【Evil Shadow】襲撃、潜む闇

■ショートシナリオ&プロモート


担当:刃葉破

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:09月29日〜10月04日

リプレイ公開日:2006年10月05日

●オープニング

 メェー。
 ヤギの鳴き声が聞こえる。
 極めて普通のヤギの鳴き声が。


 イギリスの主都市であるキャメロット。
 その周辺には様々な村などがあり、そこには色んな人たちが生活していた。
 貴族達の間ではやれアーサー王だのやれラーンスロットだの‥‥様々な話が飛び交っているが、小さな村に住んでいる農民達にとってはそんな話はまるで雲の上の事。
 彼らは彼らで明日の天気がどうとか‥‥身近な事で手一杯なのだ。
 ‥‥だが、そんな彼らにも環境の変化、戦いの魔の手は伸びる。

「騎士様、こんな部屋で良ければ‥‥」
「いえいえ、大変ありがたいですよ」
 キャメロット周辺のある村の家。その家には家主の男が1人と神聖騎士の男が1人。
 神聖騎士はちょっとした用事でキャメロットの外に出て、そして今晩はこの家に泊めてもらう事になったのだ。
「本当、大したもてなしもできませんで」
「十分ですよ。本当にありがとうございます。‥‥それではお休みなさい」
「はい、お休みなさいませ」
 バタン。
 扉が閉まり、その部屋に残されたのは神聖騎士1人。
「ふぅー」
 装備をある程度外し身軽になると、質素なベッドに倒れこむように入る。
「騎士様騎士様ってそんなに立派なわけでもないんだけどなぁ」
 ぽつりと呟く神聖騎士。
 そう彼は所謂新人というもので、神聖騎士になってから日が浅い。
 実戦経験も一つも無く、剣を振るった事があるのも訓練ぐらい。
 そんな彼だから手厚い歓迎はかえって肩身が狭いのだ。
「ま、実戦なんて無いに越した事は無いんだけど‥‥」
 ふぁぁ、と欠伸を一つ。確かに実戦が無いという事は平和な事なのだから。
 だが、そんな彼の願いはこの夜打ち砕かれる。

 ――――うわぁぁぁぁ!!!?

 いきなりの悲鳴。悲鳴はそれだけにも留まらず、次々とあがる。
「な、何なんだ!?」
「いやぁぁぁぁ!」
「ぎゃぁぁぁ!!!」
 勿論、そんなのを聞いて無視していられるような人間は神聖騎士にはなれはしない。
 彼はすぐさま飛び起きると、外したばかりの鎧を着け外に出る。
「何が起きたんです!?」
「あぁ、騎士様! あれが‥‥あの怪物達が!!」
 神聖騎士の泊まった家の主が指差した先に居たのは‥‥モンスター。
 体が骨のみで構成されているスカルウォーリアーである。
 スカルウォーリアーは3体居て、1体が剣を、1体が槍を、1体が斧を。そして3体ともが盾を持っている。
 スカルウォーリアーは死人がなったモンスターなので、恐らく生前の時に持っていた武具なのだろう。
 そんなスカルウォーリアー達が村人達を襲っているのである。
「何故こんなところに‥‥いや、そんな事を考えてる場合ではないか! すいません、誰かキャメロットまで行って騎士団かギルドへ連絡を!」
「騎士様はどうするんで!?」
「応援が来るまで‥‥何とか持ちこたえてみせます!!」
 言うと同時に剣を抜き、剣を持ったスカルウォーリアーに向かって走る神聖騎士。
「はぁぁぁぁ!!!」
 がきぃん! と硬いものに剣が当たった音。しかしそれは敵に剣が当たった音ではなく。
「くっ、防がれた!?」
 実戦経験が無い故に単純かつそんなに速くも無い彼の攻撃はいとも容易く盾で防がれてしまう。
 そしてお返しとばかりに3体のスカルウォーリアーが各々の武器を振るう!
「ぐぁっ!?」
 そんな攻撃、彼が避けられる筈も無く食らってしまう。
 幸い致命傷になるのは避けたが、傷は深く、圧倒的劣勢は否めないだろう。
「何、こんな化け物が出るのは夜って決まってるんだ‥‥せめて今晩だけでも切り抜けたら‥‥」
 明日には‥‥明日には応援が来るだろう。
 彼が朝日を拝めるかどうかは別として。


