おねがい☆冒険者

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 36 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月13日〜05月18日

リプレイ公開日:2005年05月21日

●オープニング

 係員は、目の前に立つ依頼人をまじまじと見つめていた。
 身に纏うローブはフリルいっぱいで可愛らしく、ふたつに結った髪には綺麗なリボン。同じ色のリボンをあしらったブーツもおしゃれだ。
 が、しかし。それらを身につけているのは、どう見ても男である。
 もう少し幼かったら、あるいはもう少し華奢だったら、女だと言い通すことはできたかもしれない。
 しかし彼は見たところ20代半ばほど、逞しいというほどではないが、体型は明らかに男性。声も男性のものだ。
 ‥‥筋骨隆々で、「漢」と書いて「おとこ」と読むような、そういう系統の男性でないだけありがたいと思うべきだろうか。
 そんなことに気を取られて、係員は依頼人の話をほとんど聞いていなかった。
「‥‥えっと、何の話でしたっけ」
「だからぁ、大事な杖が盗まれたから、取り返して欲しいんですっ☆」
 両手で拳を作って、口の前に持ってくる依頼人。
 係員は精神に中傷程度の傷を負った。
 しかし、依頼人はまったく気にしていない。いや、気にするような器量があれば、最初からこんな格好はしていまい。
「‥‥どんな杖ですか?」
「えっとぉ、こんな杖です☆」
 と言いながら、空中に幻影を作り出してみせる依頼人。どうやら魔法が使えるらしい。
「大事な大事な杖なんですよぉ‥‥苦労して、やっとの思いで手に入れたんです。でも、私は非力な乙女だから、1人じゃ取り戻せなくって‥‥」
 乙女じゃないだろう。全国の乙女に対して謝れ。
 そう言いたいのを必死に堪えつつ、係員は幻影を参考にしつつ杖の絵を描いた。
 何故、自分はこんなものを描いているのだろう‥‥そんな疑問を覚えないでもなかったが。
「それじゃあ、よろしくお願いしますねっ☆」
 必殺、投げキッス。
 それを受けて、係員は今度こそ倒れてしまった。

 * * *

 一方、その頃。
「ふふふ‥‥可愛いなあ」
 可愛らしい装飾が施された杖をじーっと眺めつつ、笑みを零す女性が1人。
 頬に刻まれた傷や、背にかついだ刀は、いかにも「女傑」といった雰囲気を強めている。
 手にした杖とは、あまりにも不釣合いな気がしないでもない。
 しかし‥‥
「御頭ぁ、そんな杖盗んでどうするんですか? 御頭には似合わないッスよ」
「う、うるさいっ! あたいが可愛いもの好きで悪いか?!」
 真っ赤になって後ろ手に杖を隠しつつ、猛然と反論する彼女。
 ‥‥ある意味、これは彼女が持っていたほうが平和なのかもしれない。

●今回の参加者

 ea3880 藤城 伊織(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4475 ジュディス・ティラナ(21歳・♀・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 ea8109 浦添 羽儀(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9272 風御 飛沫(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9616 ジェイド・グリーン(32歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb0468 天霧 那智(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1540 天山 万齢(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●私は風になる
 交渉班として、先行してアジトを訪れたのはジュディス・ティラナ(ea4475)、ジェイド・グリーン(ea9616)、天霧那智(eb0468)の3人だった。
 が、天霧だけは人遁の術で姿を変えており、その姿は‥‥花も恥らう可憐な少女。もし彼をよく知る人物が見たら、こう言うかもしれない。「お前、本当にそれでいいのか」と。
 それでも「美少女の時『だけ』しっかりガードしよう」と言い切ったジェイドは、ある意味すごい。
 まあ、それはさておき。
「『わかばや娘。』のジュディスでぇすっ☆ お頭さんはどこですかぁ?」
 アジトを訪れた3人を、見張り番は訝しげに見遣った。
「お前みたいなガキに御頭が会うわけねぇだろ、帰んな」
「そうは行かないわっ、大事なお話なのよっ!」
 必死に背伸びして抗議するジュディスだが、まったく相手にされない。
「ここの御頭は話の分かる人だって聞いたから、こうして来たんだ」
 ジェイドも頼み込むが、見張り番はやはり訝しげだ。すると騒ぎを聞きつけて御頭本人が姿を現した。
「さっきから煩ぇな」
「この連中が御頭に会わせて欲しいって言って聞かなくて‥‥」
 見張り番に言われて、綾はジェイドを無視してジュディスと天霧の2人を見比べ‥‥
「おや、随分と可愛いお譲ちゃんだこと。通してやんな」
「え、でも」
「文句あんのか?」
 綾に凄まれ、見張り番は渋々3人を中に通した。
「威勢の良さそうな美人さんだね、綾さん」
 とジェイドが声を掛けると、綾はたちまち不機嫌な顔になる。
「気安く呼ぶんじゃねぇよ」
「おっと、俺みたいな軽い男は嫌いみたいだな」
 と言いつつ、自然と綾の胸元に目が行くジェイド。さらしで覆われてはいるが、大きさはなかなかのものだ。
「てめぇっ、何見てやがんだ!」
 視線に気付いて激昂し、掴みかかろうとする綾だが、ジェイドはひらりと飛び退いてそれをかわす。
「昨今のナンパ男は見た目だけじゃないんだぜ♪ 逃げ足も速いのさ♪」
「あっ、こら待て!」
 確かに見事な逃げ足だ。一陣の風のように駆け、どんどん遠ざかって‥‥
「‥‥いかん、交渉するの忘れてた」
 はっと気付くジェイドであった。

