ちいさなおねがい
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■ショートシナリオ
担当:初瀬川梟
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 36 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月02日〜05月07日
リプレイ公開日:2005年05月10日
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●オープニング
ある日、ギルドに一通の手紙が届いた。
差出人は一月前にギルドに依頼を持ち込んだ男性。「ゆう」という名の少女の養父である。
『冒険者ぎるどの皆様へ
先日は大変お世話になりました。
おかげさまで、ゆうも少しずつ新しい生活に慣れ、以前よりも笑顔を見せてくれるようになりました。
力を貸して下さった冒険者の方々には心から感謝しております。
ただ、ひとつ気掛かりなことがあります。
ゆうがこちらへ来てからもう一月経ちますが、なかなか友達ができないのです。
ゆうも決して友達が欲しくないわけではなく、むしろ近所の子供たちが遊ぶのを羨ましげに眺めたりしているのですが、
どうしても自分から声を掛ける勇気が持てないようで。
近所の子供というのがこれまたやんちゃ坊主で、決して悪気はないのですが言葉遣いが少々荒かったりして、
ゆうにとってはそれが少し怖いというのもあるようです。
本来ならばこのようなこと、家族がどうにかするべきだと重々承知しております。
しかし私と家内は子宝に恵まれませんで、恥ずかしながら、子供とどう接すれば良いのか分からない部分も多いのです。
そこで、また冒険者の方々の力を借りようと、こうして手紙を出すことにしました。
ゆうもまだ父母を亡くした悲しみが完全には癒えておらず、時おりひどく淋しがっております。
どうか、ゆうが友達を作る手助けをしてやって下さい。
よろしくお願い致します。』
●リプレイ本文
●再会と出会い
「ゆうちゃん、会いたかったぜ〜!」
依頼人宅に着くなり、ぎゅむっとゆうを抱きしめたのはジェイド・グリーン(ea9616)。
「神月サンがね、小梟を育ててるから来れなかったって、悔しそうにしていたよ。今度見に行ってみようか?」
その言葉に、ゆうは嬉しそうに頷く。
高遠弓弦(ea0822)とユーリィ・アウスレーゼ(ea3547)も、ゆうとは2度目の対面だ。
「おひさしぶりなのだ! オイラのこと覚えているのだ?」
「うん、お花の髪飾り大事にしてるよ。弓弦お姉ちゃんも会いにきてくれて嬉しいな」
「私もお会いできて嬉しいです」
依頼人の手紙を見て心配していた弓弦だが、ゆうの笑顔を見て少し安心した様子。
「ゆうちゃんのこと、みんなに紹介したくってさ。今日は新しい仲間も連れてきたんだぜ」
また依頼で来たのだと知れば、ゆうが気にしてしまうかもしれない‥‥そう配慮して、ジェイドはあくまでも個人的に遊びに来たことにして、他の仲間たちを紹介していった。
「私、まだジャパンのことよく分からないんだ。ゆうちゃんの知ってるお歌とか教えてもらえるかな?」
リアことアウレリア・リュジィス(eb0573)が訊ねると、ゆうは少し照れながらも、童唄を口ずさんで聞かせる。
「ゆうちゃん、上手だね」
褒めて頭を撫でてやると、ゆうはとても嬉しそうに笑う。おかげで緊張もほぐれたらしく、他の者たちとも次第に打ち解けていった。
●子供たち
冒険者たちと共にゆうが外に出て行くと、近所の子供たちが物珍しそうな視線を向けてくる。
「なんだよ、ぞろぞろ引き連れて、姫様にでもなったつもりか?」
と茶々を入れてきたのは竜太。しかし本気で意地悪しているわけではなく、ゆうが見知らぬ人たちと仲良くしているのが気に入らない様子。
「わたくしの好みです。恋する男の子なんて‥‥」
「銀子っ! 涎出てるってカンジィ」
危険な眼差しで竜太を見つめる甲賀銀子(eb1804)に、大宗院亞莉子(ea8484)がツッコミをいれる。このままでは不審者と勘違いされてしまいそうなので、とりあえず他の面々が子供たちに話しかけてみた。
