SAMURAI −あの日見た光−

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月09日〜04月14日

リプレイ公開日:2005年04月16日

●オープニング

 それほどまでに勇壮でうつくしいものを、見たことがなかった。
 たった1人で果敢に魔物に立ち向かってゆくその姿。
 異国の衣を身に纏ったその男は、まさに英雄のように見えた。

 彼がいたから、今の自分がある。
 もしあの時、彼がいなければ、自分は無残にも魔物の餌食になっていたことだろう。
 結局、名前すら訊くことができぬまま何処かへ消えてしまった勇士‥‥
 それがジャパンの戦士・サムライというものであることを知ったのは、後になってからだった。
 もはや、再び彼に巡り会うことは不可能かもしれない。
 それでも、彼の姿を形に留めてこの世に残し、多くの人に知ってもらうことならできる。
 自分が今まで絵の勉強をしてきたのは、きっとそのためだったのだ‥‥そんなふうに思うと、胸が躍った。

 けれども、いくら筆を動かしてみても、彼の背中には追いつけない。
 どれだけ描いてみても、あの日見た光には届かないのだ。
 どうしてだろう。何がいけないんだろう。
 思い悩んだ末に、ついにジャパンまで来てしまった。

 * * *

「‥‥というわけで、絵のモデルになって欲しいのです」
 それが、異国の絵師からの依頼だった。
 折りしも、江戸近隣に鬼の脅威に怯えている村があるという。
 絵師はここぞとばかりにその話に飛びつき、村人に代わってギルドに依頼を持ち込んだ。もちろん、報酬は彼の自腹である。
 そうまでしてでも追い求めたいものが、彼にはあるのだ。
「どうか‥‥あの日見た光を、もう一度私に見せて下さい」
 まだ少しぎこちないジャパン語で必死に訴え、絵師は頭を下げた。

●今回の参加者

 ea3880 藤城 伊織(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6639 一色 翠(23歳・♀・浪人・パラ・ジャパン)
 ea7803 柊 海斗(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8151 神月 倭(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1821 天馬 巧哉(32歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1833 小野 麻鳥(37歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1891 久駕 狂征(39歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 村で鬼たちの出現場所等を聞き込み、一行は森へと向かった。
「依頼主様のお陰で、苦しむ村の存在を知る事ができました。村人にとって貴方こそが勇士でしょう」
「そんな‥‥私は自分のことしか考えていなかったというのに‥‥」
 神月倭(ea8151)に言われて絵師はしきりに恐縮するが、村人たちが感謝していることは事実。村に着くなり歓待を受け、中には涙ながらに礼を述べる者もいた。
「絵を描くってぇ為だけに異国の地まで来る心意気、俺は気に入ったぜ」
 藤城伊織(ea3880)に軽く肩を叩かれ、絵師は照れたように頭を下げる。
 その絵師に、今度は陸堂明士郎(eb0712)が質問した。
「ところで、かつて見た侍というのはどのような人物だったんだ?」
「年の頃は40ほどでしょうか。それはもう見事な剣術で‥‥刃が放つ輝きに、ただ見蕩れるばかりでした」
 滔々と語る絵師の横顔を見つつ、天馬巧哉(eb1821)はぽつりと呟く。
「なるほど、あの日見た光‥‥ね」
 そこには何やら深い響きが込められていたが、話に熱中する絵師は気付かなかったようだ。
「それは、依頼人さんが目標を追いかける理由になった一番初めの輝きの色ってことだよね。翠の御家の名前は、一番最初の色っていう意味があるんだよ。なんだか似てるね」
 こう言って笑いかけるのは一色翠(ea6639)。
「一番最初の色‥‥私は色を扱うのが仕事なので、興味深いお話です」
 翠が使うのは刀ではなく弓だが、小柄な少女が凛々しく弓を引く姿もなかなか絵になるに違いないと、絵師も期待しているようだ。
「刀を振るうばかりがサムライではありません。誰かを守る為に力の限り尽くす、それがサムライの真の姿‥‥どうか覚えておいて下さい」
「ええ、武器は関係ありませんものね」
 にこにこと頷く絵師は、まだ神月の言葉の本当の意味を理解していなかった。
 しかし彼はこの後、それを知ることとなる。


