●リプレイ本文
●茶々丸に会いに
冒険者たちを心待ちにしていたゆうは、ジェイド・グリーン(ea9616)とアウレリア・リュジィス(eb0573)の姿を見つけ、駆け寄ってきた。
「ジェイドお兄ちゃんとリアお姉ちゃん、また来てくれたんだね」
「わーい、覚えててくれたんだ♪ 元気だった?」
「弓弦ちゃんと神月サンは来れなかったんだけど、後でお手紙出そうな。きっと喜ぶよ」
再会を喜び合う3人。
それに続いて、他の皆も次々に挨拶を済ませ、早速出発の運びとなった。
今回、ゆうとの出会いを最も楽しみにしていたのは一色翠(ea6639)かもしれない。兄弟では末っ子だし、いつも一緒に依頼を請けるのは年上の人たちばかりなので、年下のゆうとの触れ合いがとても新鮮なのだ。
「歌が上手なんだってね、翠にも聞かせてくれるかな?」
期待に胸膨らませて訊ねると、ゆうは恥ずかしそうに俯く。
「うまいってほどじゃないの‥‥」
「そんなことないよ! 私も一緒に歌うから、聞かせてあげよう?」
「ボクも歌うよ♪」
リアと鈴苺華(ea8896)に助け舟を出されて、ゆうはようやく意を決して歌い始めた。最初はそれに耳を傾けていた翠だが、やがて一緒になって歌い始め、道中はとても賑やかなものとなった。
「翠お姉ちゃんも、お歌うまいと思うよ」
「えっ‥‥そうかな?」
褒められたことよりも「お姉ちゃん」と呼ばれたことに気恥ずかしさを隠せない翠。どきどきしながらも、
「手、繋ごっか」
と声を掛けると、ゆうは嬉しそうに頷いた。
それを見ていた所所楽石榴(eb1098)は、赤面しつつレヴィン・グリーン(eb0939)に手を差し出す。
「は、はぐれると心配だから‥‥僕たちも手、繋いでおこう?」
「はい‥‥そうですね」
レヴィンも微笑んで石榴の手を握った。
ゆうを疲れさせないよう、食事も兼ねて休憩を取ることになった一行。
保存食を忘れた苺華は他の皆から少し分けてもらっている。こういう時、体の小さいシフールは得かもしれない。
「お姉ちゃんは食べないの?」
食事を採らずにじっとしている石榴に、ゆうが声を掛ける。しかし石榴は蝙蝠の術で周囲を警戒しているため、ゆうの声は聞こえていない。代わりに、彼女の隣にいたレヴィンが答えてやった。
「石榴さんは見張りをしているんです。後でちゃんと食べますから、大丈夫ですよ」
「うん。頑張ってね、お姉ちゃん」
声は聞こえないものの、ゆうに微笑みかけられたことは分かったので、石榴も同じように笑顔を返した。
やがて食事を終えた後、陣内風音(ea0853)はゆうに手品を披露してやっていた。
「よーく見ててね‥‥ほら、お花が咲いた」
「すごい‥‥!」
何も持っていないはずの手から花が出てきたので、ゆうはしきりに驚き、感心する。
それが済むと、今度はミィナ・コヅツミ(ea9128)がゆうに他国での冒険譚を話して聞かせた。
「ノルマンでは大地の精霊さんと一緒に踊ったんですよ。それにイギリスでは、お嬢様と冒険したり‥‥」
「お姉ちゃんは色々な国に行ったことがあるんだね。すごいね」
「異国では、こんなものも手に入れました♪」
もそもそとトナカイの着ぐるみを着込み、きゅむっとゆうを抱きしめるミィナ。
「わっ、くすぐったいよう」
くすぐったがって逃げようとしながらも、ふわふわしたものが大好きなゆうはご機嫌の様子。
そんなこんなで退屈する暇もなく、あっという間に時間は過ぎていった。
●ご対面
途中、野良犬に遭遇したが、冒険者たちが追い払うとさっさと逃げていってしまった。幸いそれ以外には騒動もなく、目的地には予定通り到着した。
そしてついに茶々丸と対面したゆうは‥‥
「‥‥うわあ‥‥!」
しばらく釘付けになって、その真ん丸い姿をじーっと見つめている。
「びっくりさせないようにすれば、撫でても大丈夫ですよ」
レヴィンに言われたとおり、ゆうはそっと手を伸ばして羽毛を撫でた。
「柔らかいね‥‥」
「茶々丸も嬉しそうだな♪」
ぱっと綻ぶゆうの笑顔をを見て、ジェイドも安心したように笑った。
「ふわふわなのも茶々丸さんの素敵な所ですが、本当に素晴らしいのは、まだ小さいのに一生懸命に生きている姿勢ですね。私達も見習わねばいけませんね」
レヴィンが優しく教え諭すと、ゆうも熱心に頷いた。
そしてゆうに続いて、他の皆も次々に茶々丸に触れる。
「茶々丸さん、ホントにふわふわですね〜♪」
「思ってたより大きいね」
急にたくさんの人に触られて、茶々丸は少し混乱している様子。いったん落ち着けてやってから、再び遊ぶことにした。
その間に、闇主の祠にお参りに行こうということになったのだが、
