小鬼退治ついでに‥‥

■ショートシナリオ


担当:初瀬川梟

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月03日〜09月08日

リプレイ公開日:2004年09月09日

●オープニング

 自宅まで訪ねてきてくれという言葉に従い、依頼人宅を訪れた冒険者たち。
 依頼人は片足に傷を負っているらしく、杖をついて足を軽く引きずりながら冒険者たちを出迎えた。確かに、これでは冒険者ギルドまで出向くのも大変そうだ。
「わざわざ足を運んで頂いて、申し訳ありません。今回依頼を出すことになったのも、この怪我が原因なんですよ‥‥」
 依頼人は、事の経緯を説明した。

 彼は少し離れた山まで薬草を集めに行っては、薬を調合して、近隣の村の人々にできるだけ安価で提供して回っていた。
 しかし最近になって、その山に小鬼が住み着いてしまった。足の怪我は、数日前山に行った時に小鬼に襲われて負ってしまったものだ。
 村には薬を待っている人もいるのに、このままでは、以前のように薬草を採りに行くことができない。
 それどころか、他にも小鬼に襲われる人が出てくるかもしれない。
 そこで冒険者たちに小鬼退治を依頼することにしたのだった。

「前回は小鬼に襲われてしまって、薬草を採る間もなかったので、できれば退治ついでに薬草も集めてきて頂けると助かります。アサツキ、ミソハギ、ベンケイソウ、トクサあたりが要りようなんですが‥‥ただ、知識がないと草花の見分けは難しいですから、こちらのほうは本当についでで構いません。お支払いする報酬は小鬼退治のものですので、もし薬草を採ってきて頂ければ、いくらか上乗せ致しますよ」

●今回の参加者

 ea0442 藤 友護(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2823 茘 茗眉(32歳・♀・武道家・エルフ・華仙教大国)
 ea4759 零 亞璃紫阿(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5164 大曽根 浅葱(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 ea6299 高嶺 さつき(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea6334 奉丈 陽(27歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

 敵の正確な数が分からない以上、下手を打つのはまずい。そこで冒険者たちは、小鬼の巣を突き止めて一掃するという作戦を打ち立てた。
 小鬼はずる賢く臆病なので、武装した冒険者が相手では姿を現さないかもしれない。ということで、藤友護(ea0442)、零亞璃紫阿(ea4759)、高嶺さつき(ea6299)が軽装で先行し、囮になって小鬼をおびき寄せることにした。友護は馬を連れ、馬が引く荷台には荷物に扮したルミリア・ザナックス(ea5298)が潜んでいる。他の4人――九竜鋼斗(ea2127)、茘茗眉(ea2823)、大曽根浅葱(ea5164)、奉丈陽(ea6334)は、身を隠しつつ、付かず離れずの距離で囮組の後を追っている。
 幸いにして道中何事もなく、一行はすんなり山までたどり着いた。打ち合わせでは、適当な頃合になったら食事の用意に取り掛かり、その匂いでもって小鬼を誘い出すことになっている。
「もう少し登ったらお食事にしましょうか」
「そうだな‥‥おい、どうした? 疲れたか?」
 亞璃紫阿の言葉に頷きつつ、友護が馬の綱を引くが、馬はなかなか歩こうとしない。よく見てみると、馬はそこはかとなく困ったような、つらそうな表情をしているように見えなくもない。
「む、なんだその微妙に不機嫌そうな顔は、まさか『重いからヤダ』などとは言うまいな‥‥?」
 布から顔を出したルミリアがドスの利いた目で睨みつけてやると、馬の表情が一瞬固まったように見えた。そして馬は次の瞬間には態度を一変させ、無我夢中で山道を登り始めたのだった。めでたしめでたし。
 とまあそのようなことがありつつ、一行は依頼人が襲われたという場所までやって来た。近くには川が流れており、食事をするにはちょうど良さそうな場所なので、調理の得意な友護とさつきは協力して昼食の用意を始めた。とは言っても、せいぜい保存用に干した魚を焼く程度しかできないが、鼻腔をくすぐる香ばしい匂いは小鬼を誘い出すには充分そうだ。
 思惑どおり、しばらくすると、いくつかの気配が近づいてきた。友護がさりげなく視線を動かして、木の陰からこちらを覗く4匹の小鬼を確認し、他の2人に目配せする。3人はそのまま気付かないふりをして調理を続けた。
 数は4対3、相手は一見したところただの村人。おまけに美味しそうな食べ物の匂い。これは見逃す手はないと判断したらしく、小鬼たちは残忍な表情を浮かべて木陰から飛び出してきた。
「きゃあ、大変!」
 怖がる演技をしながら、亞璃紫阿とさつきが数歩後ろに下がり、それを庇うようにして友護が前に立つ。後退した2人は、布にくるんで荷台に積んであった刀を手に取り、そのうち1本をさつきが友護に手渡した。同時に、ルミリアもかぶっていた布を取り払い、野太刀を手にして荷台から飛び降りる。驚いた小鬼は慌てて引き返そうとしたが、姿を隠していた他の仲間たちが既に退路を塞いでしまっており、もはや逃げ場はない。罠に嵌められたと気付いた小鬼たちは、逆上して襲い掛かってきた。
 しかし倍の数の冒険者が相手では、小鬼に勝機などない。まずは浅葱と茗眉が刀と蹴りの連携攻撃で1匹を倒し、続いて亞璃紫阿が1匹を斬り伏せる。そして九竜が1匹を相手取っている間に、もう1匹に向かってルミリアが隠し持っていた風車を投げつける。肩に突き刺さった風車を引き抜こうと、小鬼がじたばた暴れまわっている隙に、友護が素早くその背後に回り込んで峰打ちを食らわせる。九竜によって仕留められた小鬼と、友護に気絶させられた小鬼は、ほぼ同時に地面に倒れ込んだ。
「‥‥大丈夫、ちゃんと気絶してるみたいです」
 念のため倒れた小鬼の様子を確かめて、陽が仲間たちに告げる。
 あとは目覚めた小鬼が巣へと逃げ帰るのを待つだけだ。