 鬼たちの目撃地点が近付いてきたところで、天馬は巻物を広げてブレスセンサーの魔法を発動させた。
「人間くらいの大きさのがまとまって‥・・全部で9個。たぶん鬼に間違いないな。こっちに近付いてくる」
「では、ここで待ち伏せるか」
 小野麻鳥(eb1833)が茂みの陰に屈み込み、久駕狂征(eb1891)と天馬もそれぞれ巻物を広げる。陸堂と藤城は持参した薬の類いをまとめて後ろに置き、負傷した者がいつでも使えるよう備える。
「魅せる戦いか‥・・それも大事だが、鬼を倒す事が出来れば村人が助かる。そこを忘れない様にしないとな」
 陸堂の言葉に皆が頷いた時、木々の合間から鬼たちがのこのことやって来た。やがて射程圏内まで近付いたところで、天馬のファイアーボムが炸裂した。
「ギャア!」
 奇襲に怯え、慌てて逃げ出そうとする小鬼たちだが、藤城がそれを阻止する。
「逃がさねぇよ」
 藤城の刃を受けて膝をつく小鬼に、追い討ちをかけるように翠の矢が飛ぶ。非力な翠だが、同時に2本の矢をつがえることによってそれを補っている。
 一方、久駕はコンフュージョンの魔法で小鬼戦士を混乱させ、茶鬼と同士討ちをさせていた。味方の攻撃を受けた茶鬼は逆上してやり返し、お互いに傷を負わせ合う‥‥傍から見れば滑稽な光景だが、2匹にとってはとんだ災難である。
 また、小野は茶鬼にイリュージョンをかけ、水に溺れる幻影を見せていた。
「彼が嘗て見たのは武士だろう、存分に魅せるがいい」
「援護、感謝するぜ」
 幻影に捕らわれ平静を失った茶鬼は、柊海斗(ea7803)の攻撃を避けることもままならない。畳み掛けるように神月が斬りかかり、茶鬼は何が起こっているのか理解できぬまま倒れていった。
 仲間の仇とばかりに突進してきた茶鬼戦士の前には、陸堂が立ちはだかる。
「我、死に挑みし修羅‥‥陸堂明士郎、いざ参る!」
 皮鎧の下に白装束を纏った陸堂は、戦神のような雰囲気さえ漂わせている。茶鬼戦士の渾身の一撃をひらりとかわし、逆に反撃を叩き込む‥‥その一連の動作は無駄がなく華麗だ。絵師は、魅入られたようにその姿を描き止めた。
 逃げられないと悟った小鬼たちは、今度は作業に没頭する絵師めがけて押し寄せてきた。
「行かせませんよ!」
 神月が行く手に立ち塞がり、小鬼戦士の攻撃を刀で受け止める。しかしその予想外の力に押されて一瞬手が緩んだ隙に、小鬼戦士は再びフレイルを振りかざして襲い掛かってきた。
「くっ‥‥」
 強烈な打撃を受けて神月が怯んだ隙に、2匹の小鬼が脇をすり抜けてゆく。天馬は小太刀でいなすふりをしたが、あくまでもふりだけで、わざと小鬼を絵師のほうへと近付かせた。
 人間、極限状態に陥った時にはいつもとは違う世界が見えるもの。
 両親が殺されるその時に見た月、そして翌日の朝日――それはやけに美しく、今でも天馬の心に焼き付いて離れない。絵師の言う「あの日見た光」というのも、それと同種のものなのではないか‥‥そう考え、敢えて絵師の身を多少の危険に晒すことも必要と判断したのだ。
 しかしこれは天馬の独断なので、他の仲間は知る由もない。
「そっちに行ったぞ、気を付けろ」
 柊の声に絵師がはっと顔を上げると、小鬼はすぐ近くまで迫っている。さすがに慌てる絵師だったが、小太刀を構えた小野が行く手を阻む。茶鬼や小鬼戦士が相手では分が悪いが、小鬼程度なら陰陽師の小野でも押さえ込むことは可能だ。さらに藤城が援護に入り、小鬼を始末した。
 もう1匹の小鬼は詠唱中の久駕を狙うが、すかさず翠が矢を撃つ。その間に詠唱を完成させた久駕がサンレーザーを放ち、続けて天馬がムーンアローで追撃、こちらの小鬼も戦闘不能に陥った。
「ありがとな」
「久駕お兄さんが詠唱する時は守ってあげるって言ったでしょ?」
 礼を言う久駕に、翠は笑顔でドンと胸を叩いてみせた。
 次々に倒れてゆく仲間を見て焦りを覚えたのか、残りの小鬼たちは負傷した神月に集中攻撃を仕掛けようと押し寄せるが、陸堂と柊が割って入った。
「今のうちに薬を!」
 陸堂の言葉に頷いて、神月はリカバーポーションを飲み干した。
 これで冒険者たちは再び万全の態勢となり、対する敵はついに残り3匹。終局が近いと感じた翠は愛用の短弓から鳴弦の弓に持ち替えた。
「陸堂お兄さんからもらった弓、大切に使わせてもらうね」
 呟いて弦をかき鳴らすと、鬼たちは途端に苦しみ出した。その不快な音を止めさせようと茶鬼が駆け寄ってくるが、再び天馬と久駕が魔法で足止めする。
「今度は俺が守るから、安心して続けな」
「うん!」
 久駕の言葉に頷いて、翠は弦を鳴らし続けた。鬼たちの動きが鈍っている今こそ『魅せる戦い』の本番だ。
 まずは、翠を狙う茶鬼に藤城がとどめを刺す。
 茶鬼との同士討ちで傷付いた小鬼戦士は、柊が居合いで一閃。刃が一瞬きらめきを放ったかと思うと、小鬼戦士の首はすっぱりと胴体から斬り離され、乾いた音を立てて地に転がった。
 最も傷の浅い小鬼戦士は陸堂に殴りかかるが、小野がサイコキネシスで妨害。攻撃が横に逸れたところ、陸堂が鮮やかに反撃を叩き込む。それを受けて大きくのけぞった小鬼戦士に向けて、神月が炎を纏う刀を静かに構え――
「・・・・これで最期です」
 タン、と地を蹴って軽く跳躍。そのまま細身に見合わぬほどの力を込め、上段から斬りつける。
 灼熱の一撃を受けて絶命した小鬼戦士の体は、ゆっくりと地に沈んでいった。


