たすけて☆冒険者
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■ショートシナリオ
担当:初瀬川梟
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:06月12日〜06月15日
リプレイ公開日:2005年06月20日
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●オープニング
「けしからん! まったくもって、けしからん!」
伊兵衛じいさんは憤っていた。
何に対して憤っているのかと言うと、それは「変態」である。
江戸の風紀を乱す不届きな変態は、伊兵衛じいさんにとって許しがたいものだった。
そんなことを考えながら歩く伊兵衛じいさんの目に、さっそく標的が映る。
「こりゃー! 貴様まだ懲りとらんかったのか!」
「いや〜んっ、勘弁してくださいっ☆」
怒鳴られて逃げていくのは、ひらひらふりふりの可愛らしい服を身に纏った青年。
体格は一般的な成人男性そのもの。声も立派に男性。
そんな男がふりふりの服を着て「いや〜ん」とか言っているのだから、気色悪いことこの上ない。
「待たんかー、この変態めー!」
「変態じゃないですぅ、乙女だもんっ☆」
こうしてしばし追いかけっこが続いた挙句、ついに伊兵衛じいさんは標的を見失ってしまった。
「くっ、このワシが軟弱者の変態ごときに撒かれるとは‥‥!」
寄る年波には勝てないということか。
伊兵衛じいさんは悔しげに拳を握り締めるのだった。
* * *
ギルドに入ってきた人物を見て、係員は硬直した。
できれば記憶から抹消しておきたい人物だったのだが、残念なことに印象が強すぎて、見た瞬間に思い出してしまう。
「‥‥キャシィさん、でしたっけ」
「きゃっ、覚えててくれたんですね♪ キャシィ感激☆」
そりゃ忘れられるはずもなかろう。
というツッコミは心の中にしまっておいて、係員はなんとか冷静に営業用スマイルを浮かべて応対する。
「で、ご用件は?」
「キャシィを変態呼ばわりするおっかないおじい様から、キャシィを守って欲しいんですっ☆」
むしろ成敗されてしまえばいいのに‥‥と、係員は思ったとか思わなかったとか。
しかし悲しいかな、これも仕事である。
「こんな可愛らしい乙女をつけ狙うなんて、あのおじい様のほうこそ変態ですっ! いやん、もしかしたらキャシィに気があるのかも‥‥?」
目をうるうるさせて訴えるキャシィを見ながら、係員はぼんやり考えた。
田舎に帰ろっかなあ‥‥と。
●リプレイ本文
●誤解と誤算
「キャシィさんとあたしは夢見る乙女☆ 乙女のピンチはお友だちとして助けてあげないとねっ☆」
「わあい、キャシィ感動ですっ!」
背伸びしたジュディス・ティラナ(ea4475)と両手をパチンと合わせ、再会を喜び合うキャシィ。
「那智様も乙女仲間として助けに来てくれたんですね♪」
キャシィは瞳を輝かせ、天霧那智(eb0468)に視線を移すが、天霧は全力で否定した。
「俺は『乙女』なんて目指してませんからっ! 前回のは誤解なんです!」
涙ながらに訴える天霧は、傍らの楼春珂を引き寄せ、腕を組んでみせる。あくまでも「恋人のふり」なのだが、春珂は少しドキドキしている様子。
「俺は健全な男です! この通り、恋人がいますから」
「そんな! 一緒に乙女道を極めようと思ったのに‥‥っ!」
よよよと泣き崩れるキャシィ。
それを見ながら、天藤月乃(ea5011)はうんざりした様子でぼやいた。
「あ〜あ、何でこんな依頼を受けちゃったんだろう、面倒臭いなぁ‥‥」
彼女はキャシィのような輩が嫌いである。本当は葬り去ってしまいたいところだが、依頼人を葬ってしまっては依頼にならない。
では最初からこんな依頼請けなければいいじゃないかという話になるのだが、何か手違いがあったらしい。
