悪徳冒険者にご用心

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2005年03月22日

●オープニング

「最近、不届きな輩がのさばっているらしいんですよ」
 こう言って、係員が眉をしかめる。
 不届きな輩というのはいつの世も絶えないものだが、彼がそこまで嫌な顔をするのには、ある重大な理由があった。
「その不届きな輩と言うのが、他ならぬ冒険者でして」
「冒険者?」
 思わず聞き返した周りの冒険者たちに、係員は溜め息混じりに頷いてみせる。

 * * *

 その悪徳冒険者が狙うのは、比較的貧しい村落。
 貧しさゆえに、それほど多くの報酬は払えない。この程度の額しか出せないのに、ギルドに依頼を持ち込むのは気が引ける。それに、果たして引き受けてくれる冒険者がいるのだろうか?
 そんな悩みを抱えている依頼人たちに、悪徳冒険者は最初は人の良さそうな笑顔で近付いてゆく。
「なあに、これも人助けだ。報酬なんて気にすることはない」
 その言葉に、依頼人たちは心を打たれる。
 そして村を救ってくれた冒険者に心から感謝する。
 しかし、そこで冒険者たちはがらりと態度を豹変させるのだ。
 大切な作物を奪い、家畜を奪い‥‥見目の良い娘を見つけると、その娘を差し出せと脅すこともあった。
「誰のおかげで、村を襲う魔物の脅威から逃れられたと思っている?」
「お前らがこうして無事に生きていられるのは、誰のおかげだ?」
 そう問われれば、依頼人たちは抗議もしづらくなる。少ない報酬で面倒事を引き受けてもらっているという依頼人たちの負い目につけ込んだ卑劣なやり方だ。

 * * *

「彼らも最初の頃は冒険者として、正式に依頼を請けて仕事をこなしていたようですが、最近ではギルドを介さずに好き勝手やっているらしくて‥‥」
 ギルドの信用問題とあって、係員はかんかんだ。他の冒険者たちにとっても傍迷惑な話である。冒険者は心無い荒くれ者の集まりだ‥‥などと悪い印象が広まれば、仕事がしづらくなること請け合いだ。
「では、その冒険者もどきを倒せばいいわけか」
「その通り。ただひとつ問題があります」
 再び溜め息混じりに係員が説明することには、その悪徳冒険者どもは特定の根城を持たず、潜伏場所を転々と変えているのだそうだ。そのため、未だ居場所を特定できずにいる。せっかく突き止めたのに、そこに向かう間に逃げられた‥‥ということも一度ならずあったらしい。
 まったく忌々しい、と愚痴をこぼしながら、係員は神妙に言った。
「そこで、皆さんには一芝居打ってほしいのです
 係員が打ち出した計画は、こうだ。
 まず、江戸から程近い村の人々全員に協力を要請。その村では最近、山賊による被害に悩まされているという噂を流す。もちろん、冒険者に助けを請いたいが多くの報酬は工面できない、という情報も添えて。
 しかし、それだけでは確実とは言えない。悪徳冒険者にとって、何らかの利益になるようなものがなければいけないだろう。村に伝わる大事な宝でもいいし、とびっきり美人の娘でもいい。とにかく、金子の代わりになるようなものがその村にあるという情報も流す必要がある。
 そうして罠を張って、敵が引っかかれば大成功というわけだ。
 果たして上手く行くのだろうか?

●今回の参加者

 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5388 彼岸 ころり(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6945 灰原 鬼流(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8099 黒眞 架鏡(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8470 久凪 薙耶(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9758 ミスティ・フェールディン(35歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

ルナ・フィリース(ea2139)/ ラティエル・ノースフィールド(ea3810

●リプレイ本文

●噂
「この近くの住人か?」
 道行く老人を呼び止めたのは灰原鬼流(ea6945)。老人が頷くのを見て、幽桜哀音(ea2246)がぼそりと呟く。
「山賊に襲われた村‥‥あるそうだから‥‥気を付けたほうが、いい‥‥」
「美人と噂の娘が攫われたらしいぞ」
 黒眞架鏡(ea8099)が付け足すと、老人は「そりゃおっかねえ」と肩を震わせ、会釈して立ち去っていった。こうして噂を流しつつ、一行は目的地を目指す。助っ人2人も江戸の街で同じ噂を流しているはずだ。

