褌ライダー裸王

■ショートシナリオ


担当:刃葉破

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月24日〜03月01日

リプレイ公開日:2007年03月01日

●オープニング

 キャメロットの夜に悪の笑いがこだまする。
 そんな悪を許せずとばかりに僕らのヒーローが現われる!

「はっはっはっは! これはこれはいい男とは俺も運がいいな!」
 ‥‥‥うん、多分、ヒーロー‥‥じゃないかな?


 そう誰もが寝静まる深夜。悪党はその時に動き出す。
「へへっ、うまくいったぜ。ちょろいもんだな」
 こそこそととある家から出てくる男。闇夜に紛れる黒い服を纏い、きょろきょろと辺りを見回しながら出てくる様はまさに不審者。
 この男、簡単に言ってしまえば泥棒である。今出てきた家から盗みを働いてきたのだ。
「さぁてと、さっさと家に帰って‥‥ん?」
 ふと男の背筋に走る悪寒。今までも悪寒が背筋に走ることはいくらでもあった。自警団に見つかりそうになった時などだ。
 しかし、今回の悪寒は明らかにそれとは違う異質なもの。
「ま、まさか‥‥‥!?」
 噂には聞いた事があった。キャメロットの夜に悪党を打ち砕く存在が現われる事を!
「ふっふっふっふ、ふふふのふ。中々鋭い勘を持ってるようじゃないか」
「誰だ!?」
 どこからか聞こえてくる声。その声が聞こえてきた方向の闇に向かって声を飛ばすと、そこに現われたのは―――
「闇を抜けて、俺、参上!」
 馬に跨った1人の男。だが騎士だとかそういう存在ではないと決定付ける要素‥‥それは全裸に褌のみをつけたという姿。
「こんな時にキャメロット名物の変態かよ!?」
「おいおい、勝手に変態をキャメロット名物にしてやるなよ。善良な市民が可哀想じゃないか」
 泥棒への正論。だがその正論を言っているのが当の変態というのはどういう事だろうか。
「ま、それはともかく今から俺がお前を捕まえるってわけだ。言っておくが、俺は最初から最後までクライマックスだぜ!」
「くっ!!」
 褌男が馬の上でポーズを決めた隙を見計らって、咄嗟に逃げ出す泥棒。
 だが、しかし。褌男が馬を走らせればそこは人と馬の差、すぐに追いつかれてしまう。
 追いついたと思ったら、褌男は馬から飛び降り、泥棒を押さえ込む!
「くそ!?」
「さぁ、覚悟はいいな? 食らえ、俺の必殺技パート2!」
 どんな必殺技か、それは‥‥朝日に照らされる泥棒の憔悴しきった顔が全てを物語っていた。



「恒例の変態さん依頼の申し込みでーす」
「いや、だから恒例にしないでくださいよ‥‥」
 そんなわけでキャメロットギルドに持ち込まれる依頼。申し込むのも受け付けるのもいつもの人だ。
「というか、何故毎回あなたが申し込んでるです? 実は裏で糸引いてるとかじゃないでしょうね?」
「寝言は寝ながら言ってくださいねー」
 受付係の青年の嫌味というか皮肉というか、そんな言葉を笑顔で華麗にスルーする依頼人。
 そして何事も無かったかのように説明をしていく。
「というわけで現われた変態さん。人読んで『褌ライダー裸王』だそうですが」
「誰ですか、そんな風に呼ぶのは」
「なんというか‥‥今回襲ってる対象が悪党だけなんですよね、善良な市民は襲ってないんです。だからある意味では正義の味方なんですけど‥‥」
「あー、あれですか。やり方に問題ありと」
 その通り、男の悪党は例に漏れず‥‥可哀想な姿で見つかっている。
「そういう事です。根は悪い人じゃないと思いますので、普通の正義の味方になってもらうよう説得を」
「‥‥退治じゃなくて説得、ですか」
 面倒そうだな、という顔をした受付係の青年。普段の彼なら受付時にこんな露骨は見せないのだが、さすがにもう変態依頼相手には隠すことすらしないのだろう。
「そういうわけで退治じゃなくて説得でお願いします」
「はいはい、依頼受け付けましたよっと」
 そんなこんなで褌ライダー裸王を説得するという奇妙な依頼が受け付けられたのだった。

