霧の中に潜むもの

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:8人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2007年01月12日

●オープニング

 霧が広がる。
 霧が包む。
 辺りはぼんやりとした景色に変わる。
 例え何かが動いても。注意しないとそう気づけないだろう。
 そう、潜んでいるのなら尚更‥‥。

「霧か‥‥」
 まだ日が昇り始めた時間帯、1人の男が山道を歩いていた。
 何てことは無い、ただの旅人である。
 キャメロットからそう遠くないところにあるこの山道は旅人達がよく通る道。
 朝といえば霧もそれなりに出てくる場所である。
 霧で見通しが悪くなるとはいえ、道自体は広いもので危険性はまったくといっていいほど無い。

 ――――普段なら。

「‥‥うん? 何でこんなとこに骨が‥‥」
 道を歩いていると、ふと白いものが落ちているのが見えたので、足を止めてよく見てみる旅人。
 それは何かと思えば、生き物の骨。
「野生動物のかな。それにしても骨だけってのは気になるけど‥‥」
 旅人は好奇心から骨を拾い上げてまじまじと観察する。
 じっくりと見ているとふと気になる点が。
「なんだ‥‥?」
 その骨は‥‥まるで何かに溶かされたように。
 ―――この場に留まるのはいけない。
 悪寒が旅人の背筋を這い、すぐさまこの霧を抜ける為に立ち上がり走ろうとする。
 だが、遅かった。
「う、うわぁぁぁぁ!!!?」
 霧が―――襲ってきた。

 そして旅人も骨になった。



「ふむふむ‥‥山道に発生する霧が生き物を襲って溶かす、と」
 キャメロットギルドに持ち込まれた依頼。
 それは襲ってくる霧の正体を突き止め、駆除する事。
 霧が発生した時にそこを通ろうとした者は例外なく、何かに襲われているのだ。
 生きてその場を抜けた者もいるが霧に食われた者の数の方が圧倒的に多い。
「そんなものがあったらその道通れませんからねぇ。分かりました、依頼を受け付けましょう」

●今回の参加者

 ea6384 ギリエル・クルーガー(33歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb5297 クリスティアン・クリスティン(34歳・♂・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb7708 陰守 清十郎(29歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb8240 ソフィア・スィテリアード(29歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8535 皆守 桔梗(26歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9639 イスラフィル・レイナード(23歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ec0218 アンリ・カミュ(31歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

日高 祥雲(eb1749)/ 若宮 天鐘(eb2156)/ 日高 瑞雲(eb5295)/ 龍一 歩々夢風(eb5296)/ エレイン・ラ・ファイエット(eb5299)/ 陰守 森写歩朗(eb7208)/ ソル・アレニオス(eb7575)/ フワル・アールマティ(eb9403

●リプレイ本文

●準備したけど
 場所はとある山道の入り口付近。
 あたりは物静かで何かモンスターが飛び出してくる気配は少しもなく、静寂な森が山道の両側に広がっている。
 時間帯的には昼頃といった感じで、霧はとっくに晴れてしまっている。
 そこに依頼を受けた冒険者達は集まっていた。
 ‥‥霧に潜むものを退治する為の下準備である。
 と、1人のクレリックの男性が走りながらやってきて‥‥こけた。
「‥‥っと、こほん。準備して何ですが‥‥無駄に終わりそうです」
「えぇー。せっかく作ったのに」
 こけた男性‥‥クリスティアン・クリスティン(eb5297)ははすぐに起き上がって服についた汚れを手で払うと、少し息を整えて、少し申し訳無さそうに告げる。そして彼の言葉を受けてがっかりする志士、剣真(eb7311)。彼の傍には藁や木で作られた案山子がいくつか置いてあった。
「しかし、何故無駄に?」
 真と同じく案山子作りをしていたイスラフィル・レイナード(eb9639)の尤もな疑問だ。
「単純な事です。‥‥相手には視覚がありませんから」
 告げるクリスティアン。彼がここに遅れて到着した理由は、図書館での調べ物に時間を割いていた為である。数人の知り合いに手伝ってもらい、何とか調査を終えたのだ。
「視覚が無い‥‥ですか。ジェル系ってそうなんですか?」
 ソフィア・スィテリアード(eb8240)の言葉。彼女は霧の中に潜むものに遭遇していながら生き残った人たちなどに話を聞いて、何者の仕業か特定しようとしていた。彼女もまた、その聞き込みを元に図書館での調べ物をしたりしていたのだが、このような状況に合致するモンスターの特定――クラウドジェル――が限界だった。
「はい、ソフィアさんの聞き込み情報などから考えても今回の敵は恐らくクラウドジェル。このモンスターは視覚ではなく、温度や音などの様々な感覚で獲物を捕捉するそうです」
「うーん、それじゃあ案山子は意味無いですね」
 クリスティアンの説明を受けて、腕組をして納得するアンリ・カミュ(ec0218)。
「でもせっかく作ったんですし、敵がそのクラウドジェルとやらじゃない可能性も無くは無いんですから、一応設置しましょうか?」
 作ったのに使わないのは勿体無いとの陰守清十郎(eb7708)の言葉。
「‥‥そうだな、万が一引っかからない可能性が無いと言えんか」
 イスラフィルもその言葉に納得し、どうせだからと案山子の仕上げをする。
 そして次の日の朝を迎える事となった。