●騙し
 その村に6人組の一団が訪れたのは、依頼4日目のことだった。
「山賊に襲われたってのは、この村か?」
 親分格らしき男の問いに、村人たちは頷く。
「そ、村長の娘が攫われちまったんですよう」
「人質に取られて、脅されてるんだ」
 農夫たちが訴えるが、お世辞にも上手い演技とは言えない。村娘に扮した彼岸ころり(ea5388)は彼らを押しのけ、冒険者に縋りついた。
「お願いします! どうか私の親友を助けて下さい! あの子が今も山賊達に囲まれて震えてると思うと、夜も眠れなくて‥‥お礼は何でもしますから、どうか‥‥!」
 「何でも」という言葉に、一瞬にやりと笑う親分格。しかしすぐに人の良さそうな表情を作り、ころりの肩に手を添える。
「安心しな。山賊なんか俺たちがやっつけてやるぜ」
「大した報酬は支払えないのですが‥‥」
 同じく村人に扮した九竜鋼斗(ea2127)が不安げに訴えると、浪人風の男が豪快に笑う。
「これも人助けだ、気にすることはない」
 なるほど、この笑顔と言葉で村人たちを騙してきたのだろう。しかしころりも負けていない。さっさと手を退けろと内心で毒づきながらも、感謝の表情を作る。
「ありがとうございます‥‥! 山賊達はあちらの山にある山小屋を根城にしているようです。道が少しややこしいので、私がご案内します」
「俺にも手伝わせて下さい。以前あいつらに挑んだものの、返り討ちにされてしまって‥‥一泡吹かせてやりたいんです」
 わざと腕に巻いた包帯が見えるようにしつつ、九竜も案内役を買って出る。
「あいつら、昼間はいつも寝ていて、夜になると行動するんですよ」
 悪徳冒険者たちはその言葉を信じ込み、案内役と共に山小屋へと出発した。騙し慣れていても、騙され慣れてはいないようだ。

●挟撃
「暇ですね」
 自ら作った料理をつつき、久凪薙耶(ea8470)がぼやく。白いエプロンは山賊には不似合いだが、脱ぐ気はさらさらないらしい。
 昨日も一昨日も何の音沙汰もなし、ぼやきたくなるのも無理はないが、架神ひじり(ea7278)はのほほんとした様子。
「ルナ殿とラティエル殿も協力してくれておる、今日辺り来るじゃろう。のう、ミスティ殿」
 ひじりに声を掛けられ、ミスティ・フェールディン(ea9758)は無言のまま頷く。
 その時、窓辺で外の様子を伺っていた哀音が呟いた。
「‥‥来た‥‥」
 哀音に続いて、薙耶とひじりも外に出てゆく。ミスティだけは裏口からこっそりと抜け出した。
 のこのことやってきた悪徳冒険者たちは、小屋から出てきた3人を見て舌打ちをする。
「ちっ、昼間は寝てるんじゃなかったのか?」
「今までは、村が襲われるのは決まって夜ばかりだったのですが‥‥」
 ころりは相変わらずの演技で敵の目を欺きつつ、さりげなく後退してゆく。悪徳冒険者の注意は山賊役に向けられており、彼女のことは誰も気にしていない。
「‥‥団体様の御到着のようですね」
「娘は‥‥始末する‥‥。その前に‥‥貴方達、死んでもらう‥‥」
 武器を構える薙耶と哀音を見て、悪徳冒険者たちは哄笑する。
「女ばかりの山賊一味か。思ったより楽しくなりそうだ」
 にやにやと笑いながらにじり寄る悪徳冒険者。しかし――
「ん? ‥‥うわっ!」
 背後に気配を感じた僧侶が振り向こうとした瞬間、刃が襲い掛かる。それに気付いた弓師と浪人も、草むらから飛び出してきた何者かに襲われ、一団は一気に混乱状態へと陥った。
「堕落僧侶様一名、衆合地獄へご招待〜♪」
 小太刀を手に笑顔を浮かべるころり。その後ろには、途中で引き返したはずの九竜の姿。前方には山賊役の3人、両脇に黒眞と灰原‥‥完全に囲まれた悪徳冒険者は、ようやく事態に気付く。
「全員グルってわけか。挟み撃ちとは、念の入ったことを‥‥」
「寒い真冬の家での一言だな‥‥『はぁ〜、寒みぃ家』‥‥」
 いきり立つ悪徳冒険者に向けて、九竜がぼそりと一言。さらに灰原が追い討ちをかける。
「‥‥だじゃれを言うのはだれじゃ‥‥」
 ひゅうぅ‥‥春だというのに、何故か寒々しい木枯らし。その場にいた者たちは、体感温度が2度ほど下がったように感じた。
「冗談はさておき。俺は鬼道衆・捌番『抜刀孤狼』九竜鋼斗‥‥」
「同じく弐拾肆番『隠れ鬼』灰原鬼流」
 何事もなかったかのように名乗る2人を冷めた目で見つつ、全員が思った。今のはなかったことにしよう、と。
「鬼道衆だか何だか知らねぇが、このささ‥‥」
 気を取り直して、浪人が名乗りを挙げようとするが、
「うるせぇ」
 薙耶に容赦なく殴り倒され、途中で遮られる。佐々木だか笹崎だか知らないが、仮にササと呼ぼう。
「卑怯だぞ!」
「貴様らに言われたくないわ、この**の***野郎の********」
 憤るササに向けて、爽やかな笑顔でとんでもない罵詈雑言を浴びせかけるひじり。悪徳冒険者は思わず顔を真っ赤にし、逆上して襲い掛かってきた。

