山神様のお怒り
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■ショートシナリオ
担当:初瀬川梟
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月05日〜10月10日
リプレイ公開日:2004年10月13日
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●オープニング
『村で祀っている山神さまが今年はどういうわけかお怒りの様子で、田畑が荒らされて困っています。どうか山神様を鎮めて下さい』
ギルドに新しく舞い込んだ依頼は、このようなものだった。
「山神様とは何ぞや?」という冒険者たちの問いに、係員はこう答える。
「夜刀神と呼ばれる、蛇の姿をした神‥‥いわゆる『精霊』の類いですよ。地方によっては、土地神として祀っていることも稀にあるようですね」
などと話をしている最中、係員がふと冒険者たちの背後に目を留めた。そこには、じーっとこちらを見ている1人の青年の姿が。見たところ彼もまた冒険者のようだが‥‥
「おや、あなたもこの依頼をご希望ですか?」
「いえ違うんです‥‥むしろ逆です」
「逆?」
首を傾げる係員と冒険者たちに向かって、青年は非常に情けなさそうに話し始めた。
彼は先日ようやく初仕事を終えたばかりの、駆け出しの冒険者。
しかもその初仕事の最中、間抜けなことに仲間とはぐれて山で遭難してしまった。
季節柄、幸い凍える心配はなかったものの、頼みの綱の保存食を切らしてしまって大変ひもじい思いをする羽目になった。
そんな時、ついうっかり手を出してしまったのだ―――偶然見つけた小さな祠に置かれていたお供え物に。
飢えていた彼は無我夢中でお供え物を貪り食い、その結果、無事に命を繋ぐことができた。
夜が明けてから仲間にも再会できてめでたしめでたし‥‥と行けば良かったのだが、世の中、そう上手くは行かないものである。
彼は後日、山神様が怒って村の田畑を荒らしているという噂を耳にすることとなった。
「自分のせいだ!」
瞬時にそう理解した彼は慌てて村に向かい、その山神様とやらを退治しにかかったのだが‥‥結果は惨敗。
退治するどころか返り討ちに遭って、泣く泣く戻ってくることになってしまったのだった。
「自分の不始末だからと、誰にも相談せず1人で掛かって行ったのが間違いでした‥‥仲間にも『冒険者としての自覚がまだ足りない』と言われましたが、まさにその通りです‥‥」
と、彼も涙ながらに反省している様子。
冒険者の世界とは、そう甘いものではないのだ。
「自分の尻拭いを同業者にお願いするなんて恥ずかしい限りですが、どうか俺からもお願いします。この村の人たちを助けてあげて下さい」
こう言って、彼は金子の入った袋を取り出した。さすがに全額とまでは行かないが、報酬の一部を自分が負担するので、それで浮いた分を村人に返還してやってほしいとのことだ。
困っている村人と反省している駆け出し冒険者のために、どうかこの依頼を受けてやってはくれないだろうか?
●リプレイ本文
●道中
村へと向かう道すがら、冒険者たちは同行した青年――名を太輔という――からあれこれ情報を聞き出していた。彼の話によると山神様こと夜刀神は体長30cmほどの蛇のような姿をしており、普通の蛇と違うのは魔法を使うこと、そして片言ながらも言葉を話すことだそうだ。
「それなら、話し合いでの解決も可能ということですね」
エリス・スコットランド(ea6437)はそれを期待しているようだが、太輔の反応は芳しくない。
「‥‥ちゃんと謝ったし、お供え物も戻してきたけど、それでも駄目だったから皆さんに依頼が回ってきたんですよ」
「まあ、それもそうですね」
「俺も駆け出しだが‥‥神様のものに手を出すたぁ、罰当たりなことをしたっさね」
御神楽澄華(ea6526)と神咲空也(ea7122)のもっともな意見を受けて、太輔はますます沈んだ表情になるが、レジーナ・レジール(ea6429)が明るくフォローを入れる。