 メェー。
 ヤギの鳴き声が聞こえる。
 極めて普通のヤギの鳴き声が。
 悲鳴と怒号が次々とあがり、血の匂いが充満する村から。
 メェー。
 ヤギの鳴き声が聞こえる。
 それはどことなく嬉しそうに聞こえた。

●今回の参加者

 ea2545 ソラム・ビッテンフェルト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8466 ウル・バーチェッタ(26歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2086 ジェイド・グロッシュラー(32歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb6472 アイオル・リック(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb6503 クラウド・ストライフ(20歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb7226 セティア・ルナリード(26歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

エイス・カルトヘーゲル(ea1143)/ セフィール・ランスフィールド(eb0019)/ 四神 朱雀(eb0201)/ 凍扇 雪(eb2962

●リプレイ本文

●繋がる命
 日が西の空に沈み空が暗くなり始めた頃、冒険者はその村にたどりついた。
 ギルドに襲撃の報が入ったのが、襲撃された夜の翌朝。
 それから出発したにしても中々早い到着だろう。
「今は‥‥敵などは居ないようですね」
 ジェイド・グロッシュラー(eb2086)は乗っていた馬から降りて、村の入り口から中を見渡す。
 人の血の跡、混乱の影響で燃えた家。
 様々な襲撃の爪あとが残ってはいるが、その襲撃者自体は見当たらない。
 夜が明ける頃には居なくなったのだろう。
 その為か血の跡はあるが死体は見当たらない、村人が埋葬なりなんなりしたのだろう。
 しかし、そろそろ夜が訪れる頃という事で誰も外をうろついてはいなかった。
「馬鹿やってた騎士がどうなったかぐらいは知りたいんだけどな」
 セティア・ルナリード(eb7226)は辺りを見回した上で言う。
 今回1人奮戦したという騎士の安否を知りたくてもこのままじゃ分かりそうにない。
「どこか家を訪ねて聞いてみましょう」
 ソラム・ビッテンフェルト(ea2545)の提案。冒険者達はそれに従って、近くの家を訪問するのだった。

「酷い怪我だな‥‥」
 呟いたのはウル・バーチェッタ(ea8466)。
 一行はそれから聞きまわり、騎士がいるという家までたどり着いたのだ。
 そこで見たものは、息も絶え絶えで、命はそう長くないというのが分かる騎士。
「まだ死ぬんじゃねぇぞ!」
 セティアがヒーリングポーションを取り出すと、騎士の口をこじ開けて無理矢理にでも飲まそうとする。
 少々乱暴だが、こうでもしなければ飲めないだろう。
「ガホッ! ゲホッ!」
 当然の事だが上手く飲めずに咳き込む騎士。しかし、少しは効いたのか息遣いがマシになる。
 それでもまだ放っておけば死んでしまうような怪我には違いない。
 セティアは2本目のヒーリングポーションを取り出すと、それもまた無理矢理に飲ませる。
「これも使うさね」
 イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)はリカバーポーションを取り出すと、それをソラムに渡し、ソラムが騎士に飲ませる。
 これでようやく落ち着いたのか、騎士の息も穏やかなものになり、傷も塞がっていき血も止まっていた。
 落ち着きはしたのだが、騎士の目は閉じたままで、何か情報などを聞ける状況ではなかった。
「しかし、このタイミングでアンデットの襲撃とは‥騎士団に休息を与えたくない何か、が陰に居る様ですね‥」
 呟くように言うジェイド。
 そして‥‥アンデッドは彼らにも休息を与えないように動き始めた。
「おぉ、ここに居ましたか冒険者の皆様! 奴らが‥‥化け物がまたやってきました!」
「来たか!」
 冒険者達がいる家に飛び込んでくる1人の村人。それはアンデッド襲撃の報を伝える者。アイオル・リック(eb6472)はその言葉に応えるように言い。
「よし、行くぞ!」
 アンデッドを返り討ちにする為に、陰守森写歩朗(eb7208)が声を上げて、それに続くように家を出るのであった。

