【小鬼あたっく】村と小鬼と荷物と
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■ショートシナリオ
担当:初瀬川梟
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月26日〜08月02日
リプレイ公開日:2005年08月03日
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●オープニング
依頼人が持ってきたのは、荷運びと小鬼退治の仕事だった。
仕事が二つあるのは、冒険者にとっては嫌なものだ。どれを優先して良いか分からなくなる。
だがその依頼人は、荷物も緊急で、小鬼退治も緊急なのだと言った。
共に人命に関わるのだと言って、冒険者達に事情を話す。
依頼人は今は江戸で働いているが、農村の出身だ。
町での暮らしに慣れることと仕事を覚えることに必死で、ここしばらくはずっと実家に帰っていなかった。
実家を出る時に、便りのないのは元気な証拠だと言って一人前になるまでは戻って来るなと両親は彼を送り出した。依頼人はその言葉を忠実に守り、
ほんの少しだが蓄えも貯まってきたし、依頼人の主人も一度顔を見せた方が良いと快く休みを与えてくれた。
ここはひとつ手土産でも買って帰ろう。
末の妹には簪を、弟たちには何を買ってやろうか? などと考え、依頼人が心弾ませていた矢先‥‥
ここ最近の長雨の影響で土砂崩れが起き、依頼人の村へと続く峠道が土砂で塞がれてしまったのだ。
道だけでなく、村の方にも影響が出たらしい。山沿いの家が崩れて怪我人も出たとか。
峠道が通れない為に正確な状況は伝わっていない。
村人にとっては不運だが、近くに棲む小鬼たちにとっては朗報だった。
村では以前に田畑を荒らす小鬼たちを冒険者に頼んで狩ったことがあった。
小鬼狩りを逃れた若い小鬼らは人間に対して深い恨みを持ち、いつか憎たらしい人間どもに一泡吹かせてやるぞと、ずっと機を窺っていた。
そんな折、村が災害に襲われ孤立したことを知り、これ幸いとばかりに略奪に向かうことにした。
一方、村から1人の村人が江戸へ向かってひた走っていた。
村の窮状を外に伝えるため、普段はあまり人が近寄らない森を突っ切っていたのだが、そこで小鬼と鉢合わせてしまったのは不運としか言いようがなかった。
小鬼たちに襲われた村人は手傷を負いながらも、どうにか逃げ延びることができた。
そして何とか江戸まで辿り着き、村の現状と小鬼の脅威を依頼人に伝えた‥‥というわけだ。
災害で被害者が出ているというのに、そこへさらに小鬼の襲撃が加わるとは、まさに泣きっ面に蜂。
どうにか小鬼を排除し、孤立した村まで食料や薬を届けたい‥‥それが依頼人の願いだった。村に必要な食料や薬を手に入れるのに蓄えを使ってしまい、彼の懐には経験豊富な冒険者を雇う金は残らなかった。
依頼人が道案内として同行する条件で、どうにか新米冒険者達を雇うことが可能になった。
彼は両手を合わせて村を救ってくれと頼んだ。
●リプレイ本文
●待ちぼうけ
「慈雨もとんだ災難を‥‥」
薄曇りの空を見上げながら、華宮紅之(eb1788)は呟いた。
幸い今は雨は降っていないが、これからまた降り出せば、村にはさらなる被害が出るかもしれない。できるだけ急いで向かいたいところだが、その前にひとつ問題があった。
「‥‥来ませんね」
落ち着かない表情で大通りのほうを見つめる依頼人。
今この場にいる冒険者は3人。本当ならばあと2人来る予定だったのだが、その2人がいつまで経っても姿を見せないのだ。
「何か、急な事情でもできたんでしょうか‥‥」
あるいは、土壇場になって気が変わったのか。どちらにせよ、待てる時間にも限りがある。
「これ以上出発を遅らせれば、今後の予定も狂う。村のことも心配だし、もう発ったほうが良いのでは?」
風鳴鏡印(eb2555)はこう言うが、依頼人はやはり不安を隠しきれない様子。
