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■ショートシナリオ&プロモート
担当:藤井秋日
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月05日〜02月12日
リプレイ公開日:2007年02月17日
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●オープニング
冒険者達にとって馴染み深い場所となっている冒険者酒場。
ここメイの国の首都メイディアにも、幾つかの酒場が冒険者や街の住人達の憩いの場として存在している。
だが、どうやらその酒場の一つでちょっとした問題が発生しようとしているらしい。
ちょうど冒険者ギルドの片隅で、『ギブスン酒場』の主人、ダイソン・ギブスンがギルド職員に相談をしている。
広場から真っ直ぐ教会へと伸びている大通り。右手に見えるチブール商会を通り過ぎ、しばらく進むと見えてくる右方の通り。
そこを曲がり、最初に見える左側の脇道に入ってすぐの場所に『ギブスン酒場』はある。
『ギブスン酒場』は食堂兼酒場として切り盛りしており、小さい店ながら知る人ぞ知る隠れ家的な名店として冒険者や街の住民達に愛されてきた。
普段は街の住民が客としてくる割合が高く、冒険者もあまりいないためか、最近ガラの悪い客が来て困っているらしい。
「最近メイに来た冒険者見習いらしく、おのぼりさん丸出しで調子に乗っているらしいんだ」
ダイソンが困り果てた顔でギルド職員に事情を説明していく。
「店の支払いをいつもツケにして帰る上に、払う気が微塵も感じられない。しかも、店にいるときの態度もすこぶる悪く、いつ店にいる他の客と揉め事を起こすか分からない」
店の付近での情報では、酒瓶を片手に一般人を対象に適当な言いがかりをつけて金品を巻き上げたり、若い女性に猥褻行為を行なおうとする冒険者見習い二名がたびたび目撃されているらしい。酔っている事を理由にしてそのような行為を正当化させようとしているのか、それとも故意なのか。どちらにしてもタチが悪いことは確かだ。
その二名の悪行がさらに加速した結果で周辺の治安が悪化したとなれば、店には客が寄り付かなくなり、最悪店じまいにまで追い込まれるかもしれない。
要するに、今までツケにしていた店の支払いの取立てをした上で、二度と粗相を起こさないようにその冒険者見習いをしっかりと懲らしめてやって欲しいという内容の依頼であった。
ダイソンの話をずっと聞いていたギルド職員が微笑んで言葉を返す。
「わかりました。早速手配しましょう」
「店の仕事があって自分では取り立てられないし、かと言って家内や娘に行かせられなくて困ってたんだ。本当に助かったよ」
「みんなが行きつけにしている隠れ家の評判を、こんな事で下げたくはないですからね」
依頼主の帰りを見送ると、ギルド職員は早急に手配書を作成して貼り出した。
誰もが落ち着ける、大事な憩いの場の危機を救うために。
●リプレイ本文
●捜索、おのぼりさん家の外出時間
冒険者街。
冒険者達が生活をする居住区域。
数々の冒険を繰り広げ、危険を顧みずに自分の道を貫く者たちが拠点とする場所。
その一角、後方をトパーズ通り、右側をサファイヤ通りに挟まれるように存在しているエメラルド通りにある道の片隅で、数人の冒険者が何やら集まっているようだ。
彼らの目線の先には一軒の棲家。最近メイに来た冒険者見習い二名が手に入れたと言われている物件である。その棲家の前には借り主の決まっていない別の住居があり、それを死角として彼らは冒険者見習いの棲家を見張っているように見て取れる。
見張りをしている人物たちは『ギブスン酒場』の主人、ダイソン・ギブスンの依頼を受けた冒険者の内の三名、カイ・ミスト(ea1911)、サーシャ・クライン(ea5021)、フォーレ・ネーヴ(eb2093)であった。