●迫りくる屍
 カシャカシャカシャ‥‥。
 骨の擦れるような音。そしてチャキンチャキンと響く金属音。
 それは前日にこの村を襲ったアンデッド、3体のスカルウォーリアー。
 剣を持ったスカルウォーリアーが先頭に走るでもなく歩いてくる様相は、姿とあいまって不気味なものとなっていた。
「来た、ね。それじゃあ前もって話した通り‥‥集中して確実に減らしていくさね」
 そんな敵を目にして、イレクトラは自分のペットである馬に乗り込もうとする。
 しかし‥‥。
「うわ!? 落ち着くんだ!」
 イレクトラを乗せるのを拒否するかのように暴れだす馬。それも仕方ないだろう。戦闘用に調教されているわけでもない臆病なその馬にとって、この場に漂っている不穏な戦闘の雰囲気は耐え難いものである。
 仕方なく、馬に乗る事は諦めて馬に搭載していた清らかな聖水を懐に入れると、改めて向き合う。
 そしてそのタイミングになってアイオルが1人遅れて家の中から出てきた。
 彼は何故か装備を外したまま行動しており、それらを改めて装備するのに時間がかかったのだ。
「じゃ、上から援護といくぜ」
 セティアはリトルフライを唱え、傍の家の屋根まで登り、そこから敵を見下ろす。
 地上にいる時よりも景観が広がり、魔法による援護もしやすいものとなっていた。
「では‥‥いきますよ!」
 ソラムの唱えていた魔法が発動する! それは対象を氷の棺に閉じ込める魔法、アイスコフィン!
 先頭を歩いていた剣持ちスカルウォーリアーの周囲に一瞬霜のようなものが煌いたかと思うと、スカルウォーリアーの足元から氷が発生する。
 しかし、それもまた一瞬の事で、すぐに氷は消えてしまいスカルウォーリアーは何事も無かったかのように再度歩き始めた。
「くっ、抵抗されましたか‥‥!」
 カンラカンラ。
 まるで笑うかのように顎の骨を動かすスカルウォーリアー。ソラムの魔法により、スカルウォーリアーは改めて冒険者を敵と認識したようで、一気に距離を詰めてくる!
 そんなスカルウォーリアーに一撃を食らわせる為にウルが動く!
「アンデットにはこれがよく効くと聞いた。浄化してやる」
 壷の封を解くと、中に入っている液体を先頭の剣持ちにぶちまけるウル。
 中身は清らかな聖水。アンデッドに対して有効なダメージを与える魔法の液体である。
 グァァァァ。
 降りかかったものを嫌がるかのように身をよじる剣持ち。そしてここを攻めの好機と見て、各々が動く!
「はぁぁぁぁ!!」
 アイオルが隙だらけの剣持ちに向かい駆けて、ロングソードを縦一文字に振り下ろす!
 カキィィンという響く音。盾に防がれたわけでもなく、ちょうど左肩部分にクリーンヒットして先ほどの聖水によって骨が脆くなっていたのか、その勢いのまま振りぬくと骨は砕け、左手部分からばっさりと落ちる。
「いくぞ‥‥!」
 森写歩朗の狙いは槍を持った敵。まずは盾の無力化が肝要と装備している忍者刀で左手部分を狙うように振りぬく、が。
 キィィィン!!
 先ほどのアイオルの攻撃と違って今度は金属同士のぶつかり合いの音。スカルウォーリアーは戦闘本能で動いてるからか、大して格闘技術に長けているわけでもない森写歩朗の攻撃はいとも簡単に盾で塞いでしまう。
 返す刀で再び左腕を狙うように忍者刀を振るう森写歩朗。さすがにその連続攻撃には反応できなかったのか、食らってしまう槍持ち。
 だが、骨で構成されているからか硬いのだ、敵は。その程度で左腕が切断されたり破壊されるわけでもなく、すぐに槍で突いてくる。
 ズサッ!
 素早く回避に移る事もできず突きを貰ってしまう森写歩朗。傷は深くはないがダメージには変わりない。
「任せな、あたしが動きを止めてやるぜ!」
 苦戦している森写歩朗を見たセティアはスクロールを広げ、魔法を発動させる。その魔法はシャドウディバイディング。
 発動と同時に槍持ちの足元の影が蠢いて、そのまま足に絡みつく!
 足を縛られて敵が動けなくなっている隙に森写歩朗は後退する。
「これでも食らうさね!」
 そうして動けなくなった槍持ちに少し離れた所から清らかな聖水をぶちまけるイレクトラ。
 やはりアンデッドに対しては特効で既に軽い傷を負っていた左腕の傷が広がっていき、自重により切断されてしまったのだ。
「光よ!」
 そして手に光の球を作り出すジェイド。その光の球はホーリーライトで作り出したもので、使命を持たないアンデッドはその光に近づけないというもの。
 それを作り出し、斧を持ったスカルウォーリアーの進行を阻めるジェイド。実際、斧持ちは光を恐れるようにして近づこうとはしない。
 だが。


