 御神村が早速作業に取り掛かり、他の者たちもそれに続く。この日も午前中は特に何事もなく過ぎた。
 そして午後。
「わぷっ!」
「そっちに行きましたよ!」
「そこか‥‥って、うわっ、こっちにも?!」
 ‥‥昨日やられた仲間の敵討ちのつもりなのか、一気に6匹のすねこすりが襲撃を仕掛けてきた。うち2匹は既に墨がついているが、あと4匹はまだ白いままだ。こうなっては、すねこすりを片付けないことには雪かきどころではない。
「ええい、ちょこまかと!」
「食らうでござる!」
「‥・・えいっ」
 御神村、阿坂、蘭華が続けざまに布を投げ、そのうちひとつが見事命中。これで墨付きすねこすりは3匹になった。
 一方、他の面々は目印のついたすねこすりを倒しにかかっていた。
「ガマ、そっちだ!」
 月下が大ガマを使ってすねこすりの進路を阻み、仲間たちが連携して追い込んでゆく。まずは美春が1匹、続いて狭霧が1匹、敵を無力化させた。すねこすりも必死に反撃に出るが、所詮は雑魚。目印さえついてしまえば脅威にはならない。さらに倉梯が1匹倒し、墨付き3匹はすべて片付いた。
 残り3匹も布を当てられたり、転ばせようとして藁にくっついたり、次々に墨で汚れてゆく。そうなってしまえば、もはや冒険者たちが勝ったも同然だ。
「これで最後!」
 影華が6匹目を倒し、ようやく騒動は治まった。
 しかしみんな雪まみれで、手や服は墨で汚れ、さらには周囲の雪も墨で染まって白黒の斑模様。投げられた布もあちこちに散らばっていて、なかなかにすごい光景だ。
「・・・・これ、ちゃんと後片付けしないとな」
 すねこすりを縄で縛りながら、倉梯が溜め息をつく。
「ああ、この仕事が終わったら温泉でゆっくり浸かって疲れをとりたいな・・・・」
「はいはい、今はまず終わった後のことじゃなく、終わらせることを考えような」
 温かい湯気を思い浮かべて呟く月下の手に、御神村は苦笑しながらスコップを握らせるのだった。

●最終日
 どうやら昨日の6匹で最後だったらしく、翌日はすねこすりが襲ってくる気配はなかった。幸い雪も降らなかったので、あとはもう残った雪をやっつけるだけだ。
「・・・・雪って軽そうな感じがするけど、積もって固まると意外と重いのね・・・・。確かにこれは・・・・けっこう疲れるわ・・・・はぁ・・・・」
「ふぅ・・・・体力は有る方だと思ったんだけど・・・・やっぱり疲れるね・・・・」
 3日目ともなると疲れも溜まっているようで、美春も影華もやや腕の運びが鈍っている。
「これも鍛錬と思えば、何と言うことはありません」
 狭霧は相変わらずの真面目ぶりだが、
「そのうち、筋肉ムキムキになったりしてな」
 と御神村にからかわれて、少し黙り込んだ。いくら神皇のために己を磨くとは言っても、妙齢の女性として、さすがにそれは躊躇われるらしい。
 とまあ、そんなやり取りを交わしつつ、一行は最後の追い込みに入った。重労働ではあるが、慣れてくると意外と楽しいものだ。黙々と作業に励むうち、時間はあっという間に過ぎてゆく。
「皆さん、お疲れ様でした。ここまでして頂ければ、もう充分ですよ」
 依頼人が呼びに来た時には、すっかり日も傾いていた。
「このすねこすりたち、逃がしても良いでござるか?」
 縛られたすねこすりを指して阿坂が尋ねると、依頼人はゆっくりと頷く。
「ここまでこてんぱんにやられれば、懲りたでしょう。殺すのは忍びないですから・・・・」
「そうですね。いずれ、神皇様のお役に立つこともあるかもしれませんし」
「・・・・役に立つのか?」
 狭霧の言葉には首を傾げつつも、皆、逃がすことに関して異存はないようだ。
「・・・・もう雪かきしている人の邪魔しては駄目よ」
 しっかりと言い聞かせながら、蘭華が縄をほどいてやる。自由になったすねこすりは、すっかり雪がのけられて綺麗になった道をぴょんぴょんと元気に駆けてゆく。このぶんならば、もう悪さをしにくることもないだろう。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
 深々と頭を下げる依頼人と村人たちに見送られ、冒険者たちは帰途についた。
 帰り道、雪深い山の景色を眺めながら美春が呟く。
「まだまだ冬は続きそうね・・・・」
「ええ。でもだからこそ、より深く春を慶ぶことができるのかもね」
 ちらりと村のほうを振り返り、影華はやんわりと微笑んだ。