やんちゃな商人さん
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:藤井秋日
対応レベル:8〜14lv
難易度:易しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月15日〜03月20日
リプレイ公開日:2007年03月26日
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●オープニング
●富のもたらすもの
アトランティスで『天界』と呼ばれる現代世界には、かつて『三角貿易』と呼ばれる貿易方法があった。
別に現在も無いわけではない。つまり二国間で貿易のバランスがあわないときに、もう一国を加えその三国間で貿易収支を均衡させる方式である。現在は交通や輸送手段が遙かに進み、三国にとどまらない『多角貿易』という方式になっている。
歴史上、有名なのは18世紀にみられたイギリスの綿織物、西インド諸島の原綿、西アフリカの奴隷を取り引きした三角貿易である。この結果イギリスは莫大な富を手にし、産業革命による『世界の工場』への素地をつくった。
では、アトランティスではどのような状況になっているのか?
ウィルの国は多数の月道で多くの国とつながる、貿易立国である。月道貿易はすでに三国どころか多角貿易の域に達しており、それがウィルの地勢価値を高め、国力の高さを維持する原動力になっているのだ。
もちろんゴーレム発祥の地、ジーザム ・トルクの運営する領もその恩恵に預かっている。国が豊かならその分国領主が豊かなのも当然だ。
そのトルク領にゴーレムニスト、オーブル ・プロフィットが来落したのは、果たして偶然であろうか? 結果的には、前王の善政と地勢により富の集中するウィルの国の領土であるがゆえに、ゴーレム兵器なる金食い虫が完成するに至ったとも言える。これが他の国なら、そもそも予算がつかずにゴーレム兵器そのものが発生しなかったであろう。あるいは、その完成と進化はもっと遅かったに違いない。
ウィルの国は、その月道貿易によって非常に潤沢な財務状況にある。トルク領において、近年次々と開発され実用化される新型ゴーレム兵器の様相を見ても、その実情がかいま見える。
ゆえに、月道貿易関連には非常に多くの『余録』がつく。政務に関する外交大使のようなVIPの移動から、技術や文化の流入に至るまで様々だ。
当然、冒険者ギルドにも声がかかる。仕事は、結構いろいろあるのだ。
●月道貿易隊商護衛
定例の、月道関連依頼の頒布時期が来た。
毎月この辺の時期になると、月道関連の依頼がちらほらと見えてくる。重要な任務であることが多いが、月道が月に一度しか開かない都合上、正規の兵士や騎士を送ると一ヶ月国を留守にされてしまう。ゆえに多数の正規兵が月道関連にかり出されることは少なく、その多くは冒険者におはちが回ってくるのが現状だ。
今回の依頼は、隊商の護衛である。ウィル国内での仕事は無いに等しいが、メイに移動したあと隊商について行って交易品の卸しなどまでを請け負う必要がある。つまりは、いざというときの用心棒のようなものだ。
月道の通行料は依頼主が持ってくれるので問題はない。むしろ不案内なメイの国での仕事の方が問題であろう。メイの国は言語が違う。ゆえにアトランティスの不思議パワーでも文字は読めないから、結局のところ道案内の看板などは結構手こずることになる。多少差があっても万国共通の宿屋の看板とは、勝手が違うのだ。
何もなければ何もない依頼だが、何かあっても盗賊程度の襲撃で済む予定である。間違っても、噂のカオスニアンや恐獣なんかとやりあうことにはならないはずだ。
それよりも、旅を楽しむべきであろう。
●護衛対象?