「ゆうちゃん、一緒に連れて行っても大丈夫ですか?」
と、リアは依頼人に確認を取った。両親を亡くしたゆうが、茶々丸の境遇に自分の過去を重ねてしまうかもしれないと危惧したからだ。けれども、依頼人は穏やかに微笑んで答えた。
「ゆうは確かに繊細な子ですが、決して弱い子ではありません。大丈夫ですよ」
けれども、茶々丸がここに来ることになった経緯をすべて話せば、やはりゆうは傷付くだろう。そう配慮して、翠はこう説明した。
「茶々丸のお母さんは闇主っていってね、今はもういないんだけど、村の守り神になって茶々丸や村人さんたちを見守ってるの‥‥」
それを聞いたゆうは淋しそうな顔をしたが、その後すぐ、いつもより少し大人びた笑顔で言った。
「ゆうと同じだね。ゆうのお父さんお母さんも、ずっとゆうのこと見守ってくれてるんだよ」
「‥‥そっか。そうだね‥‥」
翠は切ない気持ちを抑えながら、ゆうの髪を優しく撫でてやった。
そして皆で闇主の祠へ行き、厳かに祈りを捧げた――
●子供の時間
それからゆうは目いっぱい茶々丸と遊んだ。風音の飼い犬、月姫も一緒だ。
「ほら、茶々丸」
と言って鞠を転がしてやると、茶々丸よりも先に月姫が素早く駆け出す。茶々丸も必死に追いかけるが、犬の足には敵わず、途中でころんと転んでしまった。鞠を拾って戻ってきた月姫は、それを見て心なしか誇らしげに「わふっ!」と吠えてみせる。
「月姫の勝ちだね」
茶々丸を助け起こしながら笑うゆう。
「でも茶々丸もすぐに大きくなるよ。飛べるようになったら、月姫じゃ絶対敵わないわね」
月姫を撫でてやりながら、風音も笑った。
今度は、リアがゆうと一緒に茶々丸に歌を聞かせてみた。
しかし茶々丸は歌よりも、それに合わせて舞い踊る苺華のほうが気になって仕方ない様子。彼女の動きに合わせてきょろきょろと視線を動かし、まだ発達していない羽根をぱたぱたと動かすが、もちろん飛べるはずもない。
「あはは、もう少ししたらボクが飛び方の先生になってあげるからね♪」
と言って、苺華は自分より大きくなってしまった茶々丸の頭をぽんぽんと撫でてやった。
●大人の時間
レヴィンは相変わらず遊びたい気持ちを抑え、茶々丸の教育に当たる。
相変わらず会話らしい会話は成立しなかったが、それでも茶々丸の癖などは把握することができたので、村人たちに色々と指導を行なった。
そして、石榴と共に村長にある話を持ちかける。
「実は店を開こうと思っているのですが、屋号に『茶々丸』の名を使わせてもらっても良いでしょうか?」
「元々はレヴィンさんに付けて頂いた名前なのですから、こちらとしては一向に構いませんよ。それにどのような名を付けるのも、店主の自由でしょうし‥‥」
フクロウの茶々丸を商売に使うとなれば色々大変だが、名前だけならば特に問題もないだろう。村人からも特に反対の声はなかった。
「村への不利益になる事なんて絶対しないと誓えるよ」
と石榴も約束し、村長はそれを了承した。
ミィナも、村長にある提案を申し出ていた。それはなんと、茶々丸の養育費として50Gの寄付を行なうというものだったが、さすがに村長も即座には頷かない。
「そのような大金を受け取るわけには‥‥」
「でも、お金が入用なのは事実ですよね。私は構わないんですよ?」
しばらく押し問答が続いた結果、とりあえず10Gのみということで何とか話がまとまった。
「お気持ちはありがたく受け取ることに致します。その代わりに、ひとつ約束をして頂けますか?」
「何でしょう?」
「これからも是非、茶々丸の様子を見に来て下さい。後援者として、そして彼の友人として」
「分かりました。これから大変でしょうけど、頑張って☆」
そして夜。
遊び疲れてぐっすり眠るゆうを見ながら、ジェイドは依頼人と酒を酌み交わす。
「俺もゆうちゃんみたいな子供がいたら、嫁にはやらん」
「まだまだ遠い話のようですが‥‥でも子供が育つのなんてあっという間ですかね?」
「そうだろうなあ。ゆうちゃんの花嫁姿‥‥きっと綺麗なんだろうけど、でも‥‥くうっ!」
大人たちがそんな会話を交わしていることも知らず、ゆうは心地良さそうに寝息を立てていた。
●お別れ
「茶々丸、またね」
後ろ髪を引かれつつも、ゆうは茶々丸に別れを告げた。
「また一緒に遊びに来ようね!」
と翠に誘われ、元気よく頷く。そして、ふと空を見上げて‥‥にっこりと笑った。
「あの雲、ふわふわで‥‥茶々丸みたい」
「そうだな。次に会う時は茶々丸ももっと大きくなっているだろうし、ゆうちゃんも負けずに、元気に歩いていこうね」
「うん」
ゆうはジェイドと手を繋ぎ、もう片方の手は翠と繋いで、仲良く帰途についたのだった。