食中毒事件を追え
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:藤井秋日
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月17日〜03月24日
リプレイ公開日:2007年03月30日
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●オープニング
疲弊した表情の男が冒険者ギルドの職員に、何やら相談を持ちかけているではないか。
年の頃は三十台後半と推測され、身なりも程よく整えられ気取った様子もない。ただ心持さえが明るければ、間違えようもなく陽気で気さくな人物だと周囲に判断されるだけのスタイルが印象に残る。
それが形無しになるくらい、胸中に秘めた事実に男は怯え、憔悴している。
気の毒だが、他人事でしかないのだ。
しかしながら、ギルド職員にはその他人事を正式な形で解消するための手立てと権限を有している。
節目がちにボソボソとこぼすように内容の詳細を語りだす男。
彼はメイで一、二を争う酒場、『スィリブロー』で食中毒事件の嫌疑を掛けられている当事者にして被害者。『スィリブロー』の主人、コンラッド・ジョハンセンである。
彼は店の常連客はもちろん、従業員、仕入先の業者からも裏表のない好人物だと、敬意をもたれている。
事実、彼自身が自分の周囲にいる人たちに敬意を払い、常に接する人の目線や思考に合わせ、互いに満足できるあり方を提示しているのだから。
そんなコンラッドは他人を信用するあまり、それが足枷になって本人の心を苦しめている。それでも軽はずみに疑ったりはしたくない。板挟みの葛藤の末に磨耗してしまっているのであった。
ギルド員が請け負った事はただ一つ。この事件の早期解決である。
ただし、これ以上事が大きくならないよう、穏便に鎮静化する事が条件に含まれているのは言うまでもない。
以下に記載されているものは、事件発生直後に情報として入った関係者の証言である。
●常連客Aの証言
この店の店員は俺が常連だって事を知ってるからさ、いつも通りにメニューを店の主人のコンラッドさんに任せたわけよ。
別に心配なんかしてないさ。何度来ても飽きない味だし、今までだって腹を壊したりもしなかったんだから。
しいて言えば、食べすぎで腹が苦しくなる事がたまにあるくらいだな。
その日も、メニューをおまかせにしたのさ。そしたら、食中毒って奴さ。
調理に問題があったのか、それとも食材に手落ちがあったのかは分からないよ。
ただ、店主と顔なじみであるだけに信用したいと思う反面、店側の手落ちではないかとも思えて仕方がねれんだよ。
あとは、そうだな。店での夕食時以外にした食事が当たったのかも知れねえなあ。
●料理人Bの証言
その日も普段と同じように注意を払って調理をしていましたよ。
そりゃあ、お客さんにはいつだって美味い料理をたべてもらいたいですからね。
さすがに夕食時となれば、調理場は目が回るんじゃないかって言うくらい、恐ろしく忙しかったですよ。
だとしても、僕らは料理人である以上、調理に手を抜く事は出来ませんし、何時いかなる時であろうと最高の料理を出すだけの腕を持っているという自負があります。
きっと、調理後に何かしらの細工がされたか、それとも食材に何か仕掛けてあったとしか思えません。
もし食材であれば、僕らが見抜けないような巧妙なものが意図的に行なわれたのでしょう。
●市場の青果商Cの証言
ああ、最近噂になっている『スィリブロー』での事ね。
こっちだっていい迷惑なんだぜ。
『スィリブロー』はウチでも一、二を争うお得意さんだからよ、最高の食材を常に提供しているってのに、こんな事になっちまってさ。
食材の買出しなんて料理人に任せればいいのによ、忙しい時以外は大抵、店の主人であるコンラッドさんもわざわざ来てくれるんだ。
なんだって、あんなに気さくでいい人が苦しめられなきゃならねえんだよ。
きっと、誰かが妬んでやらかしたに違いねえ。
もちろん、俺がやったって何の得にならねえし、大事な得意先を無くすだけだ。
料理を作っている時に問題があったのか、食べる前に何か変なものでも入れられたとしか考えられないだろ。
●ウエイトレスDの証言
あの日の事はよく覚えているわ。