隊商のリーダー格である商人には、実に好奇心旺盛な息子がいるらしい。
若干十二歳の幼い少年。何処にでもいそうなごくごく普通の子供と同じな訳がなかった。
少年がさらに幼い頃、何が子供特有の好奇心に火をつけたのか、ある日を境に、家業に没頭するようにのめり込み、今では大人顔負け、一人前の商人と同等か、それ以上に仕事が出来るようになっている。
そうなると、もはや少年の向上心から、『留まる』という言葉は消えてなくなった。
父親の仕事に大いに貢献する反面、行き先で様々なトラブルにも巻き込まれる。
見聞と称して一人勝手に見知らぬ街を歩き回った挙句、いとも簡単に迷子になったり、誘拐されかけたり。
しまいには同業者同士の値付けや仕入れ値の会話に割って入り、殴り合いの口論にまで発展しかかった。
少年の今後に大きな期待をしているだけに、父親としては息子のフットワークの良さが心配で仕方がない。
息子が余計なトラブルを引き起こさないよう、フォローとその護衛を求めるのは道理であった。
●リプレイ本文
●出発前
アトランティス大陸、ウィルの国。
建築物の大半が赤銅色の屋根に覆われ、そこにアクセントをつける様な形で雄大な河川が街中を流れている。
その国の中心であるフォロ城の傍にある施設内部で、隊商と冒険者は待機していた。
仰々しくも重厚な雰囲気。
神殿を思わせる施設は隊商、冒険者の事など気にもせず、ただ畏怖と信仰心を駆り立たされるような濃厚な 空気を漂わせ、存在している。
月の精霊の力が満ちるこの日には、アトランティスの各地に通じた月道が開く。
今回の月道貿易での派遣先はメイの国である。
待機中、冒険者や隊商の面々は簡単に顔合わせを行い、歓談を行なっている。
留学生である浦 幸作(eb8285)は隊商のリーダーである商人らに、依頼内容に関しての確認を行い、メイディアにて留学の中間報告をする事、転送護符で20日にはウィルに帰還する旨を伝えていた。
「留学生の最優先事項故、どうか許可を頂きたいと思います」
歓談しているグループから少し離れた場所に、幼い顔をした少年と長い赤髪をバッサリ切り、セミロング程度の髪型になったにリューズ・ザジ(eb4197)がいる。
隊商のリーダーの息子である少年に、リューズは自己紹介をする。
「ウィルの鎧騎士、リューズだ。宜しく……あー、君の事は何と呼べばいいかな?」
「………セドリック」
お目付け役としての護衛を付けられる事に対して、明らかに不服そうな表情のセドリック。
「お父上も君を半人前扱いして護衛をつけるわけではない。ウィルは新国王就任もあって少々騒がしくてな。隊商の大切な一員だからこそ、と」
納得するかは別として、リューズはそう理由を述べた。
冒険者、商人入り混じって歓談中のグループでは、チハル・オーゾネ(ea9037)が場を和ませる為の一助にと、リュートを奏でている。
「長いことこの町にもいましたが‥‥また新たな町への移動……ですね。違う大陸にはいったいどのような出会いがあるのでしょう……楽しみです☆」
月下部 有里(eb4494)は自らの希望を語る。
「どうやら、メイの方では医学が必要な状況になっているとのことで……。できれば力になりたいものです」
リューズと会話をしているセドリックに目を向け、笑顔になっているのはカーラ・アショーリカ(eb8306)。
「かわいらしい子供の商人もいるんだね。もし、ボクが当たり前の女性としての生活をしていたら、今頃このぐらいの子供がいたかもしれないね。そう思うと、真剣に守ってあげたくなっちゃうな」
商人達に囲まれて熱っぽく語り合っているサイ・キリード(eb4171)が、思わず声を張り上げる。
「いざ、新世界へ!」
●メイディア到着
何はともあれ、隊商は無事にメイの首都メイディアに到着した。
昼夜を問わず冒険者達が隊商の護衛に当たっている為、何事も起きなかった。
だが、依頼内容を考えると、何かが起きるのは間違いなくこれからであろう。
「ちょっと街中を見てくる」
隊商共々休憩していると、その隙を見計らって、早速セドリックが見聞と称して一人勝手に見知らぬ街を歩き回ろうとする。それを発見すると、すぐさま同行する冒険者一同。
「………………げっ」
さすがに、六人もついてくるとは思わなかったのだろう。
振り向いて護衛を確認したセドリックはその数に言葉を濁す。