ダイソンや冒険者街で聞き込みを行い、それら情報を統合した結果、現在の位置で確証を確信に変えるために、冒険者見習いが棲家から外出するのをいまかと待っている。
すでに夕方を過ぎ、周囲は徐々に暗くなり始めている。『ギブスン酒場』に行く時間帯を考えれば、そろそろ姿を現してもおかしくない頃合に違いない。
「・・・えっと、ここら辺だと思うんだけどなー?」
自分達の判断か、それとも監視している場所に不安を覚えたのか、フォーレが若干心配そうにカイとサーシャを見やる。
「そうこう言っているうちにほら、出てきましたよ」
フォーレの心配を拭う言葉をかけるカイ。視線は監視対象の建物を見ている。
家からは冒険者見習いと思われる二名の人物の姿がすでに登場している。周囲に気を回すことなく気楽に会話を楽しみ、二人はエメラルド通りから出て行こうとしていた。
監視の壁としている住居の裏手へと手招きするサーシャ。
「ジラフ、こっちにおいで」
裏手から現れたのは、雪のような白い毛並みを持ったフロストウルフ。ジラフと呼ばれると、サーシャの足元に近づき、甘えるような鳴き声を出して主人に体をすり寄せている。
カイ、サーシャ、フォーレの三人は顔を見合わせ、頷き合う。
「時間稼ぎは残りの面子に任せるとして、締めの時間に遅れないようにさっさと終わらせますか」
冒険者見習いの棲家を目の前にして、サーシャが不敵にもその表情に微笑を浮かべた。
●ドッキリ囮大作戦
日が落ちはじめ、『ギブスン酒場』もにわかに活気付いてきはじめていた。
店が忙しくなる前、現場ではすでに主であるダイソンや店員に話を付け、今はダイソンと店員がオーダーを聞く傍らで、常連客に作戦の概要を説明し、理解を得ていた。
洋梨形の共鳴胴とフレットを持つ棹の撥弦楽器リュートを奏で、弾き語りをしているラシェル・カルセドニー(eb1248)。新しく雇われた歌い手役に徹している彼女の美しい歌声に、店内はしっとりと落ち着き、普段の『ギブスン酒場』とは一風違った、趣のある雰囲気を漂わせている。
そこに武道家の風体をした冒険者見習いが二人、店のドアを開けて肩で風を切る形で店内に入ってきた。
二人は空いているテーブル席に着くや否や、踏ん反り返るような態度で店員に注文を伝えていく。あくまで身勝手に、自分の意思だけを押し付ける形で。
彼らから離れたテーブル席には、襟元がきっちりとたたまれた、作業用の純白のガウンを着込んでいる門見雨霧(eb4637)がくつろいでいる。テーブルの上には程よく煮込まれたシチュー。揚げたてのチキンに、木製のコップに注がれたエール。その三点が並んでいる。門見は料理に舌鼓を打ちながらも、冒険者見習いの様子を監視している。
また別の場所、弾き語りをしているラシェルの近くのカウンター席では、娼妓の香坂美幸(eb9701)が店内に心地良く響き渡る歌に身を委ね、艶っぽい仕草で果実酒を飲んでいる。
時間が経過し、多くの客に多少なりともアルコールが入ってきた。店内も酒場としての騒々しさを取り戻し始め、賑やかさを増していく。
そこで酒で顔が赤くなった二名の冒険者が行動を開始。
美幸と談笑している歌い手役のラシェルの下に近寄り、絡み始めた。
「よお、新しくこの店に入った歌の上手い姉ちゃん。それと、隣にいる色っぽい姉ちゃん。あんたら綺麗な肌してんな」
「おう。そんなに肌が綺麗なら、よっぽどいい足してんだろ。ちょっと見せてくれよ」
ラシェルはいかにも非力でか弱そうに、オロオロと怯え出す演技をする。
「あの……その……」
微かに赤みを帯びた表情で美幸は冒険者見習いをあしらう。
「あら、貴方達。女性の扱いが分かっていないようね。出直していらっしゃい」
冒険者見習い二名はそんな様子を見て調子に乗ったのか、ラシェル、美幸の服に手をかける。
「ほら、いいじゃねえか。ちょっとだけなんだからよ」
「ちょっと……やめて………ください」
「止めなさい! 無粋な真似は嫌われるだけよ!」