「でも、誰にだって失敗はあるよっ☆ これから取り戻せば大丈夫っ♪」
「そうやね。うちらも手伝うさかい、頑張ろ?」
レジーナと香辰沙(ea6967)に励まされて、太輔は少しだけ元気を取り戻したようだ。
そして村に着くまで、太輔は延々と大鳳士元(ea3358)の武勇伝を聞かされる羽目になったのだった。
●聞き込み
村に到着したのち、レジーナ、エリス、空也、九印雪人(ea4522)の4人は情報収集を行なうことにした。
「じっさん、山神様に襲われた時ってのはどんな状況だったんだべ」
とりあえず手近にいた老人に空也が訊ねると、彼は農作業の手を休めて話を始めた。
「夜中に外が騒がしいと思って起きてってみたら、山神様が作物を食い荒らしてたんだ。それからも、夜になるとは山から下りてきて悪さしよる」
「山神様が通ってくる道などは分かりますか?」
エリスの問いを受けて、老人は山のほうを指す。
「川を越えんと山には行けなんだが、この辺に橋はひとつしかねぇから、山神様が通るとしたらそこだろう」
老人の指す方向には畑があり、それが途切れた先には小道が続いている。橋を渡った向こう側は森のようになっているが、橋の手前は木々も茂みもほとんどなく、拓けた場所になっている。
「あの辺なら待ち伏せできそうだねっ☆」
「そうだな。後で下見に行ってみるか」
レジーナと雪人が顔を見合わせている横で、老人は愚痴るように呟いた。
「ここ数年はおとなしくしてたんで、安心してたんだがなぁ‥‥」
「ここ数年ってことは、前にも同じようなことがあったべか?」
空也の質問に、老人は溜め息混じりに頷く。
「ああ。山神様は祟り神だから」
一口に神様と言っても、その性格は多種多様。この村では守り神としてではなく、村を荒らされないために夜刀神を祀っているようだ。
「悪さとは言っても、せいぜい畑を荒らす程度。下手に刃向かっても怪我するだけだし、お供え物でおとなしくしてもらえるなら、それで構わんと思っとったが‥‥」
「うーん、それなら少しくらいは懲らしめてやったほうがいいのかなっ?」
「そのほうが、村のためにはいいのかもしれん」
その後、空也は仕事を邪魔したお詫びに農作業を手伝うと申し出て、他の面々もそれに付き合うこととなった。
●祠参り
辰沙、士元、澄華の3人は、太輔を引き連れて祠へと向かった。祠とは言っても申し訳程度のこじんまりしたもので、見たところ結構古い。
「じゃ、まずは掃除から始めるか」
士元の言葉を合図にして、4人は掃除に取り掛かった。屋根の汚れを洗い落とし、周辺に落ちている食べかすなどを綺麗に片付け、雑草も取り除く。小1時間ほど経つ頃には、古びた祠はそれなりに威厳を取り戻していた。最後の仕上げに、辰沙がここに来る途中に摘んできた山萩の花と、空也から預かった酒、太輔が用意した保存食を供える。
「此の花のよに、今まで通り静かに山野を見守ってくれはると‥‥ええんやけど」
「そうですね」
そう呟く辰沙と澄華は、ここに祀られている山神様が祟り神であるという事実をまだ知らない。それはともかく、掃除の次は士元と辰沙の僧侶2人が経をあげることになった。
「あ、ちょっと待ってくれ。読経なんて久しぶりだ」
慌てて経典を読み直す士元を、澄華がジト目で見つめる。
「しっかりして下さいよ」
「大丈夫、覚えた」
気を取り直して、2人揃っての読経が始まった。
それから太輔は澄華の指南を受けて丁重に謝罪し、日が暮れる頃には4人揃って村へと戻っていった。
●ご対面
合流した冒険者たちは互いに情報を交換し合い、村長宅で夕飯をご馳走になってから、村と山を結ぶ橋の手前で待機することにした。川はそれなりに流れが速く、小さな蛇が泳いで渡れるとは思えない。ということは、橋の前で待ち構えていれば確実に夜刀神と対面できるはずだ。
なるべく音を立てないように待機する中、最初に物音に気付いたのは辰沙だった。
「‥‥来たみたいやね」
「ってことは、やっぱり許してくれなかったってことだっさな」
空也の言葉が終わるか終わらないかのうちに、いくつかの気配が近づいてくる。レジーナが作り出した炎が、闇の中に5匹の蛇の姿を浮かび上がらせた。