「何だったんだ、あいつ」
「ま、まあ、お気になさらず」

 で、何事もなかったかのように会話は再開された。

●おねがい☆お姉様
「それで、話ってのは?」
「綾お姉様が手に入れた杖を返して欲しいのです」
 その言葉を聞いて、急に綾の表情が険しくなる。
「駄目だ! あれはあたいのお気に入りなんだ。そう易々と手放すわけには行かねぇ」
「でもでも、持ち主さんにとっても大切な物なんですぅ」
「それに魔法の杖って、夢見る乙女にしか使えないんでしょっ?」
「くっ‥‥あたいだってナリはこんなだが、立派に乙女だぜっ」
 ちなみに、条件的にはキャシィも杖を使いこなすことはできないのだが、それはこの際無視するとして。
「そんな乙女な綾お姉様に提案ですの。この杖と魔法の杖、交換してもらえません?」
 天霧が差し出したのは、天山万齢(eb1540)が作った杖。先端には風御飛沫(ea9272)が提供したキューピッド・タリスマンが取り付けられており、可愛らしい。
「魔法の効果はありませんけど、可愛さだったら負けません☆」
「む‥‥」
 魔法の杖は売れば金になるが、金目当てならとっくに売り払っているはず。外観の可愛さが重要なら、天山の作った杖でも充分に用は足りる。それでも綾が即答しないのは、自尊心ゆえだろうか。
 そこで、今度はジュディスが花の刺繍の入った可愛い桃色の褌を取り出した。
「お頭さんみたいなイケメンには、このふんどしが似合うと思うわっ☆ あたしのふんどしあげるから、その杖ちょうだいっ☆」
 ちなみにジュディスの中では、筋肉質な姐御≒イケメン≒褌の似合う人という図式があるらしい。それはともかく、花柄褌は効果があったようだ。
「可愛い‥‥」
 心揺れる綾に、天霧がとどめを刺す。
「綾お姉様、お願いしますの」
 うるうると見つめられ、綾の心は一気にぐらっと傾いた。
「‥‥可愛い嬢ちゃんの頼みにゃ弱いんだよな。わかったよ、これは返す」
「わあい、ありがとうです☆」
「やったわねっ!」
 手を取り合って喜ぶ天霧とジュディス。無事に杖を受け取って一件落着‥‥と思いきや。
「‥‥あ」
 天霧がみるみるうちに元の姿へと戻ってゆく。術が切れてしまったのだ。
 いきなり目の前の美少女が消え、見知らぬ青年が現れて、目を白黒させる綾。一瞬遅れてようやく事態を悟り‥‥
「てめぇ‥‥騙したな?」
 ものすごい顔で天霧を睨みつけた。

●心と心で通じ合う
「みんな上手くやってるかな‥‥ジュディスちゃん可愛いから、狙われたりしないか心配ですよ〜」
 仲間たちを心配し、ハラハラする飛沫。
「まあ私たちが焦っても仕方ないし、今は待ちましょう。それよりキャシィさん、杖が盗まれた時のこと教えてくれる?」
 浦添羽儀(ea8109)に訊かれて、キャシィは説明を始める。
「あの杖は、アイテム交換の末にようやく手に入れたものなんですよぅ。それで、やっと手に入ったのが嬉しくって‥‥ぶんぶん振り回しながら歩いてたら、あの泥棒にぶつかっちゃってぇ‥‥」
「‥‥」
 それは自業自得なのでは、と羽儀は思ったが、かろうじて口には出さなかった。何故なら、下手にキャシィを刺激したら危険だと本能的に悟ったからだ。
「あの泥棒、『その杖はお前なんぞには似合わん』って言ったんですよぅ! 失礼しちゃいますっ」
「‥‥それはご愁傷様」
 もはやそれ以上何も言えない羽儀であった。
「御頭は男勝りだけど、案外花とか動物とか好きって話だったからな。その杖も気に入られちまったのかもな」
 近隣の村で聞いた情報を思い出しつつ、藤城伊織(ea3880)が推測を述べる。
「それなら、天山さんの杖で交渉に応じてくれるといいんですけど」
 こう呟く飛沫の手には、天山から譲ってもらった試作品の杖。なかなか良い出来なので、もし相手が「魔法の杖」ということにこだわらないのなら、充分に取り引きの材料になるはずだ。
「ところで、伊織様‥‥」
 他の人たちの目を気にしつつ、こっそり耳打ちしてくるキャシィ。
「ん、どうした?」
「あのですね‥‥私、伊織様みたいな男性ってすごく好みなんですっ」
 そう来たか。内心で苦笑しながら、藤城ははっきり答えた。
「俺、お前さんを恋愛対象には見れないぜ、悪ぃな‥‥飲み友達なら大歓迎だケドな♪」
 がっくりとうなだれるキャシィ。
 変に気を持たせるよりは、ちゃんと断ったほうが良いだろうと気遣ってのことだったが、幸いキャシィはその思いを汲んでくれたようだ。
「分かりました‥‥では、そろそろ向こうに連絡してみますねっ」
 キャシィはなんとか笑顔を作り、アジトの中の天霧に呼び掛ける。
「そちらはどんな状況ですかぁ?」
 それに対して、返ってきた答えは‥‥

