血に染まる騎士
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■ショートシナリオ
担当:刃葉破
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:7人
サポート参加人数:5人
冒険期間:12月15日〜12月20日
リプレイ公開日:2006年12月23日
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●オープニング
「力が欲しいか?」
「かっはぁ‥‥! くれ‥‥! 俺の憎いやつ全てぶち殺せる力‥‥!」
「クク‥‥いいだろう、ならばその証として――――」
「―――殺せ」
「騎士様ー、ここに野菜置いときますね」
「あぁ、ありがとう」
太陽がちょうど人々の真上に昇る頃。キャメロットから遠く離れてないその穏やかな村には1人の騎士が滞在していた。
彼は持ち前の人の良さからすっかり村の住人に馴染み、様々な施しを受けるまでになっていた。
また、その代償として彼は村の警備も務めており、村は平和そのもの。
今日ものんびりとした午後を過ごしていた。
そして日は沈む。
「よし、今日も特に異常は無し‥‥っと」
日課の日記を書き終える騎士。そのまま疲れを飛ばすように両手をあげて、うーんと大きく伸びをする。
明日も早いし寝るか‥‥そう思った騎士が寝るための準備を始めた時、彼は家の外の騒ぎに気づいた。
ガシャガシャという金属が当たるような音。
ズシャッという肉が断たれる音。
そして――悲鳴。
「襲撃されている!?」
そう察した騎士はすぐさま鎧と剣を装備し、家を飛び出す!
そして目に入った光景は、スカルウォーリアー――骨で構成されたアンデッドモンスター――が村人達を襲っている光景。
「な、これは‥‥‥いや‥‥!」
戸惑ったものの、迷ってる暇はないと判断した騎士は身近なところにいたスカルウォーリアー向けて走り出す。
毎日安穏と暮らしている彼だが、しっかりと経験を積んだ身。スカルウォーリアー相手なら数体相手でも1人で何とかなるだろう。
―――しかし。
「まぁ、待てよ。アレン」
「!?」
自分の名を呼ばれ、声がした方を振り向く騎士。そこに立っていたのは男だった。
黒い鎧に身を包み、鈍重そうな幅広の剣を片手に持つ男。鎧の色や雰囲気によっては騎士という言葉に相応しい存在だっただろう。
しかし彼の雰囲気に相応しい言葉を当てはめると‥‥‥そう、悪魔の騎士。
狂気に彩られた笑顔を浮かべ、視線は焦点が定まっていない。そしてその鎧は――血に塗れていた。
「貴様は‥‥ジオーレ! 何故こんな所に‥‥いや、これは貴様がやった事なのか!?」
「くははははぁ! ノーとは‥‥言えねぇなぁ?」
「ならば貴様を倒すまで!」
アレンという名の騎士は走る。騎士の誇りと使命を胸に。許されざる悪逆非道の根源を断つ為に。
カキィン!
アレンの振り下ろした剣を難なく黒の鎧の男――ジオーレ――は剣で受け止める。
「ははっ! いいのか? 俺を相手してる間に貴様の守るべき民はどんどん殺されていくんだぞ!」
ジオーレの言葉通り、スカルウォーリアー達は2人の戦いを気にしないかのように、どんどん屍を作っていく。
「貴様を倒さねば‥‥結局意味はあるまい!」
「ちがいねぇ!!」
お互いが剣に力をいれ、双方を吹き飛ばし距離ができる。
そしてその距離を縮めるようにアレンは跳躍するようにステップし、剣をジオーレの首に向かい振るう!