傍から見た光景は、不遜な子供が六人もの冒険者を引き連れて街中を闊歩しているようにしか見えず、目立つ事この上ない。
冒険者達が会話をしながらの同行である事が唯一の救いであろうか。一切の私語を慎まれた日には、なんて考えると、自然と気が重くなってくるセドリックであった。
●問題発生
本人すらよく分かっていないのに、なぜか冒険者たちを引率する形で市場へと繰り出すセドリック。
他の客から、明らかに少年に引率される形で市場を回っていると思われている冒険者たち。
活気にあふれた市場では客と店側での値段交渉の応酬がちらほらと見受けられる。
そんな中、一つの店舗では何やら陰湿な空気が流れている。
冒険者はもちろん、セドリックもそれに気付き、様子を伺っている。
「さすがにこれ以上は下げられないよ。別に他のところに卸してもいいんだからさ」
「いや、それはちょっと。お願いしますよ。今までこの値段で問題なかったじゃないですか」
「最近は仕入先の景気が悪くて、仕入れ値が上がっちまってね。もう少し値上げした金額じゃないと譲れないのよ。おたくの店以外にも欲しがっているところはたくさんあるしね」
内容だけであれば、不景気からのあおりを食らっている卸業者と小売業者の交渉に聞えなくもない。
ただ異なるのは、卸業者がその手の動きでリベートをしつこく要求している事だけだ。
苛立ちを覚えたセドリックは、不機嫌さを隠さずに二人の元へと向かっていく。
「なあ、おじさん。あんた、ちょっとふっかけ過ぎなんじゃねえの」
力関係の決まりきっている交渉にいきなり乱入された卸業者と小売業者の二人は、面食らって幼い少年を凝視している。
「なんだ、小僧! ガキが知ったような口をきいてんじゃねえ!」
乱入者が子供であると理解した事で、すぐに調子を取り戻す卸業者。荒っぽくセドリックを突き飛ばす。
セドリックは危うく地面に転げそうになるが、後ろに控えていたサイに受け止められる。
「おいおい、大丈夫かよ」
すぐにチハルと月下部が駆け寄り、セドリックの怪我の有無を確認し始める。
「セドリックさん、お怪我はありませんか?」
「どこか痛い所があったら言ってね。すぐに治してしてあげるよ」
冒険者たちの思わぬ介入に動揺する卸業者。その前にリューズ、浦、カーラの三人がすっと立ちはだかる。
「子供に手を上げるとは、ずいぶんと大人げがないようだな」
「私達はウィルから月道貿易のためにやって来たのですが、こういうのはちょっと両国間での問題に発展しかねない事態になるのではないでしょうか」
「そうそう、暴力反対。周りのみんなが今のを見てるんだから、最悪ここらのお店全部から嫌われちゃうよ」
慌てふためく小売業者は、泣きそうになりながらも必死で事を収めようともがいている。
「ちょ、ちょっと店の前でそういうのは止めてくださいよ。困りますよ」
舌打ちをすると、卸業者はバツが悪そうに退散していく。
「フン、調子に乗ってると、そのウチ痛い目を見るぞ」
メイディア到着も、早々に一悶着の仲裁に狩り出されるハメになった冒険者たち。
彼らは、性懲りもなく市場を見て回ろうとするセドリックを見て、各々で溜息をついた。
●誘拐事件発生
商店での一悶着から一夜明け、冒険者一同は今日もまたセドリックの護衛に精を出す。
その人数が一人足りないのは、メイディアにて留学の中間報告、転送護符で20日にはウィルに帰還する事になっていた浦の不在のためである。
昨日、市場であった揉め事の後、冒険者たちはセドリックの口からある事を聞かされた。
少年は商人としての誇りと信念を貫く事を信条にしている。
そのために、様々な場所で見聞を広め、一商人として、どうすればより多くの客を幸福にすることができるか。その方法を模索しているのだと。
だが、冒険者たちはセドリックの行動に一抹の不安を覚えている。
それは若さゆえに思いつめ、自分の正義感のみで走り過ぎている事に対しての危うさから生じているものだ。
周囲を省みない行動には、遅かれ早かれ反動が返ってくる。
一番間近で見守ってきた実父。隊商のリーダーが息子の警護を依頼するのは当然の帰結である。
実際に警護すべき少年の思いを聞く以前と以後では、冒険者たちの緊張感が全く違っている事も容易に想像がつく。