 メェー。


「恐れなくなった!?」
 急に光なぞ意に介さぬように動き始めた斧持ち。
 そこでまた斧持ちの周囲を霜が包み‥‥完全に氷の棺の中に閉じ込められた。
 ソラムが再度発動したアイスコフィン。今度は無事に抵抗されることなく成功した。あと1時間は動けないだろう。
 もはやホーリーライトは効果を果たさぬと判断したジェイドは新しき魔法の詠唱を始めた。
 また、ウルも1回きりの聖水を使ってしまったのでルインハンマーを両手に持ち、剣持ちへと向かう。
「接近戦はあまり得意じゃないんだがな。選り好みはしていられんか」
 剣持ちはアイオルと剣を打ち合っており、少々アイオルが不利な状況となっている。
 そんなアイオルを援護するかのように剣持ちの背面からハンマーを振り下ろすウル!
 グシャァ!
 背骨の部分が砕け散るように折れる剣持ち! とどめとばかりにジェイドの詠唱が終わった魔法が発動する!
 白い光が剣持ちを包むように広がり、浄化していく‥‥。それは浄化の魔法、ピュアリファイ。
 アンデッドに対しては最強の威力を誇る魔法であり、それでとどめをさされたアンデッドは浄化され、存在が無くなる。
 そしてこのスカルウォーリアーもその例に漏れず‥‥消滅していった。
「こっちもトドメ!」
 セティナのライトニングサンダーボルト。森写歩朗の連続攻撃。イレクトラのルインハンマーによる強力な攻撃。
 これらが重なり、槍持ちも土に還る運命となった。
 アイスコフィンの氷が溶けた斧持ちも同じ運命を辿った事は言うまでもない。

●そして忍ぶ闇
「それにしてもホーリーライトが効かなかったという事は誰かが操っていたという事になるのでしょうか」
 それは村に滞在できる間は奉仕活動をしているジェイドがふと洩らした独り言。


 メェー。
 ヤギの鳴き声が聞こえる。
 極めて普通のヤギの鳴き声が。
 その鳴き声の出所である村に隣接する森に目を向けると、そこに居たのは当然ヤギ。
 だが、そのヤギの隣には1人のヒトガタの‥‥しかしヤギの角を生やした異形の何かが立っていた。
 異形の存在は誰にも見られる事なく夜の森の中へと消えていった。

 その姿を一言で表すならそう‥‥悪魔。