●急襲
 翌日。冒険者達は昨日と同じ場所に集まっていた。但し、この日は夜明けの少し前だ。
「ウェザーフォーノリッヂで天候予想して‥‥あれ?」
 清十郎がスクロールを広げて、天候を予想する魔法を発動させる。結果は霧かと思いきや晴れ。
 それもそうでウェザーフォーノリッヂは6時間後の天気しか分からない。さすがに霧も晴れる頃だろう。
 更に清十郎は神秘のタロット、神秘の水晶球を広げて占いを始めるが‥‥。
「むむ、苦戦しそう‥‥といった事しか分かりませんね」
 占いで襲撃時間や場所などを占おうとしてたのだが、占いはそんなに便利なものではないのだ。
「それならそれで仕方ないさ。打ち合わせ通りに動こう」
 真の言葉に冒険者達は頷き、予定通りに案山子の設置などをしていく。
「霧に乗じて襲うとは‥‥なかなか上手いやり口だな」
「人を溶かす怪物、ですか‥‥交通の安全のためにも、退治しないといけないですね」
 そうして行動しつつイスラフィルは敵のやり方に感心して、ソフィアはそんな危険な存在を野放しにするわけにはいかないと何としてでも倒すといきこんでいた。プラントコントロールで木の枝を操り、周囲の木に何か隠れてないかとチェックするぐらいの周到ぶりだ。
「あ、夜が明けますよ」
 アンリが地平線の方を指差すと、そこには昇ってくる日。夜明けだ。
 日の光はどんどんと広がっていき、辺りはどんどんと明るくなる。普段なら、夜より朝の方が視界はいいだろう。しかし‥‥。
「問題の霧ですか‥‥」
 霧というのは太陽の光が当たる事によってはっきり人の目に映るもの。今、冒険者達がいる場所をクリスティアンの言う通り結構な濃さの霧が包んでいたのだ。