「‥‥小鬼は8匹くらいいるかもしれないそうですが、たった3人で大丈夫でしょうか‥‥」
「今は緊急事態です。心許ないかもしれないけれど、うちもれっきとした冒険者。何とかしてみせますよ」
朱麗黄(eb3131)に言われ、依頼人はようやく決心したように頷いた。
「それでは、宜しくお願いします」
●襲撃
森の入り口で見張りについていた小鬼たちは、暇そうにくつろいでいた。
が、街道を歩く人影に気付いて慌てて木陰に隠れる。
そしてしばらく様子を伺い、人影が街道を逸れて森へと近付いてくるのを確認して、急いで森の奥へと駆けていった。
一方、冒険者も遠くから小鬼の姿を確認していた。
恐らく仲間を呼びに行ったのだろうということは分かるが、阻止しようにも、この距離からでは魔法も届かない。待ち伏せられていることを承知の上で、森へと踏み入らねばならないようだ。
「充分注意して行ったほうが良いな」
紅之の言葉に、皆が気を引き締める。
依頼人はと言えば、護衛がついているとはいえ、さすがに小鬼を目前にして怯えているようだ。
「案ずるな。何のために私たちがいると思っている?」
「そ、そうですね‥‥皆さんの力を信じましょう」
「では、私の傍を離れぬようにな」
依頼人は言われた通り紅之のすぐ傍に付き添い、びくつきながらも森のほうへと進んでいった。
森に入ると、風鳴は五感を研ぎ澄まして周囲を警戒する。
目を凝らして草木の緑を見つめ、耳を澄まして風や葉擦れの音を聞く。そしてしばらく進んだところで、彼の耳は異変を捉えた。
『来る‥‥!』
仲間たちに視線で合図を送り、それとなく身構える。
それからほんの少し遅れて、茂みから小鬼たちが躍り出た。
「そんなに暴れたいのなら、冒険者が相手をしようじゃないか」
最前列にいた風鳴は、真っ先に飛び込んできた小鬼の首筋に的確に十手を叩き込んだ。攻撃力自体は大したものではないが、小鬼は目を回して気絶してしまった。
獲物と思っていた相手からいきなり反撃を喰らい、小鬼たちの間に動揺が走る。
しかし、目の前には明らかに食べ物と思われる荷物がたくさんあるのに、みすみす諦めるのも悔しいと思ったのか、叫び声を上げながらなおも突進してきた。
「依頼人には指1本触れさせん」
紅之は小鬼が依頼人の元に辿り着く前に詠唱を終わらせ、魔法で眠らせる。
「この荷は鬼なんかに渡さない!」
荷に飛びかかろうとする小鬼は、麗黄が殴り倒した。
どうやら襲う相手を間違えたようだと悟り、小鬼は慌てて起き上がって逃げ出そうとするが、風鳴に後ろから殴られ気を失った。
残りの1匹も逃げ切れずに捕まってしまい、こうして4匹の小鬼はあっという間に無力化されてしまった。
その後、紅之は眠っていた小鬼を叩き起こし、テレパシーで他の小鬼たちの状況を問い質した。
それによると、残り4匹は村へと向かったらしい。
「まずいな‥‥村人たちに危険が及ばなければいいが‥‥」
「今は考えても仕方がないですよ。とにかく、急ぎましょう!」
一行は小鬼たちにとどめを刺し、再び村へと向かって歩き出した。
●復讐の復讐
森に残った仲間たちがやられてしまったなどとは露ほども知らず、4匹の小鬼は意気揚々と村へ向かっていた。
憎き人間どもへの復讐。
食料の略奪。
このふたつが同時に行なえるなど、まさに一石二鳥ではないか。
標的となっている村は、数年前に行なわれた小鬼狩りとは無関係なはずなのだが、そんなことは彼らにとって関係なかった。
とにかく自分たちの目的さえ果たせれば、相手など関係ないのだ。
小鬼たちは、上機嫌で歩いてゆく。
‥‥今度は自分たちが、その村――正確には村の代弁者である冒険者――によって「復讐の復讐」をされるとも知らずに。
最初にそれに気付いたのは、土砂で塞がれてしまった道の様子を見に行っていた村人たちだった。
彼らは森のほうから歩いてくる者たちの姿を認め、一気に青ざめる。
そして無我夢中で村へと駆け戻った。
「お、鬼だ! 小鬼が来るぞ!!」