 一刻ほど経った頃だろうか。倒れていた小鬼が起き上がり、きょろきょろ周りを見回す。
「ゴブッ、ゴブゴブ!」
 周りに横たわる仲間の骸を見て慌てたような声を上げ、ひとしきり動揺した後、小鬼は急ぎ足で駆け出した。
 依頼人から山の地形を詳しく聞き、それをしっかり頭に叩き込んだ茗眉が、素早くその後を追う。さらにその少し後ろを、ルミリアがついて行った。彼女が投げた風車には匂い袋が結んであり、小鬼が通った後には微かにその残り香が漂っている。ルミリアの優れた嗅覚をもってすれば、それを嗅ぎ分けることは困難ではなかった。
 やがて茗眉は、小鬼が洞窟の中へと駆け込んでゆくのを見届けた。それから少し遅れて、ルミリアも追いついてくる。
「あそこが小鬼の巣か」
「ええ、たぶんね」
「では我が輩がここで巣を見張っているゆえ、茗眉殿は仲間たちに連絡を頼む」
「わかったわ、気を付けてね」
 ルミリアと微笑みを交わし、茗眉は再び仲間たちの元へと戻っていった。

 しばらくして全員が合流した後、今度は小鬼たちを燻り出す作戦が展開された。文字通り、火を使って巣から追い出すのだ。
 まずは小鬼たちの逃げ場を塞ぐようにして、洞窟付近の岩陰や草むらにそれぞれ身を潜める。そして亞璃紫阿が魔法で火を作り出して、あらかじめ入り口の前に集めてあった小枝の山に燃え移らせる。友護の風読みの手を借りて、ちょうど洞窟内に煙が吹き込むように配置してあったのだが、どうやらその作戦は上手く行ったようだった。火の勢いが増すにつれて煙の量も増大し、洞窟内に潜んでいた小鬼たちが堪りかねて次々に飛び出してくる。そこをすかさず、冒険者たちが迎え撃った。
「浅葱さん、仕上げをお願い!」
「はい‥‥分かりました!」
 茗眉はやや威力に欠ける攻撃を手数の多さで補い、連続蹴りで体力を削られた小鬼に、浅葱が一気にとどめを刺す。これでまずは1匹。
「よそ見をしている暇はないぞ?」
 九竜は太刀筋のまったく見えない居合い攻撃を繰り返し、反撃の間も与えず2匹目を仕留める。
 3匹目は、非力そうなさつきを狙って襲い掛かろうとしたが、さつきは六尺棒を構えて果敢に応戦した。
「私だって自分の身くらいは自分で守ります!」
 さすがにさつきの力では小鬼を仕留めることはできないが、亞璃紫阿が素早く援護に回り、3匹目を斬り伏せた。
「ぜぇりゃぁああーー!!」
 豪快に野太刀を振り下ろし、ルミリアが続けざまに4匹目と5匹目をなぎ倒す。しかし大振りな攻撃の後にできた隙を狙って、最後の1匹が渾身の一撃を打ち込んできた。致命的なダメージにはならなかったものの、まともに食らったルミリアはわずかに体勢を崩してしまう。しかし友護が彼女を庇うようにして割って入り、さらに追撃しようとする小鬼に斬りかかる。
「悪いが、仲間を傷付ける奴に容赦はしない」
 友護の刀が確実に敵を捉え、計6匹の小鬼は瞬く間に殲滅されてしまった。
「ルミリアさん、大丈夫ですか?」
 後方で控えていた陽がルミリアの元に駆け寄り、リカバーの魔法でルミリアの傷を癒してゆく。
「2人とも、かたじけない」
 ルミリアは友護と陽に向けて礼を述べた。彼女の話すゲルマン語は2人には通じないはずなのだが、茗眉が通訳をするまでもなく、その言葉と気持ちは伝わったようだった。共に力を合わせて戦った仲間にとっては、言葉の壁など大した意味を持たないのかもしれない。