冒険者見習いとの口論やり取りを美幸に任せると、演技を続けたままテーブル席の門見に目配せするラシェル。
門見はタイミングを計り、エールの入ったコップを片手に立ち上がると、酒が回って足元がフラフラしている酔っ払いを演じながら、ラシェルに絡む冒険者見習いに近づく。
「おっとっと」
よろめいた拍子に冒険者見習いの片方にぶつかる門見。その瞬間、いかにも自然を装って派手にコップの中のエールをぶちまける門見。ぶちまけたその大半は冒険者見習い二人にかかってしまう。
「おっと、ごめんなさいよ」
エールでびしょ濡れにされた冒険者見習いたち。ラシェル、美幸への猥褻行為は瞬時に頭の中から吹っ飛び、すでに門見の胸倉を掴みにかかっている。
「てめえ! 何してやがる!」
「どうしてくれんだ、この野郎!」
胸倉を掴まれ、次第に締め上げられていく門見。酔っ払っている演技をかかさず、ヘラヘラ笑っている。
「そんなら、表出ようぜ。兄ちゃんたち」
自分達の怒号をものともしない事に怒り絶頂。冒険者見習いの一人が握り拳を大きく振りかぶり、今まさに門見を殴りつけようとする。
だが、腕の動きはいとも簡単に止まった。
後ろを振り返る冒険者見習い。
どこから出没したのか、そこには精悍な顔をしたグラン・バク(ea5229)の姿があった。
「おいおい、君らはせっかく楽しくやっている周囲の空気をそんなに悪くしたいのか?」
もう一人の冒険者見習いは、グランと同じく何処からともなく現れたカイ・ミストの手で門見を締め上げていた手を引き剥がされる。
「……見たところ、冒険者とお見受けするが何事ですか? ここでは店にいる人たちに迷惑がかかります。落ち着いて話をするために、外に行きませんか」
二人の冒険者見習いはそれぞれに舌打ちをした。
●路上の決闘。必殺懲らしめ人
出入り口のドアを開け、『ギブスン酒場』から出てくるグラン。続けて武道家風の冒険者見習い二名。その後ろを門見、カイが続いていく。
グランの先導で店から少し離れた、建物が解体されて間もない土地に入っていく面々。
「おい、いつまで黙ってるつもりだ。さっさと話をつけようじゃねえか」
冒険者見習いの片方が沈黙に耐え切れず、土地の中央で立ち止まり、言葉を発する。
「言いたい事は一つ。君らのせいであの酒場とその周辺の人たちが困っている。その問題を解決したい」
冷静に言葉を返すグラン。
申し合わせるようにソフィア・ファーリーフ(ea3972)が、冒険者見習いの退路を阻む位置に現れる。
ソフィアを皮切りに、冒険者見習いの退路を断つ位置に出現する冒険者達。
フォーレはロープを準備し、門見は土地の中央から離れてガウンから投げ縄状に細工した縄ひょうとダーツを取り出す。
鯉口を切り、緩慢な動作で小太刀を鞘から抜刀する香坂。フォーレから後方、左側にて常時臨戦態勢に入れるように気を配っている。
門見の右後方には黒曜石の短剣を胸の上で握り締めるラシェル。その隣にはサーシャ。
「お婆ちゃんが言ってたよ。一度お金を借りたりツケを作ってしまえば、必ずそれが癖になって何度も繰り返してしまうもの。そしてその先に待っているものは自身の破滅だけだ、ってね」
「テメエら、ハメやがったな!」
もう片方の冒険者見習いが声を荒げる。
「まあ、落ち着いてください。何も取って食おうなんてことではありませんから」
カイが落ち着いて諭しだす。
「まあ、なんだ。一方的なのはどうかと思ってな。こういうのはどうだ」
グランが懐から取り出した袋を冒険者見習い達の足元に投げ下ろす、地面に落ちると、袋の中からは何枚もの金貨がこぼれ落ちて見えた。
「君らが俺とそこにいるカイに勝てたら、そいつをくれてやろう。ただし、負けたら酒場のツケを払って、迷惑をかけた相手に謝罪することを約束してもらう」
冒険者見習いはどちらも黙り込んでいる。
「ハンデがないと不満か……。じゃ勝負は二対一のカチ。こちらは攻撃を避けない。反対に直接殴ったり蹴ったりもしないというのでどうだ」
