聖夜祭の灯火

■ショートシナリオ


担当:紺野ふずき

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月22日〜12月28日

リプレイ公開日:2005年01月03日

●オープニング

 中央広場のもみの木に、村人達が集まっていた。
 蝋細工や木の装飾品、それにキラキラと光るメダルやロウソクが吊り下げられてゆく。
 もみは聖人ジーザスを讃え、村の繁栄を願う為の大事なオーナメントとなるのだ。
「これで良しと」
 青年は、赤い布で覆ったロウソクを下げると、ほこらしげに手を叩いた。娘がクスリと笑って、青年に寄り添い立つ。
「夜を越えられると良いわね」
 そう言ってはにかんだ娘の肩を抱き寄せ、青年は目を細めた。
 村には恋人達の間で囁かれる風習があった。
 それは、聖夜祭の晩に灯したロウソクが、消えることなく無事に朝を迎えられたら、二人は永遠に幸せになれると言うものだ。
「越えられるさ。僕らの運命がかかった灯が、そうやすやすと消えるもんか」
「消えないように、二人でずっと番をしましょうか」
「キミは良いよ。僕が見てるから」
 青年の顔が娘に近づくのを見て、小さな男の子が目を覆う。
「ママ、キスしてるよ」
 僅かに開けた指の隙間から覗く瞳に向かって、母は「しぃっ」と指を立てた。
 もみの周りには、笑顔が溢れている。
 聖夜祭と言う名を聞いただけで、人々の胸には暖かな灯がともるのかもしれない。
 だが、そんな和みの場を荒らす、不届き者がいた。
 突如、空から滑空してきた大ガラスが、青年の下げたロウソクを羽でぶっ飛ばし、メダルを一つバックリくわえて去って行ったのだ。
 少年はロウソクを拾い上げると、顎が外れる勢いで口を開いたままの青年に手渡した。
「‥‥お兄ちゃん、大丈夫? もう一回、くっつけなよ」
 ワナワナと震える拳を天に振り上げ、青年は叫ぶ。
「あああーっ!」
 怒りとも嘆きともつかない絶叫に、娘は苦笑を堪えた。

「と、言うわけで、依頼はツリーを襲うジャイアントクロウ退治よ。やってくるのは一羽。もみの周囲十メートルはなにもないから、多少の騒動は大丈夫ですって。カラスがいなくなれば役目も終わるんだし、便乗して楽しんで来ちゃったら?」
 そして、私は聖夜祭も仕事よ、こん畜生。
 係員の女の呟きと微笑が、ちょっぴり恐い冒険者達であった。

●今回の参加者

 ea1798 ゼタル・マグスレード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2639 四方津 六都(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2806 光月 羽澄(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3502 ユリゼ・ファルアート(30歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea6883 アシュレー・コーディラン(30歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6884 ライラ・フロイデンタール(30歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9589 ポーレット・モラン(30歳・♀・クレリック・シフール・イギリス王国)