 しばらくが経った。夜は完全に明けている。
 霧は相変わらず濃く、近くなら何とか見えるが遠くはほぼ何も見えないと言っていい状況だ。
 そう、ここで静かに何かが動いても‥‥よっぽど勘が良い人でないと気づくことは無理だろう。
 冒険者達は全ての感覚を鋭敏に張り巡らせ、どんな小さな音も聞き逃さないように、どんな事も見逃さないように気をつけるが‥‥。
「―――く、っあ!?」
 突如真の背中に走った激痛を伴う熱さ。すぐにそれから逃れる為にその場を飛びながら離れ、外套を脱ぎ捨てる! すぐに動いたものの、服の背中の部分はある程度溶けてしまい、背中の皮膚までダメージが及んでいた。
 そして振り向いた真の視界に映ったのは。
「これが‥‥クラウドジェルか!」
 空中に浮かぶ緑色の不定形物質‥‥いやモンスター。霧と共に接近し、その性質ゆえ非常に気づかれにくい。大きさとしてはシフールの2倍といったところか。
「現われたか! ―――つぅ!?」
 真の声に気を取られ、イスラフィルがその声がする方を振り向いたその瞬間。目の前に現われたのは‥‥やはりクラウドジェル! いつの間にか接近を許していたらしい。
 いきなりの事だったので、すぐに動く事もできずクラウドジェルはイスラフィルの胸の部分にくっつくように接触する! 触れるものを溶かす酸の体が鎧の隙間から潜り込み、イスラフィルの皮膚を焼いていく!
「ぐぅ‥‥くっ!」
 イスラフィルは何とか体勢を取って、すぐにステップで後退するように動くが、その装備の重さのせいもあり、大した距離を取ることができない!
「木々よ、彼の者に縛めを!」
 イスラフィルの危機を察したアンリがすぐに魔法を唱え、詠唱が終わり次第発動する。その魔法はプラントコントロール。道の両側の木々の蔓が伸びて、イスラフィルを襲ったクラウドジェルを縛るように絡みつく!
「今のうちに早く離れてください! 恐らく長くは持ちません!」
 アンリの言う通り、今は何とかクラウドジェルの動きを止める事ができているが、あまり丈夫とは言えない蔓である。そのうち外されてしまうだろう。
「ついに敵が‥‥って、うわぁ!? こっちにも!?」
 清十郎が辺りを見回すと、そこに見えるは3体目のクラウドジェル。しかし、気づくのが早かった為、何とか不意打ちは逃れた。
「すぐにこの場所を知らせなければ‥‥!」
 そして清十郎がスクロールを広げる。その内容は――ダズリングアーマー。体を激しく発光させて目くらましする為の魔法。尤も視覚の無いクラウドジェルにはまったくもって意味がなく、辺りを照らすのが目的である‥‥が。
「くぅ!?」
「見えない‥‥だと!?」
 その魔法は当然味方にも効果を及ぼす。事前に使うのが分かってるから気をつけたとしても、ダズリングアーマーは魔法、それに抵抗できなければ意味が無いのだ。
 比較的精霊魔法には耐性のある者は何とか抵抗に成功するが、真とイスラフィルは影響をもろに受けてしまう!
 だが幸いにも相手には避ける意思というものがまったく無いのか、真が振るった槍による攻撃はまったく回避される事なくクラウドジェルを貫いていた。とはいっても、浅くしか貫けず大したダメージにはなってないだろう。
「すぐに治療を!」
 クリスティアンは真の傍まで駆け寄ると、背中の傷を癒すべくリカバーを唱える。その治癒の魔法は無事発動し、真の傷を塞いでいく。
「さすがに木を警戒しても意味は無さそうですね‥‥。ならば、少しでも早く数を減らすために!」
 ソフィアは場所を調整するように移動を始め、立ち止まり魔法の詠唱。そして発動した魔法は‥‥グラビティーキャノン。重力波でダメージを与える魔法である。
 先ほど真が槍で突いたクラウドジェルを対象に発射されるそれは、クラウドジェルの体を少しではあるが吹き飛ばす!
「ふっ!」
 イスラフィルも、装備の重さからか矢を番えて射撃するまでに手間取り相当に時間を要したが、集中攻撃するようにその矢もまた同じクラウドジェルを貫く! やはり大した傷はつけることができないが、積み重ねが大事なのである。
「くっ‥‥今の私にできることは‥‥」
 清十郎の葛藤。彼が携帯しているスクロールで攻撃できるのはヘブンリィライトニングとムーンアローだけだが、その2つとも発動する条件を満たしていない。また、彼が唯一唱える事のできる魔法であるスリープはクラウドジェルには効かない魔法である。今の彼に出来る事は‥‥無かった。
「1体ずつ、集中して倒すんだ!」
「はい!」
 真の指示通り、傷ついたクラウドジェルに攻撃を集中していく冒険者達。
 他のクラウドジェルもプラントコントロールの縛めから抜け出し、接触してきたがそれの回避は難しいものの、一度突き放せば再度攻撃してくるまでに相当の間があり、その時についた傷はクリスティアンのリカバーでその度に癒していった。
 そうしてクラウドジェルは1体が地に落ち動かなくなり、また別の1体が‥‥そして最後の1体も動かなくなった。

●霧が晴れて
「ふむ‥‥っと、触るのは危ないですかね」
 地に落ち、動かなくなったクラウドジェルを観察してメモをしているアンリ。後々、然るべきところに報告をするつもりなのだろう。
「これは‥‥亡くなった方の骨、ですか」
 霧も晴れて辺りを見回せるようになったソフィアが見つけたのは恐らくクラウドジェルの捕食されたと思わしき人の骨。彼女はそれを見つけると、弔いを始める。
「何とか倒した事だし、帰るとするか」
 そう言いながら真が歩き始めた道は来た時とまったく違う道。一斉に他の冒険者がその軌道を修正するのだった。