カイが中央から下がり、退路を立つ位置にまで離れる。
「上等だ! やってやるよ!」
「まずはてめえから後悔させてやる!」
各自で少林寺拳、テコンドウまがいの構えから、同時に駆け出し、グランへと殴りかかっていく二人の冒険者見習い。一気呵成にグランを攻め立てる。
自らが言った言葉通り、グランは攻撃を避けない。だが、デッドオアライブで急所を避け、ダメージを完全に削ぎ殺した状態で攻撃を受け切っていく。
二人のコンビネーションは上手く型にはまり、次々にグランの体に打撃を叩き込んでいく。しかし、数分もしないうちに疲労が蓄積し、攻撃の勢いが緩みだした。
数々の修羅場を潜り抜けてきたグランは見逃さない。冒険者見習いたちの息が大きく乱れ、打撃のモーションが大振りになった所で二人を同時に掴み、カウンターアタックでのソードボンバー。グラン命名のカウンターボンバー脚が炸裂。
衝撃波で文字通り、冒険者見習いは一蹴された。
見事に技が決まり、仰向けに倒れて気絶している二人に向かってグランは決め台詞を言う。
「では皆への謝罪と酒場のツケ支払いだな。払えなければ皿洗いだ」
●再教育はじめてみました
最初から計画されていたとも思えるような段取りの良さで、特訓&雑用は開始された。
雑用のない時間は冒険者達による特訓。特にグランの実戦さながらの剣術稽古には、冒険者見習いの二人も肝を冷やしてばかりだった。
次いで雑用。謝罪の意味を込めて、文字通り体で迷惑料を支払う。
それが躊躇なく、交互に続けられていく。
特訓。
雑用。
また特訓。
家に帰ろうにもフロストウルフが玄関前に居座っているわ、グランに特訓させられるわ、調子こいてツケを貯めた分だけ冒険者の見張り付きで『ギブスン酒場』での無料奉仕もどきの雑用をさせられるわ、グランに特訓させられるわで、冒険者見習いの二人は心身共に疲弊しきっていた。
今夜も皿洗いや酒樽運び等の雑用を片付け、疲れた足取りで店のドアを開けると、やっぱり待ち構えていた、笑顔のグランにとっ捕まる。
そして特訓。
雑用。
また特訓。
特訓の厳しさに耐え切れず、冒険者見習い達の心が折れそうになると、すかさずソフィアがフォローに入る。
「冒険者を目指した理由ってどんなのですか?」
しばらくして、またもや心が折れそうになる。
「それは悪戯した女性を悲しませたい、なんて理由であるはずもないですよね」
折れそうになる。
「稽古が厳しいのも、あなた達を冒険で死なせたくない、という愛情の裏返しだと思いますよ」
折れそうになる。
………へタレ。
冒険者見習いの心が折れそうになる度に、心やさしく笑顔でフォローに徹するソフィア。その姿はまるで聖女。天界(地球)の言葉で言い換えると、さしずめ心理カウンセラーさんといった所であろうか。
家の前にいるフロストウルフを撃退しようとした。噛み殺される事を覚悟して、ビビって震える体に鞭打ち、勇気を振り絞って根性を見せた。
聞こえた口笛一つでフロストウルフは家から退去。呆然としていたら、冒険者達の中にいたサーシャが飼い主なんてオチだった。
そんなこんなで、冒険者見習いの二人は数日で見違えるように逞しくなった。
あまり無事には見えなかったが、無事に特訓は終わり、それに合わせて『ギブスン酒場』での雑用も終了。冒険者達が見守る中、主人のダイソンから、ツケの代金を差し引いた分の給金が手渡される。
「今までご苦労さん。これからはしっかり、冒険者として一人前になってくれよ」
ダイソンのその言葉に、冒険者見習い二人は給金の入った袋を握り締めて泣き崩れた。
今まで散々迷惑をかけた酒場の主から励まされたのだ。メイの国の首都メイディアに来て、初めて味わえた優しい気遣い。それが何よりも心の奥底に染みる。
冒険者見習い二人は心からの謝罪を許され、深々と頭を下げると帰路についていく。
冒険者達と『ギブスン酒場』の主人ダイソンは、更生した二人の後姿を優しい眼差しで見送っていた。