●リプレイ本文

 上空に吹く風が、小さな雲をゆっくりと押し流してゆく。
(「場所は違っても、空の色は同じなのね」)
 故郷のノルマンを初めて離れ、見上げた深いブルーに、ユリゼ・ファルアート(ea3502)は、安堵を覚えた。
「月も星も綺麗な、良い夜になりそう」
 誰にともなく呟いたつもりであったが、銅鏡を腕にくくりつけていた光月羽澄(ea2806)が、つと顔を上げてユリゼに笑いかける。
「終わったら、皆で飲みましょうか♪ さっき、村の人に聞いたんだけど、あそこの酒場のローストチキンとキドニーパイが美味しいそうよ」
 羽澄の細い指先が指し示したのは、広場に面した小さな酒場であった。ドアにヒイラギのリースが飾られている。
「本当? 一人で名物料理でもいただこうかなって、考えていたの。ご一緒しても良いのかしら」
「ええ、勿論よ。少し寒さを我慢して窓を開ければ、ツリーも見えるって言ってたわ。皆で楽しみましょう?」
 見合わせた顔が、もみを見上げて綻ぶ。聖なる夜にだけ灯される灯りは、さぞかし幻想的で美しいに違いない。
 羽澄の前には、誰かのさげたロウソクがあった。表面に小さく二つのイニシャルが刻まれている。
(「来年は一緒に過ごせるかしら‥‥」)
 ふと浮かんだ顔に、羽澄の眼差しが和いだ。
「それにしても、素敵な風習よね。消えたら大変だけど‥‥」
「まぁ、そう言う時は、事故だと思って気に病まない事だよ」
 アシュレー・コーディラン(ea6883)は、あっさりと言い切り、ライラ・フロイデンタール(ea6884)と、吊したばかりのロウソクを見つめた。
『消えませんように消えませんように消えませんように‥‥』
『‥‥と言うか、こちらに鴉が来ませんように』
 などと、一心不乱に祈りを捧げたのは、つい先ほどのことである。果たしてその立場に置かれたとき、本当に気に病まずにいられるのだろうか。
 偶然にもそれを目撃してしまった四方津六都(ea2639)は、あえて問おうとしなかった。
「酒にありつけるのはありがてぇな。『邪魔者』はとっとと片づけて、酒場にシケ込むとしようぜ」
 話している間に、羽澄の準備が整ったのを見届け、六都は広場の一角に向かってブラリと歩き出す。これを見送ったポーレット・モラン(ea9589)が、至極、幸せそうな様子でユリゼと羽澄に向き直った。
「アタシちゃんは用があるからちょっと遅れるけど〜、ぜーったいに戻るからご馳走とお酒はとっといてねぇ〜?」
「なくならないように、取り分けておくわ」
 自慢の羽根で舞い上がるのを見守り、ユリゼが微笑する。
「ありがと〜♪ 今日は、マイダーリン☆ ジーザス様のお誕生日なの〜☆ だから、教会へ行ってお祝いをしてくるのよぉ〜」
 カラスの標的になることを嫌って、胸のロザリオを外してしまったが、色っぽく笑う彼女はれっきとした白の修道女であった。 
 どんな野暮用かと少なからず邪推してしまったユリゼと羽澄は、思わず顔を見合わせる。
 ジャイアントクロウは昼から夕方にかけて飛来すると、村人が言っていた。そして、まもなく昼食がやってくる。
 仲間達に手を振って空へと飛び立ったポーレットが、ツリーの上空で辺りの様子を窺っているのを見上げ、ゼタル・マグスレード(ea1798)は穏やかな顔で呟いた。
「仲間の恋もかかっているな。恋人達の青春の一ページと、村人の安全を護るのは冒険者の務め」
 皆、無粋なカラスを倒す為にやってきた。同じ気持であるのだが、ゼタルのように強い意志を伺わせる者はいない。
「ふむ。見上げた心意気であるな」
 感心して頷いたガイエル・サンドゥーラ(ea8088)に、ゼタルは微笑を返す。
「祭の日だと言うのに仕事を受けたのは、独り身で暇だったからと言う訳では無い。決して」
「そうか」
 改めて否定されては、疑わしくなると言うもの。
 ガイエルは、ゼタルをじっと見つめた。
 
 アーッ!
 黒く大きい塊が、屋根の上にヒラリと舞い降りた。右に左に飛び跳ねては、首を傾げて広場の様子を窺っている。
「来たわね。こっちよ‥‥」
 羽澄の腕の揺れにあわせて、陽を受けた銅鏡がキラキラと光る。カラスは屋根の縁へと移動し、興味深げに羽澄を見下ろした。
 次の瞬間――
 カラスは羽を広げるより早く、屋根を蹴った。
 速い。落下する速度に、羽澄の目が追い付かない。地面すれすれの位置で両翼を広げ、カラスは羽澄に襲いかかった。だが、羽澄の身は軽い。咄嗟に身をひねって急襲を躱す。
 標的を失ったカラスに、巨大な何かが急降下して、黒い背中を掠め去った。ガイエルが化身した鷲だ。
 慌てて急転回したカラスは、片翼をツリーに突っ込んで枝を揺らし、メダルを一つ落とした。
 ライラは見た。
 恋人の顔が憤怒の形相に染まるのを。
 その場所の直ぐ傍に、二人の吊したロウソクがあった。
「ア」
 シュレー、と言う続きの言葉は、もはやアシュレーの耳には届かない。抜刀した剣を手に飛び出して行く姿を後目に、ライラは気を集める。
「おいおい、話が違うんじゃねぇか?」
 アシュレーとほぼ同時に飛び出した六都は、正面から走りくる騎士の顔つきに苦笑いする。
 その斜め後方で、風が唸った。
「無粋な輩は場違いだ。速やかに退場したまえ!」
 ゼタルの放った風刃が、左翼のつけねを斬りつける。
 ポーレットは、ユリゼの傍らに降り立ち溜息をついた。
 セーラ神に仕える身として、命を奪う行為に賛成はできなかったのだ。だが、ここで逃がして再来されては、村人達の平穏を護ることはできない。
 許すことと、救うことの選択は、いつも白の徒を迷わせるようであった。
 舞い上がりかけていたカラスは、バランスを崩して落下した。肉薄する六都の前で、黒鳥は飛び立とうと暴れもがいている。
「鴉ごときが、人様の恋路を邪魔すんじゃねぇよ!」
 六都の足が地面を蹴った。上方より振り下ろした刀には容赦が無い。
 沈み込んだ刃が、カラスから逃げる気力を奪う。そこへ、ライラの放った気の塊が、追い打ちをかけた。
 一歩遅れて駆けつけたアシュレーは、絶命しかけている黒い体を見下ろした。
「どうする。放っておいても死ぬぜ?」
 六都は刀を引き抜き、曇りを拭う。
 僅かに震える羽を一瞥。
「騎士たる者、怒りに我を忘れた剣は見苦しいよ」
 アシュレーは呼吸を整えると、長剣を腰に収めた。

