【Evil Shadow】人の敵は‥‥
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:3〜7lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:5人
冒険期間:10月06日〜10月11日
リプレイ公開日:2006年10月13日
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●オープニング
燃えている。
畑が、家が、人が。
ごうごう、ごうごうと。炎は舐めるように広がっていく。
人は叫び、走る。命を守る為に。
彼の者達も叫び、走る。欲望を満たす為に。
「やめろぉぉぉ!! 俺の娘に何するつもりだ貴様らぁぁぁぁ!!!」
「いやぁぁぁぁぁっ!!!」
1組の親子の叫び。
ズサッという何かを引き裂く音と、断末魔を残して親の叫びは消えていった。
「ここも、酷いな‥‥」
先日の多くのアンデッドと冒険者や王国軍との戦いから数日たったある日。
1人の騎士がある村に訪れていた。被害状況などを調べる為である。
その村もやはり先日アンデッドに襲撃されていたのだ。
今はもうアンデッドはおらず、残るのはその爪痕。
多くの家や人が焼かれ、生き残っている村人の顔も陰鬱としたものであった。
「‥‥‥しかし、妙だな」
被害が大きすぎるのだ。
確かに普通の村人しか居ない村にアンデッドが襲撃してきたら被害は出るだろう。
だからといって、ここまで火の手が上がるとは考えにくいのだ。
別の場所では炎を使うモンスターも現れたという噂もあるが、こんな小さな地理的にも重要では無い村にそんなモンスターが襲撃してくるとは考えにくい。精々、ズゥンビやスカルウォーリアー程度の筈である。
そしてそのような低級アンデッドには火を使う性質など無いのだ。
「少し聞きたいのだが‥‥。何故、このような大きい被害が出ているのだ?」
騎士はその疑問を魂が抜けたかのような表情で座り込んでいる男に聞く。
そのような状態の男に質問するのは少々気が引けたが、それでも聞かなければいけない事なのだから仕方ない。
「‥‥人の敵は‥‥結局、人って事だよ‥‥」
「‥‥‥何?」
ぽつりと呟く男。どういう事だ、と騎士は更に言葉を重ねる。
「あの日‥‥化け物が襲撃してきた日に。‥‥近くにいる山賊達もやってきたんだよ。所謂、火事場泥棒ってやつだ。‥‥タチの悪さは段違いだがな。あいつら、あの混乱に乗じて火までつけていきやがって‥‥!」
そこまで聞き、騎士はようやく合点がいったようだ。
「あいつら‥‥食い物や金目の物取るだけに飽き足らず‥‥。くそっ‥‥! 俺の2歳になる息子も殺されちまったし、妻は攫われて今どうなっちまってるか‥‥ちくしょうっ‥‥!」
無表情だった顔が、怒りや悲しみなどの表情に変わっていき、そのまま感情のままに泣き始める。
「‥‥‥」
話を聞いた騎士は立ち上がり、男に背を向け、更に聞き込みをするのであった。
そうした聞き込みの結果分かった事は、山賊達によって多くの者が殺されて攫われた事。
混沌としていたせいもあり、どれぐらいの数の人が殺され攫われたのかも把握できていないようだ。
山賊は村から少し離れたところにある山の森にアジトを作っているようで、詳しい事は分かっていない。
「やつらこそ‥‥人の皮を被った悪魔だ‥‥!!」
とある村人の言葉が騎士の頭の中で繰り返され、騎士はギルドへと足を向けるのだった。
●リプレイ本文
●序
襲撃された村の近くの森。
ウル・バーチェッタ(ea8466)が体勢を低くして、体中に木の枝や草などをつけて密かに動いていた。
「デビル・アンデット騒動も山賊の奴らにとっては好機か‥‥。何にせよこのままのさばらせておく訳にはいかん」
彼の目的は討伐する対象の山賊の偵察。
「こんな所に罠があったか‥‥」
周りに気を配りながら動いていたウルの目に止まった罠。
このように慎重に動いていたウルはいくつかの罠を見つけ、その度に罠を解除していった。
偵察をせずにいきなり突撃していたらと思うと、この選択は正解である。
「見えてきたか」
開けた所に建っているそれ程大きくない小屋が目に入る。
山賊達のアジトなのだろう。その証拠に1人の男が見張りとして立っていた。
そして扉が開き、中から別の男が出てきた。交代なのだろう。
そのついでに言葉を交わす男達。耳を傾けるウル。
「中は?」
「何人かは壊れたが、まだいけるのが残ってるぜ」
「‥‥売り物にまで手ぇ出してねぇだろうな?」