「お前らもこっち来て一緒に遊ぼうぜ」
「ジャパンの遊びってどんなのか教えて欲しいな」
子供たちは「異人さんだー」とか「うさぎ耳だ!」などと言いながら寄ってきて、モードレッド・サージェイ(ea7310)の髪を引っ張ったりリアの耳をつまんだり大喜び。けれども、ゆうはジェイドの後ろに隠れて出てこようとしない。
「ゆうの弱虫!」
からかうように言うのは、ガキ大将の拓。弓弦は屈んで彼に目線を合わせ、やんわりとたしなめる。
「そういう風だと女の子に怯えられてしまいますよ」
「でも、みねは平気だぜ?」
「人は1人1人違うんですよ。ほら」
弓弦は自分の銀髪を一房手に取って、真っ黒な拓の髪と比べてみせた。それでようやく納得したらしく、拓は少し口調を改めて言う。
「隠れてないで、出てきなよ。遊ぼうぜ」
それでもまだ躊躇うゆうに、ジェイドとユーリィがこっそりと打ち明けた。
「俺もゆうちゃん位の時は引っ込み思案だったんだぜ、なかなか遊ぼうって言い出せなくてさ」
「オイラもなのだ。お姉チャンに『仲間に入れてあげて』って言って貰って、初めてみんなで遊べたのだ」
すると、ゆうは意外そうに2人の顔を見る。
「お兄ちゃんたちも?」
「うん。だから最初は仕方ないのだ」
「今はこうして誰とでも話せるようになったしさ、ゆうちゃんも大丈夫だよ!」
2人の声援を受けて、ゆうは恐る恐る子供たちに声を掛ける。
「‥‥わ、わたしも‥‥一緒に遊んでいい?」
「遊んでほしいなら、最初からそう言えばいいのよ」
素っ気なく言うのは、みねという女の子。けれども口調とは裏腹に、手はゆうに向けて差し出されている。ゆうがゆっくりとその手に触れると、みねはそれを握り返し、男の子たちの元へ引っ張っていった。
「まずは第一関門突破、ですね」
微笑ましげにその様子を見守りながら、弓弦は小さく呟いた。
●遠足
翌日、銀子が提案した遠足計画が実行されることとなった。近場の山にみんなで遊びに行こうというもので、場所は事前にエレオノール・ブラキリア(ea0221)が下見してあるし、子供たちの親からも許可をもらってある。
さすがに夜の山は危険なので泊りがけは無理だが、日帰りでも充分に楽しめるはずだ。
エレオノールとモードレッドが馬で荷物を運び、みんなで仲良く歩いて目的地へと向かう。その道中は、随分と賑やかなものになった。
「うさぎ耳のおっちゃん、なんで顔に字が書いてあんの?」
「変なのー」
やんちゃ坊主の拓と竜太にからかわれ、大ショックを受けるユーリィ。
「オ、オイラ気にしないのだっっ! だってオトナだもんっ!」
と強がってみせるものの、思いっきり涙目になっている。
「ってことは俺もおっちゃんか?」
「‥‥私はおばちゃん、ですか」
「わ、私はまだセーフよね?」
おっちゃん呼ばわりされるユーリィを見て慌てるモードレッド、銀子、アウレリア。それを、おろおろしながら見守るゆう。それに気付いたエレオノールは、さり気なく輪に引き入れてやる。
「私はどうかしら?」
「あのね‥‥お姉ちゃんも若くてきれいだよ」
「あら、いい子ね♪」
思いきり撫でてやると、ゆうもようやく笑顔を見せた。
●男の料理
無事に目的地に着いたところで、まずは昼食の準備だ。モードレッドは川で魚を調達し、拓と竜太に「男の料理」を教え込む。‥‥とは言っても、串に刺すだけだが。
「男の料理に細かいことはいらない。とにかく豪快に!だな」
「おお、すげー」
男の子たちには、ウケが良かったようだ。
「お前らくらいになりゃ、将来嫁にしたいなーとか思うような娘とかいるだろ?」
作業を続けつつ、何気なく問い掛けるモードレッド。しかし竜太は意固地になって首を振る。
「いねーよ、そんなん!」
「そうか? 俺は大人しくて笑顔が可愛い子がいいね。ゆうとか、大きくなったら絶対美人になるぜ」
今でも充分可愛いと思うけど、というモードレッドの言葉を聞く前に、竜太は慌ててゆうのほうを向く。当のゆうは、みねやリアと一緒に持参した野菜の皮を剥いている最中だ。
「ふん! ゆうなんか、全然かわいくないじゃん」
強がって憎まれ口を叩く竜太を、モードレッドはにやにやと眺めていた。