自分が運んだ料理であんな事が起きたのよ。
全く、冗談じゃないわよ。
夕食の時間帯なんて、店中がお客さんで埋まっているんだから、私達が駆け回らなきゃオーダーが回らないし、調理場で作り終わった料理だって運べないじゃない。
何か毒みたいなものを入れてる余裕なんてないのよ。
まあ、店の忙しくなるピーク時以降に嫌な客が来たら、多少はイタズラをするかもしれないけど。
それでも、ご愛嬌で済む程度の事しかしないと思うわ。
仕事をクビになるような事なんてしたくないもの。
店に来る前に食べたものが悪かったのか、食材でハズレでも引かされたんじゃないの。
●リプレイ本文
●食べ物の恨みは恐ろしすぎて
メイで一、二を争う酒場、『スィリブロー』で起こった、食中毒事件。
しかし、事件の真相を探るうちに、意外な事実が判明した。
店側の証言が全て正しいとすると、この食中毒事件の最大の被害者は『スィリブロー』という他にない。
しかし、実際の被害者である常連客の証言が正しいとなれば、それは一転加害者となり得る。
これは、店の信用が掛かった、冒険者たちの一大推理ドラマである――。
レフェツィア・セヴェナ(ea0356)は、事件のあった店内を見回しながら溜息まじりに呟いた。
「犯人がいるとは思いたくないんだよね。誰かを疑うって事はとっても悲しいことだから」
誰だって、そう思っているはずだ。だが、事件は起こってしまった。
本来なら、事件は未然に防ぐ事が最善とされている。
食品を扱うサービス業にとって、食中毒というのは最もあってはならないミスのひとつであり、一度それが証明されれば店の信用は一気に落ち込み、最悪、業務を再開しても客の足が途絶えるという事もある。
いや、それだけではない。その営業再開すら不可能になる事だってある。
そういう意味からすれば、『スィリブロー』から見ると一番避けたかった問題だったはずだ。
だが、起こってしまった。
アタナシウス・コムネノス(eb3445)も、レフェツィアと共に聞き込みを開始する。日々の糧を冒される事への無念さは彼がクレリックであり、神の子である事に起因するものだった。
感謝すべき食事の時を無残にも悲劇に変えてしまった事件に対して、とても悲しんでいるようだった。
ここでもう一度整理してみよう。
先ず、食中毒というのは何なのか。
天界での一般的な食中毒というのは、有害・有毒な微生物や化学物質等毒素を含む飲食物、水を人が口から摂取した結果として起こる下痢や嘔吐や発熱などの疾病(中毒)の総称である。
つまり、「食べたり飲んだり」しない限り、基本的に起こらないものである。
それに対して、食中毒が起こる原因は、かなり複数の要因が関連してくる。
だが。根本的な謎が、ここにあった。
――そもそも、食中毒だったのか?
メイで、『食中毒』と断定できる医療技術があるか、という点だ。
最近では、医療免許を天界人がメイに数人降りているそうで、そのおかげで以前よりもぐっと医学的な進歩が恵まれているが、それでも被害者である常連客がそういった専門医に診てもらったのかまでは証言が取れていない。
この線を追ったのは、フランカ・ライプニッツ(eb1633)だ。
「いつ、食中毒の症状が発生したのかも気になりますね。何故スィリブローの料理による食中毒だと断定出来たのか‥‥そのあたりからも推理出来そうです」
常連客に話を聞いてみると、こう証言があった。
「俺はその日はいつものメニュー以外に、エールと……いや生モノは口に入れてねえな。飲み物くらいだぜ」
病院で診てもらったのかを尋ねると、こう返って来た。
「何とか自力で行ったよ。難しい病名を言ってきたが、俺は医者じゃねえから病名が何なのかは忘れッちまった」
ともかく、今まで起こした事も無い腹痛だった、と彼は証言した。腹痛が起こったのは、確かにスィリブローでの食事後ほどなくして、との事。
時間軸的にはスィリブローでの食事が一番怪しいと、彼は思っているようである。
操 群雷(ea7553)の推理は、非常に現実的な部分を掘り下げるものだった。
店側の徹底的な衛生面のチェック。これはレフェツィアや、神凪 まぶい(eb4145)らも賛同した。
食材面での信頼性があるとなれば、店側でのミスは基本的な衛生面だと踏んだのだ。
だが、そこは噂通りの超が付くほどの優良店。食材の仕入れから管理、保管に関してもほぼ完璧。