ぐさっ。
「お前は‥‥なーんにも成長していねぇな。同期の頃からよぉ?」
「‥‥かはっ‥‥ぐ‥‥!」
ジオーレの首が刎ねられたかと思った矢先、地に倒れていたのは腹部を剣で貫通されたアレン。
「いっつもみえみえで直線的な剣で撃ってくるからよくこうして俺がカウンター決めてやったよなぁ、稽古の時は」
「黙れ‥‥ぐ‥‥貴様がぁっ! 昔話を口にするな‥‥!!」
「はっ! 俺には昔話も許されてないと来ましたか。まぁいい。―――死ね」
振り下ろされる死。そしてアレンを避ける事かなわず―――。
「ここ最近、村が襲撃される事件が起きています」
キャメロットギルドの受付、1人の女性騎士が依頼をしにきたようだった。
「そして襲われる村の共通点、犯人も目星はつけました」
「それは‥‥何でしょうか?」
ふぅ、と一息ついてから口を開く女性騎士。
「犯人の名はジオーレ、元騎士。そして騎士にあるまじき‥‥いえ、人にあるまじき行為をした為に破門になった男。幾分か前に逃走した彼を捕縛する指令も出たのですが、未だに捕まらず逃亡中の身。そのジオーレが‥‥十中八九犯人でしょう」
「根拠は?」
「襲われた村では‥‥騎士が滞在していました。ジオーレと過去にチームを組んでいた騎士が。ジオーレの悪行を日の目に晒した騎士達が。そしてその騎士たちは‥‥みな殺されています、ただ1人を除いて」
「ただ1人を除いて、ですか?」
「はい。そして‥‥私が最後の1人。メアリ・ナーリシェンです」
訪れる沈黙。
「成る程、大体は分かりました。メアリさん‥‥あなたが囮となるから、ジオーレを倒して欲しい‥‥そういう事ですね」
「理解が早くて助かります。本来なら騎士団の力も借りたいのですが‥‥ごたごたしていますので」
「しかし、彼は本当に襲ってきますかね?」
半ば答えが分かっている受付係だが、それでも一応疑問を口に出す。
「きますよ。例え森の中でも村の中でも都市の中でも。‥‥彼はどうしようもないぐらい執拗で、強い男ですから」
「ははははっ! ついに残るはメアリだけか! あいつを殺せば俺は更なる力を‥‥!!」
どこかの闇に包まれた森。ジオーレは誰に言うわけでもなく1人で笑う。‥‥彼の背後には数体の骨の騎士がいたが。
「あいつも気前がいいなぁ、手ごまを用意してくれるなんてよぉ。さてと、いい感じに殺せてるし―――」
「思いっきり殺してやるとしますか」
メェー。
ヤギの鳴き声が聞こえた。
●リプレイ本文
●迫る鬼気
キャメロットからある程度離れた平原。そこには依頼者のメアリ・ナーリシェンと冒険者達が居た。
見晴らしが良く人気の無いところで戦いたい為だ。
「元は騎士でありながら数々の残虐な振る舞い‥‥許せないな」
「何だか寒気さ‥‥というより嫌な予感がします」
ジオーレに対する怒りを露にする七神蒼汰(ea7244)に気張った表情で言葉を続けるディアナ・シャンティーネ(eb3412)。
「んん? お嬢さん、大丈夫かの?」
「だ、大丈夫です‥‥」
そんなディアナの緊張を察したのかカメノフ・セーニン(eb3349)が声をかけるが、ディアナは平静を装うように返事をする。
「それにしても人とアンデッドが一緒にいるなんておかしいぜ。イヤーな感じがするな」
「まったくです。‥‥手ごわそうな相手ですね」
何か裏があるのでは‥‥と勘繰るセティア・ルナリード(eb7226)。気を引き締める山本修一郎(eb1293)。
「では、夜になるまで各々待機しましょう」
乱雪華(eb5818)の提案。
メアリからジオーレは夜になるまで出てこないと聞いた為である。その提案に反対する者はいなかった。
「いよっと‥‥。どんな感じだ?」
「成る程、強いですね」
日も暮れ始めた頃、剣と剣のぶつかる音。
それは日高瑞雲(eb5295)とメアリが打ち合った音。瑞雲が手合わせを頼んだのだ。
「俺とジオーレ。どっちが強い?」
「そうですね‥‥1対1ではやはりジオーレに分があるかと。ただ、連携次第では十分勝機があります」