●架け橋
みんなで協力して準備した料理は美味しさもひとしお。普段とは違った食事を楽しんだら、今度は思い切り遊ぶ時間だ。モードレッドなど、わざわざ鬼面まで用意し、かなり気合が入っている。
「ゆうも一緒に鬼ごっこしよーぜ」
今回は拓のほうから声を掛けてきたのだが、ゆうは困ったように口ごもるばかりで、なかなか返事ができない。ずっと病床の母に付き添って過ごしていたので、走り回ったりするのは得意ではないのだ。
「もう、はっきりしなよ!」
みねにきつい口調で言われて、しょんぼりと俯くゆう。
「ゆうなんか、おっちゃんたちと遊んでればいいんだ。俺たちは俺たちで遊ぶからさ」
さらに竜太の言葉を受けて、涙目になってしまう。その竜太を銀子ががっちりと捕まえた。
「女の子をいじめちゃダメですよ」
「わ、何すんだよ銀ねーちゃん!」
口では注意しつつ、銀子の顔は嬉しさのあまり緩みまくっている。さすがに竜太が身の危険を感じているようなので、亞莉子はずりずりと銀子を引き剥がしつつ、竜太に耳打ちした。
「ねぇ、女の子ってぇ、強い男よりもぉ、優しい男の方が好きなんだって」
興味ない素振りをしつつ、明らかに動揺を見せる竜太。
「女の子をいじめるのって、カッコ悪いってカンジィ。それでフラレたら、さらにカッコ悪いよねぇ?」
「う‥‥」
この一言は堪えたようだ。
「泣かせるのじゃなく、守る強さを持てよ。泣き顔より何倍も、笑顔の方が可愛いんだ。見て見たいだろ?」
ジェイドからも助言を受けて、竜太はだいぶ揺らいでいる。しかし彼が結論を出す前に、亞莉子が強引にゆうの元へと引っ張っていった。
「さぁ、さっさと告白ってカンジィ」
「え、ええ?!」
慌てふためく竜太と、きょとんと首を傾げるゆう。亞莉子に背を叩かれ、竜太はとりあえず言った。
「‥‥さっきは意地悪言って、悪かった‥‥これからは、一緒に遊んでやってもいいぞ」
素直でない言い方は相変わらずだが、それでも向こうから歩み寄ってもらえたことが嬉しいらしく、ゆうは微笑んで頷く。
「わたしも、ごめんね‥‥走るのは苦手だけど、仲間に入れてほしいな」
勇気を出して自分の言葉で伝えると、竜太も頷き返し、2人は握手を交わした。
「鬼ごっこだけが遊びじゃないよ。みんなで歌うのはどう?」
ゆうが歌が得意だと気付いたリアは、ゆうから教わった歌を竪琴で奏でる。
「ゆうちゃん、あの歌、みんなにも教えてあげよう」
「遠慮なんかしなくていい。皆が貴女を待ってる。私も手伝うから、ね?」
「う、うん」
さすがに大勢の前とあって緊張しているようだが、エレオノールが一緒に歌ってくれるとあって、ゆうは頑張って歌を紡いだ。熟練の歌い手であるエレオノールは、決してゆうの声を殺すことなく、ちょうど良い具合に引き立てる。
「ゆう、歌うまいな」
「いいな、私にも教えて?」
思いがけないゆうの特技に感心する子供たち。
「オイラも伴奏するのだ!」
ユーリィが得意の三味線をべんべんと鳴らし始め、みんなでそれに合わせて歌い始めた。途中、銀子が魔法で美しい幻影を作り出し、周囲を包み込む。素晴らしい風景に囲まれながら、年齢も種族も分け隔てなく、歌声はひとつになって木々の中に響いたのだった。
●また明日
目いっぱい楽しんだ一行は夕暮れの中、村へと帰っていった。
「竜太様、わたくしのこと忘れないでくださいね」
「うん、銀ねーちゃん、また魔法見せてね」
名残惜しそうに別れを告げる銀子。冒険者たちがここにいられるのは今日までだが、子供たちには明日がある。
「また明日!」
こう言って手を振りながら去ってゆく3人の姿を、ゆうは幸せそうに見送った。
「明日も楽しいことが待ってる、この夕焼けみたいにあったかい約束だよな」
「お日様は元気をくれるから。明日も太陽の下で遊んで、元気になれるといいね!」
ジェイドとリアの言葉に、しっかりと頷くゆう。山に登ったりみんなで歌ったり、慣れないことをして疲れているようだが、その顔はとても満足そうだ。それはゆうだけでなく、他の皆も同じだ。
のんびりと家路を辿りながら、亞莉子は大きく伸びをして、呟くのだった。
「愛のキューピッドも疲れるってカンジィ。帰ったらダーリンに癒しもらおぉ」