‥‥しかも、それは彼女だけではなかった。
「なんてことだ‥‥!」
と頭を抱え落胆するのは楼焔(eb1276)。彼もまた意図せずこの依頼を請けてしまった1人だった。
「しかし、依頼は依頼‥‥過程はどうあれ、請けたからには協力しなければ‥‥」
何とか自分に言い聞かせつつ、やはり切なさは隠し切れない。
「お2人さん、どうかしたんですかぁ?」
2人の様子に気付き、キャシィが心配そうに声を掛けるが‥‥楼は「シャー!」と威嚇し、月乃は獅臥柳明(ea6609)の後ろに避難してしまった。
激しく前途多難である。
●説得と納得
月乃は、背後からおもむろに獅臥に抱きついた。
「な、何を?」
突然の行動に驚く獅臥だが、月乃は構わず、さらに二人羽織のような体勢になった。傍から見たらかなり怪しいが、キャシィを直視したくない故の苦肉の策らしい。彼女はそのままキャシィの説得を開始する。
「あなたの美しさはあまりに罪だから、その美しさに耐えれなくなった人が襲い掛かってきてるのよ。それを防ぐには男装がいいんじゃないかなぁ」
「男装ですかぁ‥‥」
あまり乗り気ではなさそうなキャシィ。まぁ、それで片が付くようなら、最初からこんな事態にはなっていなかっただろう。
仕方なく、作戦は第二段階へと移行した。
「あんたが変態呼ばわりされんのは、乙女になりきれてねぇからだぜ。心が完璧に乙女なら、所作一つ、言葉遣い一つに乙女が滲み出すってモンだが、あんたにゃそれが足りねぇんだよ」
藤城伊織(ea3880)の厳しい一言。
さらに畳み掛けるように赤霧連(ea3619)が続ける。
「本当の乙女ならば『黙した姿に周りは目を奪われ、一つ溜息をつけば相手はめろめろになる』‥‥それぐらいの雰囲気を醸し出さなくてはダメですよ?」
「本当の乙女‥‥つまり、まだ修行が足りないってことなのですね?」
2人の言葉はかなり堪えたようだ。先ほどとは違い、キャシィの表情が真剣だ。
「どうせなら‥‥町ですれ違った俺が思わず声かけちまうくらい、完璧な乙女になってみろよ」
藤城のこの台詞で、キャシィの心は一気に燃え上がったようだ。
「伊織様のお目に留まるほどの真の乙女を目指して‥‥キャシィ頑張りますっ!」
とまあ、そんなこんなで話がまとまったところへ、突如として怒号が響き渡った。
「こりゃー! この変態めが、まだうろうろしておったのか!」
キャシィを発見し、凄まじい剣幕で迫ってくる伊兵衛じいさん。「変態成敗ッ!」と叫びながら木刀を振り回している。
「腐っても依頼人‥‥危険に晒すわけには行くまい」
楼はやむを得ず、キャシィの援護に入った。
対峙する伊兵衛と楼。純粋な戦闘力では、楼のほうが強いのだが‥‥伊兵衛の「変態成敗パワー」は並大抵ではなかった。
「喝!!」
木刀を受け、崩れ落ちる楼。
「俺の屍は‥‥港に沈めてくれ」
「楼さんのぎせいは無駄にはしないわっ! 今のうちにひなんよっ☆」
ジュディスは魔法の光球を作り出し、それを伊兵衛の目の前に思いっきり翳した。
「うおっ、何じゃ?!」
「キャシィさんっ、逃げるのよっ!」
伊兵衛の目が眩んでいる隙を狙い、キャシィたちはその場から逃走した。
夜枝月藍那(ea6237)と獅臥はその場に残り、伊兵衛の説得に当たることにした。
「彼が何故今のようになってしまったかは分かりませんが、生まれ育った環境に何か要因があったのかもしれません」
「どういった環境で育とうが、あんなのは腑抜け以外の何者でもないわ!」
相変わらずまったく耳を貸そうとしない伊兵衛だが、獅臥は諦めずに説得を続ける。
「幼い頃の環境というのは、人格や考え方に大きな影響を与えます。そして子供は、自分が育つ環境を自分で選ぶことはできない‥‥それでもキャシィさんにすべての責任があると考えますか?」
「‥‥むう‥‥」
淡々とした、それでいて説得力のある言葉に、さすがの伊兵衛も少し心を動かされた様子。
続いて、藍那が自分の考えを話す。