日が沈んできた。セティア達が焚き火の準備を始める。
ついでに蒼汰はセティアから道返の石を借りて念じ、アンデッドに対する結界を張る。
「近づいて攻撃してもカウンター。近づかなくてもジリ貧になる‥‥強敵です。」
「ジリ貧になるってのはどういう事ですか?」
傍にいたディアナが質問をぶつける。
「それはですね‥‥」
メアリが答えようとしたその時――。
風が一瞬止まった。
ただの偶然だろう。しかし嫌な気配がする。その気配の元へと一斉に顔を向ける冒険者達。
そこには‥‥黒い騎士がいた。
●人の力
「よぉ、メアリ」
「ジオーレ‥‥!」
日が落ち、闇に包まれた頃ジオーレが現れた。3体のスカルウォーリアーを連れてだ。
あまりにも堂々と現れた為に、カメノフが目を光らせていたが意味は無かった。
「そいつらがお前の味方ってわけか! 頼もしいねぇ?」
言いながら淡いピンク色に光に包まれるジオーレ。オーラエリベイションだ。
「貴様‥‥!!」
人を馬鹿にしたような言動に怒り、今にも突っかかりそうなメアリだったが、そんな彼女を瑞雲が手で制する。
「いいか? 間違っても我を忘れて突っ込んでくんじゃねえぞ? 様々な感情はあんだろうが、今俺らがすべきことはジオーレの掃討、それだけだ。だからあんたもやるべき事をしっかりやってくれ」
「くっ‥‥!」
懐を漁っている蒼汰。取り出したのは石の中の蝶というデビルの有無を調べる為のアイテム。
「周りにデビルは‥‥いないようだな」
石の中の蝶はピクリとも動いていなかった。
そしてそれぞれが戦闘態勢に入る。修一郎は自身の武器にオーラパワーを付与し、攻撃力を上げる。
「それじゃあ‥‥コロシアイとイコウカ?」
戦闘開始と告げたジオーレ。だがジオーレはその場から動かず、動き始めたのはスカルウォーリアーのみ。
冒険者達も動かぬわけにはいかないと何人かがスカルウォーリアーに、何人かがジオーレへと走り出す。
セティアはリトルフライで上空へ。雪華はアンデッド対策に鳴弦の弓をかき鳴らす。
ちなみにメアリはジオーレに近づき過ぎないように、とディアナと共にスカルウォーリアー相手に動いている。
「くく、雑魚相手に随分と減ってくれたな」
ぽつりと呟いたジオーレ。だがその言葉は誰の耳にも入らず。
「よし、この辺じゃな」
ある程度ジオーレに近づいたところでアグラベイションのスクロールを広げるカメノフ。
アグラベイションの射程を考えると遠すぎても駄目なのだ。しかし‥‥。
「駄目だ! その距離はあなたにとっては危険すぎる!」
「なんじゃと?」
その様子を見たメアリが警告を飛ばす! だが時既に遅し。
「あぁ、そうだな。――十分射程圏内だ」
ずしゃっ!
次の瞬間、肉が切り裂かれる音と共に倒れるカメノフ。ジオーレは剣を振り下ろした体勢だ。
ソニックブーム。剣を振りぬいて真空波を飛ばして攻撃する技術。その射程はアグラベイションと同等。
「がはっ! けふっ‥‥!」
地に倒れ伏せた状態で血を吐くカメノフ。今の一撃でもはや瀕死状態となってしまっている。
「爺さん! これが近づかなければいけない理由かよ!」
先ほどメアリが発しようとした言葉が分かった瑞雲。全速力で走るが重装備故にその歩みは遅く、同じく走っていた修一郎が先にジオーレの元へ着いた。
しかしジオーレが体勢を整えるには十分すぎる時間。
「ここで、始末をつけさせてもらいます」
連携が大事だと分かっていた修一郎だが、近づかなければ結局ソニックブームの被害にあってしまう為に近づいて攻撃を仕掛ける!
その攻撃の目的は武器破壊。ジオーレの持っているジャイアントソード目掛けてウォーアックスを振るう!
「あぁん?」
だが圧倒的に威力が足りない。ジオーレの持つジャイアントソードには傷すらつかない。
「くっ! ならば‥‥!」
武器破壊目的のバーストアタックには意味が無い事を悟ると、普通に攻撃を仕掛けるしかない修一郎。
ジオーレの隙だらけの胴に向かい武器を振るう‥‥が。
「ご苦労様」
カキィ――ぐしゃっ!
