謎の大山椒魚を追え!

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月01日〜03月06日

リプレイ公開日:2005年03月09日

●オープニング

 参ったな‥‥
 男は心の中で呟いた。荷物を運ぶだけの簡単な仕事。この辺りでは特に危険な魔物や動物が出たという話も聞かないし、冒険者を雇うまでもない。すぐに片付けて、無事に給金を受け取れるはずだった。
 道に、迷ってしまうまでは。
「参ったな」
 今度は口に出して呟いてみる。もちろん、それで事態が好転するはずもないが。
 やれやれと溜め息をつきながらも歩き続けると、しばらくして川のせせらぎが聞こえてきた。
 ちょうどいい、川辺で少し休もう。そう思い、岸に荷物を下ろして、水をすくって飲もうと屈み込む。その瞬間、ザバーッとものすごい水音が聞こえて、思わずそのまま尻餅をついてしまった。驚きながら目を向けた、その方向にいたのは‥‥
「なっ、なんだありゃ?!」
 ぬらぬらと光る巨大な物体。あまりにも大きいので、彼は最初、それが生き物であることに気付かなかった。くわっと開かれた口からべろりと舌が伸びてくるのを見て、ようやく分かったのだ。
「ひ、ひいっ!!」
 ばっくん!
 そんな音が聞こえるほどの勢いで口が閉じられる。その突撃から彼が逃れることができるのは奇跡と言っても良いかもしれない。彼は無我夢中で脇に置いてあった荷物を投げつけ、一目散に逃げ去った。
 そしてその生き物は‥‥ぺろりと丸ごと荷物を呑み込んでしまったのだった。

 * * *

「‥‥とまあ、こんな話を耳にしたのですよ」
 江戸から少し離れたところに住む町医者はこう言った。
「では、その化け物を退治するのが今回の依頼というわけですか?」
「半分は合っているが、半分は違う」
「半分??」
 ギルドの係員は不思議そうに首を傾げる。
「実は、その化け物は『半裂』と呼ばれるものではないかと、私は思っているのだ」
 半裂――それは人間の倍ほどもある巨大なサンショウウオの化け物だ。半分に裂けてもまだなお生きていることから半裂と呼ばれているらしい。果たして本当に半分になっても生き続けるのかどうかは定かではないが、少なくともそれだけ凄まじい生命力があるということだろう。
「半裂の肉は古来より薬として珍重されている。もしその男が見たのが本当に半裂ならば、是非とも手に入れたい」
 町医者はここでいったん言葉を切って、改めて依頼の内容について明言した。
「よって、皆さんには実際に現地に赴き、その化け物が本当に半裂なのかどうか見極めて頂きたい。そしてもし半裂であったとすれば、その肉を持ち帰って頂きたい。たとえ違った場合でも、人を襲うような危険な化け物を野放しにはしておけないゆえ、退治して頂ければきちんと報酬はお支払いしよう」

●今回の参加者

 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8151 神月 倭(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0807 月下 樹(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0891 シェーンハイト・シュメッター(22歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●戦闘前のひととき
「サンショウウオって、僕まだ見たことがないけど‥‥どんな生物?」
 敵との邂逅を前に、カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)がふと思い出したように言う。
「簡潔に言えば、蛙の仲間みたいなもんだな」
「ってことは、ぬめぬめ? それは‥‥ちょっと生理的にイヤだなぁ」
 白翼寺涼哉(ea9502)の説明を聞いて、カヤは軽く身震いした。
「生き物を殺めるのは抵抗がありますが‥‥人を襲うとなれば仕方ありませんね」
 温厚な神月倭(ea8151)は、カヤとは違った意味で浮かない表情。
 そんな仲間をよそに、日比岐鼓太郎(eb1277)はのん気に自作の歌など歌っている。
「♪大きな口は 飲み込むためさ きょ きょ きょ きょ 巨人もひと飲み ごっちゃんです♪」
 そう、彼は半裂にわざと飲み込まれ、腹の中から攻撃を仕掛けるつもりなのだ。
「あまり無茶しないようにな」
 楽天的な日比岐を、月下樹(eb0807)は苦笑交じりにたしなめた。
 そんなこんなで進むうち、やがて川に行き当たった一行。しかし底が浅く、巨大山椒魚が潜む場所はなさそうだ。シェーンハイト・シュメッター(eb0891)は周囲を見渡して、川下を指した。
「向こうのほうが川幅も広いし、深そうですね」
「じゃあ後は明日に回して、今日は休むか」
 すでに日が傾き始めているので、これ以上の探索は控えたほうがいいだろう。劉紅鳳(ea2266)が地面に荷物を降ろすと、他の者たちも各自休憩に入った。
「ほら、これ」
 紅鳳が保存食を取り出して阿阪慎之介(ea3318)に渡す。彼は保存食を揃え忘れたので、余分に持っていた紅鳳に分けてもらうことにしたのだ。
「かたじけないでござる。お代は後でまとめて支払うゆえ‥‥」
「ま、困った時はお互い様ってね。でも今度からは気を付けなよ?」
 冒険前の持ち物チェックはお忘れなく。

