桜花繚乱、梅花絢爛

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月24日〜03月28日

リプレイ公開日:2005年03月29日

●オープニング

 その村の北側には、それはそれは美しい桜並木がある。
 そして同じく南側には、これまた美しい梅並木がある。
 村の中でもとりわけ大きなふたつの家、桜木さんと梅木さんが、相手に自らの栄華を見せ付けるために、競って植え付けた結果なのだとか‥‥。
 そして毎年春になると、村じゅうが『桜組』と『梅組』に分かれて花見大会を行ない、どちらがより盛り上がったか勝負するという習慣が今も残っている。
 とは言っても、今ではもう桜木家と梅木家の確執などというものはすっかり消えて、単に一年に一度のお祭りとして根付いているようだ。

 * * *

 今年は、その花見大会に冒険者を招くことになった。
 奇人変人‥‥いや、個性豊かな者たちが集まることで知られる冒険者ギルド。
 そこから助っ人を呼べば、例年よりさらに祭りを盛り上げることができるのではという計らいだ。
 村には若者が少ないので、この機会に若者と触れ合ってみたいという村人たちの願いも込められているようだ。
 さて、村人たちが楽しみにしている春祭り‥‥果たして無事に盛り上げることができるだろうか?

●今回の参加者

 ea0260 藤浦 沙羅(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2751 高槻 笙(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2775 ニライ・カナイ(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)
 ea4128 秀真 傳(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4687 綾都 紗雪(23歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5028 人見 梗(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8214 潤 美夏(23歳・♀・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●準備
 村に到着した冒険者たちは、村人と共に早速準備に取り掛かった。
「ふふっ、みんなで力をあわせて楽しいお祭りにしましょうね」
 桜木家のおばあさんにコツを伝授してもらい、ご機嫌な様子で団子をこねるのは藤浦沙羅(ea0260)。
 高槻笙(ea2751)と人見梗(ea5028)は協力して桜の花を収集。梗の頬がほんのり蒸気しているのは、春の陽気のせいか、はたまた憧れの人と一緒だからだろうか。
 月代憐慈(ea2630)と菊川響(ea0639)は会場の設営に奔走中。月代が出店に必要な長椅子や傘を家々から借りて回り、菊川が力仕事を一手に引き受ける。
「春! 花見! 祭! いいね、わくわくするな♪」
 主人の声に答えるようにひひんといななく愛馬ふたえご。彼もまたご褒美の飼葉目当てに、荷運びに精を出している。

 一方、梅組のニライ・カナイ(ea2775)、秀真傳(ea4128)、綾都紗雪(ea4687)は芝居の稽古に余念がない。村人数人も出演することが決まり、皆で和気藹々と練習に励んでいる。
 潤美夏(ea8214)も稽古に顔を出しつつ、その合間を縫って料理の仕込みと、大忙し。手の空いている神楽聖歌(ea5062)が美夏の補佐に回る。
 そんなこんなで準備期間はあっという間に過ぎ、いよいよ祭本番と相成った。

●桜舞
「さあいらっしゃい。今なら美味しい菓子に、雅な楽と舞も楽しめますよ」
 月代の呼び込みに惹かれて、次々に村人が集まってくる。期待に満ちたたくさんの視線を浴びて、少し緊張気味の沙羅。
「職業柄慣れてるとはいえ、やっぱり緊張しちゃうなぁ‥‥」
 しかし彼女は綺麗な桜の花を眺めて呼吸を整え、気持ちを落ち着かせる。大好きな桜が、きっと味方してくれるはずだ。
 やがて菊川の笛の音に合わせて沙羅が朗々と歌い始め、月代が厳かに舞を披露する。ちなみに月代が纏うのは、近くの神社から借りてきた巫女装束。その中性的な魅力に、村人たちは目を奪われている。
 桜舞い散る下での舞踊は幻想的だが、時折少し音程を外す菊川の笛が微笑ましい。それでも、心を込めた温かな音色は聞く人を幸せな気分にさせる。そして最後に村人から教わった曲を奏でると、聴衆も一緒になって歌い始め、最終的には大合唱で幕を閉じることとなった。
「やっぱり1人よりもみんなといっしょの方が楽しいですね」
「ああ、楽しい時間になって良かったな!」
 無事終了を祝い、桜茶で祝杯を上げる沙羅と菊川。月代はと言えば、興味深げに集まってきた村人たちに囲まれている。
「おお、あんちゃんやっぱり男か。似合っとるのう」
「それはどうも」
 巫女姿が似合うというのが喜ばしいことかどうかはさておき、月代は笑顔で礼を述べる。
「江戸の話を聞かせてくれんか?」
「もちろん、喜んで」
 快く話し相手になってやると、老人たちは大層喜んだ。結果として、その後延々と付き合わされる羽目になったのだが。