 戦いを終えて村に戻ると村人たちは歓喜に包まれ、誰もが冒険者に‥・・そして絵師に縋りついて礼を述べた。手を取り合って喜び合う夫婦や、冒険者たちに向かって手を合わせて拝む老人の姿もある。それを見ながら、絵師は悟ったように言った。
「神月さんの言っていたこと、やっと分かった気がします・・・・」
 その言葉に、神月はにっこりと微笑む。
「誰の心にもサムライの魂があって、道を切り開こうと必死に戦っています。生きたいと願う祈りの中にこそ、美しく輝く勇姿が見えてくるでしょう」
「はい。私が見た彼があれほど美しく映ったのは、サムライだからという理由ではなく・・・・私を守るために戦ってくれたからなんですね。私や村人を守るために戦うあなたたちは、彼と等しく美しかった」
「そうか。そう思えるのなら・・・・大丈夫だろうな」
 曇りのない絵師の笑顔を見て、天馬が呟く。その言葉は絵師の耳には届かなかったが、もし届いたとしても、彼の内心を知ることは難しかったかもしれない。
「私のこと守ってくれた久駕さんたちも格好良かったよ」
「ああ、翠ちゃんもな」
 こう言って笑い合う2人を、藤城はにやにや笑いながら見ていたが、それに気付いた久駕が釘を刺す。
「言っておくが、俺にはその手の趣味はない。念の為」
「その手の趣味って何だ? 俺はまだ何も言ってないぜ」
「・・・・」
 憮然とする久駕の肩をバンバンと叩いて、藤城はからかったことを詫びた。
 その光景を満ち足りた表情で見つめる絵師に、小野は問う。
「・・・・光は見えたか?」
「はい、しっかりと」
「ならばよい」
 曇りのない絵師の瞳を見て、小野もまた満足そうに頷いたのだった。


 『黎明』と題された絵、そしてそこに描かれた勇士たちの肖像画が完成するのは、もう少し時間が経ってからのことである。
 迫力に満ちながらもどことなく優しさを感じさせるその絵は、多くの人の心を動かすこととなるのだが――それはまた別の物語。