「綺麗‥‥」
「本当ね」
 闇に浮かぶ願いの灯火は、おごそかで暖かだった。
 小さな包みをテーブルの脇に据え、羽澄は淡いオレンジの火を見つめる。
「お土産?」
「ええ」
 ユリゼの問いに微笑を返し、羽澄はコクリと頷く。
 酒場の窓から見る風景は、どこを見ても幸せそうであった。立ち止まり、ツリーを見上げる村人達の表情が、皆にも自然と移ってしまう。
 故郷に残してきた笑顔を思い出し、ユリゼは静かに思い馳せる。
「こういうのも、悪くないな」
 ゼタルが言って、エールを傾けた。
 飲めない酒も、雰囲気に煽られ口を付ける気になってしまうから、不思議なものだ。
「羽澄。窓」
 六都に、突然、閉めろとゼスチャーされ、羽澄は腰を浮かせかける。
「寒いかしら?」
「いや」
 良く見てみろと、六都は顎で指した。
 ロウソクの火を灯す二人組に、ガイエルも気づく。
「さきほどの形相が嘘のようだが‥‥。まぁ、少し障害がある方が、刺激があって良いのであろうな」
「そうかもしれないわね。これ以上は、邪魔をしちゃ悪いから閉めるわよ?」
「それが良い。私達はこの場所で、彼らの祝福を祈るとしよう」
 そっと窓を閉める時、騎士達が手を繋ぐのが見えた。

「ママ、パパ、早く!」
 少年が両親の手を引いて歩く。
 アッシュとライラはその姿を振り返って見送った。
 二人には、子供を見ると思い出してしまう者達がいる。彼らがどうしているか気になった。
「‥‥アッシュと一緒に、家庭や子供が持てたら楽しいだろうな‥‥」
 束の間、遠い眼をしたライラが、ぽつりと呟く。アッシュはその間を読みとって、手をギュッと握り返した。
「俺、家族は多い方が良いな」
「ええっと、私も‥‥その方が嬉しいな」
 一緒に居ることへの幸福を確かめるかのように、二人は見つめ微笑みあう。
 あてもなく歩く見知らぬ地も、聖夜なら楽しい。
 アッシュは一軒の店の前で立ち止まると、ライラに向き直った。そこは帽子屋であった。
「そうだ。贈り物は何が良い? ライラに選んで貰おうと思って、まだ用意してないんだ」
「え? プレゼントなんて、気にしなくても良かったのに」
 ライラははにかみ、迷った末に、アッシュの欲しいものを尋ねた。
「俺は良いよ。ライラが居れば充分だから‥‥」
 アッシュはゆるりと首を振り微笑う。
 気遣いは嬉しかったが、一人何かを貰うのは嫌だった。悩ましげに首を傾げたライラの目に、向い側の店の看板が飛び込む。
 ライラは、アッシュの涼しげな襟元とそれを見比べ言った。
「じゃあ‥‥二人でお揃いのマフラーでも買おう?」
 アッシュの夜気にさらされ冷たくなった頬に、白い指先が触れる。
「いつも本当にありがと♪」
 嬉しそうな彼女の顔を見下ろし、アッシュは穏やかに頷いた。
  
「アタシちゃんの分は、まだ残ってるかしら〜」
 グ〜〜ッ。
 教会帰り。腹を鳴らしてポーレットが走る。
 広場を横切るとき、ツリーの傍に佇む恋人同士が目に入った。寒そうに手を合わせる彼に、娘が湯気の立つカップを渡している。
 二人の間で輝く祈りの灯を、彼は護っているようであった。
「お幸せにねぇ〜☆」
 小さな酒場のドアを開けると、ポーレットを迎える明るい仲間達の声が響いた。

●ピンナップ

ライラ・フロイデンタール(ea6884


クリスマス・恋人達のピンナップ2005
Illusted by こまこ