「あなたたちが山神様ですね?」
「人間、我々、そう呼ぶ」
念のためエリスが確認すると、蛇のうち1匹が答えた。それを聞いた士元は、太輔の背を軽く叩いて前に押しやる。
「ほれ、謝んな!」
「は、はい」
太輔はわずかに身を震わせながらも、勇気を振り絞って頭を下げた。
「申し訳ありませんでした! 今後は決して同じ間違いはしませんので、どうか許してはもらえないでしょうか‥‥」
「お前、愚か。我々怒る、当たり前」
「そう言わず、許してやってくんねぇかなぁ? 悪気があってやったんじゃないんだし」
「ちゃんと反省してるし謝ってるんだから、許してあげて欲しいなっ☆」
「駄目だ」
士元とレジーナが太輔を援護するが、夜刀神の反応は素っ気ない。
「我々暴れる、久しぶり」
「毎日退屈、つまらない」
「口実、何でもいい。お供え物盗む、いいきっかけ」
口々に囃し立てる夜刀神たちの言葉を聞いて、澄華と雪人は納得したように頷いた。
「‥‥なるほど」
「つまり、暴れられさえすれば理由は何でも良かったってことか」
他の面々も、夜刀神の言わんとしていることを理解したようだ。
どうやら夜刀神たちは、お供え物をもらって安穏と暮らすだけの日々に飽き飽きしていたらしい。そんな時たまたまお供え物泥棒が現れたのをいいことに、それを口実にしてひと暴れしてやろうという魂胆だったのだろう。
「はぁ‥‥そりゃ、いくら謝っても無駄なわけだ。経の読み損だな」
士元は呆れたように呟いて手斧の柄に手をかけ、他の者たちもそれぞれ武器を構えて臨戦態勢を整えた。
「引いてくれる気は‥‥ねえよな」
「邪魔する、許さない。我々戦う」
雪人と夜刀神の短いやり取りを合図にして、戦闘が始まった。
まずは澄華が手前の1匹に斬りかかり、致命的な打撃を与えた。続いて空也が遠距離からソニックブームを放ち、さらに1匹を戦闘不能に追いやる。その後、雪人、エリス、士元が連続で攻撃を仕掛けるが、これは素早い動きですべてかわされてしまった。
続けざまに2匹の仲間を失った夜刀神は、怒りの反撃に出た。グラビティーキャノンの直撃を受けた澄華は傷を負って転倒してしまうが、すぐに態勢を整えて起き上がる。同じく軌道上にいた雪人は何とか抵抗し、踏みとどまった。残りの2匹はそれぞれサイコキネシスを発動させ、澄華と空也の刀を操作。これによって、2人は思うように攻撃が行なえなくなってしまう。
しかし士元と雪人が今度は見事に攻撃を命中させ、1匹ずつ夜刀神を撃破。ミミクリーの魔法で梟に変化した辰沙が最後の1匹を嘴でくわえて、空高く舞い上がる。
「山神様のいけずー!!」
上空から地面に落とされた夜刀神は、目を回して気絶してしまった。
かくして5匹の夜刀神はすべて戦闘不能に陥り、戦いは幕を閉じた。
●そして
「とどめ刺さなくて良かったのか?」
江戸へと帰る道すがら、雪人が誰にともなく問い掛ける。
戦いが終わった後、冒険者たちは気絶した夜刀神たちを山に返してやっていた。万一に備えて2日ほど村に留まって様子を窺ってみたが、その後、夜刀神たちが畑を荒らしにくることはなかった。
「あれだけ懲らしめたんですから、大丈夫でしょう」
「今までちゃんと村の人たちと共存してきたんだし、きっと大丈夫だよっ♪」
「もしまたどっかの誰かさんと同じようなのが現れたら、どうする?」
エリスとレジーナの前向きな意見に対して、からかうような口調で茶々を入れたのは士元だ。引き合いに出された太輔はバツの悪そうな表情になるが、辰沙はやんわりと微笑んでフォローする。
「そん時はまた、うちらみたいなお人好しが助けてあげればええんよ」
「そうだな。後輩を助けるのも俺らの仕事のうちだっさ」
今回は見事に先輩らしいところを見せられたので、空也もまんざらではなさそうだ。
頼もしい先輩たちの後押しを受けて、太輔はようやく笑顔を浮かべた。
「いつか僕も誰かに『先輩』と呼んでもらえるような時が来たら、その時は皆さんの話をして聞かせますよ」
「ではその時が本当に訪れるよう、日々精進して下さいね」
澄華に促されて、太輔は元気よく頷いたのだった。