●今回の参加者

 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea2638 エルシュナーヴ・メーベルナッハ(13歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7222 ティアラ・フォーリスト(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb2020 オルロック・サンズヒート(60歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5296 龍一 歩々夢風(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb7109 李 黎鳳(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb7358 ブリード・クロス(30歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb8175 シュネー・エーデルハイト(26歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●企む者
「‥‥ぅぉのれぇ、裸王め」
 暗闇の中、1人憎憎しげに呟く老人。
「褌と褌ならざる者は相容れぬということなのか‥‥」
 手に持っている褌をぎゅっと握り締めるとそれを適当なとこに投げ捨てる。
「‥‥じゃが、まだじゃ。わしにはまだ『あれ』がある!」
 老人はその闇の中でごそごそとタンスを漁り、衣服を取り出す。
「真のクライマックスは、これからじゃ!」
 クライマックスというより、これからが本当の地獄だ。

●俺、参上!
「ふふ、私は悪役の世界でも頂点に立つ男だ。安心したまえよ」
 グレートマスカレードという仮面をかぶり、適当な布で作られた如何にも適当な褌を纏った1人の男、レイヴァント・シロウ(ea2207)。今の彼は悪役の世界というより変態の世界の頂点を狙っているようにも見える。
「わー、見事なまでにアレだね、アレ」
 そんな彼を見ながら満足したように頷くのは李黎鳳(eb7109)。レイヴァントが身に着けている褌を作成し押し付けた本人である。
「本当ですね! これなら本心から叫ぶ事ができそうです!」
 ティアラ・フォーリスト(ea7222)は黎鳳と一緒に囮として叫ぶ予定だ。これからの事を考えてかドキドキしっぱなし、肝が据わってると言うべきなのだろうか。
 そして、それじゃあという事でティアラは息を大きく吸い込み‥‥。
「キャー! 誰か、誰かっ‥‥正義の味方さん! 助けて〜!」
「もっと愛を込めてっ」
 ティアラの悲鳴にいきなりダメ出しするレイヴァント。愛を込めた悲鳴って何だ。
「褌痴漢ー! ネギの露出狂ー! コートの前を広げて、何かハァハァ言ってるー!」
 黎鳳の叫びに関しては本当の変態の様子を表してるようだ。
 そんなこんなでキャーキャー叫んだり、イイヨイイヨと喜んだりしてる者がいる中、ヒーローは現われる!