 無事に小鬼退治を終えた冒険者たちは、今度は薬草採集に取り掛かった。植物に関する知識のない者たちは、九竜、茗眉、ルミリアから色々教わりながら薬草探しにいそしんでいる。
「えーと‥‥これは?」
 友護が指した赤紫の花をじっくり眺めて、九竜が答える。
「それはエゾミソハギだな。ミソハギの変種だが、効用は変わらないので、そちらでも構わない」
「九竜さんは物知りですね」
 友護と一緒にエゾミソハギを摘みながら、亞璃紫阿が感心したように言うと、九竜は相変わらず淡々とした表情と口調で言った。
「他にも色々知っているぞ。薬になる野草は少々笑える、とかな」
「どうしてですか?」
「くすり‥‥とな」
「‥‥」
 九竜がぼそっと呟いた寒い駄洒落に、周囲の空気が一気に凍りつく。しかしルミリアだけはジャパン語が分からないので、きょとんとした様子で茗眉に訊ねた。
「九竜殿は今、なんと言ったんだ?」
「ええと‥‥」
 引きつった顔で微笑む茗眉の脇では、浅葱、さつき、陽の3人が協力してアサツキを摘んでいる。薄紫の花を丁寧に摘み取りながら、陽がふと思い出したように言った。
「そう言えばアサツキというのは、大曽根さんの名前と同じ字を書くんですよね」
「え‥‥ああ、そう言われてみればそうです。今やっと気付きました!」
「私もさつきだから、アサツキと似てますね」
「ふふ、ちょっとだけお揃いですね」
 などと和気藹々とやりながら、一行は集めた薬草を馬の荷台に積んで、帰途についたのだった。

 そんなことがあってから、いくらかの時が過ぎた頃のこと。
 依頼か、はたまた個人的な用事か――ともかく何かの用でとある村を訪れた冒険者たちは、村人たちからとても温かい歓迎を受けた。何故そんなに歓迎してくれるのかと問うと、村人たちは口々に答える。
「少し前まで山に小鬼が住み着いとったんだが、名も知らぬ冒険者さんたちが退治してくれたんだよ」
「いつもお世話になっとる薬師さんも怪我ぁさせられて困っとったんだが、僧侶さまが怪我を治して下さったんだ。おかげで無事に薬も届くようになったのさ」
「だから、冒険者さんが村さ訪ねてきた時には、できる限りのもてなしをすることにしたんだ」
 村人たちの顔には、一様に笑顔と感謝の念が浮かんでいる。
 そんな中、1人の女の子が少し恥ずかしそうにしながら、冒険者の裾をくいくいと引っ張った。
「あのね、これ」
 女の子が差し出してきたのは、押し花だった。
「冒険者さんが鬼をやっつけてくれたから、薬師さんからの薬が届いて、あたしの熱も下がったの。このお花も、冒険者さんが摘んできてくれたものなのよ。だから、恩返し‥‥お守りにしてね」
 ありがとう。
 そう言って押し花を受け取ると、女の子もはにかんだように笑って、自分の家のほうへと駆けていった。

 これにて今回の小鬼騒動は、無事閉幕――