●大ガマVS大山椒魚
 下流に向かううちに、川は次第に広さと深さを増していった。紅鳳は小石を拾っては川に投げ入れ、様子を伺っている。それを繰り返しながら進むうち、ついに反応が現れた。
「今、何か動いたぞ。かなり大きい」
 木の上から川面を観察していた月下が、下にいる仲間たちに声を掛ける。
「じゃあ作戦開始と行くか」
「了解」
 白翼寺の声に応えて、月下は得意の忍術で大ガマを召喚した。そしてガマを川に向かわせ、慎重に様子を伺う。すると不意に川面がざわめき、巨大な生き物が姿を現した。その尋常でない大きさから、ただの山椒魚でないことは一目瞭然だ。
「ガマ、行け!」
 勢いよく襲い掛かってきた半裂にガマが組み付き、半裂を川から引きずり出そうと必死に応戦。巨大山椒魚と巨大ガマ、3メートルもある巨大両生類の取っ組み合いはかなり壮観だ。
「‥‥半裂が陸に上がりました!」
「よし、行くぞ!」
 敵の全身が川から上がったのを確認して、冒険者たちはいざ戦闘に挑んだのだった。

●激闘
「こいつぁ殴り甲斐がありそうだね!」
 まずは小手調べとばかりに、紅鳳が右手に嵌めた金属拳で一撃。それは半裂の体を捉えたかに見えたが、半裂は全力で巨躯をうねらせ、紅鳳の拳はぬめり気のある皮膚の上をするりと滑った。しかし動きの鈍い半裂は、続けて繰り出された拳を避けることはできなかった。金属拳が脇腹にめり込み、不快そうに身をよじる。
 次いで、追いついてきた神月が日本刀で斬りつける。回避力に乏しい半裂にとって、これはかなり効いたようだ。太い尾で勢いよく地を叩きつけ、怒りを露にする。それをさらに挑発するように、日比岐はわざと半裂の目に付くように動き回った。
「その馬鹿でかい口で俺を飲み込んでみな!」
 その言葉を理解したわけではないだろうが、半裂は巨大な口を開けて日比岐に襲い掛かった。ジャイアントの日比岐は2メートル近い長身の持ち主だが、そんなことはお構いなしだ。
 がぶっと半裂の牙が日比岐に食い込むのを見て、魔法の詠唱をしていたカヤは思わず視線を逸らした。この場で狂化を起こしてしまえば、仲間たちの足を引っ張ることになりかねない。
 半ば無理やり飲み込まれていった日比岐を複雑な表情で見送り、仲間たちは攻撃を再開した。
 紅鳳の拳、そして阿坂と神月の刀の連続攻撃。一気に体力が削られたところへ、さらにカヤのとシェーンハイトが放つ魔法。ブラックホーリーは分厚い皮膚に阻まれてしまったが、グラビティーキャノンの一撃で半裂は虫の息となる。
 そこでようやく脅威の生命力が発揮された。刀による裂傷が、みるみるうちに塞がってゆくのだ。
「なるほど‥‥こりゃあ、あいつらが苦戦するわけだ」
 半裂と戦ったことがある人物を友に持つ白翼寺は、実際にその再生能力を目の当たりにし、苦い笑みを浮かべる。
「中途半端な攻撃は意味がござらん、弱るのを待ち一気呵成にしとめるでござる」
「ええ、分かっています‥‥慎重に行きましょう」
 持久戦となれば、先に消耗してしまったほうが負けだ。一行は力を温存しつつ、敵の体力、そして再生能力を奪うことに専念した。

 さて、自ら半裂に飲み込まれていった日比岐だが、窮屈さと息苦しさにすっかり参ってしまっていた。肉壁に圧迫されて思うように身動きが取れず、小柄を持つ手を動かすことすらままならない。それだけならまだしも、じわじわと染み出してくる胃液に苦しめられる羽目になった。
「うっ‥‥これはもしや、まずい‥‥?」
 このままの状態が続けば、攻撃も脱出もできず半裂の腹の中で消化されて‥‥などということにもなりかねない。
 半裂が倒されるのが先か、それとも日比岐が力尽きるのが先か。時間との戦いだ。
 もっとも、外にいる仲間たちはそんなことは知る由もないのだが――