「Eジャン! Eジャン! SUGEEジャン! Eジャン! Eジャン! SUGEEジャン!」

「この声は‥‥来たか!?」
 一斉に声がした方向に振り向くと、そこにはそう!
「―――俺、大盤振る舞いで参上!」
 褌ライダーが――現われたのだ!
「ちょっと待ってください」
「ん?」
 すると、今までのやり取りを生暖かい目で見ていたブリード・クロス(eb7358)がずいっと前に出てきた。
「褌ライダー、ですか。ライダーなら長袖長ズボンを着るべきではないのですか? 自分の身を護る為にも、レザー系の衣服を着るのをお勧めします。褌はともかく騎乗するなら良い子が真似しないよう心がけて下さい。乗らないなら全面的にOKです!」
「じゃあ降りる」
「あれ‥‥? でも依頼目的は‥‥‥えっと‥‥やっぱり、服着てください」
 冷静に、しかしどこか熱く語るブリード。それは褌で馬に乗るのは危ないという尤もだが今更な事。裸王は裸王であっさりと馬を降りるしで、結局状況はあんまり変わってない。
「よし、この状況。チャンスだな‥‥。いいか、私を全力で見逃せ!」
「え、そんな制約に従う義務は‥‥ってもう行っちまった」
 レイヴァントは裸王が現われたばっかりだというのに、すぐさまどこか物陰へ行ってしまった。余りに突然だった為に、他の者達は呆然と取り残されてしまった感じだ。
 そんな中、ティアラはきらきらとした目で裸王を見上げる。眩しい、眩しいがそれを向ける対象を間違ってるとしか言えない。
「あのね! ティアラ実はね、いっぱい沢山聞きたい事あるんだ〜。ねぇねぇ普段は何してる人なの? ねぇ‥‥‥‥なの? でもこれだけはどうしてもっ! 聞きたいなぁ‥‥」
「え、あぁ? ま、まぁ、聞きたい事があるんなら言っちまえよ?」
 突然のティアラの質問攻め。怒涛の勢いで答える前にまた質問、そんな感じで裸王は何も言えず、つい勢いに負けて最後の質問の許可をしてしまった。
「必殺技パート1はないの?」
「ぐっ!?」
 思わずよろめいた裸王、聞いてはいけない事だったのだろうか。だがティアラはそんな事はお構い無しに答えを待ち続ける。
「あー‥‥パート2ダッシュとかならあるんだ‥‥。どうしても1が知りたいのか?」
「うん!」
「えーあー‥‥」
 と、答えるのに裸王が困ってるその状況を打ち破るある意味救世主――まぁ、そんな事は無いのだが――が現われるのだ!
 ずささっと物陰から素早い動きでやってきた1人の少女! 胸を強調するデザインの黒いドレスを身に纏い、黒のリボンもつけた少女の名はエルシュナーヴ・メーベルナッハ(ea2638)!
「裸王さまー!逢いたかったー!」
 そんな彼女は裸王まで一気に駆け寄ると――抱きついたぁ!
「えぇぇ!?」
「ああ‥‥夢にまで見た裸王様のカラダ‥‥♪」
 驚く裸王の様子を無視して、胸を押し付けるようにしながら抱きつくエルシュナーヴ。彼女の手がそろーりと裸王の褌に伸びて‥‥。

 パシッ。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

 パシッ。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

 パシッ。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

 エルシュナーヴの手が褌に触れるか否かというところで素早く叩き落とす裸王。何回チャレンジしても叩き落とされてしまう。
「えー? 何でダメなのー? あんな格好してるんだからヤっちゃってもいーでしょー?」
 と不満たらたらのエルシュナーヴ。こんな事言ってるが年齢は10歳である。
「駄目だ! その手を通したら‥‥色んな意味で駄目になる気がするんだよ!」
 その裸王の主張は―――正しい。
「えぇい、離せ!」
 エルシュナーヴを軽く突き飛ばすようにして引き剥がし、距離を取る裸王。エルシュナーヴは頬を膨らませて不満を露にしている。
 そんな状況でブリードは普通に近づき、話しかける。
「ところで裸タロスさん、悪党退治は大いに結構ですが‥‥」
「いや、裸タロスって何!? 俺の事!? センス無いぜマジで!」
 勝手に裸王の事を裸タロスと呼ぶブリード。もちろん裸王はつっこみを入れるが無視して一方的に話しかけるブリード。
「エンディングが間に合ってないのが残念ですね」
「わけわかんねぇ!?」
「ヒーローにはやっぱり最後の決めポーズが必要ですよね?」
「話繋がってねぇよ!」
「あ、『我が生涯に○○!!』はどうですか?」
「それ何か違う!」
 何故、裸王がつっこみに回っているのだろう。やっぱり根が善人だからだろうか。