彼らは同じく前日と同じスタンスで警護に勤めているが、もはや温和さは微塵も感じられない。
朝から始まった市場の視察も半ばになり、セドリックがまだ見ていない通りに入ろうと、道を曲がった時にそれは起こった。
護衛者である冒険者は、一定ではあるが若干の距離を作る事で、広い視野で少年の身辺を警戒していた。
その事が逆に死角となり、一瞬の油断を生んだのであった。
セドリック同様に道を曲がった瞬間、彼らは咄嗟に駆け出していた。
遥か前方に見える、意識を失った少年の姿。
少年を担ぎ上げ、後方を警戒しながら走り去っていく屈強な体つきをした三人の男の姿。
思いもよらなかった可能性を突きつけられた。
貿易地に到着してすぐに、派遣先の卸売業者に目を付けられた。
事実確認をする猶予もないまま、冒険者たちは護衛対象を攫った誘拐犯の姿を全力で追跡する。
追跡劇が始まってから、どのくらい時間が経ったのだろうか。
教会の裏手に位置する方向を走り、見晴らしのいい庭のような場所に辿り着いた。
セドリックは猿ぐつわをされ、両手両足を縛り付けられた状態で木の根元に寝かされている。
足を止め、待ち構えている三人の誘拐犯の手にはダガーが握られている。
どうやらこの場所で決着をつけるつもりらしい。
サイ、リューズ、カーラがそれぞれの剣を鞘から即座に引き抜き、走る速度を落とさずに確保撃破に向かう。
三人の後から到着したチハル、月下部。二人は一度足を止める。
視線を向けたのは、戦闘中の六人の位置。
セドリックの安否を最優先で確認するため、戦闘に巻き込まれないように迂回しながらチハルと月下部がセドリックのいる木へと足を運ぶ。
マントを翻し、最も背の高い誘拐犯と真っ向から刃を結び合っているリューズ。
相手のダガーの切っ先を刀身で受け流し、切り返す一撃を避けさせて少しずつ距離を取らせていく。
戦闘に入ったリューズの目的は誘拐犯をセドリックから極力引き離す事。
サイとカーラも目的は同じである。
チハル、月下部がセドリックに辿り着いた事を流し見ると動きを止め、対峙している相手に言い聞かせる。
「さて、もうそろそろ覚悟は出来ているだろうな」
言葉を聞き終る寸前、突進してくる誘拐犯。
リューズはダガーの刃が突き出される刹那、急加速して相手から擦り抜ける。
その動きはすでに剣を横薙ぎに振り抜いており、交錯した誘拐犯は一言も発せずに地面に倒れ込んだ。
別の誘拐犯の相手をしているサイ。彼はリューズが誘拐犯の一人を仕留めた一撃を見て、笑みを浮かべる。
「素晴らしい一撃。さすがにやりますね」
サイは小柄で動きの早い誘拐犯のダガーの軌道を読み、合わせるように自分の剣を振り、相手のダガーを弾き飛ばす。
誘拐犯がその衝撃で後ろに尻餅を付き、立ち上がろうとした目と鼻の先に剣の切っ先を突きつける。
「ここまでのようですね」
共に誘拐犯に対峙していた二人の決着を見たカーラもまた発奮する。
「ボクも負けてられないよ!」
誘拐犯の中では一番標準的な体型をした相手に向かって留まること剣を無く撃ち込んでいく。
誘拐犯は防御に回るのに精一杯で、反撃の余地がない。一撃一撃を受けきる度にダガーの刃は零れ落ち、ついには刃が切り落とされた。
「これで勝負あったね」
最後の一撃を誘拐犯の首先で止めると、カーラが自分の勝利を告げた。
●少年の決意
かくして誘拐事件は解決。誘拐犯の口を割らせ、裏で手を引いていた卸売業者は逮捕された。
今回の誘拐事件がきっかけで、セドリックは自らの無謀な行動を自粛。一人の商人としての意識を高め、静かに見聞を広める事になった。
「これからは、その場しのぎでの行動は控えて、後学のために色々と見て回ることにする」
セドリックは自分の信念を貫き、「商人が不当をせず、不当をされずに街の人々や客に対して、商品と共に常に幸福を分け与える」事を理念にした、新しい組合を設立する事を誓うのであった。
いつの日か、少年は青年へと成長し、自身の理想を実際に体現していくことであろう。
「覚えとけよな。きっと誰もが幸せになれる組合を必ず作って見せるから」
振り向きざま、不敵に微笑んで言い放つと、すぐに振り返って歩きはじめる。
幾つもの成功や挫折を繰り返していく事で、商人としてより大きくなっていく。その姿が見れる事を夢見て、冒険者達は先を歩くセドリックの力強い背を見つめながら、隊商との合流地点へと戻っていった。