●乱戦
「さて、吹っ飛ばしてやろうかの」
 ファイアーボムをぶちかまそうと目論むひじり。しかし、
「‥‥巻き添えにするつもりか?」
 黒眞にツッコミを入れられ、渋々バーニングソードへと切り替えた。少女のような容姿とは裏腹に、過激な御仁である。

 先ほどの奇襲で弓を壊された弓師は、短刀に切り替えて戦おうとするが、灰原が素早くその背後に回り込む。
「‥‥隠技・背刃」
 後ろから斬り付けられよろめく弓師に、さらに思わぬ方向から攻撃が。
「なっ‥‥」
「不正を働くとは不届き千万‥‥」
 目を向けた先には、変化を解いて元に戻るミスティの姿。彼女は木へと姿を変え、機を伺っていたのだ。倒れてゆく弓師の血をじっと見つめ、彼女は表情を一変させた。
「ふっふっふ‥‥」
「な、なんだ?!」
 不気味な笑みを浮かべ突進してくるミスティに、思わずたじろぐ浪人。
「血飛沫よ、もっと舞え!」
「ひいっ」
 浪人は斬りつけられて動けなくなるが、ミスティは狂ったように攻撃を続ける。さすがに見かねた灰原が彼女を取り押さえ、浪人はかろうじて息絶える前に解放された。

「俺の刃‥‥お前に見切れるか?」
 九竜が得意の居合いで僧侶の詠唱を妨害、さらにころりが再び背後から仕掛け、僧侶は呆気なく倒れる。
「背中狙うしか能がないのか?」
「戦略だよ。あいにくオッサンと違って非力だから〜」
 ファイターの小太刀を受け止めつつ、憎まれ口を叩くころり。だが言葉とは裏腹にやや押され気味だ。ファイターがいったん刀を引いて再び攻撃を仕掛けると、かわし切れず肩口に傷を負う。そこへさらにもう一撃。さすがに顔を歪めて体勢を崩したところへ、薙耶が割って入る。
「来られませ、お客様。御奉仕して差し上げます」
 表情ひとつ変えず、薙刀で一閃。手痛い「奉仕」を受けて、ファイターは一気に窮地へと追い込まれた。

 黒眞の不意討ちで傷を負ったササは、仕返しとばかりに彼を狙う。一撃目は紙一重でかわされたが、続く2回の攻撃は避けきれない。
「不意討ちは得意でも、避けるのは苦手か?」
 にやりと笑うササ。しかし、黒眞は冷静な態度を崩さない。
「そちらは剣よりも憎まれ口が得意のようだな」
 落ち着き払った様子で言い返し、すかさず反撃。これによってササもまた深手を負う。形勢は五分といったところか。

 哀音と対峙しながら、親分格の男は動揺していた。
(この女‥‥何だ?)
 か細い体に見合わぬ鋭い太刀筋、虚無を映すような闇色の瞳。死を恐れぬ様子で淡々と迫ってくるその姿は、見る者に恐怖さえ与える。
「くそっ‥‥」
 焦りつつ繰り出した攻撃は哀音の肩を掠っただけ。対して、彼女の放った刃は確実に相手の力を殺いでゆく。
「佐々木流秘奥義火炎燕返しじゃ!」
 援護に入ったひじりの剣を受けて、ついに親分格も戦闘不能に陥った。
 自らの傷口から流れる血をちらりと眺めて、哀音はぽつんと呟く。
「殺して、欲しかったのに‥‥」

●一段落
「‥‥私が持っていても、仕方ない物だから‥‥」
 負傷したころりに、哀音がリカバーポーションを差し出す。黒眞も持参した薬で傷の治療中だ。
 ひじりと薙耶は悪徳冒険者を身包み剥いで、金目のものを物色している。
「勉強料じゃ。文句言うともっと燃やすぞ」
 恨みがましい目を向ける悪徳冒険者に、ひじりの容赦ない一言。
「この金で皆で美味い物でも食いに行くのじゃ」
「被害にあった村の方達に渡したほうが良いのでは?」
「むむ‥‥まあ、飯代くらいは貰っておいても罰はあたるまい。帰ったら祝杯と行くのじゃ!」
 薙耶に諭され、ひじりは宴会資金の分だけ自らの懐に納めた。あとはこの悪人どもを役人に引き渡すだけだ。
「腹切りはしないのか‥‥」
 と何故か少し残念そうなミスティはさておき、一行は意気揚々と帰途についたのだった。