●熱き血潮
『ダメでしたぁ☆ えへ』
 キャシィの呼び掛けにこう答えた直後、脳内会話はわざわざ乙女口調じゃなくても良いということに気付き凹む天霧。それ以前に、変身は既に解けてしまっているのだ。二重に大失敗である。
「その杖とふんどし、気に入ってくれたんでしょっ? だったらいいじゃないっ☆」
「そういう問題じゃねぇ。このあたいを騙そうとしたってことが許せねぇんだよ」
 だいぶご立腹の様子の綾。
 そこへ、外に隠れていた強襲班の面々が乗り込んできた。ちなみに、いつの間にやらジェイドも紛れ込んでいたりする。
「ちっ、義賊と聞いたが、所詮賊は賊か!」
 と日本刀を翳す天山。
「正確には、交渉決裂というわけでもないんですけどね‥‥」
 ぼそりと呟いた天霧の声は、仲間たちには届かなかったようだ。
 綾も武器を構え、手下たちもぞろぞろ集まってきて、場は一気に険悪な雰囲気に包まれる。
 そして戦闘は始まった。
「できれば穏便に済ませたかったんですけどね‥‥」
 などと溜め息をつきながらも、手下を気絶させてゆく羽儀。
「さっさと済ませちまおうぜ」
 同じく気絶攻撃を中心に立ち回る藤城。
「悪く思うなよ」
 と、弓で牽制を試みるジェイド。
「おいで、ガマ!」
 大ガマを呼び出し、敵を威嚇する飛沫。だが‥‥
「かっ、可愛い!」
「えーっ?!」
 大ガマは綾のツボに入ったらしい。「可愛い」の基準がよく分からない。彼女はさらに飛沫の頭に目をつけ、
「むっ、その飾りも可愛いじゃねぇか」
「嫌です! 絶対嫌です! あげませんから!」
 と熾烈な争奪戦が始まるかと思いきや、それは天山によって阻止された。
「紅影の綾ってのは数を頼みに無理を通すのかい!」
「なんだと?」
 とりあえず可愛いものよりも、売られた喧嘩を買うことのほうが優先度は高いらしい。
 綾はあっさり飛沫から離れ、天山に向き直った。
「コイツで白黒つけようや。負けた奴は勝った奴の言う事を聞く。単純でいいだろ?」
「おうよ!」
 1対1の勝負。
 綾は女だてらに団を率いるだけのことはあり、剣の腕前もかなりのものだ。
 剣術の技量だけなら天山のほうが上なのだが、彼は敵の攻撃を避けることには長けていない。さらに綾は手数の多さを生かして猛攻をかけてくるので、天山が押され気味になるのも時間の問題だった。
「もらった!」
 天山の手から刀がはたき落とされ、乾いた音を立てて床に転がる。
 まだ十手は残っているが、これだけでは決定的な攻撃を放つことはできない。
「くっ‥‥」
 負けを悟った天山だが、稜はふっと笑っただけで、その後はもう何もしようとしなかった。
「思いっきり戦り合ってたら、なんかもうどうでも良くなっちまった。この杖も褌も気に入ってるし、盗んだモンは返すよ」
 あっさりと魔法の杖を投げて寄越す綾に、藤城がヒュウと口笛を吹く。
「粋だね、姐さん」
 天山も刀を拾い上げ、にやりと笑った。
「強え女は大好きだよ。惚れちまいそうだ」
「あたいはまっぴら御免だがね」
 こうして、ようやく一件落着となったのだった。

●余談
「那智様の乙女ぶり、キャシィは感動しましたっ☆ 共に乙女の道を目指す者として頑張りましょうねっ♪」
 取り戻した杖を片手に、きゅるるんと天霧を見つめるキャシィ。
 上機嫌で去ってゆく後ろ姿を見送りながら、天霧は思った。
 ‥‥ああ、夕陽が目にしみるなぁ、と。