「さすがにそこまではしてねぇよ。節度を守って楽しんでるって」
「節度も糞もあったもんじゃねぇ気がするがな」
「違いねぇ」
バタン、そして見張りの男が入れ替わる。
話を聞いたウルの顔は険しいものとなっており、仲間達の元へと移動を始めたのだった。
「‥‥反吐が出るぜ。一匹も残さずぶっ倒してやらあ」
ウルから情報を聞いた日高瑞雲(eb5295)の開口一番の言葉。
「まさに悪魔に魂売った者の所業だな。こやつらは慈悲をかけてやるほどの輩ではない。わしらが必ず冥府への引導渡してやらねばな」
タウルス・ライノセラス(eb0771)もその所業に激しい憤りの炎を燃やす。
「どんな時でも悪い事する人はいるもんねえ、でびるやアンデッドってそういう連中は襲わないのかしら?」
「きっとそういう人ほど鼻が優れてるんですよ。だから中々襲われない」
と、小さな疑問を言ってみるレイル・セレイン(ea9938)にアトラス・サンセット(eb4590)が答える。
「山賊は討伐、村人は救助。依頼拝命しました」
メグレズ・ファウンテン(eb5451)が今回の依頼内容を確認するかのように口に出す。
「被害者を救ってやりたいが‥‥」
メアリー・ペドリング(eb3630)の呟き。ウルから聞いた情報だけでも、女性達がどのような扱いを受けているかは想像に難くない。
「攫われた人がいる以上、救わねばならないでしょう」
そして何としても救うべきだと決意を口にしながら立ち上がる乱雪華(eb5818)。
彼女は露出が多い華やかなスカーレットドレスを身に纏い、歩き始める。
山賊達を誘き寄せる囮をしようというのだ。他の者達も打ち合わせ通りの定位置につく。
後は作戦通りに進めば何の問題も無い筈だった。
「‥‥何だ、あの女」
小屋から少し離れた所を歩く雪華を見つける見張りの男。
更に少し離れた所に待機するウルとメグレズとレイル。他の者達は小屋を襲撃する為に別の場所で待機している。
「兄貴! ちょっと来てくだせぇ!」
「あぁ、何かあったか?」
バタン、と小屋の中から髭の濃い男が出てくる。彼が兄貴分なのだろう。
「あんな所にすげぇいい女が! どうっす、あいつも捕まえるのは」
「どれ―――ちょっと来い」
兄貴分は雪華の方に目を向けると、少し考える素振りをしてから見張りの男を連れて小屋の中に入る。
それを見ていた冒険者達は、仲間総勢で追うのだろうか‥‥そう思った時。
「キャァァァ!?」
「いやぁぁぁ!!」
小屋の中から悲鳴が次々に上がった。
●散
「あんな格好した女が普通に考えて森の中歩いてるわけねぇだろうが! ありゃ俺達を誘う為の囮、きっと冒険者か何かだ。いいか、さっさと逃げる支度をするぞ! 売り物以外の女は皆始末しちまえ!」
それが小屋の中に戻った兄貴分の最初に放った一声。
雪華のドレスという格好はこの森の中では‥‥あまりにも不自然すぎたのだ。
それを察した山賊は、次々と服を剥がれ見るも無残な姿になっている女性達を更に無残な姿へと変えていく。
ある者は心臓を剣で一突き、またある者はラージハンマーで果物でも潰すかのように頭を潰す。
バタン!!
小屋の中で何が起きているのかを察した冒険者達はすぐに小屋の中に突入するが、売り物と呼ばれた女性達以外は‥‥既にただの肉塊と化していた。
小屋の中は殺された者達の血が飛び散り、赤一色。そして鼻にくる臭い、それすらも凌ぐ強烈な血の臭いが混ざり合い不愉快極まりない臭いとなっていた。
「貴様ら‥‥‥!」
あまりの惨状にメアリーは怒りの感情を隠そうともせずに言葉を山賊達にぶつける。
「今助けに来た。あと少しがんばられよ!」
メアリーが言い、生きている女性の方に目を向けると。
「動くんじゃねぇぞ!!」
1人の山賊の叫び声。そこには先ほどまで見張りをしていた男が剣をまだ生きている女性の1人の首元に突きつけていた。
「それ以上動くと、どうなっても知らねぇぞ!!」
「いやぁぁ‥‥!」
思わず動きを止める冒険者達。その隙に山賊達は扉と反対方向の壁に寄り、武器を構える。
山賊は4人。人質を取っている軽装の男、リーダー格と思われるノーマルソードを両手で持つ男。手に巨大なハンマー、重厚な鎧を身に着けている男。そして弓矢使いの男である。
「くそっ‥‥!」
人質の身を守る為に刀をその場に捨てる瑞雲。
「よし。それじゃあ他のやつらも同じように―――何だ? 体が!?」
「コアギュレイトを唱えたわ! 今よ!」
人質を取ってる山賊の体の動きが急に止まる。
それは高速詠唱で唱えられたレイルのコアギュレイトの縛めによるもの。
そして今がチャンスとばかりに冒険者達も動き始める!