●茶屋
 他の3人が出し物をしている間、高槻と梗は2人で店番だ。ただ茶や菓子を出すだけではつまらないので、集めてきた桜の花びらを茶に浮かべたり盛り付けに使ったり、色々工夫を凝らしている。さらに梗は桜の絵を用意して、お菓子に添えてみたのだが‥‥
「おや、桜組なのに梅の絵かい?」
「え!? ‥‥そ、そ‥‥そんな事は断じて‥‥」
 と慌てつつ、じっと自らの絵を見つめる梗。そんな彼女を、高槻はくすくすと笑いながら眺めている。これでは、ついついからかいたくもなるというものだ。
「梗さん、せっかくですし、私たちもお菓子を頂きませんか?」
「え、あ、はい!」
 高槻が差し出した団子を慌てて受け取り‥‥梗は硬直した。その団子、なんと蛙の形をしているではないか。蛙が大の苦手の梗だが、せっかく高槻がくれたものを無下に断るわけにも行かない。
「あ、有難く頂きたく存じたてまつり‥‥」
 冷や汗を流しながらも頑張って食べようとする梗を、高槻が笑いを堪えながら止める。
「ごめんなさい、冗談ですよ。‥‥意地悪したお詫びに、これを」
 微笑んで、そっと梗の髪に桜の花を挿す。梗は今度は別の意味で硬直しながらも、小さく呟いた。
「あ、ありがとうございます‥‥大切に、しますね」
 そこへやって来たのは梅組の秀真。陣中見舞いに来たつもりだったのだが、2人の姿を見てにんまりと笑う。
「おや、邪魔したかの、笙殿?」
「いえ、そんなことは」
 意味ありげな笑みを交し合う高槻と秀真、その横で赤くなる梗。
 まさに春、といったところか。

●白梅姫
 対する梅組の催しは、浄瑠璃芝居『異国草子・白梅姫』。
 姫役の紗雪はニライの服を借りているのだが、生まれて初めて纏う異国の服に、少し照れながらも嬉しそうな様子。
『今は昔に語りけり〜。さる異国に白梅の如き麗しき姫ありて‥‥』
 ニライの凛とした歌声と共に、芝居の幕が開けた。ちなみに彼女は紗雪の僧侶衣に身を包んでいる。
 まず物語は、美しい姫が女王により城を追われるところから始まる。
「まったく、愚図な娘ですわね。いつになったら掃除が終わるんですの?」
「申し訳ありません、お母様。今すぐに‥‥」
 女王役の美夏の迫真の演技。むしろ、演技ではなく素に見えるのは気のせいだろうか。
 やがて追放された姫は山奥の村人に匿われ、穏やかな暮らしを送ることとなる。村人たちは美しい姫を、そして姫の奏でる笛の音を、心から愛し大切にした。しかし姫が生き延びていることを知った女王は、姫に呪いの菓子を食べさせてしまう。
 永き眠りについた姫。嘆き悲しむ村人たち。
 そこへ現れるのが王子役の秀真だ。彼もまた異国の衣装を纏い、颯爽と馬から降りる。
「村人よ、何を哀しんでおるのじゃ?」
「姫が呪いの菓子を食べ、眠りについてしまったのでございます」
「ほう、これは美しい‥‥」
 姫の顔を覗き込み、溜め息を漏らす王子。実はこれ、演技ではなく彼の本音なのだが、それはまあ置いて。
 王子がそっと姫の手を取ると‥‥不思議なことに、忽ち目覚める姫。歓喜に湧く村人たちに見送られ、王子は姫を国へと連れ帰り――それを遠くから微笑んで見守るのは、なんと意地悪だったはずの女王だ。
「幸せにおなりなさいな」
 呟く女王。実は姫に食べさせたのは呪いの菓子などではなく、幸せを招く菓子。すべては、おとなしすぎる姫を案じてのことだった‥‥というのが真の筋書きである。
『‥‥して末永く睦まじく暮せり〜。異国草子・白梅姫、これにて幕と相成りまする』
 ニライの歌声が最後を締めくくり、浄瑠璃芝居は大盛況のうちに閉幕した。