「ふ、待たせたな‥‥」
 そんなつっこみ疲れした裸王の所にまたつっこみの対象が1人。それは先ほど場を離脱したレイヴァント。しかし始めにつけていた仮面は外し、新たにマスカレードをつけ、更に馬に乗った状態で現われたのだ。
「君が王を名乗るならば私は‥‥そうだな卿で。全竜卿(ロード・リヴァイアサン)とでも名乗ろう」
 そして馬上から声を張るレイヴァント。
「王に問おう! 王の持つべき智仁武勇。今の君に足りぬものはどれだね?」
「俺に足りないものだと? そんなものは―――無い! 俺が正義だ!」
 威勢良く答える裸王。その言葉を聞いて常識人組がナイナイと首を横に振る。常識人組が誰かは言わないでおこう。
「ふむぅ‥‥。確かに悪には悪の報いを与えられるべきだろう。しかし東方の賢者の書にも『兵は完全包囲せず、ちょいと包囲は穴をつくれ。完全に囲うと覚悟を決められ兵は死兵になっちゃう、はわわご主人さま敵が来ちゃいました』というのがある」
「東方の賢者はそんな小さい女の子みたいな事言わないと思うが」
「つまりぶっちゃけると! やりすぎたらよくない、ということだね。俺の必殺技も程ほどに」
 と、簡潔に纏めるレイヴァント。だが裸王はまだ納得しない様子だ。
「俺には俺のやり方がある!」
「うーん、でも一寸の悪党にも五分の魂って言うじゃない。いかに悪人だからって、所構わず必殺技は良くないと思うよ」
 見かねた黎鳳が説得するように言う。だがしかし、やはり裸王は納得しない。
「そう‥‥それじゃ、可哀想だけど」
 言いつつ黎鳳がどこからともなく取り出したのは、ネギ。
「‥‥それ、どうするつもりだ?」
 嫌な予感を感じつつ、黎鳳に質問する裸王。だが返ってくるのは笑顔のみ。
「くっ!」
「あ、逃げた!」
 何となく察したのか、咄嗟に背を向けて走り出す裸王!
「裸王様ー! エルをどこか遠くへ連れてってー!」
 そんな裸王を追いかけるように叫びながら、チャームを唱えるエルシュナーヴ。だが裸王は難なく抵抗する。今の彼はきっとそういう魔法にとてつもなく強いのだろう。色んな力のお陰で。
 逃げる裸王を追う冒険者。今こそ正にクライマックス!

●終わりもいつも突然
 この状況に終止符を打つため、1人の老人が逃げる裸王の前に現れる!
「待つのじゃ裸王!」
「何奴!?」
 裸王の前に現れた老人‥‥それはオルロック・サンズヒート(eb2020)。
 勿論クライマックスに現われるからには尋常じゃない。今の彼の装備は所謂メイド服――しかもミニスカート――とニーソックスを装備していた! はっきり言おう、目に毒だ!
「これぞ『絶対領域』じゃ!」
「そういう次元じゃねぇよ!」
 びしっとスカートとニーソックスの間に残る生肌部分を指差してわけのわからない事を叫ぶオルロック。
 ヒュー。
「あ」
「げっ!?」
 悪戯な風さんがオルロックのスカートをめくっちゃったせいで、見えちゃいけないものが見えちゃいました☆ そう、オルロックは下着を穿いていなかったのです。
 だがオルロックはそんな事も大して気にせず、堂々と宣言する!
「さぁこれで、我らを差し置き『裸王』の称号を貴様が名乗る事が分相応ではないと思い知ったかぁ!」
「すいません、もうやめます」
「あるぇー!!?」
 あっさりと引退宣言をする裸王にむしろ拍子抜けしたのはオルロックの方だった。
「こんな濃い人たちがいるのにやっていく自信が無くなりました。自分を見つめなおします」
「え、あ‥‥うん。まぁ、それでいいんじゃろうが‥‥」
 どこか釈然としない様子のオルロックだが、彼が裸王をまともな道に矯正したのだった。