「外見は男の子でも、中身が女の子という人も世の中にはいます。あなたはそういった人を認めたくないかもしれませんが、自分の価値観だけですべてを解決しようとはしないで欲しいんです」
それを聞いた伊兵衛はしばらく黙り込んだのち、こう言った。
「‥‥あんたらの言い分は分かった。もしあいつにわしを圧倒するほどの心意気があれば、存在を認めてやらんこともない」
「‥‥ではもし、それが意気がなければ?」
藍那の問いに、伊兵衛は簡潔に答えた。
「叩っ斬る」
●まずは外見から
「完璧な乙女になりきれば、文句も出ない‥‥そう藤城さんが言ってましたから!」
と、さり気なく人に責任転嫁しつつ、天霧はキャシィの乙女度を上げる手伝いに取り掛かった。
で、まずは化粧の手ほどきを‥‥ということになったのだが、
「どうせ化粧するなら、徹底的にやったほうがいいわ」
と月乃が提案する。超厚塗りにして、元の顔が分からないくらいにしてしまおうという魂胆だ。
「外見を磨くことも大事ですものねっ☆ じゃあ、月乃様が教えてくださいます?」
「は?」
少し離れたところから見るのでさえ抵抗があるのに、化粧を教えるとなれば間近まで近寄らなければならない。思わずそれを想像してしまった月乃は、恐怖のあまり言葉遣いがおかしくなってしまった。
「ワタシ、それ、無理。他の人、お願いする、いいと思う」
「はあ‥‥残念ですぅ」
ということで、月乃の目論みはあえなく挫折し、代わりに春珂が教えることとなった。
さらにジュディスから贈った花柄褌を装備し、振袖を纏い、とりあえず外見に関しては準備が整った。
●目指せ乙女の星
「ハイ、わざとらしいですよ?」
「きゃあっ!」
容赦のない手刀を受けて、崩れ落ちるキャシィ。
彼は「真の乙女」を目指して、冒険者たち――と言うか主に連にしごかれていた。
「上っ面だけ真似ても駄目なんだよ。最低限、所作は完全に女の型になってなきゃあな」
「伊織様の仰る通りですっ。内面から滲み出す女らしさ‥‥それこそ『真の乙女』たる証ですよねっ!」
キャシィは拳を握り締め、再び立ち上がる。
「連様っ! もう一度お願いしますっ!」
「もちろんですよ。キャシィさん、アレが乙女の星です!」
遠く空の彼方を指さす連、それと同じ方向を見つめ瞳を潤ませるキャシィ。
特訓はまだ始まったばかりだ。
「駄目です! 全然なってません!」
「あうっ‥‥!」
「そこっ、角度が甘い!」
「は、はいっ」
「やる気あるんですか?!」
「ごめんなさい‥‥もう一度やらせて下さい!」
――とまあ、こんな光景が延々と繰り広げられたのだった。
●乙女進化
「ここまでよく頑張りました。私はもうコーチではありません‥‥貴方の親友、連ですよ?」
「はいっ、連様!」
きらきらと不可視の輝きを纏い、手を取り合う2人。
こうして乙女特訓を積んだキャシィは、その成果を見てもらうため、伊兵衛の元を訪れていた。
まずは歩き方。「しゃなりしゃなり」という効果音が相応しいような、優雅な歩きを披露してみせる。
「あらいけない、簪が‥‥」
落ちた簪を拾うため、膝を揃えて上品に屈むキャシィ。そして片手でちょいと袖を押さえつつ、すっと髪に簪を挿す。
次は得意の歌を披露。夏の夜空に舞う蛍を愛でる内容の、雅な歌だ。
「乙女の心は一つよっ☆」
と、ジュディスが蛍に見立てた光球を手に、歌に合わせてくるくる舞い踊っている。
その様子をじっと見守っていた伊兵衛だが、やがておもむろに言った。
「‥‥どうやら、おふざけでやっているわけではないようじゃな。その心意気に免じて、まずは勘弁してやろう」
「本当ですか?!」
「じゃが、わしはお前のような者をすべて認めたわけではないからな!」
ぱっと顔を輝かせるキャシィに捨て台詞を投げかけ、伊兵衛は立ち去っていった。
とりあえずは一件落着‥‥だろうか。
こうして、キャシィは新たなるモノへと進化を遂げたのだった。