「しぶといねえ」
 みるみる修復されてゆく半裂の傷を見て、カヤが呟く。しかし白翼寺は微妙な変化を見逃さなかった。
「でも、さっきより治りが遅くなってる。再生能力もそろそろ尽きるはずだ」
 その言葉はじきに現実となった。
 刀による最も大きな傷は塞がったものの、それ以外の細かい傷は一向に回復する様子が見えない。そして、元々機敏とは言えなかった半裂の動きが、ますます鈍くなっている。そろそろだな‥‥心の中で呟き、白翼寺は手にした錫杖を高らかに鳴らした。
 その音を合図に、仲間たちがいっせいに攻撃を畳み掛ける。
 阿坂がオーラシールドで半裂を牽制する間に、シェーンハイトとカヤがそれぞれ詠唱を完了。ブラックホーリーと、一段と威力を増したグラビティーキャノンが半裂の頭を撃つ。そしてそこへ、オーラパワーによって強化された紅鳳の斧が。回復手段を失った半裂は逃げ出そうとするが、月下がガマにしっかり押さえ込ませてそれを阻む。
「神月さん、今のうちに!」
 月下の呼び掛けに無言で頷き、神月は刀を振りかざした。
「‥‥せめてこの一撃で、楽に‥‥」
 呟き、一気に刀を振り下ろす。重量のあるその一撃で、半裂は苦しむ間もなく瞬時に息絶えた。

●戦闘後のひととき
 半裂の亡骸から引きずり出された日比岐は、息も絶え絶えの状態だった‥‥が。
「いま欲しいんだよね‥‥キミの助けが」
「‥‥まあ、それだけ言う元気が残ってるなら大丈夫か」
 カヤがやや呆れ顔で溜め息を漏らす。
 胃液やら何やらにまみれて脱力する日比岐に、紅鳳はヒーリングポーションを飲ませてやった。
「ごめん‥‥あいにく、買い取れるほどの金は持ってないけど‥‥」
「人の命には代えられないし、あんたを担いで帰るのはしんどいからね。その代わり、このツケは出世払いだよ?」
 紅鳳はこう言っておどけてみせる。ポーションでもまだ治し切れなかった傷も、白翼寺のリカバーによって完治。日比岐はうなだれつつ、2人に謝罪と感謝を述べた。
 その横では、残りの者たちが半裂の肉を切り分けている。大量の血を見ないように、カヤだけは少し離れたところで待機中だ。
「もう終わった‥‥?」
「まあこんなものかな」
 月下の言葉を聞いて、カヤはほっと息をつく。
「誰しも生きていく上で食べねばなりませんし、傷や病には薬が必要になります。そのためには他の生き物を殺さねばならない‥‥わかってはいるものの、少し、憂鬱かも」
 シェーンハイトも憂い顔で溜め息を漏らす。神月も同じような表情をしている。
「だが、この半裂は人をも襲う物の怪。被害が出る前に食い止められて良かったと割り切るしかないでごさるよ」
「‥‥そうですよね」
 阿坂に言われ、神月は少しだけ微笑んで頷いた。
 切り分けが終わったら食事休憩だ。依頼人からは、半裂の一部は食用にしても良いとの許可をもらっている。苦労して仕留めた獲物なのだから、それくらいのご褒美(?)はあっても良いだろう。
「うん、なかなかいけるな」
 初めて食べる半裂の味に、月下はご満悦の様子。シェーンハイトもその効能を確かめつつ味わう。
「今すぐどうこうということはなさそうですが‥‥やはり滋養強壮になるんでしょうか?」
 そう思いながら食べると、心なしか元気が出るような気もするから不思議なものだ。
 余った肉は小分けにして包み、皆で分担して持ち帰ることにした。

●余談
「ありがとう。これを薬にすれば、多くの人の病を癒せるかもしれない」
 半裂の肉を持ち帰ると、依頼人は大いに喜んだ。
「町医者なら『江戸医療局』の噂は聞いた事があるだろ? そこの局長の患者達が半裂の肉を必要としてるのよ」
 白翼寺が友人の名と紹介状を持ち出すと、依頼人は戦利品の一部を譲ることを快く承諾した。
「同じ医療の道を志す者だからな。1人でも多くの患者を救いたいという想いは同じだ」
 こうして江戸医療局へと渡った半裂が、果たして役に立ったのかどうかは――また別の物語である。