調理器具に使用される食器類に至るまで、万全の衛生管理によって全くスキの無い状態だった事が明らかになった。
当然、調理師から店員まで、徹底した衛生管理と教育がされており、調べたその日も何も問題が無かった。
やはり、『スィリブロー』には手落ちが無かったのだろうか。
主な食中毒の原因として、食材内外に付着した細菌類の増殖などで起こる事がほとんどであり、状況や最近の種類によって様々に分類される。それらを完璧に診断できる医者がメイにいるかは現在までは判明していないが、基本的に食材が一番怪しいと踏んだのは、結城 梢(eb7900)と朝海 咲夜(eb9803)だ。
最大の焦点は、その仕入れ数と食材保管などに関する個所だった。
スィリブローでは、一括仕入れを導入することでコストを削減し、低価格で上質な食事を提供する、というのが持ち味であった。
徹底的なコスト削減をいち早く取り入れた『スィリブロー』の管理体制はかなり徹底しているようで、品質管理のため、食材がいつ、どこで仕入れたものなのか、どれだけ使用したのか、在庫はどれ位あるかなど、本格的な管理体制が確立されている事が判明する。
また、仕入先の店舗の証言を聞く限り、どのお店でも同様の証言が取れた。
いつも大量に買ってくれるお得意様で、常に最高の食材を卸していたのでこれまでは一度もクレームが来なかった、と。
取引先はスィリブローだけでなく、他にも流通業者はいるが、不良品で返却された事も一度だって無いらしい。
その日だけ、おかしいなんて事は店の信用に関わる問題で、あり得ない、とも。
当然かも知れないが、信用商売を営んでいる以上、自らを貶めるような不利益な事はしない。
商売人の意地で、絶対にそんな食中毒を起こすような食材は扱っていない、ときっぱりと否定された。
どの線を突いても、決定的な埃は出ない。
一体、どういう事なのだろうか?
やはり、食中毒を起こしたと証言する、常連客の陰謀だったのだろうか‥‥。
しかし、意外なところから、事件は一気に解決に向かっていった。
全員が見落としていた、ある一つの線。
その線が、今。
――繋がる。
●思わぬ落とし穴と、事の顛末。
事件のあった日、食中毒を起こしたという常連客を目撃した他の客に証言を求めたのはジャクリーン・ジーン・オーカー(eb4270)だった。
事件の全貌が調査を進めるほどに泥沼化する中、彼女の足で稼ぐ情報収集が意外な展開をみせたのだ。
半分は常連、半分は冒険者たちのようなたまに顔を出す客、そしてその日にはじめて来た客はいなかった事は店員の証言で明らかになっていた。
そんな中、ジャクリーンは呆れるほど、思わぬ重要証言を拾ってきた!
「ああ、良くみかけるね。意外と声の大きい男でね、度々武勇伝を大声でしゃべっていたね。いつものメニュー? さあ、でもそいつならよく肉を食べていたね、一際大きい骨付き肉が好みなようだったよ。豪快に手づかみで食べるのが男らしくていい、なんて笑いながらね」
――原因は常連客が手も洗わず、手づかみで骨付き肉を食べてから、腹痛を起こした事にあった。
店側にも、食材店にも何も不手際はなかった。
出された食事も、新鮮そのもので、味も最高の文句なし。噂どおりの優良店だった、という訳だ。
コンラッドも原因が判明して、ようやくいつもの笑顔が戻ってきた。
食中毒を起こした常連客も、店の料理ではなく、自分自身の不衛生さが原因だったと知り驚いていたが、後に反省。
下手に騒ぎになってしまった事に対し、彼はコンラッドと、スィリブローに謝罪した。
コンラッドも、それを受けこれ以上大きな騒ぎにならないよう、店側に何も原因がなかった事を証言して欲しいと促し、常連客はそれを承認。
事は、これにて収まりが付いた、という訳だ。
「事件も解決し、無事店の方も今まで通りお客さんが戻ってきました。これも事件解決に尽力してくれた皆様方のおかげです!」
元気を取り戻したコンラッドは見違えるような明るさで、冒険者達をもてなした。
「ええ、もちろん。これはお礼ですから、皆様、どんどん食べて、飲んでいってください!」
その日のスィリブローは、事件明けだというのに、いつも以上に賑やかな夜を迎えたという。
教訓――食事の前には、よく、手を洗い、うがいをしてから。
【おわり】 (代筆:なちか。)