その報せを聞いた村人たちの顔には、一様に絶望が浮かんでいた。
ただでさえ災害で弱り切っているところに、この仕打ち。まるで天に見放されてしまったかのようではないか。
「とにかくみんな、隠れろ!」
恐怖に震えながらも、村人たちはできるだけ固まって建物の中に避難した。
もし略奪だけが目的だったならば、小鬼たちは村人たちには構わず、食料だけ回収して去って行ったかもしれない。
しかし今回は仇討ちという目的もある。それゆえ、隠れている村人たちを見逃すはずもなかった。
手斧でドンドンと扉を殴りつける小鬼たち。
家具などで必死に入り口を塞ぎ、篭城する村人たち。
ただでさえ肉体的にも精神的にも疲弊している村人にとって、持久戦に持ち込むにしても限界がある。
「どうか、お助けを‥‥!」
誰にともなく祈る村娘。
――まるでその祈りを受けたかのように、冒険者たちは現れた。
「見世物小屋『鏡幻館』の主、風鳴鏡印だ。 愛鷹の夢幻丸と共に村を救う『芸』を披露するとしよう」
「ギャッ?」
一瞬、何が起こったのか理解できず呆気に取られる小鬼。
その隙を突くかのように夢幻丸が鋭い嘴の一撃をお見舞いし、それに驚いて混乱した小鬼を、風鳴はまた十手で気絶させた。
いきなり現れた者たちに目的を邪魔されてすっかり逆上した小鬼たちは、激怒しながら冒険者に立ち向かってゆく。
「二度とこんな事が起こさせない為に‥‥感服無きまで‥‥叩きのめす!」
普段は温和な麗黄だが、人に害成す化け物に対しては容赦がない。拳に魔力を込め、喉元を狙って強烈な一撃を叩き込む。
「グブッ!」
喉をやられた小鬼は醜い声を上げ、恐怖に顔を歪めた。
もう1匹の小鬼は紅之にコンフュージョンの魔法をかけられ、冒険者ではなくすぐ傍にいた仲間に殴りかかっている。
すっかり恐慌状態に陥った小鬼たちを鎮圧するのに、さほど時間はかからなかった。
やがて4匹の小鬼たちはことごとくとどめを刺され、村の外へと放り出されたのだった。
●復興
「申し訳ありません‥‥助けて頂いたというのに、ろくなもてなしもできず‥‥」
村長が恐縮し、何度も何度も謝ってくるので、冒険者たちのほうが逆に申し訳ない気分になってしまった。
「うちは依頼人さんから報酬を受け取っているので、そんなに気にしなくていいんですよ。それより、大したことはできませんが‥‥何か手伝えることがあれば言ってくださいね?」
なだめるつもりで言った麗黄だが、その言葉に、村長はますます恐縮してしまった。
これ以上働かせるのは忍びないので、どうか休んでいてくれという村長を振り切って、麗黄は復旧作業の手伝いへと回った。
また、紅之は巻物を使って新鮮な水を作り出し、怪我人たちの手当てを手伝った。
「痛っ!」
「しみるかもしれないが、我慢するんだ。傷口に泥が入るといけないからな」
「‥‥我慢したら、紅之ねえちゃんみたいに強くなれる?」
「さあな? 少なくとも、この程度で音を上げていては、強くなれないことは確かだ」
女性にしてはぶっきらぼうな紅之だが、村の女の子にとっては、その凛々しい様子が憧れの対象になったらしい。きらきらとした眼差しを向けられて多少困惑しつつ、紅之は女の子の腕に丁寧に包帯を巻いてやった。
風鳴も手当てを手伝いつつ、その合間に夢幻丸と共に芸を披露する。
このような村では娯楽も少ないので、村人たち‥‥とりわけ子供は大いに喜び、すっかり風鳴に懐いてしまった。
「ねえねえ、もっと見せてよ!」
「ああ、構わないぞ。それに、もし江戸に来ることがあれば『鏡幻館』に立ち寄るといい。その時にはもっとすごいものを見せてやるからな」
「本当? じゃあ、兄ちゃんに連れてってもらおうかな」
依頼人の弟はすっかりその気になって、しばらくは自分も一緒に江戸に行くのだと言って聞かなかった。
こうして、少しずつではあるが、村はかつての明るさを取り戻していった。
冒険者が運んだもの。
それは荷だけではなく、「希望」でもあったのかもしれない。