「破刀、天昇!」
メグレズのソードボンバーの衝撃波が山賊達を襲う! 動けぬ山賊は範囲外だ。
しかし、それを難なく避ける山賊達。重装甲の者までもだ。
「早いな‥‥。大振りは当たらんか!」
オーラパワーを付与した名剣ビターファーを手に兄貴分に向かい走るタウラス。
先ほどの動きから相手がかなりの実力者だと悟ったので確実に当てるように剣を振るう!
しかし兄貴分はその攻撃を避ける素振りすら見せずに剣を構えたままだ。
ザシュッ!
兄貴分の鎧を貫通する剣。そして直後に煌く閃光!
グシャッ!!
「な‥‥がはっ!」
血を吐くタウラス。兄貴分がタウラスの攻撃に合わせて思いっきり剣を振るったのだ。勿論兄貴分もダメージを食らうが、ダメージとしてはタウラスの方が大きい。
ふらつくタウラスにトドメを刺そうと剣を振り下ろそうとする兄貴分。
しかし、1本の矢が彼の鎧の隙間を抜けて、腹に突き刺さる!
「手加減はせんぞ‥‥!」
ウルの放った矢! 彼の狙いは的確で、そのダメージにより剣を振り下ろせず、タウラスはその隙に下がる!
「うらぁぁ!!」
瑞雲は先ほど捨てた刀を拾い、怪我を負ってない敵ならば絶対に当たらぬような大振りをそのまま兄貴分に!
ズシュァッ!!
「ぐぁっ!?」
更にトドメとばかりに刀をもう一度思いっきり振るい‥‥兄貴分を絶命させた。
こうして各々が戦ってる中、雪華の動きがおかしくなっていた。
血まみれの小屋の中に入った時からだ。しばらく唸っていたかと思うと――雪華の瞳が赤く染まった。
「ウァァァァ!!」
ハーフエルフである彼女は多量の血を見ると、狂化してしまうのだ。
髪を逆立てた状態で重装甲の男に向かい走り出す雪華! 理性無き拳を振るう!
カキィン。
男は軽く身を動かすだけで拳を鎧の硬い部分で受け止める。
そして、そのままハンマーを力任せに‥‥叩き付けた。
グシャメキィッ!!
それは理性無き雪華では避ける事敵わず。
骨が折れる音、内臓が潰れる音が響く。慣性のまま吹き飛び床に叩きつけられる雪華!
「かふっ‥‥! はぁ‥‥くぅ‥‥」
気合を入れたらまだ戦えるだろうが狂化している彼女にとっては無理な話だ。
「ハーフエルフ風情が――何?」
雪華を見下すようにしていた男の動きが止まる。
「ハーフエルフで悪いかしら?」
またもやレイルの放ったコアギュレイトが男の動きを止めたのだ。
もし彼女がこの依頼に参加していなければ、力量の高い山賊達に軍配が上がっていたかもしれない。
「逃がしません!」
劣勢と見た弓使いの山賊が扉から外に出ようと走り始めたのを剣を突きつけて止めるアトラス。
そこへ射角を調整したメアリーのグラビティーキャノンが炸裂!
弓使いはそのまま転倒し、取り押さえられた。
●救
それから動けぬ山賊2人はコアギュレイトの効果が切れる前に首を刎ねられ、弓使いのみが縛られている状態となっていた。
冒険者達の傷はレイルのリカバーにより癒されていた。
そして小屋の外。
攫われた女性は一部の者に任せて、捕まえた弓使いを尋問していた。
「攫った村人の居場所、白状してもらいます。容赦するつもりはありませんので」
「はっ、あれで全部だ」
メグレズの尋問に悪態をついて答える山賊。
そんな様子にキレた瑞雲は刀を抜くと。
「俺が直々に引導を渡してやるよ!」
「ひっ!?」
刀を振るい‥‥首のところで寸止めする。
「怖かったか? お前らに殺された人たちはもっと怖くて苦しくて辛かったんだよ」
そして被害者の女性達は冒険者達の持ってきた毛布に包まっていた。
惨たらしいモノを見たからか‥‥身体的には被害は無いものの、精神的には大変不安定になっていた。
「大丈夫だ、大丈夫。‥‥もう家に帰れるからな?」
優しく声をかけるメアリー。その言葉に頷くように首を何度も泣きながら縦に振る女性達。
彼女らの人生はこの先大変なものとなるであろう。男性に近づく事すら困難になるかもしれない。
「どうするかは、結局の所自ら決めるしかないですから」
アトラスはそんな彼女達を遠くから見ながら、何かを思い出すようにぽつりと呟くのだった。