ジオーレは回避する素振りすら見せなかった。そうそのまま刃がくいこめば‥‥。
だがジオーレについた傷は僅かなもの。そして攻撃を仕掛けた筈の修一郎は‥‥倒れていた。
「ぐぅ‥‥!」
急所を避けるようにして被るダメージを減少させる技術、デッドorライブ。
相手の仕掛けた攻撃をきっかけに通常より遥かに大きいダメージを与えるカウンターアタック。
攻撃に武器の重さを乗せる事で相当な破壊力を生み出すスマッシュ。
3つの技術の合成によりその場に立つジオーレと瀕死状態で地に伏せる修一郎という絵ができたのである。
「あんた、十分強いじゃねぇか!」
やっとジオーレに接近した瑞雲は相手が避ける気が無い事を理解し、スマッシュでジオーレに攻撃を仕掛ける!
「ぐむぅ! だが‥‥足りん!!」
瑞雲の攻撃は急所を避けても十分ダメージが大きい。しかしそれを承知で受けた後にカウンタースマッシュを仕掛けるジオーレ!
「あんた‥‥どうしてそこまで力が欲しい!」
そのカウンタースマッシュをすかさず隼人の盾で受け止める瑞雲。
「人が力を追い求める事に理由なぞあるかぁっ!!」
ジオーレの咆哮。大上段から振り下ろすスマッシュ!
装備の重さ故にもう受ける為に動く事もできず、また避ける事敵わない攻撃をただ受けるしかない瑞雲!
「くっ‥‥!」
強い。大きな傷を負ったがポーションで回復してる暇なんてのは無いだろう。
1対1では負ける‥‥その言葉を思い出したその時。
「大丈夫か!?」
そこにスカルウォーリアーを全て退治し終えた蒼汰達がやってきた。
蒼汰は装備を変えて、素早く動けるものとなっている。
「駄目です! 傷が深すぎます!」
「んじゃ私のポーションを!」
血まみれで倒れているカメノフと修一郎をリカバーで治そうとしたディアナだったが、彼女の腕ではとても治せない傷。そこでセティアは持っていたヒーリングポーションを渡す。
「弱いやつこそよく群れる‥‥!」
「だがあなたはその者達に敗れるのです!」
ジオーレの言葉に雪華は言葉を返す。
「やれるもんならやってみろぁ!!」
咆哮。一斉に攻撃を仕掛ける冒険者達!
「夢想七神流、七神蒼汰 推して参る!」
「夢想七神流抜刀術、奥義『霞刃』!」
「ぐっ!」
蒼汰の刀を鞘に隠してからの高速の抜刀術! その刀は鎧の隙間にするりと入っていき、直接体にダメージを与える!
見えない攻撃に対してはカウンターもままならぬ故にただ攻撃を受けるしかないジオーレ!
「ならば私も‥‥鳥爪撃!!」
追い討ちをかけるかのように高速の蹴りをする雪華。その攻撃も見えぬ者には受ける事のできない攻撃である‥‥が!
「そいつは見えるぜぇ!」
体で受けた後にやはりカウンタースマッシュを繰り出すジオーレ! 咄嗟に既に作っていたオーラシールドでその攻撃を受け流す雪華!
ジオーレは多量の出血のせいで動きが鈍っている。もし万全だったら雪華はその攻撃を受けれなかっただろう。
「いい加減にしな!」
空中からライトニングサンダーボルトを撃つセティア。
「はははは! 力を、力をもっとくれよ!! はははははっ!!」
自分の血にまみれたまま剣を振るジオーレ。その精神はもはや正気ではなく。
どさっ。
その血に染まる騎士に止めを刺したのは誰だったろうか。
●力とは
「‥‥しかし、あれで更に力を求めるか」
全てを終え、手持ちのポーションやディアナのリカバーで治療を終えた後の蒼汰の呟き。
「力を否定はしませんが、その使い道次第ではただの凶器にしかなりません。だから力を持つことを‥‥討たれる側の痛みを思うと私は恐い。ですが、想いだけでは凶器・暴力を止めることは出来ません。力を持つには未熟なので、さらに私自身を磨いておく必要がありますけど‥‥」
力とは何か、深く考えるディアナ。
「そうだな。あいつは‥‥力の使い道を間違えた」
ディアナの考えに同意するセティア。
「増援が出る様子も無いですし、引き上げましょう」
雪華が言い、皆がそれに同意する。
「‥‥? 誰かに見られてる?」
ふとメアリの背筋に走った悪寒。振り向いたが誰もおらず、気のせいだったかと冒険者達と共に街へと戻る。
メェー。
誰もいなくなったその場所で、ヤギの鳴き声が聞こえた。