●祭の夜
 芝居が終わると、ちょうど食事時。美夏は混ぜご飯や梅肉のすまし汁など、梅にちなんだ料理を村人たちに振舞った。
「そこのお客さん、梅のすっぱさは疲れを取って、お腹の調子を良くするですわよ」
「こちらは『異国草子・白梅姫』にも登場した、幸せを招くお菓子ですよ」
 美夏と聖歌の誘い文句に惹かれ、次々に客が集まってくる。
「‥‥甘味は好きだ」
 わずかに赤面しつつ、ニライも菓子を頬張る。異人、しかもエルフは珍しいので、ニライがいるだけで客寄せになるようだ。とは言え、材料調達や店の準備などで資金を使ったので収支はトントンだが、それもまあご愛嬌と言ったところ。
「切られ折られるほどに強く綺麗に、それでいて慎ましい‥‥私は梅のほうが好きですわね」
 梅の花を眺めつつ、呟く美夏。
「ええ。とても綺麗なお花ですね」
 聖歌もにっこりと頷く。せっかくなので、俳句でも作ってみようと思った美夏だが‥‥
「まあ、この光景では無理ですわね」
 どんちゃん騒ぎをする村人たちを眺め、溜め息。早々に諦めたのだった。

 紗雪も笛など奏でつつ店を手伝っていたのだが、秀真に誘われ、今は花見を楽しんでいる。
「福袋にてわしには不似合いの指輪を手に入れたでの、紗雪殿にと思うて」
 指輪を取り出し、そっと紗雪の指に嵌める秀真。
「‥‥頂いてしまっても良いのですか?」
「うむ‥‥似合うておるぞえ」
 微笑みながら、梅の花を見つめて一言。
「‥‥美しいのう」
 枝に咲く花と、隣に座る花。果たしてその言葉はどちらに向けられたものだったろう。
 来年もまた共に花を愛でることができたら、と願いつつ、秀真は静かに花見を続ける。そんな願いを知ってか知らずか、紗雪が呟いた言葉は‥‥
「また来年も、遊びに来させていただきたいですね」
 少しびっくりしつつも、秀真は微笑んでそれに頷くのだった。

●祭の後
 さて、村人による厳正な審査が行なわれたのだが、今年は梅組・桜組とも甲乙つけがたしという結果になった。娯楽などほとんどない村で、これほどまでに楽しい催しを経験できる機会は滅多にない。村人たちは大いに喜び、勝敗などつけられないと口々に言った。
「本当に楽しかった。また来ておくれね」
「ええ。来年も、再来年もこうして楽しい気持ちでお花見できたら嬉しいですね」
 沙羅は桜木家のおばあさんと。
「こんなお花見にお誘いしてくれて感謝してるよ!」
「こちらこそ、本当に感謝しております」
 菊川は依頼人と。
 それぞれ笑顔で握手を交し合う。
 皆の心に忘れえぬ想い出を残し、桜花繚乱・梅花絢爛の祭は幕を閉じたのだった。

『梅の香に 鶯の歌 風温み 花の杯 春宴に酔ふ』

 高槻が詠んだ歌のとおり、鶯の楽しげなさえずりが響き、村は暖かな春の風に包まれる――

●ピンナップ

高槻 笙(ea2751


PCパーティピンナップ
Illusted by 茶ちえ

ニライ・カナイ(ea2775


PCパーティピンナップ
Illusted by 兄部なち